第5話
俺が到着したとき、隊員らは正門の前に立ち次元獣が町に侵入するのを阻止していたが、誰の目にも極限まで押い込まれているのは瞭然だった。
「ガイア隊長! もう限界です! 我々も避難を!!」
隊員のひとりが、次元獣が振りまく禍々しい瘴気を展開した魔力障壁で防ぎながら叫ぶ。
「ダメだ! 私たちが逃げ出しては町が壊滅してしまう! 私たちがここで耐えなくてどうする!!」
短く刈り上げた黒髪に黒ひげを蓄えた男……ガイア隊長が隊員らの一歩前に踏み出し、土の魔力を込めた大楯を翳して部下への負担を軽減させながら苦渋に顔を歪めて声を絞り出す。
「全隊員、このまま魔力障壁の展開を継続! 奴からの攻撃に備えるんだ!!」
「火炎障壁増強!」「水流障壁加速!」「風塵障壁強化!」
隊長の声に奮起した隊員らは、なけなしの力を振り絞り魔力障壁の威力を増す。
「皆、このまま町を守り抜け!!」
ガイア隊長は楯を地面に突き立てると、土属性の上級魔力《大地の大楯》を発動した。地面が盛り上がり五メートル四方の分厚い壁が出来上がった。
……ほう。敵と味方の動きが良く見えているし、前に出て部下を守る気概もある。しかし、次元獣を相手にするための知識と経験不足が否めない。
そのとき、次元獣が彼らに向けて大きく口を開いた。
まずいな、あれは攻撃態勢だ。あれを食らったら、こいつらの魔力障壁では到底防ぎきれない。
俺は両手を前に突き出し、次元獣に向かって構えた。
次の瞬間、次元獣の口から放たれたまっ黒な瘴気が、直径一メートルはあろうかという波動となって伸びていく。
黒い瘴気の波動は見る間に、火、水、風のすべての障壁を木っ端みじんに打ち砕き、一直線に正門の先を目指す。
「させるか!! この町もお前たちも、私が守ってみせる!」
頽れる隊員たちを横目に見て、隊長は死すら覚悟した様相で叫ぶと大地の大楯に力を注ぎ込み、何とか瘴気の波動を防いだ。
……よくやっているが、ここまでだろうな。
案の定、大地の大楯がビキビキと音を立て中心から亀裂が走り始める。
「ここまでか……無念だ」
苦し気な隊長の声と同時に、大地の大楯は中心からバラバラになって崩れる。俺は楯が崩壊する直前、差し出した両手のひらから次元操作を発動した。
――ブワァァアアアアッッ!!
目の前の空間に黒い渦が現れ、大地の大楯をも突き破った強烈な攻撃を吸い込んでいく。
「ガイア隊長と言ったな、ここまでよく耐えた。もう大丈夫だ、後は俺が引き受ける。隊員らと下がっていろ」
守備隊の隊員らが死力を振り絞って防いでいた攻撃を難なく呑み込みながら、地面に膝を突いてこちらを仰ぎ見る隊長に労いの言葉をかけた。
「あ、あなた様はいったい……!?」
「俺はセイ、通りすがりの冒険者だ」
「冒険者ですか……しかしこの魔力はいったい……?」
「これは次元操作だ。なんでも吸収できて、なかなか勝手がいい」
「なんと!? そのような技は聞いたことがありませんが」
……それもそうだ。なにせ、俺にしか使えないのだから。
次元操作は、俺がセイスだからこそなせる技。多くの属性を有せば、属性ごとの保有魔力が弱くなるのはこの世界の理だが、それはあくまで属性ごとの単体で考えた場合だ。
三年前、村に戻った俺はかつて聖魔法教会に所属していた両親が書き残した日記を見つけた。そこには、俺の既成概念を覆す衝撃的な事実が綴られていたのだが、それについては今は割愛する。
とにかく、両親が残したこの日記によって、俺は初めてこの世に六属性とは別の魔力が存在することを知った。
両親はこの魔力を新魔力、これを生み出すことを新魔創生と呼んでいた。属性の異なる魔力を掛け合わせることで、既存のものとは全く別の新しい魔力が生まれる。さらに、掛け合わせによって生まれた新魔力は、ウノをも凌ぐ強大な力を持つ。
俺は二年の歳月をかけ、自身が保有する六属性の魔力の掛け合わせに成功し、新魔創生をなし遂げた。そして俺が創生した新魔力こそが、次元操作なのだ。
「詳しい話はあとだ。まずはあいつを片付ける。ちょうど魔力も貰ったしな」
目を丸くして問いを重ねる隊長に告げ、目の前の次元獣に意識を集中させる。
……さて、これで全て吸収しきったな。
俺は次元獣が放出した瘴気を余さずに吸い上げたのを確認すると、一足飛びで奴の顎の下へ入り込んだ。
「……なんという速さだ!」
人間の限界を超えた速度を目の当たりにした隊長らから感嘆の声があがる。
実は、この動力は先ほど次元獣から吸収した魔力だ。俺は足の裏からその魔力を放出することで、瞬間的な推進力を得ていた。
さらに、俺は次元獣の顎の下から右手を上にかざして魔力を放出する。顎下を突き上げられた奴はひとたまりもなくひっくり返る。
「ハァアアッ!」
弱点のヘソを目がけて渾身の右ストレートを打ち込み、掛け声とともにめり込ませた右拳から魔力を放出する。
『ごぎゃぁぁぁぁ』
次元獣は逃げ場のないまま自身の瘴気を被弾し、腹に大きな穴を開けられてピクリとも動かなくなった。
「討伐完了だ」
隊長と隊員たちから、そうして家屋から次々と飛び出してきた町の人たちから盛大な歓声と拍手喝采が湧きあがった。




