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第55話


 よし、後は三人が無事に軍艦辿り着くまで、デラをこの場に留めておけばいい……!


 デラは瘴気を放出しきると、バサリと翼を広げ俺に向かって飛びかかってくる。その時、大きく広げた翼が、はじめに座っていた背もたれの高い椅子を弾いた。


 ――ジュワァアアアッッ!! ――プスッ、プスンッ。


 奴に弾かれた椅子は不快な音を立てながら溶け、真っ黒な泥炭のように変質し、やがて悪臭を放ちながら気化した。


 っ、改めて目の当たりにした次元獣の王のおぞましさに、ぞわりと全身が粟立った。同時に、本当にこれでいいのかと、自分の中で葛藤が湧き上がる。


「待ってくれ、デラ! 世界の調律者まで名乗ったお前が、本当にこの決着でいいのか!? 戦う以外に道はないのか!? もう一度、俺と話を……っ、クッ!!」


 俺の説得は、デラが放った瘴気に遮られる。今度は正面から受け止めることをせず、寸前で躱して避ける。


 ――ズドォーーンッッ!!


 デラの瘴気を食らった王の間の壁が吹き飛んで、周囲はガラガラと音を立てて崩れていく。たった一撃が、巨大な城を揺るがす。


 次元障壁で降ってくる瓦礫を防ぎながら、幾度かデラに呼びかける。


 しかしこれ以降、どんなに俺が呼び掛けてもデラは対話に応じなかった。


 なにより、奴からの攻撃が激しさを増す中で、俺も防戦一方では限界になり、応戦せねばならなくなっていた。


 奴の瘴気と俺の次元魔力がぶつかり、目に見えぬ波動となって大気を震わせる。打って、打たれての攻防が幾度か続いた。


 デラと俺の力は拮抗していた。デラの瘴気もその源は次元魔力、要するに俺たちは次元から吸い上げた力を互いにぶつけ合っていることになる。まさに、泥試合の様相を呈していた。


 ……いかんな。直接攻撃は全て防御しているとはいえ、飛び散る瓦礫を完全に防ぎきることはできない。避けきれずに食らい、既に全身の肌は傷だらけだった。ほんの僅かに翼が掠った脇腹は抉れ、ボタボタと鮮血が滴っていたし、打ち身も至るところにあった。


 黒水晶の甲冑で全身を覆っている奴に対し、俺はセリシアに身体強化をかけてもらっているとはいえ生身だ。こうなってくると、生身の肉体で戦っている俺の分が悪いのは当然だった。


 既に、立っているのもやっとの状態で、ほとんど気力だけで戦っているような状態だった。


 クソッ! 目の前が霞んできやがった。


 ……だが、まだだ! チナたちの無事を見届けるまで、持ってくれ――! 祈るような思いで、油断すれば揺らぎそうになる両足を踏ん張った。


 やがて天井が崩れ、頭上に空が広がる。しかし晴天のはずの空は、デラが放出する瘴気と巻き上がった瓦礫や礫によって、周囲一帯が黒く淀んでいた。


 それからいくらもせずに天井を失くした城は壁を失くし、基盤だけになり、ついにガラガラという崩落音を立てながら、完全に崩壊した。


 素早く周囲に視線を走らせると、暗雲とした空の下にほんの一瞬、チナたちが乗った魔導戦艦を認める。


 ……無事に飛び立ったか! 戦艦の姿はすぐに淀んだ黒い霧に隠されてしまったが、俺はチナたちの無事を確信し、安堵の息をついた。


 ところが、デラもまた戦艦の存在を視認したようで、スッと宙を掻くような仕草をした。


 なんだ!?


 直後、奴が掻いた部分の次元が裂け、三体の次元獣が現れた。


 しかも三体は、デラをそのままコピーしたかのような風貌をしていた。さらに三体が放つ瘴気もデラ自身には及ばぬとも、これまでの次元獣とは比較にならない強さだった。これまでの次元獣とは格が違うのだと、一目で分かった。


 ――グァアアアアアッッ!! ――グォオオオオオーーッッ!! ――グガァアアアアッッ!!


 三体が戦艦に向かって、瘴気を吐きかける。戦艦を呑み込まんと、三体分の瘴気が螺旋を描きながら暗雲の中を真っ直ぐに突き進む。


 させるか!!


