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転生というか転死な気がする。

─山のように積み重なった死体のひとつがカタカタと音をならし、生を掴もうと這い出した。



(……は?)


目前に広がる大自然を前に、私はぽかんと口を開けて呆然としていた。辺り一面緑に囲まれ、穏やかな風に当てられている。どうやらあの忌々しく窮屈な場所ではないことに安堵した。



(ああ……やっぱり死んだのか。)



この私、〈霧原蓮(きりはられん)〉は自ら進んで命を絶った自殺者である。女子高生として過ごしておりながら目標を失い、なんの気なしに心身ともにボロボロにされた挙げ句溺死したのだ。


湯船に漬かったまま睡眠薬を飲んでからの記憶がないものの、見慣れないこの風景からしてここは死後の世界なんだろうなと私の頭は不気味なくらい冷静に考えられるようになれていた。



(うっ……死体!?)



周囲を見回していた私の後ろには何故かどっさりと効果音を鳴らすほど大量の死体によって山が築かれていたのだ。明らか人の手が加わったであろうその無惨さ、残虐さに冷静になれていたはずの私の身体が恐怖で震えだした。



(えっなんで?死体なんで??WTF!?)



目端に入れるのも気分を害すそれからぎこちない動きで身体を背ける


今度は自分の身体に目を向けてみると、なんと私の身体は不気味な程真っ白であった。白肌アルビノとかそんなものじゃない。禿げ頭のように全身が磨かれた鏡か金属のように光を反射し、関節が剥き出しになっている脆い姿はまさしく骨。というか全身骨格標本になっていた。



(ええ全身スケルトンじゃねえかよ……恥ずかしい通り越して恐怖なんですけど!?露出狂の趣味とかありませんから私!?)



骨の姿でそんなこと言っても説得力がないことは自分でも薄々気づいているが、これを露出狂と言って済ますにはかなり無理があるだろうということに気付くとかえって冷静になり、緊張した身体がほぐれたことで「はあ」と溜め息をつく。


一応こんな成りでもちゃんとそういうこと出来るのね。端から見たら違和感しかないけど、目はちゃんと見えてるし風の音とかは聞こえてる。軽く叩けば衝撃が伝わってくるし五感の殆どは問題なさそうだな。いややっぱ味覚はダメそうだな……この姿でご飯とかありつけないだろうし、物理的に食事という行為ができない。


まあ咀嚼は出来るが、砕けた食べ物は消化もされず地面へ没シュートだろうな。その光景を想像すると中々シュールだわ。



とりあえず一生このままなのかな……と考えてみる。一生スケルトンとして歩み続けるとすれば、当然人と接点を持つのは不可能であるだろう。明らか現実離れしたこの現状、ここに来て数分という短い時間であるものの、もうある程度のことは受け入れられる気がしている。


人間って不思議。人間っていいな死んでしまえ……ああそういやもう死んでいるんだったな。



「¿Por qué estamos aquí?」


「¡No importa! ¡Mátalo!」



突如聞き慣れない支離滅裂な言語を話しながら見知らぬ男女が二人、そのどちらもが武器を手に構えてこちらににじり寄るように近づいて来るのが見えた。その表情は険しく、スケルトンの私に敵対心を抱いていることは言うまでもない。


二人とも見た目の年齢は二十代とかなり若そうに見える。男は何処かで見たようなローブを纏い、魔法を放ったのがこの男であることがわかった。


もう一人の女は盗賊のような身軽そうな服に身を包んでおり、手にはギラギラと光る銀色のナイフを構える。明らかそっち側の人間である。眼もナイフに負けず劣らず鋭く輝いていて、こちらを殺す気満々としか思えなかった。



「カッ……!!カタカタカタ」(話を聞いて!!)



私の言葉は残念ながら彼らに届くことはなく、顎の骨が軋んだだけだった。そりゃそうだよね、骨に声帯とかないもん。



……だって骨だもん。意志疎通とかできるわけないじゃん馬鹿じゃないの?



そう気づいた時には既に、情けなくも彼らに背を向け全力疾走して逃げ出していた。よくあるアンデッドだから太陽で燃える……なんて設定はなく、寧ろ生前よりも幾らか脚が速くなっているように感じる。無駄な部分がなくなったからだろうか。


まあちょっと無駄を省きすぎな気もするけど、この場面では助かった気がする。本当にあくまでも気がするだけだけど。


あ、因みに前世の私をデブだの廃棄物だの粗まみれだの好き勝手言いやがった奴は片っ端から噛み砕くんで☆



「Quémalo! magia de fuego」



男の声が発せられたかと思えば、「ボウッ」と何かが焼けるような音がした。その場に無様に転んだ弾みを利用して後ろを見ると、不自然に草原の地面が焦げ付いているのが見えた。


「magia de fuego」



どうやらその原因は男の手から放たれる火球であることがわかった。常軌を逸脱したその光景に私は無意識にも目を奪われてしまっていたのだ。



(え……あれ魔法じゃね……??あれ魔法じゃね?え?じゃあ私、ファンタジーの……ゲームの世界に???んんん??待ってこれって)



私はこんな状況でありながら、頭が冷静に動いていた。身体を動かすにはほんの少し時間が掛かるので、必然的に頭が動いたのだろう。私は根っからのゲーム好きであり、こういった内容の話自体はなにかの小説で見たことがある。


それは神様によって新しい世界へやってきたかと思えば、ご都合主義によってその世界をよくも悪くも破壊する主人公の話。私の今の状況は、展開こそ違えどかなり似通っている気がする。



……あぁなるほどな。異世界転生だこれ。

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