第22話
「っ、よかった……! よかったよ!」
泣きじゃくって震える細い背中をトントンと抱きしめながら、シンコのチナ、そしてセリシア、このふたりとの巡り合わせに天の意志を感じずにはいられなかった。
……いや、天というよりは、両親の悲願といってもいいかもしれん。
新魔創生に初めに目を付けたのは、俺の両親だった。そうして彼らは、それを体得しかけていた最中、事故によってこの世を去ったのだ。
ただの偶然なわけがない、絶対に何者かの作意がある。両親の試みを頓挫させようとする何某かの力が働いたのだ。
では、その力とはなにか――。教会、あるいは、そこに組する勢力か……。どちらにせよ、敵は手強い。奴らに打ち勝つために、さらに情報を集め、対策を練らなければ。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。私、とんでもないことを……。一歩間違えば、お兄ちゃんに大やけどを負わせていた」
「いいや、お前が謝ることはない。むしろ、俺は感心しているんだ」
「え?」
チナが涙に濡れた目を向ける。
「お前の能力は俺の想像を遥かに超えている。この調子なら、きっとお前はじきに成し遂げてしまうだろう」
「……私、頑張る! 絶対に素材を変えてみせるから!」
「頼もしいな。ただし、ひとつだけ約束してくれ。材質変化の練習はひとりでは行わず、必ず俺に声をかけてくれ。そうすれば、仮に魔力暴走が起こっても俺が抑える」
「分かった、約束する!」
チナは力強く頷いて答え、涙の残る目尻を手の甲で拭ってスックと立ち上がった。
「それじゃあお兄ちゃん、さっそく練習するから見てて!」
「ん? だが、肝心の小型拳銃が砂になってしまったからな」
「大丈夫よ! ……えいっ」
俺が、元は小型拳銃だった足元の砂山を見下ろして零せば、チナが即座に砂山に向かって元気のいい掛け声をあげた。
すると、見る間に小山は再び小型拳銃の形をとった。
これには、さすがの俺も声を失くした。
「はい! できた……って、お兄ちゃん? どうかしたの?」
驚きに目を丸くする俺に、チナが小首を傾げる。
「チナ、お前は凄いな。こんな精緻な仕組みを一瞬で作り上げてしまうのか」
「一度作った物ならすぐよ。もちろん初めて作る時は、ああでもないこうでもないってやり直すけどね」
「そうか。……いや、驚いた」
「えー? こんなの普通よ。へんなお兄ちゃん」
触れもせず、緻密な構造の拳銃を一瞬にして再現してしまうチナの能力。決して『普通』ではあり得ないが、チナはなんでもないことのようにカラカラと笑った。
そうして、ここから俺とチナは材質変化の練習を開始した。
チナは幾度か魔力を暴走させたが、俺が難なく全てを止めた。事前の予想と気構えさえできていれば、爆発や炎上にももう驚くことはなかった。
とはいえ、新魔創生による錬金術は、やはり一朝一夕でなせるものではない。土が色を変えたように見えても、なかなかその先に進んでいかない。
夕食に呼ばれたので、この日の練習は終わりになった。
「全然だめね……」
「なに、落ち込むことはない。簡単にこれがなせてしまっては、今頃この世は金銀財宝で溢れていただろう。それくらい、チナが挑んでいるのは難しいことなんだ。焦らず地道にいこう」
「うん、分かった」
肩を落とすチナを励ましながら食堂に向かい、待ち構えていた教会長と聖女イライザと夕食を共にした。
ふたりはしきりに俺とアルバーニ様の関係、そして紋状を授かるに至った経緯を聞きたがった。他にも俺の仕事や交友関係、果ては金回りについてまで尋ねてくる始末だった。
当然、俺がまともに答えてやる義理はない。答えられるところだけ答え、後はのらりくらりと適当に躱しながら、俺からも教会についての質問を重ねていく。特にイライザは単純な性格をしているようで、俺が能力や美貌を褒めてやれば、気をよくして饒舌に語ってくれた。
「いやいや、聖女様は実に得難いお方だ」
「まぁ。ほほほ」
「たしかに光属性の魔力は癒しと回復の効果に優れている。とはいえ、治癒まで叶えてしまうのだから、あなたは奇跡の人だ。……だが、もしかするとその奇跡は生まれつきではなく、体得したのではありませんか?」
「なぜ、そのように思われるのですか?」
俺のこの問いには、イライザが口を開くよりも先に教会長が質問で返してきた。
「なに、アルバーニ様をはじめ人脈はわりと広い方でな。俺のところには、なにかと情報が集まってきやすい。だが、俺が聖女様のことを知ったのは、北の国との戦で負傷した兵士を治療して『癒しの力を持つ聖女』と呼ばれているのを耳にしたのが最初だ。こんなに素晴らしい能力の使い手がいたら、もっと早くに俺の耳に入っているはず。それらを鑑みるに、治癒が可能となったのは最近のことかと思ったんだが。もし、違っていたらすまない」
「さすがセイ様ですわ! 国内の要人に多くお知り合いがいるのですね。それでは隠せませんわね」
俺の説明にイライザは喜色に声を弾ませて、教会長も納得した様子で頷いた。
「おっしゃるように、私が治癒の力を持ったのは最近のこと。生まれつき光属性の魔力は強かったのですが、さすがに傷を塞いだりはできませんでした。これが可能になったのは、デラ様の祝福を受け――」
「聖女様!!」
「っ!」
教会長が鋭い声をあげ、イライザの言葉をピシャリと遮る。彼女はビクリと肩を跳ねさせて、慌てた様子で口を閉ざした。
「……と、とにかく! セイ様のご指摘の通り、後から身に着けましたの」
イライザは取ってつけたように早口で答えた。
「ほう、やはりそうだったか」
「すみませんが、明日は早朝から予定が入っておりますの。そろそろ、自室に下がらせていただこうかしら」
彼女はそれ以上の会話を避けてか、間髪入れずに申し出る。
……かなり警戒している。これ以上会話を続けても、なにも聞きだすことはできないだろう。
「なに、俺たちももう下がらせてもらう。馳走になった。……チナ、行くぞ」
「うん! ご馳走様でした!」
俺は早々に席を立ち、チナを伴って食堂を後にした。




