シャハロが僕と結婚すると言いだしたかと思うと、いきなり脱ぎ始めて下着姿になり、しかも最後の一枚に手をかけて大ピンチになりました
バルコニーの下も、大騒ぎになった。
たくさんの褒美で舞い上がったところに意外な出来事が起こって、兵士たちが一気に盛り上がったのだ。
「玉の輿じゃねえか、ナレイ!」
「いや、王様が許さねえだろう」
「連れて逃げちまえ!」
でも、王様はただ、立ち尽くすばかりだった。
先に、ヨファのほうが我に返る。
まるで自分が王様になったかのように、バルコニーの上から騎士たちへの命令を下した。
「兵たちを鎮めよ!」
だが、騎士たちの数は、はるかに少ない。
騒ぐ兵士たちをなだめることなど、できるわけがなかった。
ヨファは、苛立たしげに叫んだ。
「何をしているか!」
バルコニーの手すりを掴んで、ひらりと飛び降りる。
たまたまその場にいた兵士に向かって、剣をつきつけた。
「黙れ」
他の騎士たちも、それに倣う。
鞘から引き抜かれた刃が、ずらりと並ぶ。
たちまち、兵士たちが喚きだした。
「おい、味方に剣を向けるのか?」
「面白い、斬ってみろコラ!」
そう言いながらも、兵士たちは背中合わせに密集する。
騎士たちは、一列に並んで前進した。
剣の切っ先が、ひと突きで身体を貫く間合いまで近づく。
それでも、兵士たちは、まだ鎮まらない。
「何だよ、生きて帰れたと思ったらコレか?」
「殺せるもんなら殺してみろ!」
それぞれが、それぞれの武器を構えて騎士たちと向き合う。
とうとう、騎士たちの剣が高々と振り上げられた。
もう、放っておけない。
僕は立ち上がって、貴族たちと庶民の兵士たちの間に飛び出した。
心の輪を広げて、その全員を取り込む。
「おやめください!」
みんなを眺め渡して、僕は叫んだ。
騎士たちも、兵士たちも、全員が電光に打たれたように立ち止まる。
でも、ヨファの剣は止まらなかった。
その刃が、兵士の首を刎ねにかかる。
「どいて!」
飛び込むように、兵士の身代わりに立つ。
高く昇った太陽の光を、閃く刃が照り返す。
それが僕の首筋に迫ったとき、バルコニーの上でシャハロが叫んだ。
「剣を引きなさい!」
青空に、白い布が舞った。
それがふわりと地面に落ちたとき、息を呑んだのは僕だけじゃなかった。
その場にいる者すべてが、静まり返る。
日よけの上着を脱ぎ捨てたシャハロが、その下の服に手をかけていた。
……助かった、じゃない!
いつの間にか宙に舞い上がっていたヨファの剣が、耳元をかすめて落ちてきた。
気が遠くなって、声だけが遠くから聞える。
「なりません、シャハローミ様!」
「騎士たちを下げなさい」
僕が目を覚ましたのは、怒り狂う王様の声が聞こえたときだった。
「ならぬ、ならぬ、シャハローミ!」
それを合図に、耳元を駆け過ぎていった者がいた。
身体を起こしてみると、戦場でシャハロの使いをしていた、あの背の低い男だった。
脚の力は凄まじく、バルコニーの手すりまで、高々と跳び上がる。
だが、もう遅かった。
使いの男の姿に隠れて、シャハロの身体は見えない。
バルコニーの下には、服がすっかり脱ぎ捨てられていた。
王様に告げる声だけが聞こえた。
「お願いを聞いてくださるなら」
下着姿のシャハロは、胸元の布切れを外しにかかったようだった。
国王が手を上げると、使いは瞬く間に姿を消す。
薄い胸を隠したシャハロが、最後の一枚に手をかけていた。
僕は、いつになく声を荒らげる。
「見るな!」
そこで、我に返った兵士たちは平伏した。
バルコニーの上の王子さまや王女様たちは、身じろぎひとつしない。
立ち姿こそ行儀はいいが、腹の中では末の妹を笑っていることだろう。
もう後のないシャハロは、誰が何をしようと、何を思っていようと構うことはなかった。
最後の要求を口にする。
「では、ナレイとの結婚をお許しください」
……やっぱり!
僕と同じように、王様も息を呑んだのだろう。
返事はない。
そこへ、シャハロの頭上から降ってきたものがあった。
ひと張りの、大きな袋だ。
「ご無礼を」
のっそりとした動きで、顔も身体も四角い男が、その背後から近づいた。
……ハマさん?
それは、「地獄耳の処刑人」ナハマンだった。
暴れるシャハロを、逞しい腕が袋に詰める。
縄で簀巻きにしたところで、バルコニーの上でも下でも大騒動が始まった。
兵士たちは、卑しい出自の割に自制が利いていた。
「見なかったな、俺たちゃ何にも見なかった」
「意外に小さかったな、姫様の……」
「それ以上しゃべるな、口が曲がって目が潰れるぞ」
聞かれてはまずいつぶやきを、大声でごまかす。
むしろ、己を失っていたのは貴族たちだった。
「何と破廉恥な」
「追放です、追放!」
騒ぎを尻目に、ハマさんは暴れるシャハロをかついで、バルコニーから降りようとしていた。
その行く手を阻んだのは、駆け上がってきた衛兵たちだった。
横一列に並んで突きつけた剣先を見渡したハマさんは、怯む様子もない。
王様が無言で首を横に振ると、衛兵たちは剣を引く。
ゆっくりとハマに歩み寄った王様に、袋の中で観念したらしいシャハロが預けられた。
階段を下りていくハマさんに、衛兵たちは縮み上がって道を空ける。
袋に詰められたシャハロを抱えた王様は、バルコニーの上から言い渡した。
「シャハローミに謹慎を命じる」
貴族たちも、身分低い兵士たちも、いっぺんに頭を下げた。
やっとの思いで立ち上がった僕の手を、誰かが掴む。
それは、ひとり悠々と歩くハマさんだった。
シャハロを放っておけなくて、僕はじたばた暴れる。
でも、そんなことには構わないのがハマさんだ。
僕を引きずるようにして、宮殿を後にする。
振り向くと、地面から剣を引き抜いたヨファが僕を睨みつけていた。
シャハロの結婚宣言で、ナレイは幸せの絶頂に……とはいかないようです。
幽閉されたシャハロを救い出せるでしょうか?
満座の中で恥をかかされたヨファが、果たして黙っているでしょうか?
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