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小さな男の子との約束

厳かな黒門をくぐり、トムさんがパパっと入門の手続きをして、訓練場に向かう。訓練場は敷地の奥の方にあるらしい。



ここではトムさんは有名人のようだ。

みんなトムさんに必ず一礼していく。


そしてリリーをみて顔を赤くし、私をみて驚きの表情をする。


・・・いたたまれない。


トムさんとリリーはともかく、本当に私は社交をサボっていただけだから!!



ガサっ


訓練場に向かう途中、中庭に差し掛かったとき、少し遠くの木の上で何か動いた。


鳥かしら?


しばらくするとドシンという音と共に子どもの声がした。



「わぁっ!!」



姿は見えないが、痛がるような声とすすり泣く声も聞こえた気がした。


ここは子どもが普通にいるような場所ではない。


さっきトムさんに王宮の東側には使用人の住居もあると聞いた。きっとそこの子だろう。親に会いたくてこっそり来てみたけれど迷った・・・とかそんなところだろうか。


トムさんは今、後輩さんに捕まっている。

潤んだ目で熱心に話しかけているから相当トムさんを慕っていたんだろう。


少し離れたところではリリー目当てであろう方達が話しかけたそうにソワソワしている。リリーは身内にはわかる苦笑い(周りからみたら微笑み)をしているからきっと躱したいんだろう。



どうしよう。

さっきの子のことがすごく気になる。


怪我していてないといいのだけれど。


・・・よし。



「姉さんトムさん、ちょっと離れます。すぐ戻ります!」


「え?サラ?」


「おい!どこに行くんだ!!」




音がした方に駆け足で向かう。

大きな木の下、草が大人の背の丈まで生い茂っているところで金髪癖毛の男の子が泣いていた。


やはり木から落ちていたようだ。

4・5歳だろうか...膝を擦りむいている。




「ねぇ、大丈夫?」


「・・・誰!?」


「あ、、、私はサラ・ワトソン。騎士団の見学にきているの」


「騎士団に?なんで?」



あ、どうしよう...有名なイケメンを見に来ましたなんてこの子に言えないわよね、、、



「うーんそうね...昔、騎士団にいた人と王都にきたんだけど、挨拶がてら一緒に連れてきてくれたんだ」


「僕、騎士団の色んな人知ってる。誰に連れてきてもらったのか言え!」



子どもながらにめちゃくちゃ警戒心が強いようだ。


言葉は乱暴だが、しっかりしているとも言える。

ご両親の教育の賜物だろう。



「トム・アンダーソンさんよ。ここで騎士をしていたんですって。知ってるかしら?」


「え、トム!?トムが来てるの!?会いたい!」


「知ってるのね。じゃあ会いに行く前にあなたの膝をみせて?治してあげる」


「もしかして・・・治癒魔法できるの?」


「ええ、出来るわ。いいかしら?」


「見たい見たい!やって!」



トムさんの名前を出したら警戒心が薄れたのか屈託のない笑顔を向けてくれた。本来は好奇心旺盛な男の子のようだ。


よーし。それなら少し遊んじゃおう。


昔からパーシーによく強請られている治し方で私は治癒魔法をかけた。



「こうやって手をかざして〜『キレイに治れ!』」


かざした手をくるっと回すと男の子の膝の上で白いキラキラした馬が跳ねる。その馬がふわっと消えると男の子の膝の傷が治っていた。



「なにこれ!?初めて見た!めちゃくちゃカッコいい!!」


「ふふふ。これはお姉ちゃんとの秘密よ?あなたも怪我をしたのがバレちゃったら怒られちゃうでしょ?だから内緒ね。」




『---!!』



少し離れたところで誰かが誰かを探している声がした。



「もしかしてお迎えかな?お迎えの人の所にお姉ちゃんと一緒に行こう?」


「ダメ!!!お姉ちゃん先に行って!見つかったらお姉ちゃん怒られちゃうから!」


「でも迷ってるんでしょ?」


「迷ってない!ここら辺は慣れてるんだ!」


「私は怒られても大丈夫よ?」


「ダーメーなーの!行って!お願い!」


「そう、、、わかったわ」



男の子の必死な様子に、私は少し戸惑いながらもその通りにすることにした。



「バイバイ、気をつけてね」


「お姉ちゃんも。ありがとう」




元来た道を辿り、リリーとトムさんと別れたところに戻る。


なんとさっきの人探しの声は私を探してのことだったようだ。リリーの大きな瞳は涙目だし、トムさんは現役かと思うほどに指示を飛ばしまくっていた。


私が戻るとリリーが抱きついて泣き出した。

トムさんもホッとした顔をしている。


近くに待機していた騎士が控室に案内してくれた。


金髪碧眼の細身、すごいイケメンだがトムさんの気迫におされまくっているようで笑顔ではあるがあれは苦笑いだ。


申し訳なさすぎる。。。




部屋に入り、3人になったところで、案の定私はしこたま怒られた。


「もうっ!!サラ!どこ行ってたのよ!急にいなくなるし全然見つかんないし!」


「バカもん!!!!ここは野郎の巣窟なんだぞ!何かあったらどうするんだ!」



姉の過保護はいつもの事だが、トムさんまで...野郎の巣窟って。



「ご、、、ごめんなさい」



「それで?何が気になって行っちゃったのよ?」



さすが姉。

私の事をよく知っている。



「中庭の奥の方で、ガサって音がした後に何かが落ちる音がしたの。すすり泣く声も聞こえた気がしたから、誰か怪我しているのかなって気になっちゃって・・・」


「それで見に行っちゃったのね」


「サラ、それは危険だぞ。もしそれが侵入者だったらどうする?連れ去られていたかもしれないんだからな」


「そうよね、、、ごめんなさい」


「で?誰がいたの?怪我大丈夫だった?」


「えぇ。男の子がいたわ。4・5歳ぐらいの子で木から落ちて膝を擦りむいていたから治癒魔法で治したわ」



「・・・(ガタっ)」



トムさんがこれ以上ない程に目をまん丸にしている。

リリーもそんなトムさんに驚いている。


リリーがトムさんの体を揺すって問いかける。



「え?どうしたの?トムさん?」


「あ、その男の子!トムさんのこと知ってるみたいだったわ!騎士団によく来るんですって。知り合いかしら?」



まるで時が止まったかのようなトムさんだったが、



「サラ、、、よく思い出して欲しいんだが、もしかしてその子は金髪の癖毛で黄緑の目だったか?」



黄緑の目?あぁ、そういえば...



「そう!金髪の癖毛で黄緑の目だった!」



見るからにガクッと項垂れるトムさん。

ええええ!何かまずかった!?




「・・・サラ、リリー。この事は他言無用だ。絶対に誰にも話すなよ」


「どうして?」


「ど・う・し・て・も!だ!」




私とリリーは顔を合わせたが、トムさんがそう言うならそうしようと、2人で頷いた。


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