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団長会議と因縁

レオはアレックスから事の顛末を聞いた。


「謎の凄腕治癒魔法師ね・・・ってか、夫人さ。治してもらってる時号泣してたんだよね?その分析力なに?」


「母上は一種の癖だって言ってた」


「怖っ。今日の夜がその報告会?」


「あぁ」


「そうか...じゃあ俺は例の組織の解体状況と現時点でわかっている関連する人物リスト手に入れてくるよ」


「え?」


「忘れられがちだけど、俺、侯爵令息なんだよ?それぐらいできるから任せとけって」


「いや、それはわかってる。そうじゃなくてお前の手まで借りる訳には」


「俺も混ざりたくなっちゃったんだよねー。あ、俺の他にもやる気満々の連中が...あそこに」


「団長!!!!すみません、気になりすぎて全部聞いてました!」

「俺たちも捜索混ぜてください!」

「なんでもします!」


「・・・なんでも?」


「「「っはい!」」」


「んじゃ、このあとの団長会議代わりに出てくれ。内容はあとで簡単にレポートにまとめてくれればいい。きっと量はそれほどないはずだ。俺はもう一度昨日彼女を見失った場所にいく」


「ちょ、ちょっと待て。アレックス。今日の会議って陛下が出るいつものあれじゃ・・・」


「あぁ。たぶんそうだ」


「それはまずくないか!?」


「大丈夫だ。なんならハッキリ断ってくれ。スペンサー家は縁談を受けるつもりはない」


「「「大丈夫じゃない!!!」」」



レオ含め団員全員で引き止めるもアレックスはさらっと躱して部屋を出ていってしまった。


どうしようかと第五騎士団全員で頭を抱えていると、近衛騎士がものすごい形相で騎士団の控室に飛び込んできた。



「アレックス様ぁぁ!!!!」


「どうされましたか!?」


「アレックス様はどちらですか!?」


「「えぇっと・・・・・」」


「うちの団長、どっか行っちゃったんです!大事な用があるから今日の会議はアレックス様に任せるとか言い残して出て行っちゃって。今日は陛下がいらっしゃる例のやつなのに!」


「近衛騎士団長がいない!?」


「はいぃぃ。私はその場にいなかったんですが、なんでも、アレックス様の頼み事が最優先だとかでしばらく仕事どころじゃないとかなんとか・・・」


レオは手を額につけ天を仰いでからいつもは聞かない低い声を出して言った。


「・・・あの親子め!!!」


「グ、グレンデール副長?」


「お見苦しいものを、大変申し訳ございません。うちのアレックスもハンク近衛騎士団長と同じような事を言って出ていきました。ので、会議出ません」


「あぁぁ、、、そんなぁ!どうしたら....」


「会議は何時からですか?今日の議題は?」


「あと一時間後で、一応議題は今年の新人の採用報告についてですが、恐らくはいつものアレックス様と王女様の縁談話かと・・・」


陛下の長女である王女様がアレックスに想いを寄せていて、娘に泣きつかれた陛下は比較的重くない会議を狙って参加しては『アレックス、娘の婿にならないか?』と打診しているのだが、それをスペンサー伯爵親子は最初から一貫して断り続けている。



断る理由は「王妃」だ。


昔、王妃がスペンサー家に対して事件を起こしたのだ。それをスペンサー伯爵(=ハンク近衛騎士団長)は未だに許していない。証言も証拠も揃っているが王妃は頑なに認めずに内々で収めたのだが、それを水に流して親戚関係を結べなどとてもじゃないができないという話らしい。


王命ならばこの国では拒否権はないが、スペンサー伯爵はこの縁談を王命にしたら一族全員この国から離脱して他国に移ると宣言している。


ハンク団長の功績は建国以来最強と言われるものばかりで、スペンサー家の存在自体が他国への牽制になっていると言っても過言ではない。そんな状況にも関わらず出たこの宣言は周辺諸国にとってプラスにしかならず、スペンサー家には歓迎する他国から水面下で接触があったなどと噂されている。つまり、もはや王家の失態を今か今かと待っている状態だ。よって縁談を王命するのは国の為にも避けなければならず、こんな回りくどいやり方をしているのだ。



