1 幼馴染みのヒロインは···
天高く広がる蒼穹に、この門出を祝福しているかのように7色の虹がかかっている。ここは村の外。そして、村人が大勢集まっていた。それは、村を旅立つ者を見送るためだ。その人物が笑みを浮かべながらこちらに向かって来る。
私はこの村から旅立とうとしている幼馴染の満面の笑みを見て・・・
とても苛立った。
主神エルドラードの神託を受け、勇者に選ばれた幼馴染のリアンのドヤ顔に一発ぶちかましてやろうかと思っていた。しかし、私の内心を分かっていてか、右手はリアンの弟のルードに、左手は私の妹ソフィーに握られている。
傍目から見れば、彼の旅立ちを喜んでいるが内心は寂しいと思わされているかのように笑顔でふるふると私の両手とルードとソフィーが震えていた。
真実は必死で私の両手を引き止めている二人である。
「モナ、俺は絶対に魔王を倒して戻って来るから絶対に待ってろよ!戻ったら結婚しような!」
「ああ゛?!誰がまモゴ・・・」
私の口は両隣の小さな手によって塞がれてしまった。両隣に目を配らせば首が取れんばかりに横に振る二人がいる。
そんな事をしているうちにリアンは村人に挨拶を済まし、王都からの迎えの馬車に乗って村を出ていった。
「誰が待つか!何年掛かると思っているんだ!馬鹿リアン!」
馬車が見えなくなってやっと解放された私の声は青く広がる空に吸い込まれて行った。
「はぁ」
思わずため息が出てしまう。あのリアンに今まで色々迷惑かけられた事を思うと全く言い足りない。
はっきり言って家が隣でなかったら、口も聞きたくないし、顔も見たくないというのが私がリアンに対する感情だ。幼馴染と周りから言われているが、ただ、同じ年で家が隣だったというだけだ。
ああ、隣人という存在だ。
勇者リアン。彼が勇者として世界に名を知らしめるのは2年後の辺境都市のダンジョン攻略が一番初めとなる。それまでは一切音沙汰がないと言っていいほど噂にも上がらない。
そして、魔王討伐を成し遂げるのが、更に8年後だ。あの馬鹿は10年間私にこの村で待っていろと言ったのだ。私は今、16歳だ。それから、10年といえば26歳。この世界では完全な行き遅れになってしまう。
誰が待つか!
さて、何故私がこれから起こる事が分かるかといえば、実はこの世界はクソゲーと言われた『エルドラードの采配』というゲームの世界だということだ。
そう、私にはこの世界でない記憶を持っている。まぁ、今の私には全く関係がないので、説明は割愛しておく。
問題はこの世界がクソゲーの世界だということだ。パッケージがとても好みだったので手にとってしまったゲームなのだが、まぁ、リアンは勇者なだけあって見た目はいい。これは保証する。キラキラの金髪に今は少年から青年になろうという歳なので、庇護欲をそそる愛らしさと凛々しさが混じり、女性受けはするだろう。青い瞳は吸い込まれそうなほど美しく、この村でも小さな女の子からおばさまと言われる女性までを虜にしていると言っていい。
私と妹のソフィー以外は・・・。
勇者リアン以外もキャラクターがとても可愛かったり、かっこよかったりした。
このゲームは簡単に言うと仲間をカスタマイズして、イベント攻略していくというものだ。だから、仲間となる人が膨大に存在する。
そう、この幼馴染である私も勇者リアンの仲間として加わることがあるのだ。
ただ、ここからがクソゲーなのだ。多種多様の仲間がいて、イベント毎に変更するのはいい。キャラクターにも得手不得手というものが存在するのは当たりまえだ。
だが、聖女枠のヒーラーは5回の内3回は回復に失敗するドジっ子キャラだ。誰もヒーラーにドジっ子を求めていない。
魔法使いは全属性だが、MPがとても低い。大技を使うと一発で終わってしまう。
遊び人は攻撃力がとても高いが、2回に1回休憩を取る。そこに遊び人性を求めていない。
そして、幼馴染枠のモナだ。容姿はとても可愛い。ミルクティー色の髪に新緑を思わせる瞳。庇護欲を唆る可愛らしい少女だ。しかし、このヒロインはカスだと言っていい。性格もカスだが、ステータスもカスなのだ。
その辺の魔物の攻撃一発で死ぬ。攻撃はかすりもしない。敵のHP1も削れない。
なのに何故仲間として、存在するかと言えば仲間に入れれば必ずレアアイテムがドロップするのだ。
序盤の山場である水竜の洞窟に行く鍵となる『人魚の鱗』を手に入れる為にモナを仲間にしなければならないのだ。
ここでモナは幼馴染枠にも関わらず、とても厳しい条件でクリアしないと人魚の鱗は手に入らない。
先ずはハーレム仕様で仲間を構成すると村にモナを迎えに行っても隣町に買い出しに行ったと言われ会うことすら叶わない。
モナのステータスがカスなので鍛えようとしてもレベルが上がらない。一つ上がってもステータスにさほど変化は見られない。
そして、ある一定時間が立つと『家族が心配していると思うから帰る』と言って、強制的に仲間から外れる。
それがボス戦中であろうとも、時間が経つと次のターンで、ドロンといなくなるのだ。
『あともう少しだったのに!』
と何回、画面に向って叫んだことか。
その最悪最低カスヒロインが、未だに見えなくなった馬車を睨んでいる私である。
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