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第45話



 アルバーニ様の邸宅は、城下街ブレイナスが一望できるブラスト領南の高台に悠然と聳え立つ。


「セイさん、アルバーニ様との出会いや、ふたりの関係については前に聞かせてもらったけれど、アルバーニ様ご本人はどんな方なの?」


 高台に続く緩やかな坂道を上りながら、俺の馬に横座りで同乗しているアルテミアが尋ねてきた。


 以前にも触れた通り、筆頭侯爵の地位は世襲ではないが、ブラスト領主といえば代々火属性の有能なウノを輩出する名門。それゆえ、歴代のブラスト領主にはアルバーニ様就任以前にも数名、火の筆頭侯爵の名を冠した者があった。


 そんな名家の出身で、かつ、自身も火の筆頭侯爵でありながら、アルバーニ様という人は不思議なくらい特権意識のない、平かな人柄だった。


「気っ風のいい、豪胆な女性だ。そんな彼女の魅力に引き寄せられるように、周りにも自然と魅力ある人が多く集まってくる。……ああ、心配せずとも君たちともきっと気が合う。いつだって彼女は、誰とでもすぐに打ち解けてしまうんだ」


「そうですか」


 アルテミアは自分から尋ねてきたわりには、あっさりした答えを返した。


 ふと横を見れば、チナがセリシアと一緒の馬上で頬に風を受けて微笑んでいた。


 ギルドで泣きべそをかいていたチナは、あの後俺が抱き上げて慰めてやっていたら、いくらもせずに泣き止んだ。しゃくりあげながら告げられた『今晩は、わたしと一緒のお部屋で寝てくれる? アルバーニ様のお部屋に行ったりしちゃいやよ?』の台詞には内心でかなり驚いたが、俺が是と答え、私的にアルバーニ様の私室を訪ねるような仲ではないことを伝えたらコロッと機嫌を直した。


 そういえば、あの時セリシアとアルテミアのふたりが、揃って安堵の表情を浮かべていたのだが、あれはなんだったのだろう。不可解ではあるが、とにかくチナが泣き止んでくれたのは助かった。


「……セイさん」


「ん?」


 低く呼びかけられて、再び視線をチナからアルテミアに向ける。


「私はこれまで塔という限られた世界の中で生きてきたわ。だから世間知らずで、圧倒的に人との交流は不得手よ。だけど、これからは自分の足で広い世界へ出て、この目に多くの景色を映し、たくさんの経験を積んでいく。そしてアルバーニ様のようにとはいかなくても、もっともっと自分を磨いて、いつかセイさんにほんの少しでも認めてもらえるように頑張るわ」


 アルテミアから告げられた突然の決意表明に戸惑いつつ、俺は緊張で張り詰めた彼女の肩をポンポンッと叩く。


「なに、それならば気負う必要はまるでない。俺はとっくにアルテミアを認めている。いや、認めるなどという台詞では生温いな。ウェール領では、俺が頼んだ重力制御の無茶ぶりを即座に受け入れて実践してくれた君の勇気と度胸に感服した。アルバーニ様と比較する必要なんてない、君は十分に魅力的だ」


「セイさん……」


 俺を見上げるアルテミアの瞳が僅かに潤み、頬が紅潮して見えたのは、果たして俺の気のせいなのか……。


 そうこうしているうちに高台を上りきり、俺たちはアルバーニ様の邸宅の玄関前に立った。


「セイ! 待っていたぞ!!」


 俺がノッカーを叩くと、待ち構えていた素早さで、彼の方が燃え立つような赤い髪を靡かせながら中から扉を引き開けた。


 パッと目を引く艶やかな赤毛とアーモンドの形のくっきりとした二重の奥の太陽みたいに眩しい金色の瞳。秀でた額に鼻筋がスッと通り、キュッと口角の上がった形のいい唇。


 一年ぶりに見えたアルバーニ様は、咲き誇る大輪の花のように輝き、息をのむほどに美しかった。


「アルバーニ様、ご無沙汰しております。御自らお出迎えいただき、恐悦至極に存じます」


「よいよい、堅苦しい挨拶はなしだ。それよりもお主、少し見ぬ間に男を上げたのではないか」


「おやめください。また、そのように俺を揶揄って」


「なに、思ったことをそのまま申したまで。揶揄ってなどおらんわ」


 アルバーニ様は形のいい唇から白い歯を覗かせて、カラカラと声を立てて笑う。


「して、此度はずいぶんと可愛らしい連れが一緒ではないか。私はアルバーニ、ブラスト領主で、今代の火の筆頭侯爵の名を賜っておる。其方らの名を教えてくれ」


 ひとしきり笑うと、アルバーニ様は後ろに立つチナたちに視線を向けて、自ら名乗りを口にした。


「わたしはチナツよ」


「セリシアと申します」


「アルテミアですわ」


 アルバーニは三人と順に握手を交わす。


「この地にも噂話は届いている。グルンガ地方教会の聖女を越える治癒の魔力を発揮する真の聖女が現れたことも、ウェール領に突如現れた四体の次元獣を空から赤子の手を捻るように倒したという其方らの活躍も。それらを耳にして、セイに新魔創生を体得した仲間が現れたのだとすぐに分かった。そしてぜひ、会ってみたいと思っていた!」


 アルバーニ様は、喜色に声を弾ませる。それにつられるように、硬かった三人の表情も解れていくのが見て取れた。


「チナツ、セリシア、アルテミア、今日は会えて嬉しく思う! 奥で各々のこと、旅のことやセイのことなど詳しく聞かせてくれ」


「アルバーニ様! お兄ちゃんのことだけは、交換こよ!」


「なに?」


 チナの言葉にアルバーニ様のみならず、俺の脳内にも疑問符が浮かぶ。


「わたしたちも教えるから、代わりにアルバーニ様も昔のお兄ちゃんのことを教えてね!」


「ほう! 情報交換ということか、それは面白い! よし、そうと決まれば、奥の応接間に茶や菓子を用意してある。そちらでじっくり話そうじゃないか」


「うんっ!」


 ……なんと、チナとアルバーニ様が手を取り合って行ってしまった。


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