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第42話


「なんで!? わたしとお兄ちゃん、セリシアお姉ちゃんとアルテミアお姉ちゃん、でいいじゃない!」


 ウェール領から街道に出て早々、俺たちは小さな問題にぶち当たっていた。


「いいや。大人ふたりで相乗りはセリシアが大変だ。だから、俺がアルテミアと相乗りする。チナはセリシアに乗せてもらうんだ」


 当然と言えば当然なのだが、長く塔で暮らしていたアルテミアは、馬に乗れなかったのだ。


「うぅ。お兄ちゃんがそこまで言うなら……」


 チナはしぶしぶ了承し、先に馬に乗っていたセリシアから差し伸べられた手を取った。


「ありがとう、セリシアお姉ちゃん」


「どういたしまして」


 馬上のセリシアは、目深に被ったフードの下から微笑んだ。


 セリシアは、今はウェール領主からもらい受けたフード付きのローブを目深に被っていた。これならば、道中で不用意に注目を集めずに済みそうだった。


「チナツちゃん。早くひとりで乗れるようするから、今日だけごめんなさい」


「ううん。アルテミアお姉ちゃんが謝るのはおかしいよ。わたしこそ、我儘言ってごめんなさい」


 俺の手を借りて馬に乗ったアルテミアがすまなそうに告げれば、チナはしおらしく謝罪した。子供らしく率直に思いを口にしてしまうふしはあるが、素直に「ごめんなさい」が言えるのはチナの美徳だ。


 俺は馬上で俯くチナの頭を慰めるようにポフポフと撫で、自身もヒラリと乗り上がる。


 そうして俺たちは、ブラスト領へと馬首を定めた。


「あら? オルベルに行くならば、東の街道に出るのが速いのではない?」


 俺の前に横座りしているアルテミアが、怪訝そうに口にした。さすが、塔から見下ろす360度パノラマの景色を熟知しているだけあり、彼女は地理に詳しい。


 アルテミアの言うように、オルベルに向かうならば、真っ直ぐ東に進むのが最短だ。しかし俺たちは少しだけ遠回りをして、進路を東南に取っていた。


「お兄ちゃんは寄りたいところがあるんだって!」


「寄りたいところ?」


「実はお兄ちゃんって、火の筆頭侯爵様の紋状を持ってるの」


「そうなのですか!? ということは、アルバーニ様が治めるブラスト領に向かっているわけですね。けれど、筆頭侯爵様が紋状を託すのは非常に稀なこと。しかもセイさんはセイスです。過去にセイスが……いえ、ウノ以外の者が紋状を授かった例を私は知りません。セイさんは火の筆頭侯爵・アルバーニ様とどのような関係でらっしゃるのですか?」


 高位貴族の生まれにあって、チナやセリシアよりもそういった事情に精通しているのだろう。アルテミアはチナから聞かされた事実に、衝撃と興奮を隠しきれない様子で、勢い込んで尋ねてきた。


「アルバーニ様と出会ったのは、俺が次元操作を体得し、故郷の村を出て間もない頃だった。その頃の俺は能力には恵まれていたが、セイスを理由に冒険者登録はおろか次元獣の出現情報すら与えてもらえないまま、数軒のギルドで軒並み門前払いを食らっていた。そんな中でたまたま立ち寄ったのがアルバーニ様が治めるブラスト領だった」


 俺は過去を懐かしむように、目を細くして宙を仰ぎ見た。そうして当時の状況を思い出しながら、ゆっくりと口を開いた。


「……あの時、ブラスト領の城下街ブレイナスは大型次元獣に襲われていた。大きな領ゆえ、かなりの規模の守備隊が配備されていたが、大型かつ強力な次元獣を相手に苦戦していた」


「それをお兄ちゃんがやっつけたのね!」


 並走するチナが、嬉々とした声をあげた。


「結果的にはそうなるな。アルバーニ様は俺を館に招き入れ、セイスの俺に信頼の証である紋状を与えてくださった。……アルテミアが言っていたように、筆頭侯爵がセイスに紋状を与えることは通常ならばあり得ない。しかし、アルバーニ様は現状の階級社会に疑問を持ち、その是正に水面下で尽力されていたんだ。だから、セイスの俺がウノ以上の力を発現させたことも喜んでくださった」


「冒険者登録もアルバーニ様のお力添えで叶ったのですね?」


「その通りだ。おそらくアルバーニ様の後見がなければ、セイスの冒険者登録など永遠に叶わなかっただろう。しかし、セイスを理由に蔑まれ、辛酸を舐め続けてきた俺にとって、なにより感動したのはアルバーニ様の分け隔てのない心だった。魔力の属性数に関わらず対等に接してくださるアルバーニ様を支え、どこまでも付いていきたいと思った」


 彼の方について語る時、どうしても俺の言葉には熱が篭もってしまう。今の俺があるのは、アルバーニ様のおかげと言っても過言ではない。本当に、どんなに感謝してもしきれなかった。


「セイさんがそこまで心酔なさるのです。アルバーニ様というのは、素晴らしい方なのですね」


「ああ、素晴らしい人格者だ。その上、アルバーニ様には先見の明もあった。実は、俺が旅をしながら情報を集めていたのは、両親の敵討ちを果たすという目的だけでなく、アルバーニ様の思惑もあったんだ。アルバーニ様は当時から次元獣の現れ方に疑問を持っていて、俺は秘密裏に次元獣とその出現に関する調査依頼を受けていた」


「……なるほど、よく分かりました。セイさんがこれまでの旅で集めた情報を伝えに行くのですね」


「そうだ。もちろん俺自身もアルバーニ様がこの一年で集めた教会の情報をもらう。そして出来得る対策を取ったら、敵の本拠地、オルベルに向かう」


 ここで一旦会話は終わり、カッカッという馬脚の音と頬を撫でていく風の音を心地よく聞きながら平坦に続く道を駆った。




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