120 死亡フラグを口にするな(挿絵あり)
「御意!」
シンセイがそう答え、戟を彼女たちの前で構え····えー!リアンの攻撃魔術が全て凍っていくんだけど?
いや、似た光景は見たことはある。シオン伯父さんの氷結凍刃だ。だけど、物理的な物が凍るだけで、魔術を凍らせるものではなかったはず。
「何で魔術が凍るの?」
思わず疑問が口からこぼれ出た。
「シンセイも努力をしたということだ」
ジュウロウザが答えてくれたけど、これは私の独り言だから、答えてくれなくても良いよ。
って言うか、リアンはいつから人をやめたのだろう。
こちらに攻撃が来なくなって、私の中で少し余裕ができたので、状況の把握をする事ができた。
リアンと思えるモノが空中に浮いているのだけど、コウモリのような翼が背中からはえ、獣のような鋭い爪がむき出している黒い足。そして、頭からはねじれた角が2本生えているのが見える。
なんだか魔人というより、悪魔と表現したほうがいいような風貌だ。
いや、リアンが魔人だろうが悪魔だろうが、この状況を打破することが先決だ。ジュウロウザとシンセイが揃って分が悪いと判断したのなら、それを覆す状況を作り出すのが私の役目だろう。
「ジュウロウザ」
私はリアンの動向に注視しているジュウロウザに話しかける。リアンがルアンダとシュリーヌに攻撃を集中させている今しか話せるときはないだろう。
「モナ、どうした?」
リアンから視線を外さずジュウロウザが答える。
「私をメリーローズの結界の中に連れて行って」
その言葉にジュウロウザは驚き、リアンから視線を外し、私を見た。
「私、ジュウロウザの邪魔をしているよね?」
「邪魔じゃない」
私の言葉を遮るようにジュウロウザが言葉を発した。しかし、私は首を横に振る。
「リアンの魂は元々英雄アドラだった者。私を気にしながら戦って勝てるような相手じゃない。それにエルドラードはその魂が歪んでしまったと言っていた」
私の言ったことに困惑しているのかジュウロウザが呻くようにアドラの名を呟く。ここで思ってもみない名が出てきたらそれは戸惑うだろう。
「今、ルアンダとシュリーヌによって神域を作り出そうとしているの。そして、私はそれに退魔のスキルを上乗せするつもり、だけど人が神域を作り出せるのはほんの僅か。そこを逃せば、あのリアンに勝てる要素がなくなってしまう。だから····」
私は最後まで言えなかった。これはかなりジュウロウザとシンセイに負担をかけることだ。神域を作り出せる時間はゲームでは3ターンだった。だから、時間制限があるのだろうが、この世界の時間に換算するとどれぐらいかはわからない。
だから、わずかな時間でリアンを倒せと言っているのだ。自分でも言っていることがめちゃくちゃだとはわかっている。わかってるが、ここから生きて戻るにはそれしかない。
はぁ、他に方法があるというなら、誰か教えて欲しい。今すぐに!
「わかった」
ジュウロウザはそう答え、リアンの攻撃の隙間を縫ってメリーローズの結界の中に私を運んでくれた。
そして、私を下に降ろしながらジュウロウザがつぶやく。
「モナ。村に帰ったら···」
何かを言いそうになったジュウロウザの口を手で塞いだ。ここで死亡フラグを立てるような事を口にするな!
「キトウさん!未来ではなく今を見てください!」
地面に足をつけた私はジュウロウザを睨みつけて言う。危うく死亡フラグが立つところだったじゃないか!恐ろしい事を口にしないで欲しい。
「おまじないをしてあげますから、かがんで下さい」
怒り気味に言う私に身を屈めてきたジュウロウザに口づけをした。
「ジュウロウザ。好きですよ」
そう言って、ニコリと笑ってジュウロウザの肩を押し結界の外に押し出した。
ジュウロウザは耳まで赤くなって、シンセイの元に行っている。大丈夫だろうか。これも作戦の内なんだけど·····。
そう、私の作戦は順調に進んでいる。内心ガッツポーズだ。思っていた通りジュウロウザのステータスが跳ね上がった。
私は私の想いを自覚したのだ。だから守護スキルに反映されるだろうと思っていた。倍化するだろうと予想は立てていたけど、実際は3倍。ちょっとヤバイかなぁと内心冷や汗がながれているが、英雄の魔人化を相手するなら必要のはず!····はずと思う。
「若者は初ういしいのじゃ」
幼女姿のメリーローズに言われても、反応に困るのだけど。
「しかし、いつまで結界を張り続けないと駄目なのじゃ?そろそろMPが尽きそうなのじゃ」
やはり、神域の出現には時間がかかるようだ。メリーローズの方が限界となってしまったら、無防備のルアンダとシュリーヌを守れなくなってしまう。
それは困ると、私は神水をメリーローズに差し出す。確保した数も少なくなってしまったけど、ここで使わないと駄目な気がする。
「何じゃ?」
「回復するモノです」
「おお、回復薬か。ありがたいのじゃ」
いや、私は薬とは言っていない。薬ではここまでの回復力は再現できないとばぁちゃんから言われたので、決して薬ではない。
メリーローズは躊躇なく私から竹筒を受け取り、一気に飲み干した。
「うきゃー」
そのメリーローズから悲鳴が上がり、ワナワナと震えだした。え?毒は入っていないはずなのに?何が、どうしたの?
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補足
モナさん、おまじないと言いつつ、しれっと告白してはいけませんよ。