第4話
月日は移ろい、俺は十八歳になった。この三年で俺を取り巻く状況は……いや、俺自身が大きな変貌を遂げていた。
俺は"新魔創生"をなし得、この世界でただ一人の"次元操作"の使い手となっているのだから――。
「それにしても、あのじいさん『半日ありゃ着く』とはずいぶん適当じゃないか。まだ見えてすらこない」
前の村で道を聞いた老爺の顔を思い浮かべながら、ふいに悪態が口を衝いて出てしまったのは不可抗力だ。なにせ健脚の俺が、既に前の村を出て半日以上も歩き続けているのだから。
「ま、コレに免じて許してやるか」
俺は件の老爺が持たせてくれたスモモをポケットから取り出すと、ガブッと噛り付く。スモモは瑞々しい果汁を迸らせ、口いっぱいに果肉の甘さが広がった。
「おっ! うまいな」
肥沃な大地は豊かな実りをもたらす。
「これで次元獣が出なきゃ、この地はまさしく天国なんだが……ん? なんだ、ずいぶんと騒がしいな」
スモモを味わいながら足を進めていると、一キロほど先に聳える林の奥から風に乗って微かにざわめきが聞こえてくる。
続いて次元獣の出現を報せる共通警告である二連打の鐘が鳴り響く。
「次元獣が出たか……!」
次元獣は空間に穴を開け、どこからともなく現れる。時や場所を選ばず神出鬼没な上に、只人では到底太刀打ちできない強さときてる。
だから守備隊の雇えない小さな町や村は、ひとたび次元獣が現れれば抵抗する術はない。
「町はあの林の先だったか! じいさんよ、あんたの言葉もまったくのでたらめじゃなかったようだ。ただし、たったひと言『林の先』と言ってくれれば、こんなに気を揉むこともなかったんだがな」
俺は右手に持った荷物袋を肩に担ぎ直すと意気揚々と走り出した。
最短ルートを選び、木々を掻き分けながら林を突っ切って進む。物の二、三分で林を抜けて、目の前に町の全貌が現れる。
「チッ! ご丁寧に外壁で囲ってやがる!」
なんと目の前の町は、外敵防止のため高さにして五メートルはあろうかという外壁で周囲をぐるりと囲っていた。しかも、こちら側は町の裏側にあたるようで、門らしきものは見あたらない。
次元獣が出現した今は、外壁を回り込んで門まで向かう間が惜しかった。俺は迷わず次元操作によって力を得て、外壁を飛び越えて町中に着地した。
外壁の中に広がる町は直径一キロ程度で、町の規模としては中規模。円形の土地に田畑や家畜舎を有し、五十ほどの世帯が軒を連ねている。様相はまずまず豊かだ。
……次元獣はどこにいる!?
警告の鐘を受け、町民らは既に家屋に身を潜めており往来に人影はない。ぐるりと視線を巡らせると、俺がやって来た林とは対角の正門側の上空に体長三メートルほどの四足歩行タイプの次元獣の姿を認めた。
次元獣のサイズとしては小型だが、高威力の瘴気の波動を吐くやつだ。しかも、真っ黒い恐竜みたいな体に黒紫に光りを弾く三角柱の形に尖った水晶を複数生やしたいかつい見た目が、実際の威力以上の威圧感を与えていた。
地面から一段高くなっている石組みに乗り上がって目を凝らすと、次元獣の下で銀の鎧に身を包み剣と楯を携えた四人の男たちが、次元獣の町への侵入を阻止すべく密集陣形をとって防戦に徹しているのが見えた。視認した胸のエンブレムから、男たちが町に雇われた守備隊の隊員としれる。ちなみに、守備隊員というのは雇われてその土地に固着している冒険者のことを指す。
ここは大きな町ではないが、そこそこの装備の守備隊を雇っているようだった。
……ほう。あの見た目に怯まず、果敢に挑んでいる。なかなか気骨のある男たちだ。
「これ以上の進行を許すな! 撃て、撃てーー!!」
守備隊のリーダー格と思しき男が声を張り土属性の攻撃を繰り出したのを皮切りに、隊員らが火、水、風の攻撃を次々と打ち込んでいくが、次元獣にダメージは見られない。
ちなみに、次元獣の外殻は分厚くて固いから剣や弓といった武器での攻撃では歯が立たない。必然的に魔力での攻撃が主体となり、隊員らも魔力攻撃で応戦しているが……。
「ふむ。頑張ってはいるようだが、足止めが精いっぱいか」
状況を冷静に判断した俺は、四人の隊員らが防戦を展開する正門の方向へトンッと踏み出した。




