平凡な日々
早朝の澄んだ空気が好きだ。
小高い丘の上に領主の館としては小さめの....もはや普通の民家と同じ大きさの...ワトソン邸で、私はいつものように1番に起きた。
サラ・ワトソン 17歳。
ワトソン子爵領の領主の次女だ。
子爵令嬢がなぜ侍女を待たずに早起きかって?
我が家が貧乏子爵家だから!
いや、領は豊かなんです。
気候はいいし、産業も安定している。
ただ領主(父さん)お金の使い方が領民に振り切ってるだけ。
我が家はメイドも侍女もおらず、基本的に家族で家事を行なっている。両親と兄姉弟の6人家族だ。父は仕事で忙しく母は父の仕事を領主代行ばりに手伝っているのと姉の家事センスが壊滅的なので、必然的に私が主に動いている。ちなみに兄は王宮勤務で出張の多い部署にいてほとんど帰ってこない。弟はよく手伝ってくれる。
こんな事を話すと「苦労している」と言われるが、元来の性格なのか、まったくもって苦ではない。
それにワトソン領は治安も良く人がいい。
「サラ!今日の分のパン持ってきたぞ」
洗濯物を手に外に出たところにちょうど幼馴染のパン屋のフレッドが配達に来てくれた。
「フレッド、今日もありがとう。たまには私取りに行くわよ?丘をおりてすぐなんだから」
「すぐだからこそ俺が持ってくるんだ。それに焼き立てのタイミングわからないだろ?」
「それは...匂いと勘でなんとか!」
「なんとかしようとするなよ。腐っても子爵令嬢だろ」
「腐ってもとは何よ!」
こんな言い争いも日常茶飯事だ。
幼い頃は私がパンを買いに行っていたのだが、数年前からフレッドが毎朝届けてくれている。
「パンはこれからも届けるから。町に下りるなよ」
「なんで?下りるわよ?だって今日は孤児院で読み書きを教える日だもの」
「あ、今日だったか!ってことは、ローズばあさんの花屋にも寄るよな?しまった、仕事が...」
「毎回毎回ついて来なくてもいいわよ。この領は治安もいいし、町のみんなは優しいし、道はわかるし」
「誰かに声かけられたらどうするんだ」
「挨拶を返せばいいんじゃない?」
「そういうことじゃないんだよ...とにかく俺がついていくから迎えに来るまで家出るなよ!いいな!」
フレッドはバタバタと家に帰ってしまった。
「なによ、あれ。子ども扱いして」
「サラに虫がつくのが嫌なのよー」
「姉さん、おはよう。虫なら退治できるわよ?」
「そういう虫じゃないのよ、私のかわい子ちゃん」
朝から色気という色気が出まくっている姉。
婚約の申し出と釣書が毎日山のようにくる。
...本当に、文字通り山のように。
「すぐ朝ごはんにするから姉さんは着替えて!また夜着のままじゃない!」
「んんんー。わかったーー。」
「それわかってない時の返事!もう、一緒に着替えるから行くよ!」
私の平穏な日々。
大好きな家族と大好きな場所と過ごす幸せな時間。
そんな日々が自分の行動がきっかけで崩れるなんて思ってもみなかった。