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第53話


 俺は三人の名を叫びながら、次元操作を発動する。次元が裂け、巨大な魔導戦艦が姿を現す。


 二門の主砲に加え、多数の副砲を備え、三百六十度攻撃可能な大型戦艦は俺の設計図を基にチナが錬金術で造りあげたもの。そのボディは耐火性、耐久性に優れて強靭で、刃や火はもちろん次元獣の瘴気にも揺るがない。


 戦艦に乗り込むとアルテミアの重力制御で一気に離陸する。


「チナ、セリシア、主砲を任せる! 前方の次元獣を凪ぎ払え!」


「任せて!」


「はい!」


 二砲ある主砲をふたりに任せ、俺は多数の副砲を一度に操作し、三百六十度襲い来る次元獣を一網打尽にしていく。


 ――ズガガガガガガガッ!! ――ズドドドドドッッ!!


 魔力砲が上空でごう音を轟かせ、新たに放出された次元獣がなす術なく倒れていった。


 そのまま遥か上空のデラの城までひと息に辿り着く。不思議と次元の狭間から次元獣こそ攻めてくるものの、城からの直接攻撃はなかった。


 ……何故、仕掛けてこない?


 その時、まるで俺たちを迎え入れるかのように城の門戸が開かれる。


 なんだ!?


『よくここまで辿り着いた、次元を操る同胞よ』


 声は、脳内に直接響いてきた。


『我はそなたらを歓迎する。進まれよ、我は王の間にて待つ』


 声はそれきり止んでしまった。


「……三人とも、行くぞ。俺の後に続け」


 俺たちは戦艦を下り、浮遊する城の門戸をくぐる。念のため全員が手を取っていたが、アルテミアの重力制御がなくとも城の中は地上と同じ感覚で歩くことができた。


 デラの城は、外観から推し測った通り内部も広かった。三メートルはあろうかという高天井の広々とした空間になっており、幅広に取られた廊下が真っ直ぐに奥へと続いていた。ただし装飾の一切が排除された造りは質実というよりは、どこか空虚で物悲しい印象がした。


 廊下の床は磨き上げられた黒水晶のような素材で、足を進める度に足音が反響した。そしてこの城は、床だけでなく内装も全てが同じ黒水晶で造られており、光源はないはずなのに、水晶自体がキラキラと煌いて僅かに明るく感じられた。


「城内は大丈夫そうだ。一旦、手を離すぞ」


 ひと声かけて繋いでいた手を解くと、黒光りする壁にそっと触れてみる。


 ……やはりそうか。


「ねぇお兄ちゃん、これって同じだよね?」


 隣のチナがポケットから取り出したのは、孤児院で『打ち勝った証』として渡した金色のペンキが付いた水晶。チナのそれは青紫がかった色をしていたが、城を形作る水晶とたしかに同じだった。


「あぁ、同じだな」


 ……次元獣の体表を覆うそれと城の素材が同じ。果たしてこれは、なにを意味しているのか。


 そうこうしているうちに廊下が途切れ、両開きの重厚な扉に突き当たった。


 ――カツン。


 足を止め、天井まで続く扉を見上げる。おそらく、ここが王の間なのだろう。


 押せばいいのか? 俺が扉を押し開けようとしたら、俺が触れるより先に中から引き開けられた。


 ――ギィイイイ。


 無意識のまま体勢を低くして、迫るデラとの対面に身構える。ついにデラが……!! 


 軋みをあげながらゆっくりと扉が開きる。そうして中には――。


 なっ!? 次元獣の王というからには、風体は次元獣らと同じだと疑っていなかった。しかし、開け放たれたがらんどうの空間に次元獣の姿はなく、中央に一脚の椅子が置かれているのみだった。


 ……デラはどこにいる?


 その時、高い背凭れの付いた椅子からスッと立ち上がる影があった。


 椅子から立ち上がり、艶めく漆黒の長髪をなびかせて振り返ったのは、研ぎ澄まされた美貌の青年。


 なに、人型だと……!?


 カラカラに渇いた喉に唾を飲み込む。ゴクリと喉が鳴る音が、妙に大きく響いた。


「お前がデラか」


 青年の瞳は冴え冴えとした紫で、視線がぶつかると、彼の目に吸い込まれてしまいそうな錯覚に慄いた。


『いかにも。我がデッドラッシュ。そなたらがデラと呼ぶ者だ』


 目の前の青年……デラの形のいい唇が動く。けれどその声は、やはり脳内に直接聞こえた。


「何故、召喚に応じた? いや、そもそも次元獣の王であるお前が何故人間に関与をしてくる!? デラ、お前の目的はなんなんだ!?」


『我は召喚に応じたわけではない。愚かな人間どもに制裁を与えるべく降り立ったタイミングが今だったにすぎぬ』


「人間に制裁だと?」


『然り。此度、我は実に身勝手な人間側の都合で召喚を受けた。我は此度の召喚に関与した愚かな人間どもを葬り、エトワールに再びの安寧を敷く。強いて言えば、これが目的となろうか』


 デラはここで一拍の間を置いて、再び続ける。


『本来、我にとってはウノとセイスのどちらが上位だろうと関係もないし、エトワールが階級社会であろうが平等な社会であろうが、それすらもどうでもよいのだ。だが、数千年前、セイスの青年が起こした反乱は世界大戦に発展し、エトワールは崩壊の危機に瀕した。あのときは我が介入し、エトワールに均衡を敷いた。再びあの時の大戦を再現するような事態だけは到底容認できぬ』


「なぜ、次元獣の王がエトワールの動乱に関与を……?」


『それが唯一にして最大の我の存在意義。……次元を操る同胞よ、そなたなら分かるのではないか? 次元を統べる者は、全てを制す。我が次元獣の王というのも間違いではないが、同時に我は人類の王であり、全ての空間を統べる調律者でもある』


 調律者だと……?


 耳にして、ピンときた。


「まさか次元獣をけしかけることで、人間の数も統制しているのか!?」


『然り。人間は次元獣にも、他界の種にもない、実に愚かな特性を持つ。増えすぎると、必ず派閥を組んで争う。この愚かな特性を制御するには、数の統制が手っ取り早く、かつ、有効なのだ』


 ……この時、俺が感じていたのは、デラという存在そのものに対する不思議な憐憫だった。


 数千年前の出来事をまるで昨日のことのように語る。全ての界の手綱を取り、己の意思ひとつで操作しながら、数千年もの年月を過ごす。


 想像したその重みに、全身に震えが走った。


『数千年前、反乱によって世界を大混乱に導いたセイスの青年は、我が次元の狭間に葬り去る直前に言った。《こんなにも多くの命が失われるのなら、立ち上がらなければよかった》と。彼は気づいたのだ、セイスの犠牲の上にではあるが、大戦前は一応の安定が敷かれていたことに。そして、世界全体の安寧の前に、一定の犠牲はやむを得ないということを彼は死を前に悟ったのだ。ゆえに我は、此度、少し早めに手を打つことにした』


「デラ、やはりお前は次元に帰り、次元獣の王としてだけ生きた方がいい。世界に調律者は不要だ」


 俺の言葉に、デラはその真意が分からないというように胡乱気に眉根を寄せた。


 しかし、口にしながら俺自身も、まるで俺ではない誰かに言わされているような不可思議な感覚に襲われていた。


 デラが口にした一語が、俺の記憶を紐解く鍵――。


 俺の中の奥深く、眠っていた遥か遠い古の記憶が蘇る。


 ……あぁ、そうか。レジスタンスグループを率い、発起したのは前世の俺だったのだ。


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