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領の事件と母の怒り

色々ありすぎた昨日だったが、なんとか収まった。


私たちは次の日も王都観光を楽しんだ。


お昼を食べる場所を決めかねていたら、人々が集まっている場所があった。




「トムさん、姉さん。あそこ人が集まってる!ごはん屋さんかなぁ?」


「あぁ、あそこは魔法協会の本部だ。仕事を求めて魔力測定に集まっている人だろう」



「(げっ・・・あれが)」



魔法協会本部。王都の中心地にそれはあった。


魔力測定をし、個人情報を登録すると登録証が貰え、その場で仕事も紹介してもらえる。


多くの人々にとって素晴らしい場所でも、私にとってはブラック教会直行宣告をされる場所だ。


できれば近寄りたくない。




「今や割りのいい仕事はほぼ魔法絡みだからな。まぁでもワトソン領は豊かだし、子爵令嬢のお前達には縁遠い場所だな」




トムさんは言った。私達には《縁遠い》と。


このあとすぐ《縁遠くなくなる》なんて思ってもいなかった。





王都から馬車に揺られ、ワトソン領へ戻ってきた。

家に戻る途中、いつも活気ある市場に人がいない。

おかしい。





少し遠くに目をやると、煌々とした赤い炎が見える。


まさか。




「火事!!?」




市場の北側が燃えている。

飲食店が集まっているエリアだ。 

周辺の民家にも火が移っている。



「リリー、サラ、お前たちは一旦家に戻れ!!俺は現場に行く!」



トムさんは馬を走らせ現場に向かった。

私たちは不安な気持ちを抱えながら家に急いだ。



「パパ!!町で火事が!」


「リリー、サラ、おかえり。火事はセオドアが現場で指揮をとってるよ」


「兄さん!?帰ってたの!?」


「ああ。ちょうど今日戻ったんだ」


「どのぐらいの被害なの?」


「まだわからない。避難は完了しているから人的被害がないのが唯一の救いかな」


「範囲が広いと生活を立て直すのが大変ね、建物も」


「できる限りの支援を準備しているよ」


「さっきその件でママと喧嘩してたけどね」


「パーシー!!」



弟のパーシーがひょこっと顔を出した。

両親の喧嘩に巻き込まれたくなくて隠れていたのだろう。



「ママと喧嘩?」


「パパ、今回の支援に領の貯蓄全部使おうとしてママに止められてるんだ」


「「全部!?」」




リリーとサラの声が同時に響いた。

領の貯蓄からの出費は緊急事態には致し方ないとしても全部はやり過ぎだ。母の言い分はもっともだ。考えたくはないが、この後にもし何か起きたらもう支援する手立てがなくなる。《最大限の支援》と言えば聞こえはいいが、莫大なリスクだ。



「パパ、私も反対よ。リスクが大きすぎるわ」



リリーが父に意見する。

恐らく同じ事を考えているのだろう。



「・・・火事の原因がね、放火なんだ。雇用先をクビになり、今日の寝床もなければ食事もとれずに困った領民が酒場に強盗にはいったらしい。でもすぐに警備に気づかれて、焦って、手当たり次第に火をつけたんだって」



父は火事現場の方角を見て言った。



「雇用問題に取り掛かるのが遅過ぎたよ。こんな被害を出してしまった。面積が狭く農業に限度があるこの領で、雇用を確保し収益をあげるには商業しかない。スミスさん家のパン工場はあと数ヶ月先じゃないと稼働しない。だからといって、今回家を失った人にしばらく野宿しろとは言いたくないし、税金も上げたくない。出来る限りこちらで準備してあげたい。ルーシーが怒っているのも、リリーの懸念もわかっている。これは私のミスで私のわがままなんだ」



セオドアが帰ってきたら一発殴られそうだけどねと苦笑いする父の表情は、後悔と自責の念で満ちていた。



ワトソン領は治安がいいとはいえ、少なからず問題はある。


雇用問題もその一つだった。

物価が安定していて治安がよい領に人は集まってくる。

そうなると不足するのが雇用だ。


それでも父は頑張ってきたほうだと思う。

社交はさっぱりだが、領民第一で常に動いているから慕われている。


というか、もしかして、、、、



「パパ。もしかしてフレッドに家の事業を大きくしろっていったのも、領民のため?雇用先を増やしたかったから?」


「あぁ。ん?サラ、なんでそれを、、、」


「なんだ。政略結婚ってことだったのね。私は領民の雇用のためにフレッドに嫁ぐのね」


「え?あ、いや、、、それは」



今回の火事で建築業者は大忙しになり、パン工場の建設にはきっと遅れが出るだろう。


・・・この緊急事態に私の出来る事は?


