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第8話


 ミーゲル町長の町を出た俺は、三日ほど徒歩で旅を続け、四日目に人口一万人規模の比較的大きな町に辿り着いていた。


 別段の意図があったわけではないが、たまたま取った宿の隣が孤児院で、絶えず聞こえてくる子供たちの声に引き寄せられるように足を運んでいた。


 孤児院の軒先で、小さな子供たち数人が輪になって遊んでいる中、ひときわ草臥れた服を着た水色髪の少女が輪を外れて一人、砂遊びをしているのに気づく。『砂遊び』と表現したが、少女は土属性の魔力を少量注ぎながら創作しているようで、遊びレベルではない精巧な作りの土像がいくつも並んでいた。


 ……ほう、これは面白い。


「お前はみんなと一緒に遊ばないのか?」


 興味を引かれた俺は、少女の元に歩み寄って問いかけた。


「わたしシンコなの。だからみんなとは遊ばない」


 少女は俺を見上げてぶっきらぼうに答えると、再び目線を地面に落とした。顔を伏せる直前、サファイアのような少女の瞳が悲しげに陰ったのを俺は見逃さなかった。


 ちなみに、シンコとは五属性の魔力を持つ者のこと。セイスほどではないにしろ魔力が弱く、セイスに次ぐ社会的弱者だった。


「そうか、弾かれ者か。俺と同じだな」


「え?」


 俺の告げた『同じ』という台詞に反応して、少女が顔を上げた。


「俺はセイスのセイ。小さい頃はお前のように一人で遊んでいた。だから、お前の気持ちはよくわかる」


 少女は『セイス』の件で、信じられないというように目を真ん丸にした。俺はあえて少女に見えるように、左手の甲を翳して見せた。


 少女は俺の左手の甲に浮かぶセイスの印を注視して、ゴクリと喉を鳴らした。


「名前はなんというんだ?」


「わたしはチナツ。シンコ以下の人に会ったのは初めてよ」


「そりゃあ、そうだろう。俺だってシンコに会ったのは初めてだからな」


 シンコやセイスは発現する数が圧倒的に少ない。シンコで数年に一人、セイスに至っては数十年に一人といった発現頻度なのだ。


「ところで、これはチナツが作ったのか?」


「うん。ここに来てからずっと、一人で砂遊びをしてたから、こんなのならいくつでも作れるよ」


「そうか! 細かいところまでよく出来ていてビックリしたぞ。チナツはすごいな」


 チナツの頭を撫でながら、俺は彼女との出会いを神に感謝していた。


 出来上がった土像を見れば、チナツが繊細にコントロールしながら魔力を放出していることが瞭然だった。シンコゆえ保有する魔力こそ少ないが、彼女は実に優れた魔力制御の技術を持っている。


 ……いや。むしろ保有する魔力が少量だったからこそ、きめ細かく使いこなす術を身に着けられたのだろう。


「そんなこと言われたの初めて」


 チナツは頬を赤く染めて俯いてしまった。


「ははは、恥ずかしがることなんかない。すごいものはすごい。そうだ! たとえば、チナツはこういうのは作れるか?」


 荷物袋から丸めた紙を取り出すと、チナツに広げて見せる。


 それは、俺がずっと作りたいと思っていた武器の設計図だった。ライフルに近い形状だが、撃ちだすのは弾丸ではなく魔力だから、弾倉部分が魔力を装填する魔力倉に置き換わっている。


「これはなに?」


「昔好きだったロボットアニメに登場する兵器だ。見よう見真似で描いてみたんだが……。ここの引き金を引くと、ここに溜めてある魔力がこっちの先端から撃ちだされる仕組みだ」


「ロボ……アニ……? よくわからない」


 可愛らしくコテンと小首を傾げるチナツに、俺は苦笑いしてもう一度彼女の頭をポンッと撫でる。


「いや、すまん。そこはあまり重要じゃない。とにかく、溜めた魔力を撃ち出す仕組みだ。どうだろう、作れそうか?」


「うーんと……、やってみる! えいっ!」


 言うが早いか、チナツは両手を前に翳す。すると、あっという間に地面が大きく盛り上がる。


 ……なんだ!?


 そうかと思えば、盛り上がった砂が次の瞬間にはサラサラと散っていく。


 そうして砂が散った後、中から現れたのは全長七十センチの小型ライフルだった。


「すごいじゃないか!」


 思わず叫び、目の前に現れたライフルを手に取って確認する。


 ……なんてことだ! このレベルなら、すぐにでも使えるぞ! 強度が気になるところだが、まずは一発撃ってみよう。


 さっそく試し撃ちしようと、ワクワクしながら魔力倉に魔力を装填していると、急に空が暗くなった。これは、次元獣が現れる前触れだった。


 チッ! 楽しい気分に水を差された俺は、内心で舌打ちした。眉間にも、クッキリと皺が寄った。


「な、なに!? セイさん、急にお空が真っ暗に!」


「シィッ。チナツ、大丈夫だから俺の言う通りにするんだ」


 兢々と叫ぶチナツの肩に手を置き、その目を真っ直ぐに見つめて言い含める。


「お前は体勢を低くして他の子供たちのところへゆっくり移動するんだ。それから、すまんが戦闘が終わるまでこれを預かっていてくれ」


「それはいいけど、セイさんは一緒に逃げないの?」


 チナツは俺が差し出したライフルを抱き締め、困惑気味に尋ねた。


「ああ、次元獣をやつけるのが俺の仕事だ」


「え、次元獣がくるの!? だったら、なおさら逃げなくちゃ! セイさんはセイスなんでしょう? 殺されちゃうよ!」


「あぁ、たしかに俺はセイスだ。でもセイスだからって弱いわけじゃない。今からそれを証明してやる」


 不安げに見つめるチナツを安心させるように、ゆっくりと伝える。


「さぁ、おしゃべりはここまでだ。お前は皆のところに行くんだ」


 パチパチと目を瞬いて俺を見上げるチナツの肩をトンッと押せば、彼女は意を決したようにコクンとひとつ頷いた。


「分かった!」


「いい子だ」


 チナツが足を踏み出すのと同時に、上空ではどす黒く染まった大気が渦を巻き始める。渦は見る間に威力を増し、竜巻のように地面へ向けて伸びてくる。


 竜巻は、孤児院前の広場に到達すると小さな爆発音と共に弾けた。霧状になって瘴気が拡散され、中から黒光りする次元獣が姿を現した。


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