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マリナの話  作者: 白州
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何もない日

考えてみれば、クリセラとリオンも面倒くさい関係であった。

「もうそれクリセラの安全図る為じゃないの?」

次の日起きたリオンにひとしきり説明をした感想がコレ。寝ているリオンは死んでいる様でさえあるので、無駄にとっているもう一室にクリセラと帰って、イリスに戻ったけど遅いから説明は明日、として、戻って寝た。朝起きたら窓際の床でロウが丸くなって寝ていた辺りに驚き。ノックをしたリオンに1番に反応して扉を開けたのもロウで、おはようの挨拶で抱きつき、リオンにスープは作ったと言われて食べると勢いよく返答したのもロウ。ロウが居る事にリオンはさして驚かず、ロウに抱きつかれたまま部屋を移動。こちらのテーブルと椅子を移動するだけして、朝食の席に着いて、なにも食べないイリスはベッドでごろごろしつつ、昨夜の話をしていた。リオンに対するクリセラの戸惑いはガン無視であった。申し訳なく思うが、何かどうするでもなかった。

「クリセラの安全?」

「なんで機構がクリセラを狙わないかって言ったら、フーリィ大将を裏切らせない為の保険だもん。フーリィ大将って不確定要素多くて、地獄門にひとしきりの霊力持っていかれている筈だし、名前も晒しているから一定の制御は効くんだろうけど、霊獣と人の子なんていないからある程度担保が欲しいわけ、それがクリセラ。関係はともかく愛した人の子供である事には変わりなくて、気にかけてもいる。クリセラは強いだろうけど、人外ってっレベルかは微妙」

ニィも化け物扱いされていたが。

「ロウは、多分赤の大将か席官レベルで強い。青も緑も聖霊王との契約者だから強いだろうけど、戦闘なれで行けばロウに対抗出来るのは赤ぐらいで」

「待て、下さい。ロウは実戦経験があるので?」

「ないけどロウには関係ないし。で、赤は基本環境課の役割以外無関心だから、フーリィ大将の人質とかフーリィ大将が人質とか興味ない訳、で、ロウがいればクリセラは安全圏。で、何か企んでるのかな、嫌だなぁって思う」

「……」

「予測が多すぎないか」

「そーだね」

「そういえばリオンの賞金外れたって」

「そうなんだ」

「まぁ、自浄能力というのか、賞金稼ぎ相手にしても死にそうにもないし、良いんだろうけど」

「組織だった所でも?」

「まぁね。ロウなら死にやしないし、クリセラも死なせやしないだろうね」

「強さの単位分かり難くね?」

イリスが微妙な所を気にする。まぁ、分かり難いけれど。

「賞金稼ぎって、あらかたそこまで強くないんだよね。イオやクリセラでトップレベルだし」

「成る程な」

「賞金首もそこまで強くもないし」

「へぇ、じゃぁなんで機構で取り締まる?みたいなので済ませてねぇんだ」

「機構って区の管理運営団体なんだよ」

「ん?」

「維持管理開発が主目的で、制御淘汰はついで、法をもって秩序をって大見栄切りつつやる気はないよね。あとある程度の必要悪と、ストレス発散?人殺し願望の発露と、手に職ない人の稼ぎ先、みたいな。そんなこんなで人が死ねばある程度の人数制御も出来て一石二鳥?」

「つまり面倒ごとの吹き溜まりか」

「平たく言えば?」

なんと聞けばいいのか。

「だから、まぁ、正義の為の賞金稼ぎなんて考えでなくて、人殺しても許されるからって人からしたら、機構に執行人みたいなのが出来るのは疑問だろうね。綺麗事でやってる訳じゃないだろうから、ムカつかないのかなぁとも思うけど、機構に清廉さ誠実さ潔白を求めたいのならそうなるのかな?」

ユッカさんの思う所であろうか。

「そういう訳で、機構軍にも内定専門の課が出来る予定だよ」

さらっと言ったのはフーリィさんで、いつの間にか居た。

「おはよう、食べる?」

「あぁ、貰おうか」

リオンは皿持って席を立ってシンクで水で軽くすすいで置いて、コンロに火を付け石から取り出した皿にスープを注ぐ。

「そこ座って良いよ」

「あぁ、ありがとう」

フーリィさんは空いた席に座り、リオンはスープを置く、ついでに欲しがったロウに渡された皿にスープを注ぎロウへ。リオンは軽く手を濯いで、拭けばベッドで寛ぐイリスの所に向かい、髪を整え始める。

「大規模な団体で今まで自浄機能がなかった自体がなんだけど、上手くいきそうなの?」

「さぁねぇ、人事課が、自分達の裁量権の範疇を超えているって、丸投げ先探しているだけだし。んー、と。その子、どこから連れて来たんだい?」

「こっちの行動把握してるんじゃないの?」

「君相手にそれが出来ていたらわけないよ。計画の事もあったしこの区に入ったのと、イオとマリナが夜の街に出たのは知っているけれど」

「へぇ」

「そうでなくてだ」

「それはそれとして、計画と呼べるほど計画してなくない?ロウが欲しかっただけでしょ。ユッカが消滅しかけて焦っているのに漬け込んだ?」

リオンの疑問にフーリィさんは息を吐く。

「私に頼みたいと言われたが、無理だと。安全も保証できないと言った。他を問われたのでクリセラにと、言いはした。執行人壊滅の方は」

「待て、なんでアンタの側が安全でなく、俺の側ならいいんだ」

「私にはウーとカメリアがいるし、これ以上私に戦力を持たせたくないだろう。余計な波風が立つ。私と君とは、まぁ、言わずもがな。そして君が機構に思う所はあっても仇なす可能性は少ないと判断されている。イオも考えはしたがマリナもいるし、記憶喪失になってしまっているし。まぁ、リオン君は親しいようだし、押し付けたいなら押し付けても良いが、仕事は受けて欲しいと思っている」

「それもそれだ、解体した犯罪組織のする事を機構が引き継ぐのか。機構が犯罪と決めた事を」

「罪としたのは機構の了承外の殺しだからね。ロウは殺さずに送れる」

「……」

「言いたい事はあるだろうが、そもそも執行人を組織したのは機構の元軍人だった。シィといった。ロウのご両親の同期で友人、戦場の歌姫と呼ばれた彼の母親の死に疑念を抱いた旦那さんとシィは、調べていくうち、彼女を事故死に巻き込んだ賞金稼ぎが賞金稼ぎだけでなく、そのついでの事故死をワザと引き起こす常習犯ではないかと。賞金首のいる所に、賞金は掛けられていないが死んで欲しい人間のいる人間はいるものだ。計画的にどこか誰かいつ、設定をしていって巻き込む。そして彼女の死を依頼したのは機構ではないかと。その証拠はなくてね、その賞金首に近付こうとした所で、今度は父親が機構に不正の嫌疑をかけられ、違う賞金稼ぎに殺された。名声を馳せた歌姫に疑いは掛けられなかったが、無名の父親の方には問題少なに掛けられた。そんな訳で、その賞金稼ぎが機構と通じているだろう線は濃くなったが、近付きにくくもなった、そして始まる潜伏生活。賞金稼ぎの事を調べれば調べるほど、他のも碌でもない。かといって機構が承認している制度をそう改まる筈もない。そこで碌でもない賞金稼ぎを裁く事を考えた、それが執行人だね」

