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第39話


 一瞬の静寂の後、街が震えるほどの拍手喝采が沸き起こる。次元獣の突然の襲来になす術なく兢々と屋内に身をひそめていた領民らが、次々と外へ飛び出してくる。その全員が上空の俺たちを見上げ、涙ながらに感謝を口にしていた。


「……あ! あちらに怪我をした人たちが! セイさん、あちらに向かっていただけますか!?」


「よし!」


 セリシアが示す先に、家屋の倒壊に巻き込まれたのだろう負傷者らの姿を認め、一気に加速する。


「アルテミア、ゆっくりと――」


「いえ、このまま飛んでいてください。上空から治療します!」


 十人ほどの負傷者が集められた一角に辿り着き、アルテミアに着地のイメージを伝えようとしたら、セリシアがそれに待ったをかけた。


 セリシアは俺の腰に回していた右腕を外し、眼下に翳す。


 次の瞬間、セリシアの右手のひらから生じた煌く光の粒子が、シャワーのように負傷者に降り注ぐ。光の粒子は負傷者を優しく包み込み、ふわっと発光を強くする。


 そうして徐々に発光が弱くなり、完全に消えた時、負傷者全員が見事な回復を果たしていた。血を流し痛みに呻いていた人も、瓦礫に肺を押し潰されて呼吸苦に喘いでいた人も、傷が癒えて穏やかな呼吸を繰り返している。


 広域に発動された再生快癒の魔力――。


 奇跡を目の当たりにして、俺も周囲で見守っていた人々も、全員がしばし言葉を失くした。


「セ、セイさん! 私、もう限界です!」


 その時、悲痛なアルテミアの声が静寂を割る。


「ずっと意識して目を瞑っていたら、瞼がピクピクして……っ! 目を開けてもいいですか!?」


「なっ!? 少し待て!!」


「だめ、もう限界っ!」


 俺が即座に負傷者が集う一帯から場所を移った直後、限界に達したアルテミアがパッチリと目を開き、一気に重力がかかる。


「っ!! チナ、セリシア、俺から離れろ!! 縺れるように落ちては、逆に危険だ!!」


 緩衝材の代わりにするべく、反射的に地面に向かって次元操作を発動する。同時に、アルテミアを抱いていた手を放し、しがみ付こうとするセリシアとチナにも離れるように指示を出す。この状況下ゆえ難しいかとも思ったが、セリシアとチナは俺が指示した通り、咄嗟に手を放した。


 そんな落下の最中、俺の視界の端をあるモノが掠めた。


 ん? 奴は……!


「「「きゃああっ!!」」」


 俺たちは次元魔力にバフン、バフンッと幾度か弾みながら、最終的に尻から地面に着地した。


「っ、助かった!」


「ちょこっとお尻ぶつけたぁ」


「ええ。ですが、あの高さから落ちて無事だったのですから、十分おつりがきますわ」


 次元魔力のこんな使い方は初めてだったが、目論見通り落下の衝撃を和らげるのに十分な貢献をしてくれたらしい。三人の無事を確認した俺は、安堵の胸を撫で下ろした。


 すかしホッとひと息ついた直後には、落下の最中に見た"ネズミ"を捕まえるべく動き出していた。


「三人とも、しばらくここにいてくれ!」


 俺は三人に言い残し、ウェール領を背に一直線に駆けていくネズミの後を追った。






 次元操作を用いれば、ネズミの捕獲など造作もないこと。


 俺は次元障壁で身動きを封じたネズミと対峙していた。


「ここまでずっと俺たちを付け回していたな。ずっと気配は感じていた。誰の指示だ?」


「そんなの答えるわけが……っ! 言う、言うからやめてくれ!」


 次元障壁でギリギリと絞め上げていくと、ネズミ――間者の男は早々と音を上げた。


「お前たち一行の同行は、逐一聖魔法教会のマリウス大魔導士に上げていた!」


 息も切れ切れに、男が白状する。


 マリウス大魔導士といえば、教会のナンバーツー。教会の長たる教祖の最側近だ。となれば、俺たちの監視は教祖からの指示と考えてまず間違いない。


「お前は水属性のウノだな? たしか、マリウス大魔導士も水属性……連絡は水鏡を介して行っているのか?」


「そうだ」


 水鏡とはその呼び名の通り、水面を鏡に見立てたもので、そこに映る映像を相手の水鏡と共有することができる。水属性のウノの中でも能力に優れた者同士でしか使えない技だが、タイムラグなしに情報共有が可能だった。


「……ウェール領に俺たちが滞在していることは既に伝えてあったのか?」


「あぁ。お前たちが滞在を決めた直後に報せた」


「マリウス大魔導士は俺たちがいるこの地に次元獣を差し向けたのか? 加護があるにもかかわらず、俺たちを倒さんがために!?」


 俺が怒りで戦慄く声でしたこの質問に、男は心底分からないといった様子で眉間に皺を寄せる。


「な、なんだって? 次元獣を差し向ける? 加護? ……いったい、なにを言っている?」


 男の口振りに嘘はなさそうに見えた。どうやらこの男は能力にこそ優れているが、マリウス大魔導士や教会の内部情報にはあまり精通していないのかもしれない。


「お前は教会所属の魔導士ではないのか?」


「もちろん教会所属の魔導士だ。元は冒険者をしていたが、水属性のウノ中でも高い能力を買われて先月引き抜かれた」


 無意識だろうが、これを告げる男は誇らしげだった。


 ……なるほど。教会に所属して日も浅いため多くの情報を持たず、指示通り従順に動くこの男は、間者にはうってつけ。


 そしてこの男は、マリウス大魔導士にとって所詮は捨て駒。マリウス大魔導士は俺に見つかって殺されようが、どうでもいい存在をあえて選んだのだろう。


「……行け」


「は?」


 俺が次元障壁を解いて告げれば、男は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして見返した。


「ネズミの尻尾を切ったところで意味はない」


 続く言葉で俺の真意に思い至った男はクシャリと顔を歪め、わなわなと肩を震わせた。


「セイスのくせに、馬鹿にし腐りやがって……」


「ほぅ、命が惜しくないのか。見上げた忠誠心だ」


 俺は次元操作を発動すべく、再び男に向かって手をかざす。


「っ、チクショウ! チクショーッ!!」


 次の瞬間、男は捨て台詞を叫びながら一目散に駆け出した。


 教会に引き抜かれたことは、男にとって誉れだったのだろう。しかし、教会にはもう間者の役目を失敗した男の居場所はない。


 ……見誤るな。目の前の栄誉は所詮、空中の楼閣。


 教会はお前が命を懸けるに足る崇高な組織ではない。同様に、お前の能力を真に活かせる場は教会ではなく他にある。


「弄されるなよ。正しい道は、心眼でもって見極めろ」


 小さくなる背中に向かって零した呟きは、きっと男の耳には届いていないだろう。


 一見しただけの男ではあったが、前途ある優れた能力者でもある男の未来を祈らずにはいられなかった。



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