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人間っていいな


暫く考えた後、私は謎の声が残した[デッドレコード]を開く。頭で念じるようにすればすぐに現れる優れもののようで、どうやらこれは私のことをナビゲートするためにあるらしい。



死術の書(デッドレコード)は、貴女が習得したスキルを記憶する媒体としてご利用頂けます。倒したモンスターの名前や数まであらゆるデータを記録し、それによる貴女の傾向や新たな〈変化先〉を表示することもできます。]



要するに活用すれば最終的に私目線の辞典が出来上がるというわけだ。なにからなにまでメモされるというのはちょっと癪だが、自分の傾向……即ち弱点を知ることができるのはまごうことなきメリットである。


更にはその傾向によって新しい変化先が表示される可能性もあるだろうし、もしかしたら平穏に暮らしていてもスケルトンからおさらばできるかもしれないってことだな。とはいえ干渉され続けるのもいい気分はしないし使いすぎないくらいが丁度いいかもしれない。



[変化先予測を開始します……一件サーチ成功。〈朽ちた骨〉です。条件は〈スケルトン〉の状態で魔力が一定以下になることで変化できます。]



……突然頼んでもない予測が行われたらしく、無機質な声とスクリーンに現れた青字がそう告げる。


〈朽ちた骨〉って明らか今より退化してるよな。朽ちてるもん。最早モンスターと呼べるかも怪しいレベルだ。



もしかしてこのままぼうっと過ごし続けたら、いつか骨が朽ちて死ぬってことかな。それを知っていて提示してくるとはこいつなんという策士……!!


流石に開幕早々〈朽ちた骨〉になるのは勘弁願いたいし、新しい人(骨)生だ。この人(骨)生をちょっとくらい満喫したって誰も咎めはしないだろう。それに長いこと歩く脚力もスタミナもあるみたいなので、ちょっとした観光気分で気長に楽しむのもいいかな。



・・・・



「¡Hay un cadáver en movimiento!」



そんなことを思って暫く歩いていたら早速人に出くわしました。身なりからして普通の村人みたいな髭の濃い三十代くらいの男だったが、その手には木の斧を両手に持って身構えていた。


人畜無害を謳っているけど私の見た目は完璧に〈スケルトン〉だし、身構えるなというほうが無理な話だよね。それでも先程出くわしたような魔法使いとかが相手じゃなくて本当によかったと思っている。これなら敵意さえ見せなければいきなり殴ってくるようなことはしてこないだろう。



だがこいつを殺せば私は〈進化〉できるのだ。《ゾンビ》になれれば骨だけだった自分の身体に肉がつき、人間に近づくことができる。そうすればこの世界でだってやり直しができるかもしれない。



だけど……まあ一度人生を捨てた私が選べる選択肢でもないか。私は男にしっしと払いのけるような仕草をして見せると、「お前に用はない」とアピールして背を向ける。このジェスチャーで何を伝えたいかは解るはずというわけで見逃してやるからもう関わってこないでね。


話したくもなければ敵対したくもない。これ以上神経をすり減らさないで。私からの一生のお願いだからさ。


──そのまま数歩歩いたところで突如頭に、思い切り叩かれたような衝撃が走った。



「¡Me insultaste como a un cadáver! ¡Eres un hueso! ¡Eres un esqueleto」



その衝撃で、見るまでもなく男が私の頭目掛けて斧を振り降ろしたのがわかった。男は何故か激昂し、意味不明な言葉で伝わりもしない罵詈雑言を放ちまくっている。言葉の意味はわからずとも、その尋常でない激昂から私に敵意を向けているのはわかる。



コイツ……私が下手に出たのを良いことに殴りやがって!!鈍い痛みと衝撃が全身に響き渡り、正直頭が割れるかと思ったわ



その気なら殺ってやろうじゃねえかよ。私だって殴られて黙っていられるほど人間出来てないんだよね。今は骨だけどなあって喧しいわ。



何事もなかったように彼の方を睨むと武器を失った男の表情が目に見えて青ざめていくのがわかった。そんな目で見てもこれは正当防衛だからな?こっちは一度身を引いた。それに調子づいたのか殴ってきたんだよお前は。



私は憤りに頭に刺さった斧を持ち、その場で無様に地に尻を付ける男目掛けて勢いよく斧を振り下ろした。



(死ねええええええええ!!)



斧は男の右膝へと力強く振り下ろされ、膝を突き抜けて地面に刺さった。この様子だと骨を粉砕してしまっているかもしれない。私は激痛を訴えている男の胸ぐらを掴んで持ち上げた。



「カタカタカタカタ……(先にやったのはお前だぞ。殴っていいのは殴る覚悟が……いや、死ぬ覚悟があるやつだけだ。解ってないようだからもう一度だけ言ってやる……)」



私は胸ぐらを掴み持ち上げる手に力を込め、伝わってないことを承知していながら言い聞かせるように骨を鳴らす。男は苦しそうにもがいていたが、脚の痛さに気を取られて力を出せないでいるようだ。そして今思ったが、生前より明らか腕力あるよなぁなどと考えていた。




「カシャア!!!(二度と顔を見せるな!!!)」



「¡Ayúdame, por favor!」



男はあまりのショックに気絶したらしく、失禁したのかズボンが濡れてだらしなく白目を向いていた。


気絶して動かなくなった男を粗末にもその場に放り投げる。ここまで恐怖を煽ればもう大丈夫だろう。一瞬殺してやろうかとも思ったが、肝の据わらない村人を殺してもな……と踏みとどまることにした。


この結果が良かったのか悪かったのかは解らないけど、目の敵にされても困るので後悔はしていないつもりだ。寧ろ殺した方が後味が悪いと思ってたくらいだ。

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