123 主神エルドラード(神界 side)
「すごいね。予想外も予想外。これは流石に僕もわからなかったね。まさか、神域に魔祓いのスキルを使うなんてね。そうは思いませんか?父上」
白金の髪に金色の目をしたエルドラード神が楽しそうにしながら、後ろのモノに話しかける。
「この魂を返しておく」
モナから常闇の君と呼ばれた者はエルドラードと同じ金色の目で可哀想な子を見るような視線でエルドラードを見つめている。
「別に返してもらわなくて良かったし、母神の守りにと僕の一部を人の身に与えただけだしね」
返してもらわなくてもいいと言いながらもエルドラードは小さな光の珠を手の内に収めた。
「お前の魂だからこそ、あそこまで歪んでしまったのだろう?」
「ええ?!酷いな。まるで僕が歪んでいるみたいに言わないで欲しいよ」
エルドラードはニヤニヤしながら答える。それに対し、ルギア神は呆れたようにため息を吐いた。
「何れはお前に全てを譲ろうと思っていた。お前が世界に亀裂を入れて、世界を闇で満たさなくても、良かったのだ。神に近づことした種族を根絶やしにしなくても、何れあの者達は自滅をしていた。お前は何もしなくても良かったのだ」
ルギア神は知っていたのだ。己が狂う原因となった世界に亀裂を入れたのが目の前のエルドラードだということを。そして、己の愛する者に封じられようとも、彼の目は世界を見ていた。
世界の一部となった愛する者がとある種族に転生し続けていることも、その知識を用いて繁栄していることも、それが何れ破綻し崩壊していくことも。
「我らはこの世界の底で眠りにつく。あまりいたずらをしすぎると我がその座に戻るということを覚えておけ」
そう言ってルギア神は消えていった。消えていったルギア神がいた場所を見て、笑った。エルドラードは心の底から笑った。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
さも可笑しそうにお腹を抱えて笑っている。
「何を馬鹿なことを言っているのか。僕が手を下すことに意味があるんだよ。貴方からこの座を奪い取った。神に近づこうとする愚かな種族に鉄槌を下す。僕が封印を施した場所を探ろうとする者は国ごと消滅させた。僕が一番えらいんだってね」
待てば全てが転がり込んでくることよりも、自らの手で行うことに意味があるとエルドラードは笑いながら言う。ここにはもういないルギア神に向けて。
「そうだよね。萌ちゃん?自分は弱いからと言って、うじうじと安息の地に引きこもるより、一歩外に出る勇気。そして、前に進もうとする心って大事だよね」
エルドラードはここには居ないはずの萌に向かって話しかける。
「本当に君を選んで良かったよ。転生を繰り返す、煩わしかった母神を導いてくれた。年々闇が深くなって封印が保たなくなりそうだと思案していた父神も、君が神域を作り出して魔祓いを使うから父神の闇も払ってしまった。極めつけが歪んだ魂をどうしようかと思っていたものも回収してくれた。僕の采配は完璧だったってことだね」
モナが行ったことは全てエルドラードのおかげだと言いたいのだろうか。
いや、確かにエルドラードが萌という人物をモナとして転生させたことには間違いはない。
エルドラードが采配したと言ってもいいのかもしれないが、それは全てモナが村の外に出て旅をした成果だと言っていいはずだ。モナがモナ自身で考え、行動を起こしたことにより、神から祝福を得て、この結末にたどりついたのだ。
「あ、でもどうしよう?リアンの魂を回収してしまったから魔王を倒せる者がいなくなっちゃったね。萌ちゃん、ちょっと行ってきて倒して来てくれないかなぁ?君ならできるよ」
モナがいないにも関わらずエルドラードはそこにモナがいるようにニヤニヤとして話している。きっとモナがここにいれば『巫山戯るな』と言っていたことだろう。
斯くして、モナはモナとして生きる道を確立したのだった。めでたしめでたし。
「ふっざけるな!!!」
私は思わず叫び声を上げる。
「何が魔王を倒して来いだって!お前が創り出したんだから、てめぇーが倒してこい!」
全部エルドラードの所為じゃないか!
「モナ?どうした?」
気がつくと私は横になっており、その私を上から見ているジュウロウザがいた。ここはどこだろう。
「ここは?」
「サイザールの宿だ」
ああ、ダンジョンから戻ってこれたのか。体を起こして周りを見てみると確かに見覚えのある、一ヶ月泊まると言った離れの建物の内装だった。
「私はどれぐらい寝ていた?」
「2日ほどだ」
2日!また2日も寝てしまっていたのか!
「そう、あれからどうなったの?」
「その前に常闇の君とはなんだ?」
あれ?なんだかジュウロウザが怒っていらっしゃる?常闇の君が何だと問われても····神としか答えられない。
誤字脱字報告ありがとうございます