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《幻の妹》という二つ名

王都は今日も多くの人が行き交っている。



「サラ、とりあえず買い物よ、買い物!遊びましょ!」



馬車でしっかり寝た姉は元気いっぱいだ。

リリー行きつけのお店を数軒周る。

社交シーズン中にも度々来ているらしく、店員さんとも顔馴染みのようだ。


・・・それにしても気になる。


店でも、道でも、人々があからさまに私達に向かって振り返ったりコソコソ話したり好奇の目を向けてくるのだ。


社交界の華は流行を作り出す。


どの店もリリーを見てすぐに特別室に通してくれたぐらいだ。リリーが次何を買って何を身に付けるのか注目されているのだろう。


リリー自身は周りの視線を気にしていないようでルンルンで歩いている。


私は姉にコソッと話しかけた。



「姉さん?みんなに見られてるの気にならないの?」


「うーん。そうね?でも慣れたわ」


「これに慣れるなんてさすがね...」


「でも今日のみんなの注目の的はサラ、あなたよ?」


「え?どうして?」


「だって《幻の妹》だもの。でも失礼しちゃうわよね!ちゃんと存在しているのに幻なんて」


「・・・それ、トムさんも言ってたけど私のことなの!?私、王都でそんな風に言われてるの!?」


「サラ、デビュタントの時しか社交界に顔を出してないじゃない?だから《どの夜会を探しても見つからない、可憐な彼女は幻だったのではないか?》っていう話と、私の妹っていうのがくっついて『幻の妹』らしいわよ」



リリーが劇役者顔負けの芝居で教えてくれた私の二つ名。


確かにデビュタント以降、社交界に出ていない。

対外的なお付き合いは我が家の社交担当のリリーがしっかり務め上げている。


情報集めはもちろんコネクション作りもバッチリだ。

社交の目的は家、しいては領の利益。

目的は十分果たされている。


だから私が出る必要はないかと思い、社交に出ていなかったのだ。準備にお金もかかるし。


でもその行動が二つ名の由来になるなんて...

こんな事ならたまには社交に出るんだったな、と、サラは半ば無理矢理諦めてどんどん増えていく視線を受け流すことにした。


ーー-----



「団長、あの人だかりはなんでしょうか?」


「・・・強盗ではなさそうだな」



騎士団の警邏業務。


毎日王都を回っている。

今日は第五騎士団の担当だ。



「アレックス。あれリリー・ワトソンだ。こんな時期に珍しいな」


「誰だ?」


「おいおい。一応覚えておけよ。今の社交界の華だぞ」



副長のレオが団長のアレックスを諭す。


社交界の華がシーズンオフにも関わらず王都に来ているらしい。それを一目見ようと人々が集まっている。そんなところだろうか。




突然、近くで黄色い歓声が上がる。



「第五騎士団長のアレックス様だわ!」

「副長のレオ様もいらっしゃるわよ!」


「はいはーい。警邏中ですのでお控えくださーい。団長から離れてくださいねー」


「お嬢様方、差し入れは受け取れません。お持ち帰りください」




第五騎士団のメンバーは慣れた様子で団長と副長の周りに集まる人だかりを捌いていく。


さながら、VIPの護衛のようだ。


第五騎士団長、アレックス・スペンサー。

スペンサー伯爵家の嫡男で、最年少で団長に昇格した切れ者だ。


同じく、副長のレオ・グレンデール。

グレンデール侯爵家の嫡男で、アレックスとは幼馴染だ。


アレックスのほうがレオより身分は低いが、騎士団は絶対実力主義。身分逆転の上下関係は存在する。でないと、シンプルに死人が出るからというのが理由だ・・・が、未だにそれを良しとしない勢力もある。難しいところだ。


この国では基本的に嫡男が家を継ぐ。


だから騎士になるのはだいたい次男や三男。

嫡男は圧倒的に少ないのだが、アレックスの父は現伯爵であり近衛騎士団長だ。


そのアレックスの父に幼い頃からガンガンに鍛えられたアレックスとレオは、周りも止めない程に自然と騎士になる道を選んだのだ。


彼らはやたらと見目がいい。


アレックスは黒髪で藍色の目、がたいのいい長身。

レオは金髪に青色の目で細身の長身。


さらに2人とも跡取り、未婚、婚約者なし。


そんな2人が並んでいれば目立つのだ。

警邏にならないと他の騎士団から揶揄されているぐらいに。





「あれ《幻の妹》じゃないか?リリー・ワトソンの隣の子!」


「え、噂の?うわ!俺、初めて見た!」


団員の話し声が聞こえて、アレックスとレオは人だかりに目を向けた。囲まれて身動きが取れなくなっている令嬢2人の帽子となんだか既視感のある護衛の背中がみえる。



《幻の妹》・・・その噂なら聞いたことがある。


デビュタント以来一切姿を現さない社交界の華の妹。

実は本当にいないのでは?と言われてたがちゃんと存在していたのか...


その時、やたらよく通る2人の護衛の声が響いた。


既視感の正体に納得した。


あれはかつての自分たちの鬼教官だ。



「皆さま、申し訳ないが通して頂けますか。これから向かうところがありまして・・・おや?アレックスにレオじゃないか。お前達が今日の警邏か!」



彼の声にリリーと幻の妹目当てだった大勢の御令嬢や子息も騎士団に気付く。


令嬢達がわぁっとこちらに移動してくる。

それに巻き込まれた子息同士でくだらない喧嘩も始まった。



・・・やられた。


どうやら身代わりにされたようだ。


ーー-----


「2人とも!この隙に行くぞ!」


「そうね!トムさん!行くわよ、サラ!」


「えええ!?これって大丈夫なの?」


「あいつらは俺の昔の教え子でな。大丈夫かは知らん!自分達でどうにかする」


「そうね!なんかいっぱいいたし、どうにかするわよね!」


「(この2人、なぜか思考回路似てるのよね...)」



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