《デッドレコード》
─私の知っている異世界転生モノというのは神様ってのがいて、なにかの手違いで死んだ主人公が神様の創りし異世界へ転生したり転移したりして、チートを使ってヒャッハーしたりハーレムを築いたりする、誰もが理想を持つであろう出来事をストーリーにする……そんな話である。
私からしてみれば確かにここは異世界であり、魔法が横行する世界線か何かに転生したと言われれば最も自然に納得できる状況であろう。
だが私は少なくともこんなスケルトンに転生する話なんて聞いたこともないし、ちゃんと自殺してるので手違いかと言われればそうではない。
なんなら私はその神様とやらに会っていない。ひょっとしたら記憶が消されているだけで会った可能性はあるが、神に誓って「スケルトンになりたいです」なんて言ったつもりはない。もしこの世界に神を名乗る奴がいるのなら、私をこんな姿にしたことを延々詫びらせながら殴ってやりたい。
(というかもう疲れたんだよっ……!!大人しくのんびりさせてくれや神様ぁ!!)
いないとわかっていながら神様に懇願する私はおかしいのだろうか。うんきっとおかしい。必死こいて立ち上がり、全力疾走しながら男の魔法攻撃から逃げる私は既に先程あった冷静さを失っていた。
顔を見る暇なんてないと言わんばかりの全力疾走だった。恥と言われればそれまでだけど勝てっこないから仕方ないだろ!!
「¡No dejes que se escape! Después.」
男が何か言っているが耳を傾ける暇なんてない。今はとにかく遠くに逃げる他ない。アンデッドだけど殺される。捕まれば問答無用で間違いなく殺されるだろう。
・・・・
あれからどのくらい走ったかも忘れたが、暫くして後ろを見ても追っ手の姿はなかった。どうやら上手く撒いたようだ。かなりの距離走ったとは思うが、疲れを感じないのは〈アンデッド〉の由縁なのだろう。
〈アンデッド〉というのはファンタジーの世界でもよく言われる種族のようなもので、ゾンビやスケルトンなどの動く死体だったり、〈死霊傀儡〉によって死体を操るネクロマンサーやリッチなどが属すモンスターのカテゴリの一つである。
基本的にゾンビなどのアンデッドは耐久力が高く、ゲームでは基本的に一般的な人間よりもステータスが上に設定されているし特に上位種のネクロマンサー辺りになればそれに加えて多くの魔法を操ることができるのだ。
(それでもスケルトンかぁ……)
下級アンデッドのスケルトンでは高位の魔法を覚える可能性は薄いだろうし、人里に潜り込むなんてことはまず不可能である。この世界がどんなものかを知りたかったのだが、先程の言語は聞き取れない、敵対心ビンビンでいらっしゃるのでこれも不可能。一体どうしろってんだよ。人(骨)生ハードモードだぞ。
……元々あまり人と関わりたくなかった私にはピッタリかもしれないけどね。
とりあえずこんな状況でどうしようもないので、頭を整理させつつこれからどうするか考えよう。一生このままってのも正直あり得るが……
(上を目指す気はないのか。)
……こいつ(誰!?)、直接脳内(頭蓋骨)に!!突如として響いてきた声に驚き、その場に尻餅を着いた。痛っ……
(君を襤褸雑巾のように扱い、死に至らしめた人間が恨めしくないのか?君を殺そうとした人間を同じように殺したくはならないのか?)
頭蓋骨に響く声は、私の解る言葉でそう訴えかけてくる。思考とか多分読まれるだろうし言っておくが、別に私が自殺した理由は単につまらなくなったからである。一人だけ壁をつくって取り残されたのが気に食わず、構ってちゃんが暴発して自殺に走っただけである。
なに言ってんだと自分でも思っているこんな私が被害者面する権利はないし、もっと他にやれることは確かにあったかもしれないが、「もういいや」というのが勝った結果なのだ。責められても仕方ないと思うし、多少の非難であれば受け入れるつもりだった。
それに先程の奴らが私を襲ったのはスケルトンというれっきとしたモンスターだからである。私が逆の立場でも多分同じことやってるだろうし、仕方ないことだと思う。
因みにあいつらを殺したいとは一切思ってないですよ。うんオモッテナイオモッテナイ。
(まあ構わぬ。一生その姿で良いというならそれも良い。だがこれならどうかね?)
[初めましてレン様。貴女は死術の書にステータスを登録されました。次の変化先とその条件を提示致します。]
〈スケルトン〉
↓
〈ゾンビ〉
〈スカルブックメイジ〉
〈スカルナイト〉
唐突に機械質な女性の声がしたと思えば、視界に謎の羅列と共にこんな文章が現れたのだ。これって所謂〈進化〉ってやつか?ファンタジーだとあまりメジャーではないし、どちらかというと〈ポケ○ン〉や〈デジ○ン〉とかのほうが馴染みがあるかもしれない。条件ってことはレベルアップでもしないといけないのか?
─────
〈ゾンビ〉
[人間を0/1人以上殺害する。]
〈スカルブックメイジ〉
[Lv1以上の魔術書を入手し、魔法を習得する。0/300の習熟値を得る]
〈スカルナイト〉
[スカルボーンの入手]
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……この世界には具体的なステータスってのはないのか。それとも本当はステータスってのがあって、それをモンスター用に体現したのがこういうものなのかもしれない。ステータスというのは体力や攻撃力を数値にしたもので、ある意味世界の理に乗っ取っているものが見てはダメな代物だ。
しかし主さんよお。あんたってやつはなんと卑怯なことをしよる。流石にスケルトンはないだろって思っていたし、姿が変えられる手段があるならやってやる!!
……と普通の主人公とかなら思うんだろうな。
よくよく考えてみると条件が妙に生々しすぎるのだ。それがゾンビの条件にある人間の殺害。出来ることなら言葉の通じないあいつらとはもう関わりたくないし、それを進化のための犠牲なんぞにはしたくない。
だからといって[スカルボーン]やら[スカルブックメイジ]も人間の姿からはかけ離れつつも何処からかアイテムを調達しなければならない始末。ずっとこのままでいるのも気が引けるってのはあるが、別に無理強いされてもいないしこのまま安泰でいられるならそれも悪くないのだろう。
(別にその考えを否定することはないが、安泰でいたいという気持ちがいつまで持つか見物だな。君がこの世界に絶望し、私の腹心として働きたいと申し出てくれるのを楽しみにしているよ。無論いつまでもな……。)
謎の声はその言葉を最後に高笑いし、その声がフェードアウトするとやかで完全に聞こえなくなった。
あの声は一体なんだったのだろうか?不穏だしこれからも口出ししてくると思うと面倒なことになりそうだ。