 俺はグンッと両手を前方に突き出すと、渾身の力を込める。


 己の内の集中力を極限まで高め、従来の次元操作を進化させた新技を発動する。


「いけ! 次元を断ち切れ――っ!」


 三体分の瘴気が戦艦に到達する直前で、俺は次元を分断した。


 全身に漲る活力を感じ、次元分断の成功を確信する。厳密には、俺とデラ、そしてデラのコピー三体を奴らが吐き出した瘴気ごと、別次元に飛んだ格好だ。しかもここは、俺が創り出した空間。ここでは、俺が有する六属性の魔力全てがウノを超える威力になっている。


 この時を待っていた――!


 俺がヒラリと手を振れば、疾風が巻き起こる。風を受け、デラのコピーのような次元獣の一体が千々に千切れた。


 グンッと掌打を打ち出したら、つらら状の岩がいくつも現れて、別の一体を串刺しにした。


 パチンを指を弾くと火炎が上がり、三体の最後の一体を包み込む。燃え上がる炎は、次元獣を跡形もなく焼き切った。


 俺が創り出したこの次元。ここで、俺に敵う者はない!


 コピーの三体が瞬殺されたことで、デラにも僅かな動揺が見て取れた。……いや、動揺ではなく奴は実際にダメージを負ったのだ。


 見た目にこそ変化はないが、奴が噴出する瘴気は今にも消え入りそうに弱々しい。「コピーのよう」ではなく、あの三体は事実奴が生み出した"分身"だったのだ。


『それだけの力がありながら、どうしてお前は人間界の王に……いや、あらゆる界を統べる調律者にならんのだ?』


 次元獣の姿を取ってから初めてデラが声を発した。もしかしたら人型を手放したことで理性のない獣に成り下がってしまったのかと訝しんでいたが、そうではなかったらしい。


「調律者など、ごめんだ。終わりがあるから、生きる楽しみもある。……デラ、俺が前世の世界で知った言葉をひとつ教えよう。『有終の美』と言うんだ」


 黒水晶に覆われて表情などないはずの奴が、どこか悲しげに見えるのは俺の気のせいなのか。


『我は万物の終わりを見届ける役。その我に終わりはない』


「いいや、デラ。俺がお前に『終わり』を与える」


 是なのか、否なのか、デラの本当の思いは果たしてどちらであったのだろう。デラは、三つある紫の目を見開いたが、それに答えなかった。


 俺は空を見仰ぎ、両手を広げて叫んだ。


「――火・水・風・土・光・闇――全ての魔力よ、集え! そして新たな魔力となれ!」


 一度グッと目を瞑り、カッと見開く。


 ――キュィイイーーンッッ!!


 次元が振動し、共鳴する。ぐわんぐわんと撓むのは視界ではなく、空間そのもの。


 ウノを超す威力となった俺の六つの魔力が掛け合わさり、新魔を創生してゆく。


 全身の細胞が波打つような感覚。ジンジンと痺れるような熱を発しながら、体の奥の奥、俺の中で眠っていた大いなる源が目覚める――!


 あまねく次元を揺るがしながら、新魔力が発動する。これが次元操作の最終形態――。


「次元支配――!!」


 ――ズォオオオーーンッ!!


 カッと閃光が走り、耳をつんざく爆音が轟く。


 ――パキーンッ!!


 直後に、あがったのはこれまでとは違った澄んだ音。たしか昔、大切にしていたガラス細工が割れた時にこんな音がしたなと、そんなことを思い出した。


『人間世界を他の次元世界と完全に切り離したか』


 既に分かたれた界の向こう側からデラが呟いたひと言は、やはり俺の頭に直接聞こえてきた。ただし、一枚紗幕でもかかったように、その声は近いのに、遠い。そんな不思議な聞こえ方だった。


 デラの言った通り、俺は全ての次元を支配して切り離して独立させた。


 これにより、互いの世界は永遠に干渉ができなくなった。もう、人間界に次元獣が現れることはない。同様にデラは、人間界にも、他の種が住まう界にも、関与する手段を永遠に失った。


「デラ、数千年もの年月、お前はあらゆる界の調律を保ち、よく務めた。だが、それも今生が最後。これからお前は、次元獣の世界で今生の残りを王として生きるのだ。そして、その生が尽きた時は全ての終わり、『有終の美』を飾れ」


『――』


 俺の声がデラに届いたのかは分からない。デラが最後になにか口にしたようにも思えたが、なにも聞こえてはこなかった。


 やがてデラは、その次元ごと蜃気楼のように消えた。


 ……いかん、このままでは俺も次元の狭間に取り残される。


 しばし、デラが消えたあたりを見つめていたが、すぐに思い直してチナたちが待つ次元――人間世界に戻った。



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