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第47話


 話を終えて客間に引き上げてからも、俺の頭の中はアルバーニ様から聞かされた内容がぐるぐると巡っていた。隣の寝台から健やかな寝息を立てるチナとは対照的に、眠りは一向に訪れる気配がなかった。


 どんな歴史書にも書かれていないがエトワールでは、数千年前に世界大戦が起きたそうだ。そして、大戦の発端になったのはセイス……。


 アルバーニ様に聞かされた話はこうだった。


『世界は数千年より遥か昔からウノを頂点とする厳密な階級社会だった。しかし数千年、それに反旗を翻したレジスタンスグループが現れた。それを煽動していたのが、新魔創生によりウノを超える魔力を得たセイスだった。最初は一部のセイスらによるほんの小さなうねりだったのが、シンコやクアトロにも新魔創生を扱える者が現れだすと、エトワール中を巻き込んだ大きな争いに発展し人類は滅亡の危機に瀕した。この収束に、各属性のウノの中でも随一の魔力を誇る六名が集まってデラ……次元獣の王・デッドラッシュを召喚。デラの援護によりレジスタンスグループは壊滅、大戦は集結し世界は均衡を取り戻した』


 ここまででも十分な驚きだった。しかし、さらなる衝撃はその後にやって来た。


『ちなみに、デラの援護というのは次元獣の放出だ。驚くべきことに、この大戦以前に、エトワールに次元獣はいなかったんだ。現れた次元獣は、レジスタンスグループの拠点をことごとく潰していったというが、不思議とウノ一派の被害は最小限で収まっている。要は、次元獣の出現はデラの匙加減ひとつということだ。現代だと《加護》と呼ばれているのが次元獣除けの目印だ。そして対戦終息後、デラを召喚した六名が初代の筆頭侯爵を名乗り、闇の筆頭侯爵だった男が教祖を名乗り聖魔法教会という組織を立ち上げた。この初代教祖によってレジスタンスグループに組した者は子孫まで根絶やし。教会によって新魔創生は禁忌とされ、その痕跡も全て消し去られた。いつしか人々から新魔創生の記憶はなくなった』


 現世の日本で見た映画や物語の世界の出来事のようだと思った。しかしこれは、この世界の現実だ。


「……なぜ、次元獣の王は人間世界に関与した?」


 宙に向け小さく零した呟きに、答えはない。


 デラは両親の仇であり、絶対悪。少なくとも、俺はこれまでずっとそう思ってきた。


 しかし人間世界に関与したこと、他にも大戦終結後も次元獣を送り続けること、謎は尽きず、その思惑が見えない。


 そもそも、デラは今回の召喚に応えるのだろうか。六つの器が揃ったというのは、おそらく再びの召喚を意味している。ただし、わざわざ召喚を試みることからも分かる通り、通常教会に……いや、人間世界にデラはいない。デラは召喚によってのみ、人間世界に姿を現すのだ。


 普通に考えれば、器に祝福を与え覚醒を促しているのがデラなのだから、召喚はデラの意思にも思えるが……。だが、次元獣の王がそうも簡単に人間の思惑通りに動くものだろうか。


 果たしてデラは本当に姿を現わすのか、すべてはデラの心ひとつ――。


 俺は身を起こすと、チナを起こさぬよう足音を忍ばせて窓に向かった。カーテンを薄く開けて外を見れば、東の空が薄っすらと白み始めていた。


 どうやら一睡もせぬうちに、夜明けを迎えてしまったらしい。


 ふむ。考えたところで、こればかりは堂々巡りだ。


「……だが、デラの思惑がどこにあろうと関係ない。己に都合のいいウノ至上の楽園を維持せんがため新魔創生を闇に葬り、俺の両親を殺した教会組織を倒す。そしてウノ至上の階級社会を打破してやる――!」


 目に眩いほどの光を放ち、地平線からゆっくりと顔を出す太陽を眺めながら、固く決意を誓う。


 窓の前を離れるとマントを掴み上げて客間を後にし、朝日に誘われるように中庭に向かった。


 ところが廊下を渡り、中庭へと続く扉に手をかけようとしたところで、玄関の方から聞こえてくる声に気付いた。


 ……なんだ? こんな早朝から他家を訪れるとは非常識な訪問者もあったものだな。


 なんとなく気になって、中庭に向かわず声がする玄関へ足を向けた。


「だーかーらぁ。セイがここに来てるのは分かってるのよ。それからね、あたしたちとセイは仲間なの。なーかーま。仲間が来てるってひと言伝えてくれればいいのよ」


 なっ!? この声は――! 玄関が近くなり、鮮明になってきた声を耳にして、背筋が凍りそうになった。


「セイ様から、他にお仲間がいらっしゃるという話は伺っておりません。お知らせするにしても、セイ様はまだお休みになれて――」


「ちょっとオッサン! グダグダ言ってないで、ちょちょっと呼んできてくれればいいの。ね?」


 なぜ、こいつらがここにいる!? 見知った四つの顔を目にした瞬間、クラクラと眩暈を覚え卒倒しそうになった。しかし、応対するベルゼルンにこれ以上手間を取らせてはならないと、すぐに気を持ち直して面々の前に進み出る。


「あーっ!! セイじゃないの!」


「ねぇねぇ、セイからもこのオッサンにあたしたちが『仲間だ』って言ってやってよ!? マジで全然話になんなかったんだから~」


 静かに俺を見つめるベルゼルンは、声にこそ出さなかったが「え? 本当に仲間なのか?」という眼差しが突き刺さるようだった。


「今も昔も、お前たちと仲間だった記憶はないがな。お前たちにとっても、当時の俺はせいぜい飯炊きか雑用係だったろうに」


 嬉々として歩み寄る四人に、氷点下の声音で告げれば、四人は揃ってビクンと肩を跳ねさせた。


「や、やだ!? そんなことないってば!」


「そうよ! 飯炊きと雑用の得意な仲間よ!!」


 女たちは裏返った声で、咄嗟に詭弁を口にする。良くも悪くも、強かで逞しいところは当時から寸分も変わっていない。


 勝手に特大のため息が零れた。


「……それで? お前たち、なにをしに来た?」


 俺がしたこの質問に、ここまで姦しくまくし立てていた女性ふたりに代わって、ずんぐりとひょろりのふたりが進み出た。


「た、頼みがあってきたんだ」


「リーダーを捨ててきたから、オイラたちをセイのパーティに入れておくれよ!」


 耳にした瞬間、鈍器で後頭部を一撃されたような衝撃に打ちのめされる。


 どの口がそれを言うか――! しかも、アレックを捨ててきた??


 ぐわんぐわんと目の前の景色が撓み、足が床を踏む感覚を失いそうになった。


「もちろん今度は、セイひとりに飯炊きを押し付けたりしないよ!」


「ああ、オイラたちみんなで当番にするからさ!」


 ずんぐりとひょろりのふたりは、勢い込んでさらに頓珍漢な発言を重ねる。


「……お前たち、勘弁してくれ」


 あのアレックと長年パーティを組んでいるだけあり、こいつらも頭のネジが相当に緩んでいる。


「とにかく、俺はお前たちとパーティは組まん。この屋敷にお前たちを上げるつもりもない。だからさっさとアレックを拾いに戻れ!」


 なんとか眩暈をやり過ごすと、敷地の外に続く坂道を示しながらきっぱりと告げる。


「あ」


 果たして、この「あ」は誰が発した声であったのか……。あるいは、全員が同時に口にしたのかもしれない。


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