表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/49

姫様をかどわかして処刑を控えた使用人の分際で、キレた王様に啖呵を切ってみせます

 地下から引きずり出されて、城の廊下をどれほど歩き回らされただろうか。

 後ろ手に縛られたままで、僕は、さっきみたいな冷たくて固い石の床の上に放り出された。

 でも、牢屋なんかよりはずっと広くて、壁の高いところにある窓からは、外の光が差し込んでいる。

 だから、さっきと違って、僕を冷ややかに見下ろす人たちの顔が見えた。

 さっきみたいな親衛隊の鎧をまとった人もいるけど、ほとんどの人はすっきりした身なりをして、揃いの長いマントに身を包んでいる。

 みんな、きれいな顔をしていた。

 その中にいた見覚えのある男が、もったいぶって話しかけてきた。


「あのまま放っておいても差し支えなかったのですがね……使用人風情に手間をかけることもないのですから」


 鎧は着けていない。

 親衛隊の制服らしいマントを翻して、歩み寄ってくる。

 間違いない。

 あのヨファとかいう、シャハロの婚約者だった。

 僕が床に転がされているのはたぶん、こいつの指図だ。

 でも、僕は食ってかかる気なんかなかった。

 もうすぐ殺されるって分かっているのに、そんなことで張り合っても仕方がない。

 それよりも、どうせ死ぬんなら、それまでに起こること全てに納得したかったのだ。


「どなたですか? そこまでして僕を会わせなくちゃいけないのは」


 返事はなかった。

 使用人風情に答えてもらえるような話じゃなかったらしい。

 その代わり、親衛隊たちは揃って、いっぺんに姿勢や服を整えて直立した。

 部屋の奥は扉があって、その両脇にはマントを着けた若い男が控えている。

 その手で開かれた扉の向こうから現れたのは、髪に白いものの混じった中年の男だった。

 ヨファがひざまずくと、親衛隊たちは一斉に、それに倣う。

 男は、それに目もくれず、黒光りのする杖を手にして、僕の前に歩み寄った。

 部屋中に響き渡るほどの声で怒鳴りつける。


「なぜ逃げたか! 何が不満じゃ!」


 シャハロを連れ出したことを言っているんだろう。

 でも、不満がどうとか、そういうことじゃない。

 だいたい、この人は誰なんだろうか。

 どう答えたらいいのか、何をしたら納得してもらえるのか、見当もつかない。

 黙ったままでいると、男はひたすら僕を罵り続けた。


「あの時、本当ならお前は死んでおったのじゃ。それを助けた余の恩も、その恩も知らずにこのような……!」


 よっぽど怒ってるんだろう。

 何の話をしているんだか、さっぱり分からない。

 生きるか死ぬかっていうときに、誰かに助けてもらった覚えはない。

 強いて言えば、あの路地裏だ。

 数人がかりで襲われた僕とシャハロを助けてくれたのは、たぶん、ハマさんが用意してくれた馬だったんだろう。

 頭に血を上らせた、この男じゃない。

 中年男は、怒りのあまり言葉が続かなくなったのか、杖を高々と振り上げた。

 その勢いからすると、どうやら杖は鉄か何かで出来ているらしい。

 こんなもので打たれた日には、身体がいくつあっても足りない。

 もっとも、僕には明日があるかどうか、分かったものではないけど。

 でも、その杖が僕の骨を砕くことはなかった。


「お待ちください! お父様!」


 聞き覚えのある声だった。

 開け放たれたままだった扉の奥から、その声の主が駆け込んでくる。


「シャハロ……?」


 ジュダイヤ王国の姫君、シャハローミが父上と呼ぶ人。

 今、振り上げた杖を下ろせないでいるこの中年男は、他の誰でもなかった。


「止めるな、娘よ。ヘイリオルデが国王として、この不届きものを打ち懲らそうというのだ」


 だが、たとえ王様とはいえ、父親に咎められて聞くようなシャハロじゃない。

 僕に覆いかぶさって、薄い胸の感触が分かるぐらい身体を密着させてくる。

 そこで顔を上げるなり、父である国王に泣いてすがった。


「お許しください! 全ては私が!」


 それでも、ジュダイヤの国王ヘイリオルデの怒りが収まることはなかった。

 鉄の杖を振り上げたまま、足下の娘を叱り飛ばす。


「離れよ、シャハローミ! いかに幼き頃は共に遊び暮らしたとはいえ、此度の過ちは、この、身分の違いを弁えぬ使用人の落度である!」


 シャハロは身体の下に僕を庇ったまま、父王を見据えた。

 静かに、しかし、毅然として言い放つ。


「いいえ、それは姫の立場に考えが及ばなかった私の至らなさから起こったこと。お怒りはごもっともです、ですから私をお打ちください」


 国王は、食いしばった歯を剥き出しにして、呻き声を立てた。 

 その目は、シャハロと睨み合ったままだ。

 僕は思わず、声を上げた。


「もういいんだ、シャハロ……ありがとう、ここまでしてくれただけで充分だよ」


 父親と、しかも王様と張り合って、その上、こんな危ない思いをすることはない。

 でも、シャハロからは、低い声でたしなめられた。


「ナレイは黙ってて」


 そういうわけにはいかなかった。

 手を縛られたままでも、身体ぐらい起こすことはできる。

 シャハロは床の上に転がったけど、それは仕方がなかった。

 国王に真っ向から物を言うのに、他のことには構っていられなかった。


「お望みならどうぞ、お打ちください。この通り、逃げ隠れなどできない身です」

絶体絶命のナレイ君ですが、やられっぱなしじゃありません。

ここ一番というときには、男を見せます。

もちろん、命の保証はありませんが……。

王様に切った啖呵が吉と出るか、凶とでるか。

気になる方は、どうぞ応援してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