王様にお姫様との結婚を認めてもらいましたが、僕は別に逆タマを狙っていたわけじゃありません
ヨファは、その場に膝をついて崩れ落ちた。
だが、その口は堅く閉ざされたままだった。
自分から、負けを認めようとはしない。
あの、偉そうだけど自信たっぷりだったヨファとは大違いだ。
その姿は格好悪かったけど、気持ちを考えてみると、痛々しくて見ていられなかった。
バルコニーの上からそれを見ていたシャハロが、声をかけた。
「ヨフアハン、あなたのその気持ち、嬉しく思います。しかし……」
そこには、敗れたヨファへの憐れみがあった。
でも、負けを認めるか死ぬかを選ばせたのもシャハロだった。
王様が言葉を遮ったのも、そのせいだろう。
「ならん。敗れた者には、何も与えてはならん。それはかえって、誇りを傷つけることだ」
その上で、王様は僕に声をかけた。
ついでにというのは今までにもあったけど、ご自分からというのは、これが初めてだ。
「見事であった、ナレイバウス。そなたは自らの力で、己が何者かを証してみせたのだ」
何のことか、さっぱり分からなかった。
ただ、はっきりしているのは、僕について僕がしらないことを、王様が知っているということだ。
驚いたのは、僕だけじゃなかった。
シャハロが、険しい表情で王様を問い詰める。
「父上、ナレイは……ナレイは何者なのですか? なぜ、それを今まで隠していらっしゃったのです?」
欧様はここで、娘への満面の笑顔を浮かべた。
おもむろに、答えてみせる。
「ナレイバウスが本当はサイレアの生まれであることは、すでに教えた通りだ。だが、敢えてこの手で引き取ったのには、わけがある」
そこで見下ろしたのは、王様を見上げて立ち尽くす僕と、その前にうずくまっているヨファだった。
そのどちらにも言い聞かせるように、王様は、僕が何者であるかを語った。
「育ちはどうあれ、隠せぬ生まれというものはあるようだな。戦いの技に秀で、武功を成し遂げたヨフアハンを杖一本で破る……余が滅ぼしたサイレアの、王族でなければ成し得ぬことだ」
僕が……サイレアの王族?
決闘場を取り巻く一同の中に、ざわめきが広がる。
それが抑えきれないくらいに高まったところで、王様は高らかな声で言い渡した。
「ジュダイヤ国王として、ヘイリオルデがここに明らかにする。かつて余がサイレアより連れ帰ったナレイバウスは、今は無き王家の忘れ形見である!」
それは、僕がサイレアの王子だったということだ。
あまりにも出来過ぎた話で、にわかには信じられなかった。
でも、シャハロは潤んだ目で僕を見つめている。
僕はその眼差しを受け止めるしかなかった。
ヨファはというと、虚ろな目で王様を見上げていた。
その王様は、なおも語り続ける。
「ジュダイヤは他国を征服しても、全てを滅ぼしはしない。見たであろう、敗れた者に対するナレイバウスの慈悲を!」
そこで、わっと僕の名前を呼んだ人たちがいた。
たぶん、それは僕の部下たちのような人だったろう。
つまり、普通の人たちだ。
そんな騒ぎの中で、王様は毅然として言い渡した。
「余はサイレア王家の心と技を継ぐ者として、ナレイバウスを我が娘シャハローミと娶せ、貴族に叙するものとする……異存はあるまい」
最後の言葉は、明らかにヨファへ向けられたものだった。
僕の心はというと、もう決まっていた。
「お受けいたしかねます」
バルコニーに背を向けて、僕は歩きだす。
シャハロが叫んだ。
「ナレイ! どうして!」
僕は振り向いて、声を限りに告げた。
「許してほしい、シャハロ。僕は、君のことが大好きだ。この命を捨ててもいいくらい……。でも、自分がどこの誰か分かった以上、もう、ここにはいられない」
今、初めて分かったのだ。
どうして、僕が遠くを見ていたのか。
だが、シャハロは聞かなかった。
「でも、サイレアはもう、どこにもないわ! サイレアはもう、ジュダイヤなの! それなら、ここにいても同じじゃない!」
それは、違う。
首を横に振るしかなかった。
「僕の居場所は、たぶん、ジュダイヤの外のどこかにある。これから、そこを探しにいくつもりだ。死ぬまで見つからないかもしれないけど、もし、僕の国が見つかったら……」
シャハロをまっすぐ見つめて、声を限りに叫ぶ。
「君を、迎えに戻る!」
そのまま背を向けて駆け出すナレイを見て、貴族たちが立ち上がった。
バルコニーの端の国王を、追い詰めるように取り囲む。
たぶん、僕が無礼者だとか、ひっ捕らえろとか言っているのだろう。
でも、王様は、そんなことは気にもしていないかのように言い放った。
「行かせてやるがよい。この国を滅ぼそうというわけではないのだから」
その視線は、すぐそばにいるシャハロに注がれる。
これで満足だろうとでも言うかのように。
でも、それは、シャハロから尊敬のまなざしで応えられることはなかった。
「ナレイ! 行かないで! 私も連れていって!」
貴族たちを押しのけて、階段を駆け降りる。
他の王子さまと王女さまが黙って見送る中、身の回りのお世話をする役人や召使たちが慌ててシャハロの後を追った。
でも、王様は厳しい声で止める。
「捨ておけと言ったであろう!」
決闘には勝ちましたが、王様の押しで決着がついても意味がありません。
シャハロの気持ちには答えられますが、ナレイ君にとって、それは望んだ生き方ではないようです。
心のままに生きようとすれば、それなりの代償を支払わなければなりませんが、王様はあっさり許してくれました。
どうやら、何かウラがありそうですが……。
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