「長ったらしい説明の割に執行人を機構が引き継ぐ理由にはなってないね」

「そこを支持する人達が犯罪者以外にもいるのが問題なわけだ。一定の支持層が潜在的にも出来て解体し辛くなった。しかし犯罪組織からの資金提供を受けて罪を断罪する者まで現れて、機構よろしく碌でもない組織となった。それならばと清濁呑み込んで、消化する事にした。そんな訳で内通者解体役としてユッカを置いて、その後執行人支持者の受け皿として機構側で機構内部でない存在が必要になった。機構の人間が取り締まると賞金稼ぎから反発を買いかねないからね」

「なんか理由になってるか微妙なんだけど」

「発起から雪だるま式に膨張してにっちもさっちも行かなくてなった苦肉の策だよ」

「そんなもんなんだ」

「クリセラには申し訳なく思っているよ。妙なものを押し付けてしまって」

「……押し付ける気か」

「そうなってくれると助かるよ」

「……」

クリセラは不満気にフーリィさんを見るけれど、なにも言わない。言えないのか。良い方向に持って行きたがっているのならと、思うのかもしれない。

「大丈夫?安直すぎじゃない?」

「安直かな?」

「というか、そう都合良くいくとも……。というか自分が何かしでかすから、クリセラの安全測ってる訳じゃないんだよね」

「しでかしそうなのは母で私じゃないよ」

「霊獣が?凄いやな事聞いた」

「まぁ、知っての通りその霊獣は魔の国の国王な訳だけれど、なんの気なしに過ごし過ぎじゃないだろうかとね」

「大丈夫?機構の猜疑心が染み付いてない?」

「母は君とは違うよ。あの人はもっとあからさまに不満を振りまいていた。それが……、まぁ、ある程度は横暴だけれど、ここ数十年で随分と大人しくなった」

「成長したんじゃない?」

「とうに千は超えているよ」

「霊力の安定的な意味じゃなくて」

「君はその白い霊獣の成長を図りたいのかな」

「当人が付いて来たいって言うから、容認ついでに分かりづらくしたつもりだったんだけど、そんなに分かりやすい?」

リオンの問いにフーリィさんは曖昧に笑う。

「把握していないと言ったが爆破で駅舎が崩れ落ちなかった。異常だ。そこまで分かりやすい動きを君はして来なかったのにね。それで次に現れたのがココ。色々と経由地は想像出来るけれど、どうだろう。片目のない白銀の美しい髪。そんな所でかな」

「やっぱりイリス、森に帰ったら?バレすぎ」

綺麗に結い上げたイリスの髪に紫のリボンを蝶々に結んで終わらせる。

「いや、ソイツ1人でか?ありえねぇだろ。それにバレてもどって事ないじゃねぇか」

「そりゃ、霊力欲しさに狙わなくても構わない人だし、どって事はないだろうけどね。そういや、フーリィ大将は霊力どうしてるの?」

「扉に注ぎこんでいるから、だろうね」

「え?それちゃんと調整出来るの?」

「調整?」

「えー、うわぁ……。イリスより不安にさせる事言う」

「それ俺が最低レベルとして言ってねぇか」

「だろうね」

「俺はんな」

「まぁ、白だしね。そもそも霊獣に上限ってなさそうだし、調整出来なくてもいいんだけど」

「じゃぁ、いいじゃねぇか」

「森じゃ良いけど、ダダ漏れでそこら辺歩いていたら、良くないよ」

「あ?なんで」

「……あてられたり?」

「は?」

「花が季節狂いに咲いたり、とかかな?」

「悪りぃのか?」

「狂わせるのはね。迷いの森じゃ何処で何が何時咲いていようが普通なんだろうけど」

「よく……分かんねぇ」

「イリスはそれで良いんだろうけど、どうかと思うけど」

「いや……どっちだよ」

「そういえば、どうして森を出て3人について歩いてるんだい?」

「ん?リオンの結界覚えられたら森が守りやすくならねぇかと」

「それは……、壮大な夢だね」

「そうか」

壮大なのか。

「大袈裟じゃない?」

「君、駅をまるっと結界で保護して倒壊させないなんて異常な事だって分かってないのかな?」

「えー、それこそ魔の国になら幾らでも」

「あそこの国の防御結界よりよっぽどだと思うけど」

「普段使いでしょ?」

「あそこはそれこそ霊樹からの供給があるんだけど」

「じゃぁ、効率化はかってないとか?その辺り霊力供給が、がばがばで、ちゃんと考えてないんじゃない?」

リオンは自己霊力消費をはかりたいのではなかったのだろうか。

「より、強固にするだろう。霊力に見合うだけ」

「じゃぁ、僕のは小器用なだけ、とか。イリス追いかける相手間違えたかもね」

「いや、お前の術は良い香りだし、好みの問題じゃね?」

「……」

匂いで分かるなら確かに好みは大事だろうけど。

「自分の能力をバラす様な事言うなって言ったよねぇ」

「はぁ?どうせバレてんじゃん、霊獣だって」

「霊獣皆んなが皆んな匂いで術判断してる訳じゃないでしょ」

「いや、限んねぇけど」

イリスがフーリィさんを見る。

「私には分からないし、母の能力も白か黒かであるのかさえ知らない」

「まじか」

どこに掛かったそれか、髪の話でいけばフーリィさんは黒髪であるが。イリスはクリセラの方を見る。クリセラの髪はプラチナブロンドといわれる色目だろう、瞳は青系の薄い紫で、これはフーリィさんと同じ。髪の色だけで霊獣の判別をするのは早急に過ぎたのではないだろうか。

「俺を見るな」

クリセラはいやそうにイリスを見た。

「いや、……」

イリスは瞬いて、リオンを見ながら首を傾げる。

「アイツ、お前の親父殺したん?」

「その話題、僕に振られてもね」

「ほんと、どうでもいいのな」

「顔も知らないし。それになんだろ。向こうも復讐に夢中で僕の事探しもしなかったんじゃない?どうでもよくなったんじゃ」

「そんな事ないっ」

クリセラが立ち上がってリオンに向かって言うが、何と言うのだろう。イリスがクリセラの考え見たのは気にしなくていいのか。見て、でなく最初から分かっていたのに今更確認したと思われたのか。そもそもイリスの見方のムラっ気がある気がする。

「なんで君が庇うのさ。親から引き離して、復讐の道具にする為に」

「優しかった」

「それが狙いだし、君に殺させて後悔させる。いつまでそれに囚われてるの」

「なんで復讐を考えたと思う?アナタをとられたからだ」

「僕を連れ出したのはお師匠様でフーリィ大将じゃないよ。八つ当たりも良いとこだよ。機構に復讐するにしても、フーリィ大将だってただの道具、地獄門の鍵でしかないのに。あぁ、でも、カメリアとウーとったのはフーリィ大将とも言えるし、実験体が大切だったのかな。そう思うと君も復讐の実験の意味もあったろうし、愛着は持たれて居たのかな」

