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第7話



 翌朝。


「セイ様、お近くにおいでの際はどうかまた立ち寄ってくださいませ」


「ああ。いつか必ず、また寄らせてもらおう」


 俺は礼がわりにもらった保存食でパンパンに膨らんだ荷物袋を肩にかけ、一家総出の見送りを受けながら村長の屋敷を後にした。


 正門に向かって歩いていると、隣を歩いていたガイア隊長が重く切り出した。


「セイ様、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「私は長く守備隊員として務めておりますが、セイ様の使われた魔力はこれまで一度も目にしたことがございません。次元獣の腹にたったの一発で大穴を開けてしまうほどの威力を持つあの魔力。次元操作とおっしゃいましたか、あれはなんなのですか」


「あれは奴から吸収した魔力をそのままお返ししただけだ。次元操作にはそれができる特性がある。ただそれだけだ」


 俺の答えに、隊長は「わからない」というように眉間に皺を寄せた。


「……まぁ、具体的になにかと聞かれれば、企業秘密だな」


 隊長の反応はもっともで『相手の魔力を返す』などと言われて、はいそうですかと納得してくれる者などいない。それくらい、俺の次元操作は、この世界の常識で見てもあり得ないものだった。


 かと言って、新魔創生については安易に口にしていいものではなく、俺は『企業秘密』のひと言でこれ以上の追及を躱す。


「そうですか、それは残念です。ですが、いとも簡単にその技を操り、一撃で奴を倒してしまうセイ様は本当にお強い」


 ガイア隊長は俺の真意を汲んでか、あっさりと頷いた。そしてこれ以降、彼がこの話題に触れてくることはなかった。


「はははっ! ありがとうよ、あんたとは機会があればまた飲みたいもんだ」


「はい。その時は、セイ様に教えていただいた連携攻撃を強化して、一層強い守備隊員になっています! この町を、決して次元獣などに踏み荒らさせはしません」


 ガイア隊長は決意の篭もった目をして断言した。


「ずいぶんとこの町に思い入れがあるんだな」


「私は守備隊員になる前は、聖魔法教会に所属する魔導士をしていました」


 聞かされたガイア隊長の過去は予想外のものだった。聖魔法教会所属の魔導士は、ギルドに登録する冒険者や守備隊員よりも社会的な地位が格段に高い。


「そうか、以前は教会にいたのか。しかし、どうして守備隊員になった? 待遇はあちらの方が破格にいいだろうに」


「お若いセイ様はご存知ないかもしれませんが、この町では二十年ほど前にウノの赤ん坊が生まれています。ウノが平民に生まれることは非常に稀ですから、遠く王都でも話題になりました。これを聞き付けた教会は、あろうことか赤ん坊を強引に取り上げて高位貴族の養子にしようと計画しました。その頃の私は教会に所属したばかりの若輩で、そんな非人道的なことが決してあってはならないと思いながら、幹部らに進言などできる訳もなく口を噤むしかできませんでした」


 ガイア隊長はここで一旦言葉を止め、再びゆっくりと口を開く。


「あげくに私は、赤ん坊を引き取りに行く幹部に同行を命じられました。ミーゲル町長はやって来た私たちに断固とした姿勢で赤ん坊の引き渡し拒否を告げ、追い返しました。結果として、赤ん坊の養子話はなくなりましたが、この町はそれ以降聖魔法教会からの加護をもらえなくなりました」


「加護? そんな物があるのか!?」


 これは、俺にとって初耳だった。件の日記にも、そのような記述はなかった。


「これは公にはされていませんが教会からの加護は、次元獣の出現を防ぐ最大の守りとなります。しかし、この加護をどこに授けるかは教会の気持ちひとつなのです。この町は教会と比較的友好的な関係を築いていましたが、この一件によって加護を失い、守備隊を雇うことを余儀なくされました」


「なるほどな。それで町の規模に対して、不釣り合いな装備の守備隊を置いていたわけか」


「ええ。加護がなければ、いつ次元獣が現れるとも限りませんので。……私は、あの時の町長の強い眼差しを忘れることができませんでした。しばらく悩み、教会を辞めました。もちろん、辞めたのはこの一件だけが理由ではなく、教会内で多くの傍若無人な振る舞いを見て、彼の組織に嫌気が差していたことも大きいのですが。そうして守備隊員として幾つかの現場で経験を積んだ後、ミーゲル町長以下、町民らで一致団結し、奮闘するこの町の力になりたいと思い、この町の守備隊長となりました」


「そうだったのか」


 そうこうしているうちに、正門に辿り着いていた。


「……ガイア隊長、やはりあんたは気骨のある男だ。必ずまた、酒を酌み交わそう」


 俺は隊長にヒラリと手を振って門の外へと踏み出した。


「またお会いできる日が楽しみです。セイ様、どうかお気をつけて」


 俺は隊長に見送られ、晴れやかな気分で町を後にした。


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