王都へ
「サァラぁぁぁ!いやぁぁ〜」
「サラ姉、やぁだーーーー」
姉と弟が号泣しながら私にがっしりと抱きついている。その2人を母が魔法で浮かせて引き剥がす。
「あなた達いい加減になさい。今生の別じゃあるまいし」
「そうだぞ、俺の時は平気だっただろ」
「兄さんはいいのよ」
「うん。すぐ帰ってくるし」
「言っとくけどなぁ!俺もそこそこ忙しいぞ!サラと休みの数そんなに変わらないからな!」
両親と姉弟に見送られ私は今日王都に立つ。
兄が帰省がてら迎えにきてくれたので、兄と共に王都に向かう。兄の勤務先の王宮からほど近い場所にセントラル病院はある。王都で仕事をする事と勤務先を伝えたら迎えに来てくれるとのことだったので甘えることにした。
「それに、リリーだってもうすぐ社交シーズンでこっちに来るだろうが」
「うん。サラに毎日会いに行く」
「姉さん?私仕事だからね。毎日は無理よ」
やりとりを見ていた母が、兄妹仲が良過ぎるのも考えものね...とため息をつきながら言った。
「そうだ、これ、デイビッドからよ」
「パパから?」
父も本当は見送りをしてくれる予定だったが、仕事で叶わなかった。なので、昨日の夜、頑張ってくるとしっかり話したはずなのだが・・・
白い封筒を母から手渡された。
中には何かあればすぐに帰ってくることという手紙と餞別が入っていた。帰り道の馬車代だそうだ。父は初給料日前でも私が帰れるようにと考えたようだ。完全な親バカだ。
母が手紙を覗き込んで言った。
「あら?それだけ?」
「ん?なに?」
「昨日あの人、仕事の書類より分厚いあなたへの手紙の束持ってたのよ。パターン別に。10パターン以上はあったわよ?」
・・・父よ。パターン別とは?何を書いたの?たしかに封筒の端にパターン8ってちっちゃく書いてあるし。そしてなぜこの一言の手紙を選んだ?かえって怖い!
悶々としたが気を取り直して私は皆の方を向く。
「ありがとう、みんな。頑張ってくるね!」
兄と共に馬車に乗り込み、家族に見送られて領地を出た。
「フレッドの件、ごめん」
しばらく馬車に揺られていると、兄がおもむろに話を切り出した。
「どうして兄さんが謝るのよ?」
「あいつがサラと結婚したいと思ってたこと聞いてた。それで俺、頑張れって言ったんだ。でもあいつのことだからサラに正面から堂々といくと思ってた。だから、ごめん」
兄は座ったまま頭を下げた。
「そんな!私全然気付いてなくて、混乱はしたけど、嫌な思いは...」
「襲われたのに?」
ん?おそ・・・・え?
「えっと、、、それは?」
「トムさんからフレッドがサラをどっかの誰かに取られるって暴走して襲ったって聞いたぞ?」
トムさん・・・
勝手に話すなら正確に話して!!!!
「あ、、、あの。襲われてはないと思う。たしかに、突然キスされて、後ろから抱きしめられてお腹を触られはしたけど、、、それだけよ」
兄は目に怒りが灯った気がした。
あら?どこが怒りポイント?
詳細知らなかったの?
トムさんどこまで話したのー!?
サラは慌てて付け加える。
「わ、私!突然のことでパニックになっちゃってよく覚えてないし、姉さんもママもトムさんも自分の事みたいに怒ってくれたからもう十分なの!もう大丈夫!」
サラがそういうなら、と兄は怒りを抑えてくれた。いつもの兄の顔に戻ってくれてほっとする。
しばらく談笑していると、セントラル病院の前に到着した。
「何かあったらすぐ連絡をよこせよ。すぐ助けにくるからな」
「兄さん。大丈夫よ。もう子供じゃないわ」
でもありがとうと言うと、心配そうな笑顔で兄は送り出してくれた。
「よし!頑張ろ」
セントラル病院の門をくぐる。
サラの新しい挑戦が始まった。