「元々だろっ、人を愛せる人だから、どうすれば人が傷付くか考えて、工作出来る。あの人の方が余程子供を思える人だと」

「あの人は魔人で、僕は化け物だ。父親がどうでもいい僕より、よっぽどあの人の方が人間じみているんだろうね」

「そんな事を言いたいんじゃ」

「俺は化け物な方が良いし、リオンは好きぃ」

ロウが言うが早いか、立ってリオンに抱き付きに行く。ぎゅっとされたリオンは、はいはいとその頭を撫でる。

「作るご飯も好き。ご馳走様」

「うん……。食べ終わったなら、お皿を流しに置いておいて」

「洗おうか?」

「ううん、まとめてやるから」

「ん、分かった」

ロウは嬉しそうに笑って離れて、皿を取って流しに……。

「それで、なんだっけ。イリスの事判別したの髪関係無かった?」

「うちの母は灰色でね」

「あぁ、白でも黒でもないと」

「お前、話の流し方えげつなくないか」

「勝手にイリスが変えたんだよ。気にせず話せてたのに」

「いや、気にしてんの分かってなら、流してるじゃねぇか、最初から」

「……碌でもない話だよ」

「いや、わだかまり残して行ったって碌な事になりやしないぞ」

「わだかまりは消えないし、分かり合えないよ」

「いや、そうは言ってもよぉ。可哀想だろ」

「僕に言われても。フーリィ大将がどうにかすればいいんじゃない?」

「コイツはどうでもいいでしょう、俺はアナタに」

クリセラは泣きそうな目で、リオンを見る。クリセラはリオンに殺されたがっているものと思っていたけれど。どうなのか。というより、リオンにその気はなくて。

「お前、リオンに殺されたいのか?」

「賞金稼ぎを恨む執行人もいなくなっちゃったしねぇ。だけどそれ僕向きの用件じゃないし、死にたければフーリィ大将にでも頼めば?」

「なんでも私に押し付けてくるね」

「そういえば、髪灰色って、呪われた一族として家系で賞金掛けられている髪の色に似てるよね。だから魔の国からも追い出されたの?」

「さぁ、銀がかった黒では違うでしょうし……。あの人とは口も聞いた事がないので、誰を何故追い出したかなど分かりませんよ」

「お前らまた話そらして」

「殺されたいって言われても困るし、する気もないって言ったでしょ」

「だから、聞いてから言ってやれよ。どうしてかも聞いてやれよ。んで、お前もどうしてかちゃんと応えろよ」

「えー」

「えー、じゃねぇの。ほら、クリセラ言ってやれよ」

「……」

「それだけお膳立てされると言う気なくすよねぇ」

「やめたれ。クリセラこいつこんなだけど、話せば聞いてくれるし」

「話す気ない人に強要するものでもないよ」

「そりゃ、話し慣れてねぇからだろ。反応が怖くて。こいつはこんなであれだけど、嫌な事言おうと、嫌いな訳でもねぇし」

「イリス」

リオンがイリスが言うのを止める。

「まくし立てないの」

「いや、俺は」

リオンに何か言いたげにして、イリスはクリセラを見て、うぅと黙る。

「悪りぃ」

「……」

クリセラは押し黙る。何か言いたげで、苦しげ。

「クリセラ」

リオンの結論は出てしまっているけれど。

「好きに思えば良いと思うけど。駄目な人が好きでも、大丈夫……、と」

だから、リオンの父親を想っても仕方ないとして、ただ殺してしまった事が。大事な人を一時的な激情で殺してしまった事が。

「でも、殺してしまった事は駄目な人に押し付けては駄目?」

「……」

あぁ、けれど。この苦悩している人が愛しくて愛しくて仕方ないのなら、この罪悪感に苛まれて人の所為に出来ないクリセラが好きならば、どうしようもなく私は酷い子だ。

クリセラが見るのはフーリィさんで。

「……」

なにか言いたげにして、口を開かない。

「どうしてって、どうして聞いたんだ」

イリスがフーリィさんに小首を傾げた。それにクリセラが瞠目して、フーリィさんが目を細めた。これは思いっきり、見たのが分かっているだろう。

「それ、殺した所で言ったの?」

「……」

「随分優しいんだね」

「なにが」

「リオン君」

「だって、お陰で君は今でも想ってやまない育ての親を想う事の正当化が出来ている。フーリィ大将がただの愛情を示せば、見つけた喜びのまま抱きしめていたら、君の罪悪感は増えなかった?愛してくれる人に返せない事を……。まぁ、あとはまんまだね。どうして殺したのか、賞金首だからと正当化されるそれを賞金首だから殺したんじゃないと自覚させとく為?人殺しに狂気して欲しくなかったとか。……でも、その殺しの為に賞金稼ぎになっちゃてるけど」

「……」

「人殺しを正当化させてるだけだし、やめさせたくて今回の事始めるの?執行人としてタチの悪い賞金稼ぎ捕まえさせて、誤魔化させる為だけじゃなく、ちゃんとして来たって。そこにある仕事をちゃんとしてきたんだって」

「……そんな、必要」

「迂遠過ぎて分かりにくい」

リオンの言葉にフーリィさんは息を吐く。

「そういうのじゃないよ」

「分かられたら意味なくなるもんね」

「君は、……ともかく、それに指令が届くから、頼むよ」

フーリィさんは席を立ちながら、クリセラの腕の通信機を示す。

「待て、俺は」

「ロウを頼むよ。その子は悪い子じゃないけど、悪くも良くも使われうる、大事にしてあげてくれ。私には無理でも君になら出来るだろ。頼むよ、恩人の子なんだ」

フーリィさんは言うだけ言って出て行った。

「ひでぇな、クリセラ気持ちの整理がつかねぇうちに、言うだけ言って出て行きやがって」

「……」

「クリセラ?」

「……俺が手遅れだから、……先のある者を守るだけ守りたいのか」

ロウは殺してもなにも、大丈夫そうだけど。周りが、殺された側がそうもいかないか。恨まれるのは可哀想だ。

「なんか俺の所為か?」

「フーリィ大将に対するクリセラのイメージが悪いのは、仕方ないんじゃない?そもそも、嫌われて良いと思っていそうだし」

「それは、……良く取り過ぎじゃないですか」

「まぁ、でも、なんだろ。どっちにしろ北の魔人の呪いは解けない訳だ」

「息子のアナタが、あの人の事をそんな言い方しないで下さい」

「この世に生まれてきた事感謝しろって?お陰で北の魔獣と呼ばれて、化け物扱いな訳だけど。賞金は、君の血縁上の父親が退けてくれたけど」

「それは執行人と」

「僕が恨みはらす為の加担してたって?まさか、どうしてそんな事しなくちゃいけないんだか。僕が協力してたらもっと効率的に賞金稼ぎは排除できてたね」

「それは」

「僕はエース級の賞金稼ぎがどこの大陸、どこの区にいるか、タチの悪いのが何処にいるのか大体把握しているし、迷わせそこから移動出来ない様にする事も、移動させて一箇所に集める事も、封じて動きを取れなくさせる事だって出来る。だけどしない。僕が動きを把握しているのは逃げる為で見つからない為で、復讐したいとか、何かじゃない。イオと行き合ったのはイオはタチも悪くなければ、僕に気付きもしない意外性のない人物だと思って居たから、ぼーっとしちゃって目が合った時は驚いたけど、別に恨みもなにもないから病院まで連れて行ったし、目の前じゃなければ助ける義理もないからしないけど。それがちょっとの胸くそ悪さを生もうと」

