第52話
次元操作を操る俺だからこそ、分かる。
人間界の権力闘争も、新魔創生や覚醒も、デラにとっては所詮、次元を跨いだ他界の出来事。デラは教祖らに与する気など、端からない。デラが纏うのは全ての人間に対する怒りの波動だ。
「……ん?」
「教祖様、気が付かれましたか?」
後ろでマリウス大魔導士が、床で白目を剥いていた教祖を助け起こした。
「お、おお! あれはデラ様の居城であられるか!? デラ様が我らの願いを聞き届け、召喚に応じてくださったか……!」
なんと教祖は、この段になっても事の重大さをなんら理解しておらず、期待の篭もった目で上空の城を見仰いでいた。
「まだ分らんのか!? デラの怒りの矛先は――」
俺は振り返り、声を荒らげた。しかし、最後まで言い終わるより前に、真っ黒な霧で覆われた上空から百体を超す大量の次元獣が地上に襲い掛かってきた。
俺が張り巡らせた防護障壁によってオルベルの街への被害は防がれている。だが、これだけの次元獣をけし掛けられてしまっては、それとていつまで持つか――!
「全員で応戦し、街への侵入を許すな! 大型と超大型は俺たちがやる! それ以外の小・中型はここにいる全員で協力して打ち倒すんだ!」
ローブ集団に向かって指示を飛ばしながら、俺は眼前に迫る二足歩行タイプの大型次元獣の首に向かって次元魔力を放ち、青紫に光る硬い水晶ごと口を打ち抜く。
威力を増した俺の次元魔力は、大型次元獣の急所を一撃した。次元獣が真っ黒い瘴気を噴出させながら地面に倒れるのを横目に見て、次の次元獣に狙いを定める。
攻撃の手だけは休めぬまま、チナ、セリシア、アルテミアの三人を見やる。チナとセリシアはリボルバー銃を使い、比較的動きの遅い四足歩行型の次元獣を中心に、急所の狙い撃ちをしていた。
触れた物を媒介として重力を操るアルテミアはしゃがみ込んで地面に手を当てると、重力を反転させて大量の瓦礫を上空に向かって打ち上げる。これを食らった次元獣は上空に押し戻されて、一度に襲い掛かる数を減らす。
その間にチナたちやローブ集団が、次元獣を確実に射止めていく。
「アルテミアはこれを使え!」
俺は次元を裂いて全長百七十センチの大型ライフルを取り出すと、アルテミアへ向けて放り投げた。普通の女性には重すぎてとても扱えない代物だが、彼女の重力制御をもってすれば、何の問題もない。
「任せて頂戴! やぁっ!」
アルテミアが撃ち放った魔力砲は、一匹目を貫通し、後方の数体をも貫通した。
「わっ、アルテミアお姉ちゃん凄い! セリシアお姉ちゃん、わたしたちも頑張ろう!」
「えぇ!」
チナとセリシアも負けじと、次々攻撃していく。
ローブ集団も腐っても高位の魔導士。本来、戦闘は門外漢ではあるが、各々の魔力で必死に次元獣に応戦していた。
戦闘力に劣る者でも次元獣を倒すには至らぬまでも、攻撃を躱して生き延びることはやってのけてくれそうだ。
「……何故、デラ様は我々を攻撃するんだ? ……に、逃げろ! 逃げるんだ!」
教祖は顔面蒼白で呟いて、途中でハッとしたように叫んで一目散に駆け出していく。
「お待ちください教祖様!! デラ様が次元獣をけしかけて我々を攻撃してくるのは想定外。しかし、我々には召喚した責任がある! オルベルの街に被害が及ばぬよう、最後まで戦うのが我々のせめてもの務めではないのですか!?」
脇にいたマリウス大魔導士がローブの裾を掴み、教祖の逃走を阻む。
「マリウス大魔導士、なかなかいい心がけだな」
「っ、お前は……!」
俺を認め、マリウス大魔導士が息を呑む。
「エトワールの儀以来十八年振りだな、マリウス大魔導士。もっとも生後七日では、生憎と記憶はないのだがな」
「お前がセイか! メイリが産んだ、あの時のセイスの赤子――!!」
「古い文献の研究や編纂を職務としていた生前の母は、あなたの直属の部下でもあったそうだな。母はさる古文書の調査を切欠に、新魔創生の可能性に思い至った。そしてセイスとして生まれついた俺のため新魔創生に挑み、その実験の最中に死んでいる。……父と母を殺したのはマリウス大魔導士、お前だな?」
「そうだ、手を下したのは私だ。……だが、止むを得なかったのだ。新魔創生をなせば、また世界は数千年前の二の舞になる。大戦が起こり大地は荒れ、多くの民草が巻き込まれて屍の山ができる。そんな事態だけは、なんとしても避けなければならなかった。安寧の世を保たせるための、尊い犠牲だったのだ」
整然と告げられたのは、傲りも甚だしい主張だった。
安寧の世……それは、言い換えれば自分たちにのみ都合のいいウノ一強の階級社会。世の中全体の安寧には遠い。
なにより、自分たちの正義のために殺戮すら正当化してみせる。その時点で、正義はとうに歪められていることに、歴史上の独裁者たちは皆気付こうともしない。
マリウス大魔導士の正義は既に、地に落ちてしまっている。
「……見上げた理屈だ。ならばせいぜい、オルベルの安寧を保つため教祖と共に体を張れ! なんとしても、次元獣を一匹たりとオルベルの街には行かせるな!!」
父と母の無念を思えば、殴り殺しても殺したりない。しかし今は、マリウス大魔導士の傲り高ぶった正義感をせいぜい有効活用させてもらおう。
俺はマリウス大魔導士たちから上空へと目線を移し、襲い来る次元獣へと再び意識を集中させる。
荒らぶる感情のうねりをぶつけるように次元操作を発動させ、急所もなにもなく次元獣を木っ端みじんに散らせた。そのまま、二発、三発と一心不乱に次元獣を打ち続けた。
その甲斐あって、放出された百体もの次元獣はいつしか数体を残すのみとなっていた。戦闘に終わりが見え始め、皆の表情が僅かに綻びかけた次の瞬間――。
「何故だ!? また大量の次元獣が来るぞ……!」
魔導士のひとりが、上空を見上げて絶望的な声で叫ぶ。見れば、次元の割れ目から再び数百体を超す数の次元獣が姿を現す。
クソッ! 無尽蔵にやって来やがる!
「このままではキリがない! チナ、セリシア、アルテミア、あれを使うぞ! デラの城へ強襲揚陸だ!」




