炎の天使
2人で馬車に乗ってまずは薬屋に向かう。
歩いても行ける距離だが、道中に王太子と会ったらいけないからとルークさんがすぐに馬車の手配をした。
馬車のなかで作戦を練る。
ついでに噂の確認もしたが、ルークさんは大聖堂で私がやらかしたことの噂は特に聞かなかったとのこと。
「ただ俺的に不思議なのはさ?サラが治した犬の家族の貴族も騒いでないことなんだよ」
「それ何かおかしいんですか?」
「だって教会職員より凄腕なのは確実だろ?家のお抱えにしたい!って教会に問い合わせたり人探しされてもおかしくないのにそんな話は聞かなかったんだよなー」
「単に探そうとしていないだけでは?その方が私はすごくすごくありがたいですが」
「そうかなー?実はそれを悟らせないぐらいの精鋭達が探し回ってたりして」
「やめてください!怖すぎます!!」
本気で身震いするとルークさんは大笑いした
・・・・・
「サラは馬車の中で待ってて。レティさんのとこには俺だけで行ってくる」
「わかりました。すみません。お願いします」
薬屋の近くに馬車を止め、ルークさんがレティさんのところに行ってる間に何気なく窓の外を見ていると・・・
なんと、あの時のイケメンがいた。
今日は大きめな外套を着てフードを被っているが、ちらっと横顔が見えた。間違いない。
気付かれていないはずだが、思わず床にしゃがみ体制を低くした。
「サラ、お待たせー・・・・って、何してんの?」
「ルークさん!!な、あ、あの謎のイケメンが外に!!」
「本当か!?」
「お、奥の花屋さんの方に、ふ、フードかぶってますが、あの人だと思います...」
馬車の窓から身を乗り出してその人物を確認したルークはしばらくイケメンを凝視すると舌打ちをした。
「よりによって・・・」
「え!?誰だかわかったんですか!?」
「とにかくここを離れるぞ。すみません、大聖堂に向かってください」
ルークが窓を閉め、馬車が動き出す。
腕をつかまれて席に座らされた。
「・・・ルークさん?あのー?」
「お前あいつのこととんでもないイケメンって言ってたな」
「はい」
「好きな顔ってこと?」
「・・・は?」
突然不機嫌になってよくわからない質問をするルークにサラは不思議そうに聞いた。
「あの、ルークさん?何を・・・?」
「タイプの顔かって聞いてんの」
「もしかしてお知り合いでした?」
「だーかーら!!!!」
「イ、イケメンだなとは思いましたが、タイプかどうかと言われるとわかりません!そもそも恋をしたことがないので好きなタイプ自体がわかりません!それにあの方はお顔が綺麗すぎて現実味がありませんでした!」
ルークの尋常じゃない圧に負けてサラが一気に言い切る。
ルークはしばらく考えてから満面の笑みで言った。
「そうかそうか。それならいいや」
「はぁ・・・」
ルークの機嫌は直ったが、結局誰なのか教えてもらえないまま、大聖堂に到着した。
あの日、外の受付をしていた教職員の顔は覚えていない。
だからとにかく誰にもバレないように気をつけなければいけない。
「サラ、まず受付を済ませるぞ。俺の親戚って設定で行くからな。居住エリアに着くまでは絶対に声を出さないこと。顔もなるべく伏せて。誰かに会ったら俺が適当に言い訳するから頷いたりして合わせるんだぞ」
「わかりました!」
サラはルークの後をついて大聖堂に入った。
「ルーク・ケリーです。エマ・フリードマンに会いに来ました」
「ルーク様、今日も来てくださってありがとうございます。まだエマは部屋から出てこなくて...毎度ご足労をおかけして申し訳ないです。あら?そちらは?」
「親族のサラです。昔よくエマと遊んでいたので、エマも懐かしがって出てきてくれるんじゃないかと連れてきました」
「そうですか!わざわざありがとうございます。よろしくお願いしますね」
受付のお姉さんに無言で会釈する。
ルークが受付のお姉さんに続けて聞いた。
「あのー、ところで今日、王太子様のご訪問があると伺ったのですが...お邪魔でしたらまた日を改めてお伺いするので」
すると受付のお姉さんはだいぶやさぐれた感じで言った。
「あぁ・・・確かにいらっしゃいましたが、もう帰られましたよ?どうやら王太子様はエマが目的だったようで、今引きこもっていて会えない旨を伝えたらすぐに帰りました。もうほんとすぐに。3秒ほどで。それならそうと言ってくれれば先にお伝えしたのに...」
「そ、そうですか…ありがとうございます」
王太子にエマさんが狙われてると知ったルークさんは複雑そうな顔をしていた。そりゃそうだよね。
受付を後にし、部屋に向かう途中の窓の外に、ボロボロに崩れ落ち所々炭になっている塔がみえた。
なかなかに大きい塔だ。
まさか、あれ?と思っていると私の様子に気付いたルークさんが言った。
「当たり。エマが今回吹っ飛ばしたやつ」
ええええええ・・・・
驚いたが声を出すなという約束を忠実に守って、頷くだけで留めた。
その後も珍しい装飾品や調度品に気を取られては声を出さないようにしていると、ルークはサラの目の前で止まった。
「気に入った?買おうか?」
見るからに高価な絵画を前にさらっととんでもないことを言うルークさんに思わず声が出そうになるが必死に堪えて首を何回も何回も横に振る。
「ほんとに?いいの?」
それからもコロコロと品を変えては「こういう好き?」「これサラの部屋に飾る?」「実家にプレゼントするのはどう?」などと言ってくるルークさん。
ってかなんで話しかけるの!?