リオンは息を吸って吐く。

「どうしろって言うのさ。僕は真っ当に生きたいだけだったのに。勝手に」

勝手にイメージを付けて。悪者として社会認知されたのは、やっぱりリオンの父親の所為なのだろう。というか、リオンの能力って封印と結界だけでも、人の生命いかん好きに出来るのか。ロウの武器の様なそれを作らなくても。

「リオンって最強?」

「マリナ、それやめて。術者なんて工夫次第で、どうにでもなるから」

「……そう」

そんなものか。

「さっき駅舎保全?異常だって言われて無かったか?」

「保全してない。人が逃げてから、結界切ったから」

「でも、すげぇんだろ?」

「霊力余暇がないから、実験実行出来ないだけじゃない?」

「霊力量の問題なら、やっぱりお前最強なんじゃね?」

「……頑張って術覚えてね」

「おぅ」

それはあれか、霊力がばがばのイリスが覚えれば、最強はイリスでリオンで無くなるという。

「なんか最強の割に狡いな」

「何言ってるか分からない」

「ともかく、最強のクセして、親父さんの所為で迷惑掛けられてみみっちいのは分かったわ」

「……分かってるのかなぁ……。というか、イリスに分かって欲しかった訳でもないんだけど」

「おー、分かり合えない、のに、クリセラには分かって欲しかったのか」

「……そう、言われるとアレだね。ダサいね」

リオンは息を吐く。

「いや、悪りぃ、好きに言や良いんだけどよ」

「ごめん」

リオンはクリセラを見る。

「ごめんね。君に恨みごと言った所で仕方ないし、……。なんだっけ……」

「……俺は……」

「そういや、リオンが調べた方がいいみてぇな言い方だったよな」

「え?」

「確かに」

イリスが言うのに賛同しておく。

「そういう言い方だったな」

ニィの一押し。

「え?なんで3人分かり合ってるの?」

「あぁ、つまりリオンが裏付けすれば良いって事だろ」

ロウがリオンに後ろから抱き付きつつ言う。

「羨ましいなら、やれよ」

「……この言は関係ない」

イリスの言葉に言っておけば、ロウがリオンの後ろからリオンに飛びついて来いとばかりに手を広げる。

「いや、マリナは僕じゃなくてイオが」

分からず屋。とでも思えてそのリオンの懐に収まる。ベッドであるし、リオンに体重もかけないので快適であろう。

「話が逸れたが、機構から依頼をリオンを通して確認が取れるという事で良いのか」

「えー、僕は事実確認が出来るだけで善悪の判断はしようがないよ」

「……十分では?」

「……えー」

「機構の賞金掛けの事件性の信憑性に対する疑問解消にはなる」

「や、クリセラが頼まれているのは賞金稼ぎの方で」

「事後賞金嵩上げの話とか」

「……」

「つかそれ調べる要因機構にいねぇのかよ」

「居るには居るだろうけど、機構は慢性的な人で不足だから、外部要因でいけば探偵かなぁ」

「探偵」

「登録制で機構から給金が出るよ。調査案件毎に値段は違うけど、外部委託でなければ大体同じかなぁ。なんかの加減で特別報酬付くのもあるけど、危険度に応じて変わる訳でもないから人気のない職種だね」

「金に頓着してねぇならそれやればよくね?」

「なんか人を金持ちみたいに」

「いや、困ってねぇだろ」

「機構相手に情報売ったりしてるよ」

「変わんねぇじゃねぇか」

「交渉次第でお値段が変わるよ?」

「まじか」

「うん。まっ別に探偵は良いけど。僕名義じゃ登録したくないし。マリナでいぃい?」

「え?」

「年齢大丈夫なのか」

「そういうのは大丈夫。助手三で登録しておいて」

「え?」

決まったのか。

「いや?」

「……いやではない」

上から覗かれて、間近の顔を見返した。可愛くて綺麗。

「じゃ、ま、そう言う事だね。仕事に疑問が出たらこっちに調査依頼回してくれれば良いんじゃない?機構が信じられない以外にその仕事が嫌な理由がある?」

「……俺は」

「僕の父親を信じるぐらいなら、僕を信じてみたら?僕の気はそれでちょっとは晴れるし、それで君が誰も殺さないならそれで良いよ」

「……」

「だって父の掛けた呪いの原因を思うと、なんか僕の所為で殺してるみたいじゃない」

「そんな事ないっ」

「じゃぁ、君が人を殺さない生き方の手伝いさせてよ」

嫌そうだったリオンがいつの間にか乗っかってくれていた。


ぐずぐずな気分にさせてクリセラを丸め込み、部屋割りはロウがリオンとイリスと一緒になって、クリセラはこっちに来た。ニィと積もる話も出来ない。ロウとこれからいるなら親睦でも深めればとリオンは言ったけれど、強制的にどうせいるのだからでクリセラには拒絶を示された。

「クリセラはロウが嫌い?」

「好きも嫌いもない」

共同でトランプピラミッドを作りつつ、静かに話す。

「フーリィさんに勝手に決められたのが不服?」

「……クロロと呼ばなくなったのか」

「リオンが略呼び教えてくれたし……。リオンもニィと私と旅するの渋っていたけど、なんだかんだ楽しい」

「……あぁ」

「ニィとも一緒にいれるのも」

楽しかったかは兎も角。

「良かったから」

まぁ。

「今言っても仕方ないけど」

「あぁ……。まぁ、上手くやれる様に」

「それは良い」

「……」

「好きに、したら良い。……好きに、は、イリスの言い様だったけど……。どうせ離れられないなら、好きにして、……。嫌も……ちゃんと」

何であるか。何を言いたいのか。

「ロウ、には……無理しなくていい」

「……分かった」

クリセラは少し困った様に笑って言った。笑うのを始めて見た気がして見惚れた。そもそも美人で。というか、周りの人が笑わなさすぎだった……。この世は不幸で、この世に生きるは苦しみで、なんで生きてるのだか分からない。それこそ、リオンのお師匠さんが言った犠牲にした分生きろ、の様なものだろうか。生きているだけで、他者を侵食して犠牲にして生きているから、犠牲にした分生きなくてはで、生きれば生きる程生きなくてはが積み重なって、いつのまにか犠牲にした分が多く溢れかえって、犠牲に殺される事を望む……。アレ?どこかで間違えた?

