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逃避行

「サラー!!!!起きて!」


「・・・えぇ!?姉さん!?」


「遊びに行くわよ!!!」



翌朝。

寝坊常習犯のリリーが、早起きのサラを起こした。


・・・ワトソン家では前代未聞の珍事である。


両親もパーシーもサラが元気になったか気になっていたはずなのに、リリーの予想外の行動に全部持っていかれた。



「リリー、、、お前どうしたんだ?」


「あなた自分で起きて支度できたの?」


「リリー姉が自分で支度してる...」


「なによ、みんな。私のことより『サラ大丈夫?もういいの?』って聞かなきゃ」


「いやもうもちろん、それはそうなんだが」


「リリーあなたやればできるのね...」


「リリー姉が自分で支度してる...」


「パーシー?同じ事2回言ってるわよ?」


サラもだいぶ衝撃を受けていたが、漸く我に返った。


「姉さん、私、大丈夫よ?」


「ダメよ!私の可愛い子がこんな顔のままなんて耐えられないわ」





リリーは満面の笑みで言った。



「サラ。私と王都へお出かけしましょ?めいいっぱいオシャレしてね。いいわよね?パパ」



リリーの笑顔の迫力に押されて父は何度も頷いている。

出かけると言っただけなのに、脅しのようになっているのはなぜだろうか。


まさかの朝ごはんまで準備してあった。

再びワトソン子爵家に衝撃が走る。

父、呆然。母、号泣。弟、兄に早馬を出している。


やめなさい。

王都で仕事中の兄上が失神する。


朝食後、私はリリーの部屋に押し込まれた。

リリー自身、たまーーーーにしかやらないだけでヘアセットもメイクもすごく上手なのだ。


あっという間にサラは別人のようになった。


そして白襟付きのペールブルーの品のいいワンピースにブラウンのブーツを着せられ、ベージュ色の髪はゆるく編み込まれている。鏡の前に立って心底驚いた。


「別人みたい」


「そう?どこからどうみてもサラ・ワトソンよ?あなたは元々とんでもなく可愛いわ」


「それ姉さんしか言わないから。でも本当にすごいわ」


「本当のことなのにー。ねぇサラ、笑って?そんな表情じゃメイクとお洋服が泣いちゃうわ」



リリーがサラの口角をムニっと上げる。

無理に笑顔をつくっても綺麗だ。

リリーのメイク術はすごい。



「うん、やっぱり笑顔がいいわ。さすが私の妹!最高!さて、私は何色のお洋服にしようかなー♪」



リリーはクローゼットに向かった。

戻ってきた時にはレースの飾りがついたパステルイエローのワンピースを着て、ライトブラウンのブーツを履いていた。手には帽子を持っている。



「サラの格好に寄せてみたの。色は違うけど。どうー?」


「姉さんは何を着ても綺麗ね」


「もう、サラ、大好き!」




今度はサラがリリーのヘアセットとメイクをする。久々の姉妹でオシャレを楽しんで、サラの気分は少し軽くなった。




「パパ?サラと王都に一泊してくるわ。いいわよね?護衛はいつものトムさんに頼んであるわ」


「リリー、馬車を使いなさい。気を付けて行ってくるんだよ」


「あら、いいの?」


「今日と明日は出掛ける用事もないし、事務仕事に専念するから、かまわんさ」



準備を終え、父が仕事で使うワトソン家唯一の馬車に乗り、王都に向かった。私達の領と王都は馬車で2時間程。比較的近い部類だ。雇われ騎士のトムさんも単独で馬に乗り同行している。トムさんは元々王都で騎士をしていたが、引退して故郷のワトソン領で護衛の仕事をしているのだ。


父と同じぐらいの年齢だからか、娘のように接してくれる。


社交シーズンのリリーの護衛にも基本的にトムさんがつく。

ウチの両親が領地から出ないのは有名な話らしく、トムさんが社交シーズンに護衛でリリーのそばにいても特に突っ込まれないそうだ。むしろザ・騎士な見た目のトムさん。強面も相まって変な人はリリーに近寄れないらしい。完璧な護衛だ。


リリーは出発してすぐにウトウトとし始めた。

慣れない早起きなんてするからよ、とサラは思ったが、姉の気遣いが嬉しく思わずニヤけてしまう。


トムさんが馬車の窓越しに話しかけてきた。


「サラ、リリーと王都に出かけるなんて随分久しぶりなんじゃないか?」


「ええ、本当に。もしかしたらデビュタント以来かも」


「美人姉妹、王都にお忍び旅行!なんて、噂になるかもな」


「美人姉妹って!姉さんは美人だけど、私はお付きの侍女あたりがせいぜいよ」


「おいおい《幻の妹》が何言ってんだ」


「なに?それ」


「まさか知らないのか?」 


ガバッ!!


《幻の妹》という変なワードに冷や汗をかきそうになっていたら急にリリーがサラに抱きついてきた。



「サァラはぁ!私が守るのよー!!!」



「寝言ね」

「寝言だな」



リリーは寝起きも悪ければ、寝相も寝言もすごい。

そしてなぜか寝ぼけて近くの人に抱きつく癖がある。


家族からすればよくあることなのだが、社交の場ではこれがものすごく厄介なのだ。妖艶な美女が突然抱きついてくるなんて、本人は無意識だったとしても殿方には刺激が強すぎる。


社交シーズンで連日夜会となると疲れが溜まるようで、トムさん曰く、リリーは微笑みながら寝てる時があるそうだ。なんだその技はとも思うが、そうなると誰かに抱きついてしまう危険性がでてくる。危うくなったらトムさんが抱き付かれ役をしているのだが、そこは元騎士。さっとかわしてリリーが抱きついてきたように見えないように居住まいを正して何事もなかったかのように馬車まで連れて行くそうだ。


ただ残念なことに全ては防ぎきれず、被害者は数人いる。

そのうちの1人が例の婚約者候補の侯爵家の次男だ。


彼はリリーが自分に好意を寄せているから抱きついてきたんだと信じて疑っていないらしい。運命なんだそうだ。


本当に申し訳ないけど、それは運命ではなく偶然だ。



「姉さん、抱きつき癖はほんとにだめよ」


「そうだぞ。また変な男に好かれたらどうするんだ。やるならまともな奴に限定してやれ」


スーッ、スーッ


「・・・トムさん。寝ながら吟味は難易度高すぎよ」



もうすぐで王都に着く。


王都に着いたら何をしよう?

まずは宿に荷物を置いてご飯かしら?


色々考えなくてはならないけれど、とりあえず目の前のことを楽しもう。そうすればきっと解決策が思い浮かぶわ。

ヒーロー、ようやく次話で出ます!出します!!

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