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第6話



 次元獣を討伐した俺は、ガイア隊長と共に町長の屋敷を訪れていた。


 既に先ぶれを受けていたのだろう、屋敷の玄関前では家人らが総出で俺の到着を待ち構えていた。


「町長、こちらが我らの危機を救ってくださり、次元獣を討伐してくださったセイ様です」


 隊長の言葉を受け、白髪の老紳士が一歩前に進み出て、緊張の面持ちで丁寧に腰を折った。


「おぉ、あなた様が……。私は町長のミーゲルと申します。この度は町の窮地を救ってくださり、誠にありがとうございます」


「ミーゲル町長、頭を上げてくれ。年長者に頭を下げられるのは、どうにも落ち着かん」


 俺が気さくに町長の肩をポンッと叩けば、町長は驚いたような顔をしてゆっくりと半身を起こした。


「優秀な冒険者でありながら、セイ様はなんと気さくなお方か……。立ち話もなんでございます。どうぞ、中へお入りください。心ばかりの食事と酒を用意してございますので、召し上がっていかれてください」


「それはありがたい。馳走になろう」


 こうして俺は、ミーゲル町長の屋敷で厚い歓待を受けることになった。


「セイ様が来てくださらなかったら、雇っていた守備隊だけでは持ちこたえられず町は壊滅していたでしょう。本当に、なんと礼を申し上げたらよいか」


 町長の酌を受け、渇いた喉を酒で潤す。


「なに、礼には及ばん。こんなに美味い酒を飲んだのは久しぶりだ。これで十分だ」


「い、いえ! そんなわけにはまいりません。小さな町ゆえ、決して多くは用意できませんが、きちんと礼金をお支払いいたします!」


「町長、我ら守備隊は固定報酬を辞退いたします。どうかその金額を、セイ様の礼金にあててください」


 町長の言葉に、同席していた隊長がすかさず申し出る。


 一般的に守備隊の賃金体形は、固定報酬と歩合制の成功報酬の組み合わせとなっている。成功如何にかかわらず、固定報酬は隊員の生活や装備などを正しく維持するために得るべき権利であり、契約でもそれは保障されているはず。


「おいおい。ガイア隊長、馬鹿言っちゃいけない。固定報酬はお前たちが得るべきだ。それに、お前たちが最後まで諦めなかったから、俺も間に合ったんだ。お前たちが早々に逃げ出していたら、町は壊滅していただろう。なかなかできることではない」


「とんでもない。我々だけでは、到底あの次元獣を倒すことはできませんでした。セイ様のおかげです」


「今回は結果的にそうなったがな。だが、あんたらのパーティは実力もあるし、バランスもいい。次元獣との戦い方を学べば化けるぞ。あの程度なら、お前たちだけで十分倒せるようになる」


 ガイア隊長はかなりの土魔力の持ち主だ。それに加えて火・水・風属性使いの部下がいる。コツさえ掴めば、さっきのクラスの次元獣に負けることはないだろう。


「本当ですか!?」


「ああ、単に個別攻撃を仕掛けるだけでなく、連携を取った連続攻撃を仕掛けるんだ」


「と、申しますと?」


「四足歩行タイプの次元獣の弱点はヘソだ。火・水・風の魔力で次元獣の動きを止め、土の魔力で下からひっくり返せ。そして身動きできなくなったところで、全員でヘソを攻撃すればいい。さっきのクラスの次元獣なら、これで仕留められる」


 ガイア隊長は真剣そのものの様子で、俺の言葉を一言一句聞き漏らさぬよう耳を傾けていた。


「なるほど。今後は隊員らで連携し、攻撃の展開を訓練します」


「ああ、それがいい。そして日々の訓練をしっかりと積み、有事に正しく備えるためにも固定報酬はきちんとお前たちが取っておけ。ミーゲル町長も、それで異存ないだろう?」


「もちろんでございます。……セイ様は優秀なばかりでなく、おやさしい方だ。戦闘に長けているだけでなく、この町の未来までも考えてくださるとは……」


 ミーゲル町長はまぶしい物でも前にしたように、目を細くして同意する。その瞳が、微かに潤んでいるように見えた。


「実は以前、みっつ先の町が次元獣に襲われ、たまたま通りかかった冒険者のパーティに救われたことがありました。おかげで彼の町は壊滅こそ免れましたが、膨大な礼金を請求されて……。結局、町は深刻な財政難によって町としての機能が維持できなくなり崩壊してしまいました」


「ハッ! 町を潰すほどの金を要求するなど、冒険者の風上にもおけない」


「いいえ、セイ様。それくらい高位の冒険者の能力というのは得難いものです。そのパーティのリーダーは風の筆頭侯爵様のご子息で、プラチナのエンブレムを付けた勇者様だったそうですが、討伐には相当に難儀したようです。それを考えれば、礼金がそれなりに膨らんでしまうのも道理――」


「待ってくれ! 今、風の筆頭侯爵様のご子息と言ったか!?」


 思いもよらぬ人物の登場に、不躾にも町長の言葉を割って尋ねていた。


「は、はい。そう聞き及んでおりますが……。あの、なにかございましたか?」


「いや、すまん。なんでもない」


 ……奴なら、村ひとつ食い潰すほどの金銭要求もやりかねん。


 どこまで性根の腐った奴なんだ……いや、むしろ討伐に難儀しながらも、途中でほっぽり出して逃げなかったことを褒めるべきかもしれん。


 内心で特大のため息をこぼし、胸糞の悪いヤツの存在を意識の外へと追いやった。


「とにかく、こうも謙虚でおられるあなた様は稀な存在でございます」


「なに。かくいう俺とて、そうそう謙虚なばかりではない。金はいらんが、道中で食える保存食を少し分けてもらえたらありがたい」


 俺はそう言って、あえて軽い調子でヒョイと肩をそびやかす。


「お安い御用でございます。荷馬車を山盛りにして、用意いたしましょう」


「はははっ! 面白い冗談だが、この荷物袋に入る分で十分だ。……ミーゲル町長、さっきから酒を注いでばかりじゃないか。あんたも飲め」


「ええ、ええ。セイ様……」


 ミーゲル町長は俺の注いだ酒をひと息で飲み干した。


「隊長もだ。今晩は共に飲み明かそうじゃないか」


「はい……!」


 夜通しの酒宴は、翌朝に太陽が空の主役に変わるまで続いたのだった。



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