「クリセラは、リオンに殺されたかった?」

「……」

「ニィには聞きそびれた。……まぁ、記憶が戻った時に聞けばかもだけど」

「……死ねば楽になる気がした」

「……」

「でも、それは、自分で死に切れないからと、人に苦しみを与えるもので、最低だろう」

「……そう」

「殺したくないのに殺して欲しいなど……勝手だ」

自分が嫌な事は人にやっては駄目、と。殺したくないのに殺されたいは駄目、か。

「ロウに殺させなければ、救われるとフーリィさんは思った?」

「……あの人の気などしれない」

「……自分の嫌な事を人にやらせない。ロウにやらせない事はクリセラの、……ちゃんと生きるって実感になる?」

今まで犠牲にしてきた分の。その犠牲への返却ではないけれど。それはあらゆる事でそれに思えて、なら、巡り巡らないだろうか。

「巡り巡って誰かの為が、返したい相手の為になっているかも。……実感はないかもだけど」

「マリナは……。いや、まぁ、返したい相手がリオンなら、ロウを守る事は、そう、かな」

「……ロウは友達、だから」

リオンは返して欲しいとも思ってはいなさそうだけれど。ロウの面倒を見てくれる人がいるのは嬉しいだろう。多分……。

「まともさは、求めない方が良いかもだけど」

「そこが、よく分からないんだが」

「……んー、私も分かってない」

「確かに切り替えが良すぎるとは思うが。……落ちるだけ落ちて上がっただけ、というか、振れ幅が大きい分、乗り越えが早い?」

「……クリセラがまともな子だって思うのはいいと思うけど、まともさを求めないであげて」

「……気をつけるが……。そうか」

好きにとか言いながらなんであったか。

「ごめんなさい」

「いや……、悪い事じゃない」

言うは勝手。望みを叶えるか叶えないかは相手次第……。優しい人相手だと、躊躇いを覚える。無理しても叶えてくれそうで、躊躇う。言うけど……言ってしまうけれど……。ロウも側にいる為に手段を選ばないのなら、なんでも聞くのか。大丈夫かな。クリセラを見る。

「あのユッカという、なんだったんだ」

「さぁ……、御守り?よく分かってない」

「……人じゃないから、悲しくないという事もないだろうな」

「ん」

ロウは、確かに悲しんでいた、気もする……。気のするだけで、当人に聞いていないけれど、悲しいのかと聞けば、悲しいと。悲しそうじゃないと言えば、悲しくないと。そう答えそうで、そうしそうで。

「言葉にするのを躊躇われる」

「……好きに、と」

「イリスが……イリスは自分がそうするから、そうして、みたいな」

「……そうか」

けれど。

「……言葉にしてない感情を勝手に言葉にするのは躊躇われる」

「ロウは言葉下手か」

「自分の感情に鈍感なのかも、これも勝手な想像」

「……あのイリスという子……ではないのか……イリスは考えが見えるのか」

「よく分からないけど、近いもの」

「そうか。……イリスはなんて?」

「やばいから関わるな……みたいな」

「……一緒の部屋にいる」

「聞かずに、出掛けた。そういえば何がやばいか聞いてない、かも」

結局ユッカさんは居なくなって。感情で人を殺さない証明が出来たかは微妙でも、クリセラが預かって、執行人。ある程度ユッカさんの思惑通り。

「ユッカさんにも夜は危険だから出掛けるなと言われていたけれど」

「それは計画の加減だろう。ロウが間違って撃つことはないんだろ」

「……まぁ、多分」

実力は知らないけれど。撃たれても死なないし。

「ん」

「まぁ……どうせ一緒にいるなら知っていく事になりそうだけれど」

「……まぁ」

「あの人の勝手というのが気に食わないだけであるけど……。それに流される自分も」

リオンは一定の愛情表現のうちの様な事を言ったが、リオンも自分の父親の愛情表現を認めてもいないから、そこはおあいこ。

「万年反抗期みたいで、馬鹿っぽいか」

「……馬鹿でも、フーリィさんより、クリセラの方が好き」

「……そうか」

なんの意味のない言葉だけれど。

「それ、2人でやるものか?」

ニィが疑問を口にする。今、トランプの1番上。

「途中は結構2つの手では難しい」

1番上は、クリセラがやっている。

「2人でも、感覚合わせられないと難しいけど」

「感覚」

「ここで安定したって感覚?」

「そうか」

微妙な感覚でもあるけれど。合えば合わせられなくもない。

「仲良いな」

穏やかなニィの笑み。ふと、3人でいて、こういう事もなかったなと思う。この感覚が良いのか悪いのか、……悪くはないか。ん。

「そういえば、なんで一緒に旅をしていなかったんだ?」

その疑問に首を傾げる。なぜ?

「しない理由もする理由もなかった様な」

「そうか。いや、なぜかこれからもばらけて行動する様だし、何故かと」

「……別にクリセラがニィの事苦手な訳ではないと思う」

クリセラは言うに気付きそうにないので言っておく。その感を気付いたのか。クリセラが驚いた様に頷く。

「嫌いじゃない」

「けれどそれは、記憶を失くす前の俺だろう?」

「……違う、か」

まぁなんとも微妙な確認である。

「マリナの反応はよく分からなかったが君はショックを受けていただろう?」

「……」

クリセラに見られてどうだろうと思う。

「ショックは……、生きてたからいっかが強かったと……」

そう、死んでいると思っていた人が生きていたら、ある程度は許容範囲。

「記憶がないからと、死んだも同然とも……」

でだ。

「大差ない気もする」

「そう、か……。前より、穏やかだろう」

「穏やかなの嫌い?」

聞けばクリセラは首を横に振る。

「嫌いではないが」

「ピリピリしている方が好きか?」

ニィの質問。別にピリピリ……していたか。悩んでいるのは好きと言ったけれど。なんか違う様な。今聞いている相手はクリセラであるけれど。

「……その……、ただ、……覚えていないというのが……」

「人を殺していた事を?」

「……っ」

ニィに言われてクリセラは泣きそうな表情になる。どうにも、図星だったのか。罪悪感の共有。確かに賞金稼ぎの多くは、自分の仕事に疑問を持っていないし、疑問を持っているという事は、結構な深い繋がりとも言えるのだろう。と。勝手には推測出来る。しかも、同レベルの実力者。

「殺されそうになってこうなったと聞いたから、どうにも戸惑ったけれど。そうか。でも今は立派な人殺しなんだが」

「あれは正当防衛」

あれに手加減をしていたら、死んでいたのはこっちである。ニィの言の方にクリセラは少し驚いた様な目をしたけれど、ニィはこちらに寂しそうに笑んだ。

「ただの条件反射だよ」

「……それは」

ずっと死線にいたから。そう身に付いたのであれば、確かに条件反射で。

「どうにも、抜け出せないらしい」

「ニィは」

殺したかった訳でもないだろう。言おうと思うが躊躇うのはなにか。優しく笑まれて、頭を撫でられる。

「わざわざ殺しにいこうとも思わないが、どうにも、……平気になってしまった気もする。これではマリナに嫌われてしまうかな」

「そんな事はないっ」

口から出た矛盾。ニィにはやっぱりというのか、優しく撫でられる。

「クリセラには、申し訳ない。君に共感出来なくなってしまって」

「……」

クリセラは首を横に振る。

「いや、……俺の勝手で」

「ふっはは、良いんじゃないか。勝手で」

その笑みで。可愛くて。抱きしめた。色々となにか、考え込み過ぎなのかもしれない。頭に手を置かれている。大きな暖かい手。

「共感出来なくとも、友達ではいられるだろうか」

「……勿論、それを許して、くれるなら」

「それで、どうして?」

「え?」

「友達とは一緒に旅せず、巡り合わせにゆだねるのが、普通であるのか?」

「……そういう事でも……、会おうとも連絡が取れれば……。適当に」

「明確な理由はない訳か」

「あぁ、なんとなくで……」

クリセラは少し俯く様子。なんとはなくである。なんとはなく、言いもせずにそうなる。おかしな関係と言えばそうなのか。

「明日、リオンに聞いてみる?」

「そうしようか」

「……あぁ」



そんな訳で夕御飯である。

「えー、やだ。目立つもん。クリセラどんだけ美人だか自覚ある?イリスは霊力値落として見せているから、良いんだけど、クリセラって隠す気ないよね。適性無いと雰囲気だけで飲まれそう」