スリルを楽しんでる系!?
ルークさんならやりかねないけど私は出来れば遠慮したい!
声を出さずに意思を伝えようと必死にジェスチャーしているとルークさんがお腹を抱えて笑い出した。
「ねぇ、気付いてないみたいだけど、ここは居住エリアだからもう声出していいよ」
「早く言ってください!!!」
「あはは!!本当に可愛い!」
「可愛い!?からかってるだけじゃないですか!」
「あ、ちがっ、ごめ、あの、その」
ガチャ
目の前の真っ白で豪華な観音扉が少し開くと、赤毛というよりもはや真っ赤な髪の小柄な女の子が出てきた。
大きな目を見開いて私達をじーっとみている。
「エマ!!!!やっとかよ!もう拗ねて籠るのやめてくれよー。いつも俺が駆り出されるんだから・・・」
エマは近づくルークを無視してサラのもとへ進んだ。
「おい、エマ。無視すんなよ」
「は、はじめまして!サラ・ワトソンと申します。セントラル病院でルークさんと同じ外科で働いています」
「・・・女の子?ルーク兄ときたの?天変地異?」
「おい」
「どうしたの?いつから?ってか、あなた。ルーク兄で本当にいいの?」
「いい?とはどういう意味で・・・」
「エマ!?」
「もしかしてあまりにルーク兄が女性に縁遠過ぎるから同情しt」
「違う!!!そして縁遠過ぎるってなんだ!」
ルークはエマの口を手で塞ぐ。
エマは抵抗するようにバタバタと手を動かしている。
あーだこーだ言いながら戯れる様子を見ながら弟のパーシーを思い出す。アカデミー頑張っているかしら?
「お二人、仲良いんですね」
「「どこが!!!」」
「そういうところとか?」
「うっ・・・と、とりあえず部屋に入ったら?」
エマに招かれ、ルークと部屋に入る。
豪華絢爛な部屋の内装にサラは思わず声を上げた。
「うわぁー豪華なお部屋ですね!」
「ただ与えられただけ。そこ座ってて。お茶持ってくる」
「あ、わたし手伝います!」
「手伝いはいらない」
エマはそう言うと、1人でお茶の準備を始めた。
友達になるどころか拒絶された...と落ち込んでいるとルークさんが耳打ちで話しかけてきた。
「あいつここに6歳からいるんだ」
「6歳!?」
「6歳の時に突然規格外の火魔法が使えるようになって、家族が大喜びであちこちで話したもんだから、それが協会の耳に入って特別措置で。エマは全く状況を知らされないまま急に友人や慣れ親しんだ領地から引き離されてここに来たもんだからちょっとひねくれてるところあるけど、大目に見てやって」
エマさんはここに来てから数年かけて自身の境遇を理解した頃、家族が自分の名前を使って悪どい商売をしてると知って絶縁したんだ、とルークさんは教えてくれた。
私はハッとした。
自分はたまたま成長するまで周りに力がバレず、意思を尊重してくれる家族がいて、運良く力を隠せているから今の自由があるんだ。
私だってなにもわからないまま教会に入る可能性があったんだ。
「お待たせ。紅茶でいい?レモンとかないからストレート。・・・あれ、お湯ぬるいかも」
「そうか?大丈夫そうだけど」
「ちょっと待って」
ティーポットのお湯に向かってエマさん放った火魔法が、ティーポットを超えてサラの方まできた。
「きゃっ!!」
「サラ!!!!」
座ってた位置が悪かった。
「ご、ごめんなさい・・・」
「エマ!!!魔法を使う時は気を付けろってあれほど言ってるだろ!!サラ、火傷みせろ」
右腕が赤くなっている。
「だ、大丈夫です。自分で治せます。それよりルークさん、エマさんを・・・」
「何言ってんだ!自分の心配をしろ!!」
エマさんは見るからに怯えている。
「エマさん、エマさん!大丈夫です!私もルークさんと同じ治癒魔法師なんです!こんなのすぐ治しますから!」
私は自分自身に治癒魔法を施した。
右腕の上から順番に光を纏わせ治していく。
「ほら、治りました!元通りでしょ?エマさんはお怪我ありませんか?ルークさんも大丈夫ですか?」
二人は目を点にして固まっていた。
「ルークさん?エマさん?」
しばらく待って、口を開いたのはルークさんだった。
「・・・サラ、さっきのなに?」
「なにって、治癒魔法ですが・・・」
「俺の魔法はそもそもそこまで光らないし、火魔法で負った火傷は治せない。しかも皮膚が元通りになるまで治せるの?つっぱりすらないの?」
「えぇっと・・・・?」
「もともと施術が早いとは思ってたけど、火魔法で負った火傷まで治すなんてレベル違いすぎだよ...」
知らなかった。
普通の火傷と火魔法の火傷は違うの?
