採用の裏側
「フェリアさん!!!美女!美女きた!」
ここは魔法協会本部2階。
仕事紹介情報のためのフロアだ。
と、いっても相談員がいる訳ではなく、数カ所の打ち合わせスペースと掲示板いっぱいの仕事紹介のビラが貼ってあるだけだ。
だが、あまり知られていないが魔法協会の2階には別室があり、それぞれの職業の人事担当がスカウトに来ていて登録情報を見て声をかけるかを決めている。
だからこの場で採用が決まる事もあるのだ。
特に治癒魔法師は取り合いだから常に病院の人事担当が常駐している。その中にフェリアはいた。
ここに揃うメンツはほぼ毎日変わらない。
だからこそそれぞれの病院が欲しい人材の条件はなんとなく把握している。輩相手の治療が多い病院は男性で大柄な人、学校の近くで子供相手が多いところは幅広く臨機応変に動ける人、高齢者の多いところは落ち着いた人材...などだ。
もちろん、誰でもOKの病院もある。
人材不足の病院は何振りかまってられないのだ。
フェリアはセントラル病院勤務の人事担当だ。
フェリアの病院の条件はただ一つ。
「美男もしくは美女であること」
希少な治癒魔法師に対して何をふざけていると思われがちだが、これは院長の指針だ。フェリアのではない。
院長は無類の綺麗好き。衛生面でもそうだが、芸術品でも演劇でもなにもかも綺麗なものが好きなのだ。本人曰く落ち着くらしい。だから美男美女を揃えるために高待遇にして何不自由ない労働環境を整えている。
だからこそ人事も妥協できないのだ。
もう1年も次を採用できてない。
いっそのこと美男美女が登録しに来た時だけ協会に出向きたいぐらいだが、それも出来ない。世知辛い。
「お、治癒魔法師の登録きたぞ!」
病院人事のメンバーが、みんなわらわらと集まって情報を見ている。フェリアはこの1年間に期待と落胆を繰り返しすぎていたので見に行かなかった。
が、突然、情報を見ていた他の病院の担当者から声がかかった。
「フェリアさん!美女!美女きた!」
「・・・え?」
「おぉー魔力量上限ギリか。多いな。セントラルがいらないならウチが欲しいな」
「それならウチも!」
「ちょ...見せて!!!!!」
サラ・ワトソン。
子爵家次女、治癒魔法適性あり、魔力量上限ギリ、家族及び知人への治癒歴あり、そして写真は・・・
「来た、これっ!貰ったぁぁー!!!!この子セントラルが頂きます!!!!」
「本人が嫌がったら速攻で回して下さいね」
「まぁまぁ、フェリアさんここの誰よりも採用数少ないから。俺らなんとか2・3ヶ月に一度は採用できているのに、この人1年ぶりだから」
フェリアはサラ・ワトソンに声をかけるべく仕事紹介エリアへと走った。
「あ、あの!サラ・ワトソンさんですか!?」
「は、はいっ!そうですが・・・」
「セントラル病院の者です。もしよろしければお仕事の紹介をさせていだきたく、あちらでお話ししませんか?」
「セ、セントラル病院!?は、はい!よろしくお願いします」
ひと目で彼女だとわかった。
護衛の騎士を連れているところから、だいぶ大事に育てられてきたのだろう。治癒魔法師になる事は本人の希望で、きっと意思が固くてご両親は涙ながらに送り出したんだろうな...
病院の概要、診療科、待遇、寮生活について等、一通り話をする事ができた。頷く姿も髪を耳にかける所作も美しい。座り姿すら完璧だ。他の仕事を探しに来た人達が二度見したり振り向いたりするほどだ。いくつか質問をしたが受け答えも問題なく、むしろ貴族ならではの空気が読めるタイプだ。VIP相手でも粗相しないだろう。
これは間違いなく院長お気に入り案件!!
「ワトソンさん、推薦状はお持ちですか?」
「はい、ここに。どうぞ」
推薦状の中身を確認する。孤児院の院長先生からで、ちゃんと教会職員からの推薦状だった。どうやら孤児院で読み書きやマナーを教えていたらしい。心まで美しいとか何事。推薦状は彼女を大絶賛する内容だった。
これで何もかも整った。
「ありがとうございます。確認しました。・・・どうでしょう、ワトソンさん。ウチで働いてみませんか?」
ワトソンさんは目をまん丸にして驚いている。
もうっ!その顔すら綺麗!!
「私達としてはあなたみたいな美・・・優秀な!方に是非来ていただきたいのですが、あなたにその意思があればこちらとしても・・・あぁもうっ!お願い!ウチで働いて!」
何がなんでも採用したい!
もう止められなかった。
「うち結構いいよ!?給金の額はここら辺でトップクラス!休みも完璧!制服は洗い替え含めて全て支給!洗濯代行もあるわ!長期休みをとって領に帰ることも相談可!貴族なら社交に出なきゃでしょ?その時は仕事を早めに切り上げるなりなんなりも融通も出来るわ!寮の部屋は全て個室で朝・夕の食事付き!食堂の時間内に間に合わなかったら部屋に届けておく事も可!極め付けは家賃食費その他生活に関する雑費全てタダ!どう!?」
「お、お願いします...」
フェリアは思わずガッツポーズをした。
「採用!採用、採用、採用っ!!寮の入寮についてはこの書類ね!勤務場所については各診療科で研修後に決定するわ。ワトソンさん!よろしくね!!」