「……」

「あぁ、ごめん。話とっちらかったね。えーっと、ロウも無駄に面倒ごと引き起こすタイプで、というか、目立ちそうで嫌」

「つか、お前目立ちたくないの賞金首だからだったんじゃ無いのか?いいんじゃね、別に」

「そうだけど、慣れって怖いよね」

「目立つのもそのうちなれんじゃね?つか自意識過剰?」

「……否定しないけど……」

「紙面もたいして大きく取られてなかったろ」

「そーだね。執行人のゴタゴタの方が大きかったし。まぁ、機構も間違ってました、ごめんね、で発表するにしても、大きくはしたくなかったろうし。フーリィ大将が僕が目立つの嫌いだからとかの気遣いでもないだろうけど」

「なんでそう良くとる」

「なんでだろ。好きでのなんでもないけどね」

「んで、どうせ調べるなら同じ所行くんだろ、一緒に行動すりゃ良いじゃん」

「そー、だねぇ……」

「嫌なのかよ」

「んー、6人って微妙に多くない?」

「俺はそこの判断基準持ち合わせてねぇよ」

「小回り効くのは4人までの様な」

「小回り効く必要あんのか?あと確信性がねぇな。つか、ロウはどう思うんだ?」

「ん?好きにしたらいいだろ?クリセラはリオンやイリスと一緒が良いのか?」

「それは……」

「というか、ロウと2人が不安なんじゃない?」

「そうか?じゃぁ、行く所教えてくれたら一人で行って待ったりするけど?ユッカとは大体そんなだった」

「それで富豪の夫人のヒモになって、よく殺されかけてるよね」

「そう、人妻にモテる。娼館のお姉さん達も可愛がってくれるけど、そういう所は病気貰うから駄目だって、病気うつしたら恨まれる。子供殺す事あるからって」

「ねぇ」

「倫理観は」

憤懣やる方ないクリセラに耳を抑えられているけれど、丸聞こえである。

「道徳概念というか、良心、思い遣りは」

「だからよく殺されかけてるって」

「反省なしかっ。それだけ人を傷付けているという事だろ」

「じゃぁ、クリセラはいっぱい構ってくれる?」

「え?」

「話の流れ上誤解しそうだけど、別にそうしても良いし、たまに頭撫でたり、手繋いで寝たりで満足するよ?」

「……」

クリセラの顔が赤い様な。複雑そう。

「というか、君、女装して近付いて賞金首の首刈ったりするんじゃないの?」

「……大体エレベーターで済ませる」

「あぁ、そう。被害最小限そうで何よりだし、美人の自覚はあったみたいだね」

「……上手くいきすぎると思っていたが、さっき言っていた霊力値だとかが関係あるのか」

「まぁ、かもね」

「んで、放置しといたらロウは人に迷惑かけるってのは分かったけどよ」

「ロウは、側にいてくれるだけでいいんだから、下心で接する方が悪いんだよ」

「いや……まぁ、そうか。んで」

「クリセラもロウに慣れるまで掛かるっていうなら、まぁ仕方ないのかな」

「おー」

「イリスはいいの?」

「ん?」

「ロウの事苦手なのでは?」

「え?いや……。苦手ってか、心配する必要あるかって感じか」

「……」

「放っておいても平気だろ」

「……」

「どうなっても良いのなら、平気っちゃ平気だろうね」

それは平気なのだろうか。

「意味分かんない事言ってんぞ」

「んー、ロウ自体は平気だろうけど、命狙われる事は増えるかもね」

「……」

「あんま平気そうじゃねぇな」

「それでもイリスとどっこいじゃない?イリスは何もしなかろうと存在自体どうかと思うし」

「んなかよ」

「そんなだよ」

「そんなって?」

「イリスは霊獣だから霊力量が凄くて、使いようが色々あって狙われるって話」

「お前だって霊力量多いんじゃねぇのかよ」

「僕は多くても死んだらそこでお終い。君のは超高濃度の石として残るし。全然違うでしょ。従わせるのが困難なのは分かってるんだし」

リオンはともかく、イリスはちょろいのではなかったろうか。

「ちょろいと思われてんだけど」

そのイリスの不満を滲ませた言葉はリオンに向かう。

「ちょろいからじゃない?」

「なんでだよ」

「僕と旅してる時点で?」

「お前の術はちょろくねぇって」

「そこじゃなくて、なんだろ口車に乗せられそう。僕の考え見えないくせして油断しすぎ」

「いや」

「リオンは良いぞ?」

「リオンは大丈夫」

「ほら」

「他票をあてにしないの」

「つってもな。つか、マリナ達は良いのかよ。見えてねぇ自己判断だろ」

「ロウはロウだし、マリナは当初の印象の問題」

「おら、倒れてる人間居たら病院運ぶ優しさがあるじゃねぇか」

「それを優しさと呼ぶ世間が悪い」

「……」

「大丈夫か?」

「僕は普通。捨て置く人が異常。分かる?」

「いや……まぁ、良いけどよ」

「はい。マリナはおかしな人の中で育ったからね。イオやクリセラはともかく」

そこは。

「クリセラ、見ず知らずの人が撃たれて倒れていたら病院まで、運ぶ?」

「……」

「えー、一応賞金稼ぎのイオって認識はあったよ」

「それ、余計どうなん。一応敵同士だったんだろ」

「僕捕まらないし」

「……。……意味あったのか、賞金」

「さぁ、ないかもね」

「そういう問題か?」

イリスの疑問とリオンの返しに対してかのクリセラの疑問。なんというのかであろうか。

「まぁ、捕まらないからと言って賞金掛けないんじゃ駄目だろうね」

「駄目?」

「分かんないけど。悪い事してるのにその理由は見逃して良い理由じゃないんじゃない?」

「……ん」

となると、どうなる?

