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第43話


 ひと晩野宿し、翌夕に俺たちはアルバーニ様が治めるブラスト領に入った。


「よし、まずは城下街ブレイナスのギルドで次元獣の換金だな」


「なんだかんだで途中、全然ギルドに寄れなかったのよね。結局、今って何体いるんだっけ?」


 チナがあげた疑問の声に、俺自身も即座に答えることができず、脳内で数えていく。ひい、ふう、みい……。


「八体だな」


「わっ! 一度にこれだけ持ち込まれたら、ギルドのスタッフも驚いちゃうわね」


 実は、俺が冒険者登録をしたここブレイナスのギルドには、よく彼……ギルドマスターが入り浸っているのだ。なんとなくだが、鉢合わせするのではないかと、そんな予感があった。


「……まぁ、そうだな」


 確証はないので、チナには曖昧に答えた。


 そしてこの会話から三十分後、俺たちはギルドに到着した。馬を繋ぎ、正面入口の扉を引き開ける。


 次の瞬間、気が遠くなりかけた。


 ……勘弁してくれ!! 何故、ここにコイツがいるんだ!?


 この男との鉢合わせまでは予感していなかった俺は、思わず頭を抱えた。


「おい、アルバーニ様はどこのどいつに紋状を授けたんだ!? 本当は知っているんだろう!?」


「存じません」


 カウンター前を陣取ってまくし立てるアレックのうしろ姿と声に、横にいたチナもすぐにピンときたようで、嫌そうに眉間にクッキリと皺を寄せて俺を見上げた。


「なに、俺に秘す必要などない。……フッフッフッ! なにを隠そう俺は風の筆頭侯爵が子息、アレック・ヴェルビント様だ!!」


「どなただろうと存じ上げないものはお伝えできません」


「おいおい、ちゃんと聞こえなかったのか? ならばもう一度聞かせてやろう! 俺は風の筆頭侯爵が子息、アレック・ヴェルビント様だーっ!!」


 俺は常々思っているのだが、この白けた空気に気付こうともせず、高笑いを続ける奴のメンタルは生半可なものではない。


「ねー。あの人、抜かしちゃダメ?」


「え、ええっと。こういうのは一応順番ですから、彼がカウンターから退くのを待ちましょうか」


 衝撃に固まり反応が遅れた俺に代わって、セリシアが答えた。


「お前みてえな下っ端じゃ埒が明かねえんだよ! もっと上のスタッフと代われ!!」


 そうこうしているうちに、奴がお決まりの台詞を吐いた。……またこれか。どうやら奴は『上のスタッフと代われ』以外の台詞を持たないらしい。


 ちなみに、スタッフとのやり取りにヒートアップするアレックは、後ろに立つ俺たちの存在にいまだ気付いていない。


 その時、奥のスタッフルームの扉を開け、カウンター内に入ってくる人影があった。


「やれやれ、アレック。またお前か」


 ん!? この声は――!


「って、オッサンかよ。あんたとは、本当に色んなギルドでよく会うな。下っ端は方々に飛ばされて大変だなあ」


 アレックはギルドの長であるギルドマスターを相手に、相変わらず頓珍漢な軽口を叩いていた。


「それよりオッサン、今日は聞きたいことがあってきてるんだ。上のスタッフを呼んできてくれないか?」


「お前さんの言い分は、奥で聞いていた。アルバーニ様が誰に紋状を授けようが、お前には関係のないことだ。たとえ、お前さんが親父さんの威光を盾に迫ったところで、結果は同じだ。分かったら他の客の邪魔だ、早々に出て行け」


「っ、このっ!」


 ピシャリと切り捨てられたアレックは、肩を戦慄かせ、拳を握りしめて口を開いた。悲しいかな、奴がこの後に続ける台詞の想像がついた。


「あぁ、ちなみに俺に『上のスタッフ』はいない。俺がギルドマスターだからな」


 ところが、アレックがお決まりの台詞を吐くよりも一瞬早く、ギルドマスターがサラリと己の身分を明かした。


「なっ、なっ、なっ」


 するとアレックは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で「なっ」の一語を連発しながら、岩のように固まった。


「え? ギルドマスターとか、マジやばくね?」


「うん! ちょっとリーダー、これヤバイってば! 固まってないで早く謝って!?」


 パーティの女性メンバーのひとりに肘でどつかれたアレックは、その衝撃でグラリと傾ぐ。


「わわわ!?」


 脇にいたずんぐりが慌てて支えたアレックは、口から泡を噴いて白目を剥いていた。


 長年の顔見知り、しかも、ずっと下っ端のスタッフと思い込んでいた『オッサン』が、実はギルドの最高権力者だったのだ。これを知ったアレックの衝撃は、なんとなく察することができた。だからといって、同情の余地など微塵もないが。


「あ、あの。オイラたちのリーダーがお騒がせしてすみませんでした。今、連れて出ますんで……」


 ひょろりがアレックに代わって、ギルドマスターに向かってヘコヘコと頭を下げて謝罪する。その横をふたりの女性メンバーとアレックを担いだずんぐりが、いいそいそと行こうとして――。


「え!? セイ!」


 四人が俺に気づき、揃って足を止めた。


「待たせてすまなかったな、セイ。この間のお嬢ちゃん以外にも、今日は綺麗どころがいっぱいじゃないか。こっちで用件を聞こうじゃないか」


「やっぱりいたか、なんとなくまた会うような気がしていた」


「はははっ、新魔力に目覚めると勘までよくなるとは知らなかったな」


「いや、別に新魔力と勘は関係ない」


 俺は四人には目もくれず、カウンターから手招きするギルドマスターの元へと歩み寄る。初対面のセリシアとアルテミアがギルドマスターに丁寧な挨拶をすれば、彼はいい年こいて頬をすっかり緩ませて応じた。


「おじさん、また会ったわね! 今日もいっぱい次元獣を売りにきたよ」


 ギルドマスターと面識のあるチナも、臆せずに話しかける。


「おう、お嬢ちゃんか。今日はあんたら美人姉妹の顔を立ててたっぷりと色を付けてやらにゃならねえな」


「ふふふ。そんなこと言って大丈夫? ギルドの金庫がスッカラカンになっちゃったら申し訳ないから、正規の金額査定で十分よ!」


「はははっ! その口ぶりだと、よほどの大物を持ち込んできたとみえるな」


「うん! 大物がいっぱいよ! ここに入りきらないから、今回も外にいるわよ!」


 チナはニコニコと胸を張り、誇らしげに言う。


「どれ。さっそく見せてもらおう」


「こっちよ!」


 ギルドマスターはカウンターを出ると、外に向かってパタパタと走り出すチナに続いた。


「あらあら。チナツちゃん、待ってちょうだい」


 それをセリシアとアルテミアが足早に追う。


 俺も四人の後ろに続き、ギルドのフロアを突っ切る。そうして扉から出ようとしたまさにその瞬間――。


「ぁああああっ! テメェ、セイスのセイじゃねえか!? この間は舐めた真似しやがって! タダじゃおかねえぞ!?」


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