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昨日のアレックス、そしてスペンサー家

毎年恒例の家族の用事を済ませるために移動する直前、その日馬車を引くはずだった馬が突然暴走し、ベンは暴れる馬から母を庇って蹴られてしまった。


俺は不覚にもベンから流れ出る血の量を前に、呆然としてしまった。


母の愛犬だが、兄弟のように育ったベン。

嬉しい時も悲しい時も必ず傍にいてくれた。


命に限りがあるのはわかっている。


それはわかっていたが、こんなにも突然失うことになるなんて思ってもみなかった。


用事をキャンセルする早馬を出し、馬車の馬を替え、すぐさま大聖堂の治癒魔法師を訪ねた。が、今日いる治癒魔法師にはここまでの怪我を治せる者はいないと言われてしまった。


それでも、とお願いして数人がかりで術をかけてもらったが、ベンは辛そうなままだった。


これ以上は手の施しようがなく、もはやこのまま死を待つしかない状況に母は号泣。父も母を慰めるので精一杯。


俺はどうしても諦めきれず、今日休みの者でも、近隣の領地でもいいからと、腕のいい治癒魔法師を紹介してもらおうと教会職員に掛け合っていると、1人の少女が現れた。


詐欺か強盗か... 多少警戒はしたが、相手は少女。

何か変な動きがあれば力ずくで捕まえればいいとしか思わなかった。


いま思えばこの時に登録証を確認すればよかったんだと思うが、その時は全く思い至らず、少女に治療を懇願する母を止めなかった。



結果、彼女は素晴らしい腕の持ち主だった。



魔法を施している最中の彼女の真剣な眼差しからなぜか目が離せなかった。女性の真剣な眼差しを初めてみたからかもしれない。


自分が知っている女性の目は、昔参加した夜会でのあのギラギラとした婚姻相手を求める捕食者に近い視線しかなかったから。



ベンに声をかけ続け、必死に生きろと励ましていた彼女は、ベンが目を開け、大丈夫だと分かると安心したように笑った。


それは心から「良かった」と思っているような笑顔だった。




俺は彼女に名前を尋ねた。


また会いたい、彼女を知りたい、そう思ったから。


でも彼女は名乗らなかった。

治療費すら受け取らず、慌てた様子でその場を離れていってしまった。



すぐに彼女を追ったが人混みに紛れてしまい見つからない。治癒魔法師が尋ねそうな薬屋や薬草市場を中心に探したが全然見つからなかった。


最後にここだけと、尋ねた薬屋で言われた。

「店の前にあんなギャラリー作られちゃ営業妨害だ」と。


そこで初めて周りの声が聞こえなくなるぐらいに彼女を探し求めていた自分に気が付いた。


そこでかえって一旦冷静になった。


この状況では彼女に会えてもまともに話すことは出来ないだろう。むしろ彼女に迷惑をかけてしまうかもしれない。


とりあえず戻り策を練ることにしよう、と。



馬車に戻ると、両親から会えたのか?と食い気味に聞かれたが、無言で首を振った。



どうしてもまた彼女に会いたかった俺は父上と母上に聞いた。人を探したい場合はどのようにすればいいのか、と。


--------------


「お前、律儀だな。そんなにお礼がしたいのか?」


「あなたちょっと黙っててくれる?アレックス、さっきの彼女にまた会いたいのね?」


「はい」



母はニヤリと笑って頷いたあとに言った。



「いいわ。協力する。見た目の特徴はまずベージュでロングのウェーブヘアで背は中くらい、目は蜂蜜色だったわね。歳は16〜20の間かしら。外套を着ていたけど中は白の服だったわ。病院の制服にも見えたから病院勤務の子なのかもしれない。この辺りの病院勤務の治癒魔法師全員を洗えるとしたら・・・ゼッドが適任ね。あなた、ゼッド貸して!」


「おいおい。今、ゼッドには違う任務をさせてるからダメだぞ」


「いーや?ご主人。大方調べ終わったから俺動けるよ?」


「そうか、それなら、、、、ってゼッド!?お前どこからでてきたんだ!!!!」


「今日は行者に化けてみました⭐︎奥様!気合入れて調べるね!」


「さっすがー!頼んだわ!」


「お前はまた勝手に!!本物の行者はどこだ!」


「だって坊ちゃんのお願い事なんて何年振り?ましてや女の子を探したいなんて、俺、感動しちゃって。ちなみに本物の行者はお屋敷ね。その件についてはあとで報告するよ」


うんうんと頷く(ジュディ)をみて(ハンク)はようやく今起きている事の珍しさに気が付いた。


「報告はわかった。屋敷に戻ってから聞く。確かにアレックスの頼みなんていつ振りなのか覚えてないな、、、ゼッド!最近の採用者はまだ更新されてないかもしれないが、なるべく全員の情報を集めて洗ってこい」


「ご主人、了解⭐︎」


「あ、調べるのは貴族出身の子だけでいいわ。彼女、最後カーテシーしてたでしょ?急いでいたけど失礼のない綺麗なものだったわ。身に染み付いているようだったからきっと貴族よ」


「ジュディ、でもあの実力だぞ?病院勤務より、未登録か近隣の教会勤務の治癒魔法師から洗った方がいいんじゃないか?」


「うーん、そうね。。。じゃあ、あなたは未登録と教会勤務の治癒魔法師から、ゼッドは病院勤務の治癒魔法師を探るとしましょ!私は社交界の伝手を使って似た容姿の子をリストアップするわ」



人探しの方法を聞いただけなのに、なぜか両親と父上の部下を巻き込んでガンガン調べる方向を決めていく会話に呆然としていたアレックスはようやく我に返って口を挟んだ。



「あの!そこまでして頂かなくとも方法だけわかれば自分で...」


「なぁに?普段全然頼ってこない息子のお願いに張り切っている私たちに自重しろと?」


「いや、そういう意味では、、、」


「冗談よ。わかってるわ。私ももう一度彼女に会いたいのよ。だってベンの命の恩人だもの」


「そうだぞ。それにお前が女性に興味を持つなんてこの先あるかわからんし・・・・うぅ!ジュディ!足!!足!!!」


「あら。私のヒールがあなたの足に食い込んでるわね。大変。ヒールが折れていないかしら?」


「わしの足の心配は!?」


「さて!報告は明日の夕食の時にしましょう!二人とも?ちゃんと帰ってきてね!」


比較的いつも賑やかな両親だが、数年振りに息子に頼られた両親は一段と楽しそうにみえた。


こうしてスペンサー家総出の捜索活動が開始された。


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