「そういや、なんで賞金取れたんだ?」

「僕が普通だから?」

「いや……。まぁ、そうか」

諦めた様子。

「この会話、不毛だねぇ」

「まぁ、取れたもんいちいち言ってもな」

そこだろうか。

「んで、なんだっけ。イリスが他票で判断している問題」

「もう、どうでもよくねぇか?」

「そうなるんだ」

「いや……。普通は良いと思うぞ」

「あぁ、そう」

「……俺なんかなんなんだ」

「うん」

「……、なに失敗した」

「人の考えあてにして、付いてきた所。イリスの自己判断ならセーフ」

「そこか」

「だろうね」

「術知りたくてだな」

「それって目的であって、相手への判断欠けてるでしょ。目的だけじゃ見失わない?」

「……むずくね?」

「だろうけど」

「お前はどれだけ出来てんだ」

「僕は、……まぁ、間違えても……。ある程度、どうにかなるよ」

「いや、意味わからん」

「そもそも僕の結界どうにか出来る相手なら、諦める」

「そこの問題か?」

「君は大事なものがあるでしょ、森が。僕にはそこまでのものないし、良いんじゃない?」

「……そうか?」

「うん」

「駄目な気がするぞ」

「まぁ、気がするだけなら、気のせいじゃない?」

「まじか」

「で、なんだっけ。そもそもはイリスのロウに対する不信感だけど、どうだろう。まっその通りなんじゃない?」

「……おー」

「イリスが嫌って言うなら一緒に行くの再考の余地はあるだろうけど」

「お前も嫌がってたろうが」

「まぁ、だって、んー。目立つし、狙われる人増えるし」

「ロウはそこにカテゴライズされんの?」

「どうだろ。微妙。周りをあんまり巻き込むタイプでもない様な」

「そうかい」

「良いんだけど。イリスが見てて無理なら無理じゃない?」

「いや、無理っつうか」

イリスはロウを見て、ロウはイリスを見返して首を傾げる。ロウは自分の事を話されていてもたいして頓着した様子は見せない。

「リオンはコイツがんなに好きなのか」

「なんでこの流れでまた人の意見を聞こうとするの」

意見を聞くのは悪い事ではないのでは。

「悪りぃ事じゃねぇだろ」

「気兼ねがないから。で?」

「や、なんつうか」

「ほんとに苦手そうだね」

「……」

「好きにするんじゃなかったの?」

「正面切って苦手とか言えるか?」

「言えば良いよ。ロウは気にしない。で?」

「……すまん。なんか無理だ」

「だって」

「そう」

言い出したニィを見てみる。

「仲が悪くなければそれで良いよ」

それはニィとクリセラ、私も含めて?と、ロウとリオンの事らしい。

「あー、そういうのな。俺はどっちとも初対面で、こうで良かったのな」

「一緒にいないから仲が悪い訳でもないし」

そうなると。

「しかし……。なんだな」

イリスはロウを見ていた。

「ちょっと気にしてってか、……碌なものじゃねぇな」

イリスはドン引きというのか。

「霊獣の嫌悪感の発露がどう出るか分からない以上、別れて行動は必然で、イリスは気にしない事だね」

「そうか」

「ん」

そんな訳で別行動が決まり、通信機器な術具をリオンが作って話は済んだ。

次の日。

「じゃ、話があったら連絡くれたらいいよ。その人の事分かっていたら、すぐに情報送るし、分からなかったら調べて送る。まぁ、僕の場合調べるのに近付く必要もないし、会いたきゃそういう連絡寄越してね」

「……」

区がごたごたとしているからと、リオンはさっさと出立を決めた。

「うん、じゃ、またね」

あっさり別れて、地図上の独楽で決めた所に向かった。

「そういや、署に行って探偵登録しないと」

「あ」

「うん、マリナ1人でいける?」

「……いや、イリスも面倒だし、イオが行っても何故だし、僕は微妙に鬼門?」

「……そう」

「うん」

おつかい、の様なものなのか。

「受付の人に頼めば登録の仕方教えてくれると思うから、ね。行ってみて」

お気軽に言うので、そんなものかと1人で向かった。

建物に入って見回す、ホールの吹き抜けというのか、天井は二階以上の高さなのか、幾何学的な電灯?が吊り下がる。人はそこそこ。石の床を歩いて受付の方に。場所によって微妙にする事が違うみたいだけれど。掲げられた看板、というかプレートで判断をして向かう。割と暇そうな窓口である。

「こんにちは」

「こんにちは、どうされましたか、お嬢さん」

「……探偵登録をお願いしに」

「探偵……お嬢さんが、……」

「調べものする仕事では」

「まぁ、うん、はい」

危なくないわけではないのか。

「……助手の人がほとんどする」

「あぁ、そうなんだ」

ちょっとホッとしたみたいな笑み。

「その人は来られないの?」

「……諸事情で」

「そう、まぁ登録は本人がしてくれるのが一番だし、お嬢さんしか来られないなら……」

そこで言葉が止まって見られるので首を傾げる。受付のお兄さんも首を傾げる。

「そういう感じしないよね」

「ん?」

「きちんとしたとこの子っぽくって、なんなだけで」

「ん?」

なにか考える様に言って一息つかれる。そこで、カウンター内の棚をいじる。

「字読める」

「……大体?」

「規約っていうのかな、この書類読んで、良かったらサインして持って来てくれるかな。助手の記入は人数でいいから。記入外の人を雇うと保障がって程の保障もないけど、怪我の申告されても機構の病院の診察時にお金かかるけど」

名前書かないのなら、誤魔化せるのでは……。

「その辺りも書類に書いてあるから一通り目は通してね。分からない所があったら聞いて」

「……ん、分かった」

受け取って、ホールに並ぶベンチに腰掛けて書類に目を通す。なんというのか、調ごとのランク付けがあって、値段はそれぞれとか、経費はそこから。機構以外からの依頼も受けられる。ランク付けがあって、機構外の依頼者はそれを目安にするとか、その依頼のこなし具合も申告すればランクに反映されるとか。……あまり探偵の定義というのか、ルールはないのか。この分でいくと、悪い賞金稼ぎと良い賞金稼ぎの定義付けも難しいのではないだろうか。保証の方は言われた以上の事は特に気にするほど事もない様な。というか、無駄に長い様な。んー、確認事項?探偵ってなんなのだろうか、調べもの屋か。調べてお金を貰う。そもそも直依頼しか受けないのであったら、この書類の意味はどうするものなのか。分からない。

「まぁ、いいか」

署名欄に署名して、助手の人数3を記入。こんなものか。さてと、提出。

「あー、……大丈夫かな」

「多分」

「まぁ、そんなものかな」

言って、署名した紙を回収して規約というのかを渡される。

「これは持っておいて。ちょっと待っててね。身分証発行するから」

署名1つで機構は身分を保証してくれるのか。どうかと思う。少し待っていれば、カードを持って来られて渡される。署名がカードに転写というのか、写し取られている。

「はい、これで探偵」

『マリナぁ』

耳元でリオンの声がした。通信機器とかいうカフスである。カードを眺める。

『そこ爆弾あるみたい』

またか。

『今回はそれ自体包み込んで耐えてみるね』

「ん」

「良かったかな」

「ありがとうございました」

「うん、じゃぁ、気を付けて」

「……ん」

終わったのか。終わった?

『うん、犯人探しでもしようか』

必要?