父は領主として復興に奔走するだろう。

兄は次期子爵としてその補佐に回る。

母は領主の実務代行が出来る。

姉は社交で得た人脈を辿り支援を募るつもりだろう。

パーシーはまだアカデミー生だが将来的には子爵になる兄を支える人材になるために必要不可欠な時期だ。



私、、、何もない。


出来るのは家事と治癒魔法だけ。



・・・・治癒魔法?


そういえば、今日、魔法協会の前でトムさんが「割りのいい仕事は魔法絡みだ」と言っていた。


治癒魔法師は希少だ。

教会勤務の激務に比べて割に合わないとは聞いてるが、実際いくら貰えるのかは知らない。


もしかしたら結構高いかもしれない。


高くなくても教会勤務は確実に家の名誉になる。

そうしたら王家からの支援も受けやすくなるのでは?



--決めた。私、働きに出よう。




「私、治癒魔法師として王都に働きにでるわ」


「え!?サラ、何言ってるの!?」


「今回の火事で、スミスさんのパン工場建設にも多少の影響がでるでしょ?きっと工場事業が軌道に乗るまで結婚は延期だろうから、嫁ぐまで何もしないで家にいるよりどこかで雇ってもらえさえすれば多少のお金を稼げるわ」



リリーが驚いて目を見開いている。


私が治癒魔法師として教会で働きたくない事を誰より知っているからだ。



「私もワトソン領のみんなには幸せでいて欲しい。さっきパパは収益をあげるには商業しかって言ってたけど、王家からの支援だって立派な収益ではないかしら?私は治癒魔法を使える。教会勤務になって家の名誉になれば、王家に支援を要請しやすくなるんじゃないかしら」



パパは考え込んでいるようだ。


当たり前か。

私は人柱になると言ったのだ。


リリーは見るからに動揺しているし、パーシーも聡いだけあって涙目だ。



「サラ、本気なのか?」


「ええ。私に出来ることは治癒魔法だけだもの」



(デイビッド)が長くため息をつく。



「すまん、サラ、本当に・・・・」







「ちょっと待って。あなた?今の話は一体どういうことかしら?」




ドスの効いた声が響く。



「説明してくれない?私、なんで娘の結婚話を聞かされてないの?私の許可は?フレッドとデイビッドが約束した結婚ってことは、サラが望んでいるものではないってことよね?ってか私は子ども達の誰にも政略結婚なんてさせる気ないんだけど?リリーにだってさせないわ。あんな侯爵家潰してしまえばいいのよ。しかも雇用を生み出すためにフレッドに実家の事業を大きくしろって言ったの?その代わりに娘をやるって?さらに今回の件で王家の支援を得やすくするために今度は教会に娘を差し出すの?まぁーご立派だこと!!!」



「ル、ルーシー、あの・・・」



「ママ」



リリーが父の言葉に被せる。



「サラはフレッドと付き合ってないわ。あくまでフレッドとパパの約束よ。結婚話も何も知らなかったわ。昨日の夜、泣いて戸惑っていたもの」




リリーの火に油発言を受けて母は魔力を纏った殺気を放った。父の顔は青を通り越して白っぽくなっていた。



「違うんだ!サラとフレッドは昔から仲が良かったし、フレッドがサラとの結婚を強く望んでいて、フレッドならサラも幸せかと・・・」


「娘の気持ちを聞きなさいよ!!娘の気持ちを!!フレッドはいい子よ?いい子だけど!娘が好きでもない男と結婚して幸せ!?どこが!!!!それに事業を大きくしたら娘をやるってのはなんなのよ!」


「そ、それは、、、ちょうど雇用問題に取り掛かっていて、スミスさん家のパン屋は人気だし、事業が大きくなればサラを嫁がせても安心だし、雇用も増えるかと思ってつい・・・」


「つい!?つい、で娘をエサにしたの!?」


「いや、エサにしたつもりはなかったんだ!」




「あなたみたいなひよっこが!!!!私の娘を好きにしようなんて100年早いわ!!!!」



母の殺気に当てられて、父はその場で崩れ落ちた。





「すんげー腹立つ話が聞こえてきたんだけど、そこの崩れ落ちている人が今の領主な以上、報告しなきゃいけないからちょっと借りていい?」


「セオドア。俺がぶちのめすから即刻この瞬間に子爵を継げ。このクズには無理矢理サインさせよう」


ドアの所にいつのまにか兄のセオドアとトムさんが立っていた。2人とも顔が煤だらけだ。

 


母は崩れ落ちている父を一瞥して言った。



「ええ、いいわ。どうにでもして。私はサラとリリーに話があるから。2人とも?私の部屋へ」



私は今起きたあまりの出来事に呆然としていた。


リリーに抱えられ母の部屋に向かうが、頭の中がパニックで足元がフワフワしていた。


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