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第9話


 次元獣は二足歩行タイプで体長五メールくらいの中型。全身に青紫に怪しく輝る水晶のようなものを生やしていた。


 見た目こそ厳ついが、このタイプはそう強い部類ではない。


 安堵しかけた俺だったが、直後に、空を裂いて出現する二体目を認めて目を剥いた。


「なんだと!? 次元獣がもう一体……!」


 通常、次元獣が同じ地域に立て続けに現れることは稀で、二体が同時に出現するというのはさらに珍しいことだった。


 そして全容を露わにした二体目の次元獣は、一体目とよく似た見た目をしていたが、サイズがひと回り大きかった。


 ……大型次元獣か。一体ならどうということもないが、この場所で二体を相手にするのは少々骨が折れそうだ。


 次元獣と戦う上で、なによりやっかいなのが多くの子供たちがいるこの場所だった。戦闘中は、間違っても子供たちに害が及ばないよう、二体の動向に絶えず目を配っておかなければならない。しかし周囲に気を向けながらでは、どうしても防戦に偏りやすくなる。長期戦になれば、その分被害が拡大してしまう。


 それを避けるためにも、早急に一体目の中型を倒すことだ――!


 俺は脳内で素早く今後の展望を定めた。


「あいつ、パパとママを殺したやつ!」


 その時、皆の元に移動を始めていたはずのチナツが足を止め、上空の一点を見つめて叫んだ。彼女の目線は、二体目の次元獣に釘付けになっていた。


「なんだって!? どうしてわかる?」


「彫刻家だったパパが、わたしを逃がしてくれるときに投げたペンキ、あそこに付いてる!」


 チナツが指差す箇所を追えば、たしかに次元獣の左膝のあたりに金色のペンキが付いていた。


「そうか、あいつがお前の両親の仇なんだな。俺に任せておけ、パパとママの仇は俺がとる!」


 ……このタイプの弱点は首の後ろ。中型ならば、前回の戦闘時に次元操作で吸収し、そのまま別次元に溜めてある魔力で水晶ごと打ち砕けるはずだ。


 チナツに向かって叫びながら、俺は最初に現れた中型の次元獣に狙いを定めた。すかさず次元操作を発動して足裏から推進力として魔力を放出。次元獣の背後へ素早く回り込んで魔力を放つ。


 魔力は寸分の狂いもなく首の後ろに命中し、俺の予想通り表層を覆う黒い水晶を砕き、奴の首を貫通した。急所を一撃された次元獣は、断末魔の叫びを上げながら地面に倒れ、そのまま動かなくなった。


「わぁ! セイさん強い!」


 俺は即座に奴の瘴気を別次元に吸収し、二体目の大型獣に向き直る。


「チナツ、お前は早く避難を!」


「う、うん!」


 チナツが俺の声を受け、皆の元へと踏み出していくのを背中越しに気配で感じ取る。


 ……これで次元獣とは一対一だ。奴の動きに集中できるのはいいが、よほどの至近距離で魔力を打たなければ、こいつが生やす水晶は砕けないだろう。


 奴に接近するにしても、尖った大きな水晶が邪魔をして左右から回り込んで狙うことが難しい。かといって真後ろからの攻撃は長い尻尾で防がれてしまう。……よし、いつも通り足から攻めるか。


 足を負傷させて奴を地面に引き倒し、その上で首の後ろを狙う――!


 俺は奴の左足に狙いを定めた。


 ――グァアアア!! ところが、俺が魔力を撃ち出そうとした瞬間、次元獣が唸りをあげながら不規則な動きを見せる。


 何度か左足を狙って魔力を撃ち込むも、ことごとく躱されてしまう。


 クソッ! 思ったように足に当たらない!


 こいつ今までの奴よりも速い!


 先の読みに反し、俺はめずらしく苦戦を強いられていた。すばしっこい動きで、なかなか狙い通りの場所に魔力を撃ち込むことができない。


 しかも、吸収していた魔力の残量も少なくなってきていた。


 ……仕方ない。リスクはあるが、接近戦しかないな。


 意を決した俺は、地面を蹴るのとタイミングを合わせて足裏から魔力を放出し、ヤツの懐目がけて一気に飛び上がった。


 ――ガシャンッ。


 俺がヤツの懐に入り込む直前で、背後のチナツがいたあたりから物音があがる。


 なんだ!? 俺はここまでチナツや他の子供たちに被害が及ばぬよう、次元獣を意図的に誘導し、できるだけ子供たちがいた場所から引き離していた。しかしこの物音によって、次元獣は咆哮をあげながら一直線に音がした方向へと駆け出してしまう。


 ……まずい! 次元獣の向かった先には、呆然と立ち尽くすチナツがいた。


「チナツ、逃げろ!」


 声を張り上げるが、チナツは恐怖で身がすくんでしまっているのか、カタカタと小さな体を震わせるばかり。とてもではないが、逃げられそうになかった。


 次元獣はあっという間にチナツとの距離を詰め、彼女に向かって振り上げた前足を下ろす。


「い、いやぁ……!」


 俺は咄嗟にチナツと次元獣の間に次元障壁を展開する。


 そのまま次元障壁でヤツを囲って動きを封じ、すかさずチナツに指示を叫ぶ。


「チナツ! 俺が動きを封じているうちに、それでヤツを撃つんだ!」


「え……」


「俺は次元障壁を使っているから手が離せない。お前がやるんだ」


 再びの指示にも、チナツはカタカタ体を震わせて、なかなか動こうとしない。


 ……やはり、幼い彼女には難しいか。


 とはいえ、俺が攻撃に切り替えるには、一旦次元障壁を解かなければならない。次元障壁を解けば、次元獣は彼女に攻撃を仕掛けるかもしれない。


 ……さて、どうするか。


 脳内で今後の最善の道筋を探る。視界の端に、チナツがグッと瞼を瞑りライフルを抱き締めて震えているのが見えた。


 次の瞬間、チナツが閉じていた目をカッと見開いたかと思えば、小さな両手でライフルを構えた。立ち上がると次元獣目掛けてライフルを撃ち放った。


 ――ズガーーンッッ!!


 なっ!? 俺は、突然のチナツの行動に度肝を抜かれ、彼女と彼女に撃ち抜かれて倒れ込む次元獣を食い入るように見つめていた。


 さらに、この時俺を驚かせたのはチナツが取った行動ばかりではない。どんな偶然か、チナツの撃ち放った魔力の砲はヤツの首に命中していた。急所を一撃された次元獣は地面に倒れ、ビクンビクンと二、三度体を震わせた後、動かなくなった。


「チナツ!」


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