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第21話


「セイスやシンコへの差別は根強く、就業や生活面でのハンディも否定しない。だが、それが全てではないことは、街の人たちとの交流する中で君とて承知しているはずだ。習得した調薬の技術や君自身の人柄によって、君は多くの人に慕われている。君はもっと、自分に自信を持っていい」


 セリシアは困惑した様子でパチパチと目を瞬かせ、俺を見上げていた。


「それから、俺たちはいつでも君を歓迎する。これだけ覚えておいてくれ」


「セリシアお姉ちゃん。私もね、お兄ちゃんに会うまでずっと『シンコの私なんて』って自分に自信がなかった。でも、今は『シンコの私だって』って思ってる。私も、いつだってセリシアお姉ちゃんを大歓迎よ!」


「セイさん、チナツちゃん、……ありがとう」


 セリシアは顔をクシャクシャにして、絞り出すように声にした。


 その後、セリシアは夕食の支度のため、慌ただしく厨房に向かっていった。


 聞けば、専属の料理人が別にいるのに、セリシアは毎食の下ごしらえや後片付けに駆り出されているらしかった。察するに、彼女のここでの生活は息つく暇もない忙しさだろう。


 セリシアが出ていくと、客間には俺とチナのふたりが残った。


「わっ! このベッド、とってもふかふか」


 チナは奥の寝台にボフンとダイブして、嬉しそうな声をあげた。


「あ、そうそう。この間のやつだけど……」


 そのままベッドの上をゴロゴロと転がっていたチナが、思い出したように声をあげた。


「こんな感じ?」


 手前の寝台脇で荷解きしていた俺が手を止めて振り返るのと、彼女がポシェットの中から土色の塊を取り出したのは同時だった。


 俺は荷解きもそっちのけでチナツに歩み寄った。


「ほぅ、早いな。もうでき……っ!? な、なんて完成度だ!!」


 チナツの手に握られた土色の塊……土製の武器を目にした瞬間、俺はその完成度の高さに度肝を抜かれた。


 俺が前世の知識をもとに、旅の始まりにチナツに手渡したのは、リボルバー式小型拳銃の設計図。孤児院でチナツが作ったライフルは威力や精度は申し分なかったが、強度が不足していた上、連射ができないため都度魔力を装填する必要があった。


 小型拳銃ならそれらを全てカバーできるが、反面、構造はライフルと段違いに複雑で、特に肝となる回転部分のチャンバーは精緻な魔力制御によって細部まで繊細に作り上げていく必要があった。


 それをまさか、この短期間で形にしてしまうとは……!


 当然、移動中の馬車内や宿、人目が無いところでチナがコツコツと作っていたのは知っていた。しかし、チナが製作途中の状態を見せることをよしとしなかったのだ。


 チナから受け取った小型拳銃を、表裏ひっくり返して検分していく。もちろん素材は土だから、スカンジウムなどの軽量で硬度に優れた素材と比べるべくもなく脆い。


 もし、本物のリボルバー式小型拳銃と同等の強度を備えたら完璧だが……いいや、そこまでは望むまい。


 実際にこの拳銃に装填するのは俺の魔力だ。強度を見ながら発射威力に折り合いをつけていけばいいだけのこと。


「チナ、完璧な仕上がりだ! これをここまで形にするのは大変だったろう。想像以上だ、ありがとう」


「ほんと!? よかった!」


 ワシャワシャとチナの頭を撫でながら労えば、チナは満面の笑みを浮かべた。


「作り方はもう覚えたから、もっと欲しかったり、改良したいところがあったら教えて。やってみる」


 チナがあっさりと続けた台詞に、俺は思わず舌を巻いた。


 魔力量だけで言えば、シンコのチナツはトレスにも劣る。実際、土魔力をぶつけ合うような状況では、彼女はひとたまりもないだろう。


 ところが、彼女は少ない魔力を繊細に注ぐことで、こんなにも強力な武器を生み出した。


 俺の次元操作にしてもそうだ。各々の属性でみれば極僅かな魔力、しかしそれらを掛け合わせて発現させることで何倍もの力を生じさせる。


 そう考えると、保有する魔力の大小は問題ではなく、むしろ弱者とされるシンコやセイスにこそ、具現の方法や掛け合わせの相乗効果といった意味では可能性が持てる。


「チナ、もしかするとお前ならできるかもしれん」


「任せて! 今度はもっと難しい物を作ればいいの?」


 チナは俺の言葉を先回りして、胸を張った。


「いいや。いずれは新しい創作も頼むが、今お前にやって欲しいのはそれではない」


「え?」


「これを、俺が力いっぱい魔力を注いでも耐えうる素材にしたい」


 コテンと首を傾げるチナに告げたのは、属に"錬金術"と呼ばれる技で、歴史上ペテンや詐欺の代名詞として語られることがほとんど。しかし俺は、チナの土・火・水・風・闇の五属性を掛け合わせて発生した魔力に、彼女だけが持つ優れた魔力制御を加えれば決して夢ではないと考えていた。


 コツさえ掴めば、彼女は間違いなく土を金に変えることができる。


「うーんと、それって固く丈夫にすればいいってことだよね……」


「その通りだ」


 案の定、呑み込みが早いチナは、すぐに俺の意図を理解する。そうして悩んだ様子ながらさっそく右手を前に翳すと、気合の入った掛け声と共に俺の両手に握られた小型拳銃目掛けて魔力を放った。


「えいっ!」


 次の瞬間、小型拳銃が俺の手の上でボンッという音を立てて爆発する。


「ウッ!!」


 俺は低く呻きをあげながら咄嗟に手を引く。


 小型拳銃は見る間に原形をなくし、サラサラとした砂になって落ちていき、足元の床に小さな山を作った。


「きゃああっ! お兄ちゃん大丈夫!?」


 チナは目の前で起こった出来事に取り乱し、泣きながら俺に縋りついた。


「ああ、大丈夫だ。反射的に放したから大事ない」


 この言葉に嘘はない。とはいえ魔力が注がれた際、小型拳銃は瞬間的にかなりの熱を持ったから、すぐに放さなかったら危なかった。危機一髪のタイミングで難を免れた俺は、内心で安堵の息をついた。


 一方で、今回の一件によってひとつ嬉しい発見もあった。熱して土の形状を変えようという意図でこのような発現の仕方になったのだろうが、チナが放ったのは火と土の混合魔力。言うなれば、彼女がしたのは魔力の足し算のようなもの。これを掛け算にすると新魔創生になる。


 たった一度で二属性の同時発動を成し遂げてしまうあたり、チナの素質は極めて高い。彼女が新魔創生を体得する日はきっとそう遠くない。


 幾度も失敗を重ねながら二年の月日をかけて次元操作体得した俺としては、舌を巻かずにはいられなかった。


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