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腹が減ってしかたがありませんでしたが、身体を張ってライバルの白馬を守りました

 でも、ジュダイヤからの助けは来なかった。

 1日経ち、2日経っても。

 そのうち、腹が減って、何日経ったか数えるのもいやになってきた。

 意外にも、その辺りは空きっ腹に慣れているはずの庶民のほうがもろかった。

 むしろ、空腹など知らない貴族の子弟たちのほうが、見栄っ張りな分、根性が座っていたといい。

 わざわざ僕たちの持ち場にやってきては、地べたに横たわる庶民の兵士たちを見下ろして、口元を歪めて通り過ぎていく。

 その、冷ややかな眼差しが向けられるのは、僕も例外じゃなかった。

 部下の新兵の誰かが、空を見上げたままで呻き声を上げる。


「見ろよ……あいつら、ホントは声も出ねえんだぜ」


 そのときだった。

 弱々しかったけど、確かに集合を告げる角笛の音が響き渡った。

 別のところで横になった新兵が、微かな声で笑った。


「何をやらそうっていうんだか……今さら」


 もういい。

 しゃべると、それだけ力が抜ける。

 何も言うな。


 そう言おうと思ったけど、息が漏れるばかりで言葉にならなかった。

 そこで、またひとり、僕の耳元に立った男がいた。


「幸運の妖精は、いつ応えてくれるんでしょうか?」


 もちろん、こんな皮肉を言うのはヨファしかいない。

 僕もどうにか、腹の底から絞り出すような声で返事をする。


「応えないってことは……まだ、望みはあるってことですよ」


 乾いた笑いの後、ヨファはあちこちに横たわった庶民の新兵たちを見渡した。

 いい格好をしても空腹はごまかせないのか、かすれた声で告げる。


「食糧の配給があるようですよ」


 僕の大見得より分かりやすい。

 たちまちのうちに、庶民の兵士たちが跳ね起きる。

 こんなことで、別にヨファと張り合うつもりはない

 悔しい気はしたけど、食う方が先だった。

 命あっての物種だ。

 僕はゆっくりと、しかし胸を張って歩く。

 歩きかたひとつで、強く見えれば、弱くも見える。

 それが、ハマさんの教えだった。

 僕を横目に見ながら、ヨファは皮肉交じりにつぶやく。 


「そんな元気が残っていたんですね」 


 どうやら、買いかぶってくれたようだ。


「驚かれましたか?」


 僕も笑ってみせる。

 その後ろをちらっと見ると、部下の新兵たちが互いに肩を支え合って、右に左によろめきながら歩いていた。

 そんなふうにして、僕たちはやっと、要塞中央の広場にたどりついた。

 そこには、同じように飢えた兵士たちの群れがあった。

 だが、そこには干した肉も魚も、スープを煮たてた鍋もなかった。

 ただ、並んだ騎兵たちの前に、すっかりやせ細った馬が何頭もつながれているばかりだった。

 その真ん中には、ヨファの白馬が見える。

 白馬は鼻と口から力なく息をついて、主人を見つめる。

 潤んだ目を見つめながら、ヨファはナレイに囁いた。


「できない約束はしないでほしいものです」


 そう言うなり、腰の剣に手をかけた。

 全身の力を振り絞るようにして、白馬に大股で歩み寄る。

 騎兵たちも、一斉に剣を引き抜いた。

 何が起ころうとしているのか、ジュダイヤの兵士たちは察したらしい。

 わっと歓声が上がった。

 中には、安心から、あるいは騎兵たちに同情して泣きだす人もいる。

 でも、ナレイは叫んだ。


「やめてください!」


 きょとんとした顔の白馬めがけて剣を振り上げた、ヨファの腰にしがみつく。

 今にも馬を斬り殺そうとしていた、その手がゆっくりと下ろされた。

 声は震えていたけど、言葉ははっきりしていた。


「離れなさい……仲間たちが飢えてもいいんですか?」


 たちまちのうちに、僕への轟轟たる非難が沸き起こった。


「引っ込め!」

「食うものがねえんだよ!」

「助けなんか来ねえじゃねえか!」


 ここまで言われると、腹が減ったのも分からなくなる。

 それでも、僕は白馬を背にして、両手を大きく広げた。


「それなら、僕を殺してください……」


 もちろん、そんなつもりはない。

 身体が勝手に動いたのだ。

 辺りは静まり返り、ヨファが少しあとずさったように見えた。

 今だ!

 僕は言葉を続ける。


「お気持ち、よく分かります。僕もずっと、街の中や遠くの国から来た馬を牽いてきましたから。とっても、大事にされてました。だから、どの馬も、きれいな眼で……。この馬、殺されかかっても、そんな眼をしていました。信じてるんです、飼ってる人や乗っている人を。だから……」


 いつの間にか、胸が痛くなって、目から涙があふれていた。

 ヨファの後ろから、すすり泣きが聞こえてくる。

 やがて、さっきとは真逆の声が上がりはじめた。


「可哀想じゃねえか!」

「助けてやれ!」

「もうちょっと待ってやろうぜ、妖精さんをよお!」


 掌を返した兵士たちに、ヨファは振り向きもしない。

 苦笑いして肩をすくめると、騎兵たちに向けて顎をしゃくった。

 剣は収められ、命拾いした痩せ馬たちは厩へと引かれていく。

 空きっ腹を抱えた兵士たちは、ぞろぞろとその場を去っていった。

 その場に残されたのは、僕とヨファと白馬だけだった。

 ヨファが近づくと、白馬はその鼻を摺り寄せてくる。。

 そのたてがみを撫でながら、ヨファは面白くもなさそうにつぶやいた。

「では、呼んできてもらいましょうか。その妖精さんを」

嘘もハッタリもなく、熱い心で人ならぬ馬の代わりに命を張ったナレイ君。

また株を上げましたが……。

ピンチは続きます。

さあ、どうやって切り抜ければいいのでしょうか。

先が気になる方は、どうぞ応援してください。

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