122 そのフラグもダメー!
「ひっ!やるわよ!やればいいんでしょ!」
ルナにも怯えられてしまった。いや、今回はあまりにも腹がたったから仕方がないよね。
ルナは立ち上がって、回復の魔術を使いだした。まぁ、案の定失敗しているけど。
そして、空間全体に鈴のような音が鳴り響いた。ルアンダとシュリーヌの術が完成する。
私は願う。この場に存在する全ての悪しき魔を払うように。
「「絶対神域降臨!!!」」
「魔祓い!」
ルアンダとシュリーヌの呪言の後に私は魔祓いのスキルを使う。神域に沿うように。神域の全てを満たすように。
うっ。頭がくらりとする。
流石に範囲が広すぎるのか、私のスタミナが減っていっている。
しかし、これでいい。
神域が発動した瞬間、逃げる素振りをみせたリアンにメリーローズが茨の蔦を巻き付けた。その黒い靄が吹き出しているリアンにジュウロウザとシンセイが攻撃をする。
「獄炎の狂宴」
「砕迅裂破」
爆炎が、風の刃の嵐がリアンに襲いかかる。二人の攻撃が爆散し、衝撃波がメリーローズの結界を軋ませる。
メリーローズも結界の維持に力を割いていているのか、肩で息をしだした。
くっ。やはり、神域は長くは持たないようだ。いや、二人の攻撃の所為かキラキラエフェクトが減少してきている。心なしか漂う空気も焦げ臭い。
本当なら神域は下位神にこの下界に降臨を願い、魔物の駆逐をしてもらう二人の合せ技なのだけど、今回は神の降臨は行わずに魔人の弱体化をし、そのまま攻撃をするという作戦だった。
神の居ない神域は維持をする必要はないということなのだろう。私が思っていたとおり、ほんの僅かな刻しか神域は出現しなかった。
今はもう普通の状態に戻ってしまった。神域を作り上げるのに、これだけ時間がかかって、一瞬にして崩れ去ってしまった。
これでリアンが再起不能となっていなければ、どうする?打つ手がない。ルアンダとシュリーヌは神域を作り上げた反動で倒れ込んで動けない状態だ。回復するのには時間がかかるだろう。
リアンがいると思われるところの煙が徐々に晴れてきた。考えろ、どう動くのが一番いい。
「限界なのじゃ。あれだけの攻撃を受ければ魔人もヤッたじゃろう?」
そう言って、メリーローズが結界を解いてしまった。そのフラグもダメー!そのセリフは大概倒しきれてないから!!
メリーローズが結界を解いた瞬間、煙の中から何かが飛び出てきた。
「モナ!シねー!!!!」
翼も無く、角も無い人の姿をした満身創痍のリアンが飛び出てきた。それも一直線に私の方に向かってきた。
「モナ!」
「姫!」
リアンに近づきすぎていたジュウロウザとシンセイは私に向かってきているリアンの動きに対応が遅れた。
はぁ。ここまでリアンに恨まれていたなんて、死んだら、絶対にエルドラードに頭突きをしてやるんだから!
でも、生きることは諦めてやらない!私は私のできることを探す。できること···できること···
迫りくるリアン。私に向けられた剣。
ジュウロウザとシンセイが私の方に向かってくる。
なんだか、時間がゆっくりになっている気がする。ああ、死に際には時の流れがゆっくりになり走馬灯を見るっていうやつか。
私は走馬灯じゃなくて、なぜだか入口の扉がぶっ飛んでいるのか見えるんだけど?
『騒がしい』
その一言でこの空間の雰囲気が激変した。重い。重苦しく。息がまともに吸えないぐらいに重苦しい空気だ。
壊れた扉から解き放たれたように飛んできた金色のモノにリアンが突き刺され、私の眼の前で横に飛んでいった。
もう少しで私の首と胴が離れているところだった。首元を触ると生温かいモノが滴っている。リアンはジュウロウザが施した星結界を壊し、私の首を斬りつけてきたのだ。
ふと視線を感じ視線を上げると
「あ。常闇の君」
黒い長い髪を床までたらし、怒ったような悲しんでいるような金色の目をした常闇の君が目の前にいた。
え?なんで封印の間から出てきているの?いや、本体じゃないから出て来られるのか?エルドラード!これ封印の意味ないでしょ!わざとなの?
常闇の君は私に手を伸ばしてきて、血の滴っている首に触れたかと思うと、私の頭を撫ぜてきた。
『感謝を。アレの魂は預かって行こう』
そう言って常闇の君は消えていった。
常闇の君が喋った!普通に正気じゃない!だから、封印の間から出られた?私に触れたってことはどう見ても影じゃなくて本体だよね。
常闇の君のおかげで助かったけど、すごく疲れた。リアンの歪んだ魂はルギア神が預かってくれるのなら安心できる。私はそのまま意識を手放す。
「モナ!」
最後に目にしたのは心配そうな顔をしたジュウロウザだった。あ、頑張ってくれてありがとうって言わないと·····
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