「...私が出席して両名不在の件をお伝えします」


「いいんですか!?今日はとうとう王女様も同席されるとかで…あ。言っちゃった...」


「王女が?・・・でもちょうどいいかもしれないですね。皆さんもこの絶対にまとまらない縁談話、そろそろ辟易しているでしょう?」


「ええ。さすがにあの事件は衝撃でしたし。でもそれを王女様はご存知ないから、断られている理由がまさか身内(母親)だなんて気の毒と言ったら気の毒なんですけどね」


------------


会議が始まった。


上座には陛下が座り、その横に立つ派手に着飾った王女は扇子で口を隠しつつ、会議に集まった各騎士団の団長をみて大声を上げた。


「アレックス様もハンク団長もいらっしゃらないってどういうこと!?そこはアレックス様の席でしょう?なぜあなたが座っているのか理由を言いなさい!」


「申し訳ございません。第五騎士団長のアレックス・スペンサーは急用のため本日欠席させて頂き、代わりに副長の私、レオ・グレンデールが出席いたしました」


「まぁまぁ、ルイーズ。この場は会議の場だからね。落ち着きなさい」


「お父様もお父様よ!なんで私がこんなに待たされるの?私は王女よ?お父様は国王!なんでアレックス様との婚約がまとまらないのよ!」


ギャーギャーと好き勝手に喚く王女。

集まった臣下達は皆、口を閉ざしているが表情は固い。


「・・・理由をお知りになりたいですか?」


レオの突然の言葉にシンと静まり返る会議室。周りは慌てている者半分、理由を伝えて早く解放されたい者半分といったところだ。


「えぇ、知りたいわ。誰も理由を教えてくれないんですもの。どこかの女狐でもうろついているのかしら?それなら捕らえてすぐにでもその首を落としてやる!」


王女は高笑いをしている。首を落とすなんて一国の王女が簡単に口に出していいことではない。ましてや国のためではなく個人的なことでだ。臣下も皆眉間に皺を寄せている。


レオは陛下に向き直った。


「陛下。お許しいただけますか」


王女の様子に頭を抱えていた陛下はため息混じりに言った。


「・・・話すのか?」


「陛下にお許しを頂き、王女様がお望みとあれば」


「私は望むわ。お父様、止めないで頂戴」


「ルイーズ、、、。はぁ。だが、そろそろ話さねばと私も思っていた。わかった。グレンデール副長、話せ」


「はい。では、僭越ながら申し上げます。王妃様によるスペンサー夫人毒殺未遂およびスペンサー家メイド殺害事件について」


「・・・・え?」


王女は驚きすぎて扇子を落とした。

手が震えている。

信じられないという顔だ。


レオは構わずに淡々と続けた。


「王妃様はスペンサー伯爵夫人のデビュタント以降、気に入らないという理由で数々の嫌がらせを行ってきたそうです。最初は物を隠す、噂を流す、誤った招待状を送るなどでしたが、公爵家の御令嬢だった王妃様が王太子妃となられた頃からエスカレートし、人を雇うようになられました。暴行、傷害、脅迫、拉致未遂は数えきれません」


「・・・な、なによ、その話」


先程までの勢いはなく、顔は真っ青だ。


「そして決定的な出来事となった事件ですが、王妃様はスペンサー夫人付きのメイドの家族を拉致し、そのメイドを脅して毒薬入りの紅茶をスペンサー夫人に飲ませようとしました。理由は王家主催のお茶会でスペンサー夫人が王妃様より目立つ身の程知らずだったからとのこと。ただ、実行直前でそのメイドが罪悪感により夫人を庇って自らその紅茶を飲んだ為に夫人は無事でした。が、メイドはそのまま亡くなりました。捜査の結果、王妃様の指示であることを示す証拠が揃い、その証拠を確認した王妃様の生家である公爵家および王家が非を認めました。王妃様といえど、殺人は大罪です。本来であれば即刻処刑ですが、お立場を鑑みて、王妃様は最低限の公的行事への出席以外は王城で謹慎という処分となりました」


王女はガタガタ震えて膝から崩れ落ちた。


「だからいつもお母様はお部屋に・・・?」


「なお、スペンサー伯爵はその時の事をいまだお許しになっていません。亡くなったメイドはスペンサー伯爵が幼い頃からいた古参のメイドだったようです。ちなみに王城勤務の者は事件の顛末を知っております。皆が口を閉ざしていたのは王女様を思ってのことだと思いますよ」


王女はショックで言葉も出ない様子だ。


「ルイーズ、今まで話せずにすまなかった。皆のものも、会議を何度も邪魔してすまなかった。私自身、この縁談で王家とスペンサー家の関係が修復出来ないかと考えた邪な部分もあった。最初にハンクに一蹴された時に引けばよかったのにな。諦めきれずな」


陛下は王女の肩を支えながら言った。


「ルイーズ、この縁談はまとめられないよ。お前が幸せになれる縁談は他にあるさ。一緒に考えよう」


そう告げて2人は部屋から出て行った。


部屋の空気が一気に軽くなる。

ざわざわと一斉に皆が話し始めた。


「レオ、すまんな。俺たち身分的なこともあって何も言えなくて」


「さすが侯爵令息!」


「俺たちの身分はよくて男爵家だからな。騎士は実力主義とはいえこういう場では気を遣うよな」


各団長は皆叩き上げの精鋭たちだ。


「お役に立てたなら良かったです。メイドのステラさんの事件を思い出してそろそろハンク団長が武器持って暴れそうだとアレックスから聞いていたので。それに毎回めちゃくちゃ不機嫌になるのが面倒だったってのもありますし」


「確かにな。あいつ口は笑ってたけど、目が笑ってなかったしな」


「ハンク団長も別人だったもんな。いつも豪快に笑ってる人が完全に無表情で断り続けるからすっごい狂気だった」


「普段はあんまり感じないけど、怒ると無駄に美形が際立って怖さ倍増なんだよな。あの親子」


「にしても、レオ。今日2人ともどこ行ったんだ?」


「あー・・・俺の口からはなんとも」


「「「ほう?」」」


「話しませんよ?先輩達が尋問のプロなのは知ってます!だからやめてください!友情が大事ですから!言えないんです!」


〜30分後〜


「アレックスに想い人か!!!!」

「謎の治癒魔法師!気になるー!」

「そりゃ団長はりきるわ!」

「俺も捜索混じろうかなー!」


騎士団は近衛騎士団と第一〜第五騎士団の6つの組織で構成されている。第五騎士団は新設部隊で平均年齢も1番若く、経験が浅い。経験豊富な各騎士団の団長達にあの手この手で洗いざらい吐かされたレオはボロボロになって部屋の隅にいる。


「グレンデール副長、待機場までお送りします」


レオをこの場に連れ出した近衛騎士団員が申し訳なさそうに声をかける。レオはそのまま力なく引っ張られて待機場に戻った。

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