116 お前が憎い(十郎左side)挿絵あり
十郎左side
転移装置がある部屋まで戻ってきた。しかし、ここで問題というか。モナが予見していたことが起きていた。そのモナは俺の腕の中で眠っている。流石にダンジョンで殺されかけた上に奇跡の御業はモナの体に負担をかけたのだろう。
「だから!何で駄目なのよ!」
そう、モナの奇跡で生き返ったルナという少女が目覚めて騒ぎ出したのだ。
まぁ、俺としてはここまで連れてきたのだから、あの者達がどうなろうと構わない。
あともう少しで転移できる魔力量が溜まる。そうなれば、さっさとここから立ち去るだけだ。
「ルナ。俺たちにはまだ早かったんだ」
「そう、なのじゃ!一旦戻るのじゃ!」
リアンと転移の場でとどまっていた魔女が少女を諌めているが、全く聞く耳を持たないようだ。
「ここにはお父さんとお母さんがいるの!わたしが二人を助けるの!」
シンセイは俺の横でその茶番劇を見ていた。内心苛立っているのだろう。あの少女のわがままの所為で守るべきモナを見失ってしまったのだからな。
「うわぁ〜〜ん!なんで、みんなわかってくれないの!ここまで来たのに!このルルドまで来たのに!」
今度は泣き出した。はぁ、うるさい。寝ているモナが起きてしまったらどうするんだ。
「ぷーぷー」
という聞き慣れた寝息に視線を向けると、元の大きさに戻ったノアールが定位置であるシンセイの頭の上で寝息を立てていた。
今回はノアールの存在に大きく助けられたところがある。幼い幼竜でも己の役目を全うしたというのに、この者達は本当に何をしているんだ。
『テンイデキマス。テンイシマスカ?』
やっとか。やっと戻れるのか。
「その方らよ。吾らは転移で戻らせてもらおう」
シンセイがごちゃごちゃ揉めている者達に声をかける。すると、剣士の女がすぐさま転移装置に乗ってきた。彼らに付き合ってられないと言うことだろう。
「悪いのじゃが、そちには付き合ってられぬ。命の方が大切じゃ」
そう言って、幼子の姿をした魔女も転移装置の上に乗っていた。
「なんでよ!なんでなのよ!」
はぁ、もう転移してもいいか。なんだかあの甲高い声にすごく疲れを覚える。
「うるさい」
俺の腕の中から声が聞こえた。ちっ。モナが起きてしまったじゃないか。
「クソエルドラード!殴っておけばよかった」
くそエルドラード?確か神の名のはずだが?モナが目を開けて、俺を見た後に騒いでいる少女に視線を向けた。
モナの瞳が金色になっていた。光の加減で金色に見えるときはあったが、この場に強い光を発する光源は存在しない。モナのその姿にぞわりと肌が泡立つ。モナに違いないが、今までとは何かが違う感じがする。
シンセイも何かを感じたのか近くに寄って来た、そして、寝ていたはずのノアールも目を開けてモナを見ている。
「リアン。私は誰?」
モナは何を言っている?
「リアン?」
モナの不思議な問いかけにリアンはあれだけ固執していた少女の側を離れ、転移装置の上に乗ってきて、モナを抱えている俺の足元に跪いた。
「護るべき姫君だよ。モナ」
「そう、女神の欠片。欠片であるがゆえにこの地で生きていくには守護者が必要。そうだよね」
「そうだよ。モナ」
「今の私は守護者を得た。そして、欠片である女神の願いを叶えた。ねぇ、リアン。私は私の役目をきちんと勤め上げた。なら、リアンはどう?」
「····」
「そう、まだ道半ば。リアン、エルドラードから言われた事があるんだって?」
「·····」
「言われたよね。私、エルドラードから聞いたよ。『勇者として世界を滅ぼす魔王を倒して欲しい』って『できれば、君の幼馴染みを連れて旅をして欲しいけど、無理なら強要はしないよ。ただ、幼馴染みに剣を向けることをしては駄目』って言われたそうじゃない?よくもまぁ、毎回、神との約束を破れたものだよね」
モナの言葉からすれば、神と会っていたことになる。体はここにあるのに、精神だけが神と会っていたということだろうか。
そして、毎回ってなんだ?俺には意味がわからないが、リアンには理解できているのか、顔を上げずにうつむいている。
「私との約束は破らないよね?リアン?彼女、リアンにとって必要がないのなら、ここで捨てておきなさい。必要であれば、彼女を聖女として成長させなさい。そして、リアンの役目を果たす」
「モナ。聞いてくれ。俺は貴女を解放したかったんだ。繰り返し、繰り返し、この世界をさまよう貴女を」
「ふーん。でもそれは言い訳。で、本心は?」
「お前が憎い」
「まぁ。そんなところでしょうね。腕の骨が折れた時に思ったよ、こいつワザとだなって。でも私以外の人がいると、人がいいからタチが悪い」
なんだ?目の前のリアンという者から禍々しい気配を感じる。
「今回は大手を振って私を殺せるチャンスが来たからね。張り切ったんだよね?でも、私を突き刺した時の感覚がおかしいと思い直して、戻ってきたら、居なかった。仲間を魔物の餌にしてまで戻る口実を作ったのにね」
モナの言葉にルナという少女は意味がわからないと首を傾げているが、剣士と魔女は信じられないという顔をリアンに向けている。
そのリアンを見れば、顔を上げ淀んだ目をこちらに向け、三日月のような裂けた口で笑っていた。