ゲスな企みが明らかになっても王様はしらばっくれて僕を殺そうとしますが、味方になってくれる人はたくさんいたみたいです
宮殿の前に集った者すべての眼差しが、王様に注がれる。
王様は、うろたえた。
「何を言うか……亡き妻に生き写しの我が娘に、余が何をするというのだ!」
明らかに、しらばっくれている。
ハマさんは、怒り狂って叫んだ。
「サイレアが滅んだあと、お前はその王子を連れて帰ったが、身の回りの世話をしていた美しい女にも目をつけた。戦の傷が癒えた俺が、それを知ってジュダイヤに来たときは、その女は女の子を産んで死んでいた。俺は馬を扱うサイレアの技を頼りに、馬丁としてこの城に入り込んだのよ。俺の娘が母親そっくりに、そして俺の娘らしくお転婆に育つのを遠くから見るのは辛かったがな。だが、思いもよらなかったぜ。王女として育てた娘を家来に嫁がせ、その後にこっそり事実を明かして、自分の女にしようとしているとは……」
とても聞いていられなかった。
腹立たしさを通り越して、吐き気がする。
シャハロも同じだったろう。
顔を真っ赤にするどころか、青ざめていた。
でも、ハマさんは改めて、その場のみんなを見渡した。
「まあ、王様を許してやってくれ。どこの国でも、それなりに身分の高い殿方にはよくあることだ」
そういうものなんだろうか。
僕は、納得できない。
ハマさんも、本当に言いたいことは、その先にあったみたいだった。
「だが、親衛隊の若いの。俺の娘とその恋人は、放してやってくれ」
ヨファはもう、いつもの余裕を取り戻していた。
「たいした技と度胸をお持ちだ。しかし……」
もったいをつけて、辺りを見渡す。
「サイレアの勇者だという名乗りも、シャハローミ様の出自も、畏れ多くも国王陛下の心の内も、全てあなたがおっしゃっているだけのこと」
なかなかに、したたかだった。
宮殿の周りは、囁きとざわめきに包まれる。
ヨファは、すっかりうろたえている国王……ヘイリオルデを見上げた。
「根も葉もない噂は、どこにでも、どこからでも流れるものです。人の口に戸は立てられぬもの、いずれ城の外へも流れ出ましょう」
そのひと言に、生まれては広がる囁き声の波は、ぴたりと止んだ。
ヨファはそこで、国王の立つバルコニーを背に、ハマさんを見据えて言い切った。
「ならば、この場で、噂の源を断つが肝要。陛下がどのように振る舞われたかが、事の真偽を定めるのです」
その言葉が効いたらしい。
ヨファの後ろから、国王は穏やかに命じた。
「そなたが正義と信じることをせよ」
国王の言葉を受けて、ヨファが親衛隊を動かす。
「シャハローミ様に狼藉を働いた不逞の輩を、この場で成敗せよ!」
つまり、嘘を本当のこととして、力ずくで押し通そうというわけだ。
親衛隊が、一斉に剣を振り上げた。
ハマさんがつぶやく。
「腹立つのを通り越して……気の毒な連中だな」
そう言って身構えたそばから、次々に刃が降り下ろされる。
ハマさんは動じることなく、紙一重で見切っていく。
でも、後ろからの一撃は、見えるはずもない。
騎士に羽交い絞めにされたまま、シャハロが叫んだ。
「危ない……お父様!」
何のためらいもないのは、血のつながりのせいだろうか。
それとも、たくさんの兄や姉に向けられた冷たい目の中で、寂しい思いをしてきたからだろうか。
どちらにしても、シャハロが心配するまでもない。
ハマさんは、かわした剣を巧みに奪い取ると、凄まじい勢いで、騎士たちの剣を弾き飛ばす。
腕を押さえてうずくまるのを見下ろして、ハマさんは言い捨てた。
「お前らごときを、娘の前で殺したくはないからな」
その間、僕はというと。
……サイレアの勇者だったら、どう動く?
……この騎士たちだったら、どうする?
ハマさんに習ったとおり、剣を構える勢いで騎士たちを怯えさせ、剣の動きを先読みしては、それをかいくぐっていた。
でも、鍛えてもいない腕では、そのくらいしかできない。
騎士たちを疲れさせることはできても、倒すことまではできなかった。
なかなか決着がつかないからだろう、ヨファが割り込んできた。
「では、雪辱戦と参りましょうか。失われたサイレアの王子を騙る、ナレイ君?」
そう言うなり、僕に斬りかかってきた。
退いて避けようにも、騎士たちは、囲みを狭めてくる。
しまいには、地面に伏せて避けるしかなかった。
あの、丁寧だけどいやらしい言葉が、高笑いと共に、頭の上から投げつけられる。
「おやおや、さっき見せてくれた奥義はどうしました? その気になれば、私を真っ二つにできるんでしょう?」
僕は尻餅をついたまま、突きつけられる剣の先を見つめるしかなかった。
騎士に動きを封じられたシャハロが、ハマさんに助けを求める。
「お父様! ナレイを! ナレイを助けて!」
でも騎士たちを倒したばかりのハマさんは動かない。
「俺の娘なら、聞こえるはずだ……この声が」
確かに、ハマさんは耳が鋭い。
この城の中では、「地獄耳の処刑人」ナハマンと呼ばれていたくらいだ。
でも、聞き逃さないのは、自分への悪口だけではなかったらしい。
「え……?」
シャハロは目を閉じる。
そういえば、周りから、静かなざわめきが沸き起こっていた。
ハマさんは、娘に説いて聞かせる。
「誰が、何のために、これだけの見物人を集めたと思う?」
「まさか……」
シャハロは、騎士たちに囲まれたヨファと、目の前の父親とを見比べる。
ハマさんは、自信たっぷりに頷いた。
「あのヨファめ、貴族も兵士も使用人も構わずかき集めて、ナレイを晒し者にしようとしたんだろう。だが、その使用人たちで、俺を知らんものはない……『地獄耳の処刑人』ナハマンをな」
「じゃあ、あの声は……」
シャハロは、後ろから腕を抱え上げている騎士を見上げながら、父親に尋ねる。
ハマさんの四角い顔に、不敵な笑みが浮かんだ。
「あとは、ナレイ次第だ。今だけじゃない。今までなにをしてきたか、これで試される」
僕が……してきたこと?
シャハロの身体が、微かに震えはじめる。
でも、顔を歪めているのは、後ろにいる騎士のほうだった。
いい人ぶっていた王様の企みが明らかになりました。
シャハロが怯えていた噂は、本当だったのです。
それでも、偉きゃ黒でも白になるのは世の不条理。
ナレイ君はピンチに陥りますが、彼が頑張ってきたのを見ている人は、ちゃんといたようです。
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完結まで、あと一息です!




