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第13話


 客室に戻り、ふとチナの方を見たら、彼女の水色の髪が湿り気を残していることに気づく。


「おい、チナ。まだ髪が濡れているじゃないか」


「え?」


 タオルを掴むのと逆の手で、キョトンとした顔をしたチナを手招く。


「ほら、こっちに来い。拭いてやる」


「うんっ」


 俺はチナを椅子に座らせると、手にしたタオルでトントンと叩くように水気を残す部分を丁寧に拭いていく。


 チナはくすぐったそうに、俺のするに身を任せていた。


「チナは綺麗な髪をしているな。まるで透き通る泉のようだ」


 この世界にあって、人々の色彩は実に多種多様だ。それでも、腰まで届く長さのチナの艶やかで美しい水色の髪は目を引いた。


 もっというと、チナは幼いながらにとても整った容姿をしていた。透けるように白い肌に、パッチリとした青色の目。スッと鼻筋が通り、唇は少し薄めでとても形がいい。そこに、サラサラと流れる水色の髪が加わり、文句なしに美少女と言ってよかった。


「わたしの髪と目はママ譲りなの。パパもよく『綺麗だ』って言ってくれた」


「なるほど。チナのママは美しい人だったんだな。だが、チナだってママに負けない美人になるぞ」


「やだ。お兄ちゃんったら、そういうのは軽々しく口にしちゃいけないのよ」


「ははは、だがチナが美しいのは事実だ」


 ここで何故か、ここまで大人しく身を委ねていたチナが、スススッと前屈みになって俺から距離を取ろうとする。


 動きに呼応して、俺の手から水色の毛束がサラリと逃げていく。


「おいおい、急にどうした?」


「だって、パパがいつも言ってた。『口がうまい男には気をつけろ』って。それから、『そういう男には近寄っちゃいかん』とも」


 チナは唇を尖らせて、早口で告げる。その頬は、パッと見でもわかるくらい真っ赤に染まっていた。


「チナ、お前のパパは実にいい助言をしてくれたな。だが、俺はチナの兄貴分だからな、パパのいう『男』の括りには入らないんだ」


「それもそっか! お兄ちゃんは、お兄ちゃんだもんね」


 すんなりと納得したチナは、前方に倒していた半身を起こし、深めに座り直した。


 俺は再び、チナの髪を拭き始めた。


 ……これまでは気に留めたこともなかったが、これからの道中では、よからぬ考えを持つ悪い大人にチナがかどわかされぬよう目を光らせておかなければならないな。


 それに、美貌ばかりではない。ライフルをいとも簡単に創出したチナの魔力制御の能力も、知られては厄介だ。今後は、人前で見せるのは避けなければ。


 奇麗事ばかりでなく、旅は常に盗賊や人攫いといったリスクと隣合わせだ。最強の冒険者を自負する俺は恐れることもないが、チナには脅威だ。


 改めて認識した俺は、気を引きしめた。


「よし、これでいいだろう」


 最後に手櫛で梳き、サラサラとした滑らかな感触を確認し、チナの肩をトンッと叩いて終了を伝える。


 洗い上がりの水色の髪は、まるでそれ自体が発光しているかのような艶を放っていた。


「ありがとうお兄ちゃん!」


 チナは微笑んで礼を告げ、ピョンッと椅子を下りると自身の寝台脇のナイトテーブルに向かい、新品の櫛を取り上げて梳かしだす。


 嬉しそうに髪を整える彼女を横目に見ながら、俺は今後の道程について考えていた。


 俺は一年前から冒険者として各地を回り、次元獣を倒しながらその生態や特性について多くの情報を集めてきた。おかげで次元獣についてはかなり詳細にデータが取れてきていた。


 しかし、肝心の聖魔法教会についての情報が少なすぎた。ガイア隊長から聞かされた『加護』がいい例だった。


 俺は両親が残した日記の存在に慢心していたが、ふたりが教会に所属していたのは今から二十年近くも前のことだ。もっと言えば、下級魔導士だった両親が知り得る情報には限界もあっただろう。日記に記された情報は、きっと教会という組織のほんの一端にすぎない。


 彼の組織の全貌を知ることはできなくとも、俺はより核心に切り込みたかった。そしておそらく、それらは教会と所縁のある場所に行ったり、内情を知る人と接触することでしか得られない。


 ここでふと、十カ月前に立ち寄った酒場で聞きかじった話題が俺の脳裏をよぎった。


 その酒場はヴィルファイド王国北方、隣国との国境の町にあった。


 国境では常に隣国との小競り合いが絶えない。その酒場では、隣国との小競り合いに雇われて参戦し、任期を終えた傭兵たちが多く集まっていた。


 彼らはエールを片手に『癒しの力を持つ聖女』について熱く語っていた。彼らの話をかいつまむと、戦場で瀕死の重傷を負った兵士が、グルンガ地方教会から派遣された聖女の治療を受け、見る間に回復したということだった。ちなみに、地方教会というのは王都の聖魔法教会から派遣された魔導士が運営する教会の地方拠点だ。


 酒の席での話題ゆえ、事の真偽などわからない。多分な誇張を含み、話が広まっただけかもしれない。事実、あの時の俺は話半分に聞き流し、早々に次の町に移った。


 ……だが、行ってみる価値はある。グルンガ地方教会に行ってみるか。


 ――カラン、カラーン。


 その時、階下から鐘の音が響く。


「あ! お兄ちゃん、これって夕食の開始だよね?」


 二連の鐘は、宿泊者に準備が整ったことを告げる合図だ。


「ああ。食堂に夕飯を食いに行くか」


「うん」


 俺とチナは客室を出て、食堂に向かった。



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