腰を抜かしてしまったルークさんを尻目に、エマさんがトテトテと近寄って私の腕をペチペチ触って、手を取って皮膚をじーっと見ている。
「・・・あなた、時間が経った火傷も治せる?」
「わ、わかりません。やったことがないので...」
「ちょっと待ってて!!!!」
エマさんは走って部屋を出たと思ったら、先ほど対応してくれた受付のお姉さんを連れてきた。
急に連れてこられた受付のお姉さんはポカンとしている。
エマさんはお姉さんに向き合って言った。
「ペイジ、あのね?この子、火傷治すの得意なの。もしかしたら顔の火傷痕良くなるかもしれない。良ければ試させてほしい」
顔の火傷痕・・・??
「エマ。大丈夫よ。私は嫁に行く予定もないし、もう気にしなくていいのよ?」
「お願い。試すだけ試させて」
そこでようやくルークが声を発した。
「・・・横から入って申し訳ないんだけどさ。もしかしてエマが引き籠ってたのって、ペイジさんに火魔法の爆発で怪我をさせてしまったから?」
「・・・うん」
聞けば、爆発時にたまたま近くを通っていたペイジさんは火災に巻き込まれてしまい、顔に火傷を負ってしまったとのこと。
本人に了解を取り、髪で隠れていた傷を見せてもらうと、ところどころ赤みが残ってたり茶色に変色したり皮膚がつっぱっていた。
やったことのない火傷痕の治療。
できるかな?
もし期待に沿えなかったら...
「ねぇ、お願い。ペイジを治して」
涙目で訴えるエマさん。
とてつもない罪悪感と戦ってきたのだろう。
よくよく部屋を見渡せば、治癒魔法の本がいくつもある。
力になりたい。
私は覚悟をきめてルークさんに向き合った。
「私、火傷痕の治療、やります。ただ、初めての事だから出来れば全力でやりたいです」
「それは、、、魔道具はずすってこと?」
「はい」
ルークさんはしばらく考えてからうなずいた。
「わかった。エマ、そしてペイジさん。どうか今からサラが使う治癒魔法については他言無用にして頂きたい。エマ、俺と一緒に2人の周りに結界を張ってくれ。魔法の気配が漏れないように」
状況が読めず、え?という顔の2人だが、私たちの様子に顔を見合わせてから頷いてくれた。
私は徐に魔道具の指輪とネックレスを外し、ルークさんに借りていた髪色を変える魔道具も外した。
一気にベージュの髪に戻る。
ペイジさんの火傷痕に手を添えてイメージする。
そしていつものように一つ一つ丁寧に治していく。
大丈夫。
痕だって傷や病気と変わりない。
施術が終わりおそるおそる手を退けると
「ペイジ!!!!治ってる!!!」
「うそ・・・」
ペイジさんが鏡を見ながら信じられないという顔をしている。
エマさんが号泣し始めた。
「良かった、、、本当に良かった」
涙でぐしゃぐしゃのエマさんをペイジさんがゆっくり抱きしめる。
「サラさん、本当にありがとう。私の傷もだけど、エマの心まで救ってくれて」
「お役に立てて良かったです」
「ぐすっ、本当にあり、、ありがと」
「いえいえ」
エマさんはペイジさんの腕の中でまだ泣いている。
「エマ。もう泣きすぎよ?にしてもサラさん本当はベージュの髪なのね」
あ・・・・
「ルークさんとサラさんは本当はご親戚ではないのね」
うっ・・・
「もしかしてこないだ大聖堂の前でどこかの貴族のわんちゃんを凄腕で治したのってサラさん?同僚が見たらしいんだけど」
・・・完全にバレている。
ルークさんも顔が真っ青だ。
「あははっ。そんな顔しないで2人とも。絶対に誰にも言わないわ」
「「え?」」
「だって『このことは他言無用』でしょ?」
茶目っ気たっぷりにペイジさんは言った。
その笑顔は不思議と信頼できるものだった。
「ペイジさん、ありがとうございます」
エマさんもようやく落ち着いてきたようだ。
まだ目はウルウルしている。
可愛い顔と相成って小動物のようだ。
「私も黙ってる。約束守る」
「ありがとうございます」
「でも御礼はしたい!何が欲しい?ここにあるのなんでも持っていっていいから!」
「いやいやいや!大丈夫ですから!」
「だめ!貰って!!」
「じゃあ・・・・・エマさん?」
「「・・・・」」
エマさんがペイジさんが無言で見つめる。
その様子にルークさんが吹き出した。
「サラ!友達になりたいんだって言わなきゃ」
「えぇ!?あ、そうですね!」
「どうしようペイジ。私、サラさんなら嫁にいってもいいかなと思っちゃった」
「奇遇な。私もサラさんならエマを幸せにしてくれる気がすると思ったもの」
「おいおいおい!なんで俺を差し置いてエマなんだよ」
「え?ルーク兄やっぱり・・・・」
「ちょ!待て!言うな!!!!」




