14 エルフの姫君と英雄
私はジュウロウザの手首を掴み手芸用セットをソフィーとルードに持ってくるように言って、ダイニング兼リビングに移動する。
我が家の一階はばぁちゃんとソフィーの調合スペースがかなり広めに取ってあるため、皆で食事を取る大きめのテーブルを一つ置くだけでいっぱいになる場所しか共同スペースがないのだ。
「キトウさん、そこに座ってください」
魔導ランプが部屋の天井に取り付けられ、温かい光が落ちている一脚の椅子を指し示す。
ジュウロウザは大人しく指示された椅子に座った。
「こぶし2つ分、膝のところ空けて」
私は開いたスペースに腰を下ろす。
「も、モナ殿····」
ジュウロウザの戸惑った声が聞こえるが、私はそれどころではない。手を止めずに、この不幸の塊をどうにかしなければならないのだから。
ソフィーから手芸用セットを受け取って、作業を再開する。
「明日一日空いたから隣町に行きたいのです。それまでに、この腕輪を10個は作っておきたいのです」
ジュウロウザのお陰で明日の収穫の予定がなくなり、村長の許可も出たので、水路を引くために必要な事をしておきたいのだ。そして、本当なら明後日に収穫祭と合わせてこの村のリリーの結婚式をするはずだったのだけど、収穫祭の方が早まってしまったのだ。だから、明後日はリリーの結婚式があるので、この村に居なければならい。
そして、私の言葉にソフィーが『あっ!』と声を上げた。
「じゃ!お父さんとお母さんにお手紙を書いてもいい?」
「いいよ」
ソフィーは嬉しそうに自分の部屋に走って行った。家の中は走ったらダメだよ。
隣町はそれなりに大きな町なので、冒険者ギルドの支部があるのだ。そこからいつも両親に届け物をしてもらったり、両親からの物を受け取ったりしている。大体一ヶ月毎に送っているので、明日に行けるのであれば行っておきたい。
戻って来たソフィーは以前両親から送られてきた花がらの便箋を持ってきて、私の向かい側で、手紙を書き始めた。その隣でルードがソフィーに『何を書くの?』と聞いている。ふふふ。本当にこの二人は可愛いな。
「モナ殿。すまなかった」
何故か、ジュウロウザから謝罪の言葉が出てきた。
「なにが?」
「両親に贈る物を俺が灰にしてしまったから」
ああ、そのことか。別に気にすることではないのに、私の命と安全のためなら安いもの。私の労力で賄えることなのだから。
「それは別に構わないです。この腕輪は役目が終われば切れる物なので」
「え?切れる?灰にはならない?」
いや、糸を編んだ物だから普通は切れるでしょ。灰になるなんて初めて見たよ。
「おねぇちゃん!出来た!」
ソフィーがいつの間にか私の隣に来ていて、手紙を差し出していた。ソフィーは一体何を書いたのかな?この前一人で火傷の薬を作ることが出来たと言っていたことかな?
私は手紙を受け取り、出来上がったミサンガがある場所に一緒に置く。そして、ソフィーは私の隣の椅子に座って、私の後ろに視線を向けた。
「ジューローザさんはいつまでここに居てくれるの?」
ソフィー?何を言っているのかな?
「ジューローザさんのお陰で凄く助かったんだ。苗が育てば米の植え付けもしなきゃいけないし、もう少しこの村にいない?」
ルードが向かい側で村長と同じ事を言い出した。
「この村は男の人が少ないから、いつも大変なの」
ソフィー、確かに成人男性は高齢の人ばかりだけど、今までそれで問題なかったじゃない?君たちは何を言っているのかな?
明日、村から出ていってもらうよ。
「そういえば、この村は女性が多いな。男性はいないのか?」
ジュウロウザから尤もな質問が降ってきた。森に囲まれたこの村は女性と子供が大半で、男性は高齢の人ばかり。村の形態としては、おかしな形だ。
「居ないことはないよ。みんな、冒険者をしているんだ。なんて言っていたかな?」
「男のロマンだって」
「そうそう」
いや、それは一部の人だけだから。そんな事を言う人物に心当たりがある。多分その人がこの二人に言ったのだろう。
「この村はエルフの姫君と英雄様の隠れ里なんですよ。ですから、もともと外からの人はあまり入って来られないのです」
かわいい二人の代わりに私がこの村に人が少ない理由を言う。
「え?俺は入っているけど?勝手に入ってきたらその人達に怒られないか?」
「もう、千年以上前の人たちです。村でも口伝でしか伝わっていません」
そう、エルフの姫と英雄の子孫がこの村の人々なのだ。
「むかしむかしの人だから気にしなくてもいいよ。お父さんも村の外から来た人だから、大丈夫だよ」
ソフィーがにこにこしながら言っている。私達の父親はこの村の人ではない。母に一目惚れをして速攻結婚を申し込んだらしい。色々すっ飛ばし過ぎだと私は思う。
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