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いくらなんでも話が大きすぎて、やっぱり見たこともない伝説の勇者なんてものに僕はなれそうもありません

 実は僕の生まれ故郷だったサイレアには、伝説の勇者がいたらしい。

 ハマさんは、それをまるで自分のことのように胸を張って語る。


「弱きを助け、強気を挫き、国中の尊敬を集めていたのさ」


 はあ、とだけ答えると、ムキになって言い返してくる。


「周りの国じゃあ洞窟の奥や古い神殿を旅して、そこに巣食う怪物を倒してきたんだ」


 なんか、話がいきなり嘘っぽくなってきた。

 確かに僕は、城の中のことしか知らない。

 でも、これはいくらなんでも……。

 僕のシラケた気持ちが伝わったのか、ハマさんはさらに勢い込んだ。


「強いだけじゃねえ。女にモテた。行く先々でいろんな女と恋に落ちてな……」


 そんなおとぎ話がほんの20年ほど前までは、身近な噂話として聞こえてきたものらしい。

 それが、今の王様の即位でジュダイヤが勢いづくと、あっというまに忘れられてしまったのだった。

 もちろん、僕はそんな話を聞いたことがない。


「じゃあ、その勇者はどうなったんですか?」

「もちろん、戦ったのさ。サイレアを滅ぼされないように……」


 ハマさんは、悔しそうだった。

 たぶん、そこは多勢に無勢というものだったろう。

 それは、続く話からも察しがついた。


「王都の城はあっさりと陥落した。勇者も、人前から姿を消したよ……生き死にも分からないまま」


 ハマさんは、僕がその勇者になりすませと言うのだった。

 サイレアに生まれはしても、サイレアのことを何も知らない僕に。


「そんな、見たこともない人に」


 ましてや、伝説の勇者だ。

 でも、ハマさんはきっぱりと言い切った。


「なれる」


 その理屈は、こうだった。


「見たこともねえからこそ、お前は自由に、その勇者を思い描けるはずだ。下手に知ったらただのモノマネになっちまう」


「でも、僕は馬を牽くしか能がないし、気も小さいし、城の外のことなんか何も知らないし……」


 尻込みする僕をの言い分を、ハマさんは一蹴りで粉砕した。


「そう思い込んでるだけだ、お前が自分で」


 見るも無残に殴られた顔が、不気味な笑いかたをする。

 勇者に倒された怪物も、きっとこんなんだったんだろう。


「そんなお前が、よく国境まで逃げられたな」


 その皮肉には、ムッときた。


「教えてくれた通りに……」


 でも、ハマさんは言いたいことだけを一方的にまくしたてる。


「やってるだけだったら、お前、今ごろ姫様にも愛想つかされて、磔にでもなってたろうよ。お前があの若様に預けられたってのは、姫様が助けてくれたってことだろ?」


 黙ってうなずくしかなかった。

 それは嬉しかったけど、そう言われると情けない。

 でも、なぜかハマさんは、満足そうに言った。


「それは、お前が幼馴染だからだってだけじゃねえ。身を投げ出して守るだけのモンがあるからだ」

「……何ですか? それは」


 僕は思わず、身を乗り出した。

 ハマさんは、もっともらしく言った。


「分からん」


 がっくりきた。

 だったら何も言わないでほしい。

 そこでまた、ハマさんの説教が始まった。


「当のお前にわからんものが、何で俺に分かる?」

「じゃあ、どうすればいいんですか?」


 ブスッとして答えると、ハマさんは何でもないというふうに答えた。


「自分で探すんだよ。できることは、何でもかんでもやってみることだ」


 ムチャクチャな理屈だった。


「だから……勇者にもなりすましてみろってことですか?」


 ため息混じりで答えると、ハマさんはいかにも楽しそうに、声を上げて笑った。


「そうだ……お前しかないものを見つけるために」


 まだ、納得がいかなかった。


「なったフリだけで、そんなことができるなんて」


 ぼやいたところで、混ぜっ返された。


「じゃあ、いっそのこと、なってみるか? その勇者に」

「無理です、無理!」


 馬の轡を取るのがやっとの使用人なのだ、僕は。

 ハマさんは、また笑った。


「なったフリと、なりすますのはワケが違う」

「分かりません、僕には」


 すっかり頭がこんがらがってしまった僕をなだめるように、ハマさんは言った。


「お前にしかないものが見つかったとき、それが分かるだろうさ……」

「どういうものなんですか、それは……例えば」


 そんなものが本当にあるんなら、はっきりとでなくてもいいから、知りたかった。

 でも、ハマさんの言い方は、ものすごく周りくどかった。


「そいつはたぶん、にっちもさっちもいかなくなって死に物狂いになると、お前にとんでもねえ働きをさせる何かだ」

「そんなこと、僕には……」


 何かをした覚えはない。

 どっちかというと、助けられてばかりだ。

 あの路地裏では、馬に。

 国境では、ヨファに。

 お城では、シャハロに。

 でも、立ち上がったハマさんは、小屋の扉に手をかけると、背中でぼそりと言った。


「できるさ。姫様とふたりでやってみせた、あの猿芝居みたいにな」


 芝居はしたけど、サルは余計だ。

 僕だって、あのときは無我夢中だったのだ。

 シャハロがお姫様だなんてたぶん、誰も信じていなかっただろう。

 でも、もし、本当だと思われていたら?

 隣の国に連れて行かれれば、少なくともジュダイヤからは出られる。

 その一方、お城への道中で、人質にされるかもしれなかったのだ。

 とっさに、愚かな百姓男をやってみせるしかなかった。


「あ……」


 ハマさんが出ていってから、気づいた。

 なりすますっていうのは、こういうことなのかもしれない。 

いきなり大風呂敷のハマさん。

見たこともない伝説の勇者なんていう、とんでもないものになりすませとは。

さあ、このハードミッション、ナレイ君はどうこなすのか。

興味のある方は、どうぞ応援してください。

もしかすると、あなたの明日が変わるかも!

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