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妙に親切な美形の恋敵が、僕を虚無の暗黒の中で拷問にかけます

 覚悟はしていた。

 シャハロは、王様がいちばん可愛がっている娘なのだ。

 いくらか幼馴染だからといって、使用人が連れ出せば、タダでは済まないだろう。

 そう思えば、することは決まっていた。


 借りた馬を城へ預けに行く。


 それだけだ。

 もしかすると、馬の持ち主は関わり合いになるのを恐れて、取りに来ないかもしれない。

 でも、面倒を見てくれたハマさんにも、街の人たちへの立場というものがある。

 最後の最後くらい、きちんとしたかった。


 明日まで、僕は生きていないかもしれないけど。


 そんなことを考えながら、割とすっきりした気持ちで城の通用門の前に立つ。

 もう、昼近くなっていた。

 馬を牽いて中へ入ると、僕を衛兵たちが取り囲んだ。

 もう、シャハロを城から連れ出した話は伝わっていたのだろう。

 その後ろから現れたのは、あのヨファだった。


「驚きましたね。またあなたに会えるとは」


 意外そうに眼をしばたたかせる。

 どういう意味か、よく分からなかった。

 僕に馬を牽いてこいと言ったヨファ本人は、平然と言った。


「私も本当は、こんなことはしたくなかったのです。どうして逃げなかったんですか?」


 そこで、国境の死体を始末したらしい親衛隊が城の正門から入ってきた。

 引き連れているのは、あの捕虜たちだった。

 親衛隊たちは、兜の面頬を挙げてヨファに敬礼する。

 でも、その目は残らず僕を見ていた。

 ヨファは、面倒臭そうに眉をひそめると、衛兵に命令した。


「縛り上げろ」


 それでようやく納得したらしく、親衛隊たちはその場に整列した。

 衛兵たちは寄ってたかって、僕を後ろ手に縛り上げる。

 ヨファは僕の耳元で、残念そうに囁いた。


「馬なんか、乗って逃げればよかったんです。シャハローミ様さえお帰りになれば、君の生き死になんか、どうにでも言い訳は利きますから」


 つまり、僕はわざわざ命を捨てに戻ってきたわけだ。

 きっと、国境を侵した捕虜たちと共に、どこかへ連れて行かれて処刑されるんだろう。

 戻ってきた馬はというと、親衛隊のひとりに預けられた。

 そこへ、息せききって駆けつけていた者がある。


 四角くて、暑苦しい男……ハマさんだった。


 相当、頭に血が上っているのだろう。

 僕が捕虜たちの後について歩きだすと、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。


「待て! そいつに罪はねえ! 全部、俺が……」


 放っておいたら、今にも暴れ出しそうだった。

 なにしろ、使用人小屋の壁に大穴を開けた男なのだ。

 僕はハマさんの顔を見つめて、首を横に振った。

 声はかけない。名前も呼ばない。僕への手引きがバレたら、殺されてしまうかもしれない。

 ハマさんも、見て分かるくらい歯ぎしりしながら黙って引き下がった。

 そして、しばらくの後。 

 僕が連れていかれたのは、城の地下の小さな部屋だった。

 そのときはもう、あのヨファの姿はどこにもなかった。


「ここは……」


 聞いただけなのに、ものも言わずに腹を蹴り上げられた。


「う……」


 それから先は、言葉が出ない。

 部屋の中に蹴り込まれると、僕の身体は固い石の床の上に叩きつけられた。

 扉が閉まって、カギのかかる音がする。

 どこにも窓がないから、部屋の中は真っ暗闇だった。

 僕は腕を縛り上げられて横たわったまま、じっとしていることにした。


 どうせ、殺されるのだ。

 じたばたしたって仕方がない。


 でも、これから何が起こるのかは、やっぱり気になった。


 せめて死ぬ時までは、痛い目に遭いたくない。

 下手に音を立てて殴られても、面白くない。


 ただ、静かに耳を澄ましているだけにした。

 それでも、何も聞こえない。

 僕が床の上で吐く息の音だけがする。

 音も光もない牢屋の中は、気が狂いそうなくらいに静まり返っていた。


 それから、どのくらい経ったのかは分からなかった。

 牢の中は静かなままで、ただ、扉の外でときどき足音が聞こえただけだ。


 たぶん、親衛隊が通ったんだろう。


 国境を侵した他国の兵士を、別の場所へと送っていくのだ。

 どうやら、牢に閉じ込められたのは僕だけだったらしい。

 その後は、誰もやってこなかった。

 何もされなかった。

 ただ、どこからか、微かに聞こえてくるものがあった。


「やめろ……!」

「話さんぞ、たとえ殺されても……!」


 それは、泣き叫ぶ兵士たちの声だった。

 きっと、僕もこうなるんだろう。

 兵士たちも最初のうちは、威勢よく振る舞っていた。

 でも、そのうち、言葉がどんどん弱っていった。


「殺せ……いっそ殺してくれ……」

「何も言えない……何も知らないんだ……」


 とうとう、何も聞こえなくなる。

 そこで、牢の戸が開いた。


「来い……高貴な方がお呼びだ」


 まだ、処刑されるわけじゃないらしい。

 殺されても仕方がないと思っていたから、逆らう気なんかなかった。

 身体を起こして立ち上がろうと思ったけど、身体がふらついた。


「あれ……?」


 まっすぐ立つことができなかった。

 不貞腐れているとでも思われたのか、鎧をまとったままの親衛隊に、両脇から身体を抱え込まれた。

 そのせいもあって、余計に足がもつれる。

 ひと筋の光もない真っ暗闇の中で、あるかないかの悲鳴を延々と聞かされたせいだろう。

 頭の身体の中で、勘という勘がすっかり狂ってしまったみたいだった。

シャハロの婚約者、どうやら悪気はないようなんですが……やってることは結局、拷問です。

これに耐え抜いたナレイ君、どう反撃に転ずるのか? 

先が知りたい方は、どうぞ応援してください。

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