セントラル病院
「ワトソンさーん!」
職員用の入り口から入るとすぐに、採用担当のフェリアさんが迎えに来てくれていた。
「今日からよろしくお願いいたします!」
「こちらこそー・・・って、私達、歳も近いし、良ければ言葉崩したいんだけどいいかしら?実は私、平民出身で固い言葉苦手なの。あなたも普通に話してくれたら嬉しい」
そういえば採用面接でも最後言葉崩れてたなぁ...
「じゃあお言葉に甘えて。普通に話すわ。よろしく」
フェリアの顔がぱあっと明るくなった。
「そうして!やった!とりあえず今から院長室ね。多分びっくりするけど、大丈夫だから」
え?びっくり?思わず聞き返したがフェリアは会えばわかると答えてくれなかった。
「失礼します!採用担当のフェリアです。新人のサラ・ワトソンさんをご案内しました」
「どうぞ」
渋めのバリトンボイス。
フェリアに続いて入り、顔を上げるとそこには綺麗にセットされたシルバーグレーの髪と銀縁のメガネがすごく似合うナイスミドルなおじさまが座っていた。
「サラ・ワトソンです。本日よりよろしくお願いいたします」
「院長のアーサー・ウィルソンです」
簡単な挨拶のあと、院長先生は私をじーっと見ている。無言のまま1分以上見つめられて恥ずかしくなってきた。私はフェリアに目線で助けを求めると、
「ウィルソン院長。新人さんビビるからやめてもらっていいですか?あと、なんか言ってください」
ものすごくあきれた声色でフェリアが院長先生を嗜めている。じょ、上司では!?フェリア大丈夫なの!?
「フェリアっ!!!!」
「ひぃっ!」
突然の院長先生の大声に私は変な声が出てしまい慌てて口を塞いだ。
「すんごくキレイ!!!!わたし好み!完璧っ!あなたの見立てはやっぱりすごいわ!こんな綺麗な逸材がいたなんて!彼女を逃さずに採用できたご褒美あげる!なんでも言ってちょうだい!」
「そうでしょう!?そうでしょう!?では、有給5日に1階級の昇進、そして給与アップお願いしまぁす!」
突然の双方のテンションの高さに私は唖然とした。
目の前ではしゃいでいるナイスミドル。
自身の待遇について何食わぬ顔で交渉するフェリア。
びっくりとはこういうことか!
先程のバリトンボイスも2トーン上がっている。
どうやら性別を超越した院長先生らしい。
「ちょっと。それは求め過ぎよ。有給3日ね。ただ、ボーナスは弾むわ!」
フェリアの要求をピシャリと退けるあたりは経営者だ。院長先生は席を立ち、私の目の前にきて、握手してくれた。
「ようこそセントラル病院へ。歓迎しますよ、ワトソンさん。困りごとがあれば何なりと言ってくださいね」
「は、はい。。。」
嵐のような時間だった。
なんとか気を持ち直して院長室を出て、職員棟に向かい歩いている間、フェリアが色々説明してくれた。
「院長ね、キレイ好きなの。衛生面だけじゃなくて何事にもおいてもキレイな物が好き。話し方も院長自身は男性だけど、女性言葉の方がキレイだからそうしてるんだって。驚いただろうけど、慣れるから大丈夫よ。職員もキレイな顔が多いのはそのせい。この病院は顔採用なのよ」
サラの頭の片隅に母の声が響く。
「あの病院はきっと顔採用だ!」と。
つくづく恐ろしい母である。
「・・・私の顔。大丈夫なの?」
「何言ってるの?あなたすごくキレイよ。この病院の中でも上位レベル」
「いやいやいやいや!」
フェリアの説明どおり、すれ違う人すれ違う人美形ばかりだ。この中で上位?ご冗談を!
私は自分が場違いに思えてならなかった。
「気がひける...場違い感すごい...この中で働けるかな」
「何言ってんの、余裕でしょ。あ、ここが職員棟よ」
職員棟は5階建で1・2階が食堂や会議室棟の共有施設で3〜5階が寮になっている。ちなみに3階は女性専用で男性立ち入り禁止らしい。
色々と案内してもらったが、とりあえず生活に必要な設備だけ覚えることにした。そうせざる負えないぐらい職員棟は豪華で広く、寮にしておくにはもったいないぐらいの施設だ。
「こんないいところに住めるなんて思ってなかったわ」
「そう?貴族様にとっちゃ普通か狭いんじゃないの?」
「あー・・・ウチはちょっと変わってて」
簡単に家の事を話したら、平民出身のフェリアは面白かったようでケラケラ笑ってくれた。
「領主の家が民家サイズ!?それに家事全般できる令嬢なんて聞いたことないよ!だから高圧的な感じ一切ないのね!それにしても社交界の華の妹かー!社交界の華の実家がそんな感じなのも意外だけど、サラのその顔は納得よ」
「あ、姉で思い出した!次の社交シーズンに入ったら姉に少し職場を見せたいんだけど、いいかしら?」
「患者さんに影響のない範囲なら全然大丈夫よ。でもきっとお姉さん目立つわよね?こっそり見学できた方がいいならプランを考えるけど、どうかしら?」
「お願いっ!すごく助かる!」
この前の王都旅行の件もある。
若干私のせいでもあったが、リリー来訪にむけて対策を立てておくのはお騒がせしないためにも良いだろうとお願いすることにした。