『さぁ』

どうなのか。誰狙いであったのか。爆発していたら、あの受付の人は死んでいたのだろうか。

『死んでいたと思うけど』

また起こるのだろうか。

『今回の爆発物放置しておけば、そのうち見つけて対応するとは思うけど。癖で分かる事もあるみたいだし』

「ん」

あぁ、声に出してしまった。伝えたい事は伝えたいと念じて考えるだけで良いと言うのに。便利なのか、そうでないのか微妙。アフチさんがいればすぐに分かったろうか。

『そんな、業界知識かもしれないけど、機構にも分かる人いると思うよ。移動で回収出来なくもないし、アフチは探せなくもないけど』

それは機構の捜査妨害であろうか。

『立件もされてないけど。そうだね。露見する前に、全て解決したら何もなかった事に出来るかな。なかった事にする?』

相手の、思惑による。

「どうかした?」

声を掛けられて、見れば受付の人。突っ立って、動かないから気に掛けてくれたらしい。

「……」

「マリナさん?」

「あー」

そういえば名前のサインをしたか。

「うん」

言うべきか、言わなくていい事なのか。

「今、選択に、悩んでる?」

「ん?」

聞けば首を傾げられる。まぁ、確かに。

「うん」

「ん?」

どうしたものか。

『マリナ、強行するみたい』

「ん?」

「え?」

『なんか、うん。金庫狙いだね』

「金庫?」

「あぁ、口座作るの?」

「え?」

口座。そういえば、そういう受付が。賞金をそのまま入金出来たり、機構の署であればどこでも入金出金?可能。つまり、一定のお金があると。金庫爆破?

『混乱に乗じて?金庫自体はそこまで近くない位置関係だし、容易には近付けないよね』

「危ないから、逃げた方がいいかも」

「えーっと?」

バッコーン。と、出入り口の所が弾ける。

「えっ」

受付の人に庇う様に、肩を持たれて背後に回される。どうしたものだったろうか。

「お前ら大人しくしてろっ、そしたら死人は出ねぇっ」

声を上げる人が構えるのは自動小銃の様なもの。顔は面で見えない。その人の仲間らしき人がバラバラと入って来てあたりに銃口を向ける。

「ふざけるなっ」

その人達に銃やら武器を向けるのは、賞金の換金に来ていた賞金稼ぎや、受付の軍人。ただ、出入り口に立っていた人達は、爆発で気絶している様子。

「とりあえずこっちに」

物陰に受付の人が行こうとするのに仮面の人が銃を撃って、撃ち合いが始まる。慌てた様子で抱えられて、ホールのペン立てのあるテーブルの陰に隠れる事に。

「強盗って、馬鹿なのか」

まぁ、確かに現状、殺し合いである。あまり頭の良い手段にも思えないという所。

「勝つ自信がある?」

「そんな」

音がキーンとして閃光と煙が……漂わずに、外に捌けるし、光と音の効果も弱い。

「このっ、ガラクタか」

「パチモンに高い値段付けやがってっ」

荒れる強盗。というか、皆んな元気に撃ち合っている。皆んなである。誰も怪我をしていない。

「……」

リオン。

『だねぇ』

これ、なんであろうか。ずっとこの調子か。

「大丈夫、逃げようと思っても逃げられないし、そのうち自分達が透明な箱の中に居るって気付くんじゃない?」

「……」

ちょっとした不可思議現象であろうか。跳弾は。

『危ないししないよ』

まぁ、そうか。そういえば、なんだろ。リオンは最強であるのか。これ。

『そういうのは上を知らないからじゃない?』

現状の、上とは。

『イリス?』

どうしよ。全然わかない。イメージもというのか。なにか。

『攻撃性強いのは黒の筈だしね』

破壊力の問題でもなく。木は確かに切られていた。それをイリスは気付いていなかった。それの問題ではなかろうか。

『把握力って事?まぁ、マリナに通信機持ってもらってるし、把握しやすくはあるんだけど』

森はイリスにとって似た様なものでは、と思う。

「大丈夫だからね」

『はは』

なにか受付の人に優しく宥められた。黙りこくっていた所為だろう。リオンは愉快そうに笑う。まぁ、例えリオンと通信が繋がっていなくても、逃げられる自信はある。この場全員怪我をさせないかと言われれば疑問。

「マリナさんだけなら、裏口から」

「なんなんだこりゃぁっ」

分かって来たらしい。同情をするべきなのかどうか。

『爆破失敗した時点で入ってくるのが馬鹿なんだよ』

「そう」

「マリナさん?」

「可哀想に、透明な箱に閉じ込められた」

『頭がね』

「……」

「なにか」

「帰る、帰ります。大丈夫だし」

立ち上がって、砂埃を払う。と言っても大してない辺り、結界の加減であろう。銃声や怒声も止んで、どんどん見えない壁を叩くのにその音も、中の人の声も聞こえなくなっていた。

「えっと」

「ん」

「助手って結果術士?」

「そんな所、かもしれない」

言って良いのか、悪いのか。言ってみて、リオンの警戒心の強さを思い出す。

「この事、嬢ちゃんの連れがやったのか」

側にいたのか、なにか、見下ろされて、瞬く。受付の人が、なんかあーという感じで、肩に手を添えてくる。やはり言わない方が良かったらしい。

「どこにいる」

「……なぜ?」

「機構の署には結界術が掛けられている、ある程度の干渉は外から受けねぇ」

「そう」

「それを気にせず、あんな秩序のある結界を、……秩序縛りで能力上げてんのか?」

「……術の事は知らない」

「そりゃ仲間にも漏らさんか知らんが……。どこにで、この中ではねぇのは確かだな」

「……」

ひっかけだったのだろうか。

「こりゃ世界最高峰の結界術だ、紹介しろ」

「なぜ」

「俺は賞金稼ぎのヒーマリだ。これだけ撃ち合って誰一人怪我してねぇ、そりゃ組みたくもなる。ここに居るってことは誰かと組んでんのか、どっちにしろ交渉をしてぇ」

怪我人を出したくないというだけ、真っ当なのだろうか。どっちにしろではあるが。

「探偵になるから無理」

「は?探偵?儲からねぇ、小遣い稼ぎじゃねぇか」

「十分」

「だから、結界術士と直接」

「……やだ」

「はぁ?やだってなんだ、ワガママかよ」

やっぱり駄目か、ワガママは嫌われる。

「んなもん言ってねぇで」

「子供の言う事ですよ、そんないきなり言われて納得出来る訳もないじゃないですか。この子との縁もあるのでしょうし、自分の都合を押し付けるアナタの方が」

「あぁ?誰が、何の為に働いてると思ってんだ」

庇ってくれた受付の髪を掴んで、その人は持ち上げる様に立たせる。

「お前らが、弱くて弱くて出来ねぇ仕事を命懸けで代替わりしてやってんだぞ。それを、人を悪人みてぇに、あぁ?執行人だぁ?取り締まるってどの面下げて言ってんだ。そんな余力あるなら悪人捕まえて来いや?出来もしねぇくせに」

『なぁんか不満溜まってる所に火を付けちゃったねぇ』

「……離して、受付さんを」

受付さんは相手の腕を手で持っているが握られているのだからある程度の抵抗にしかならない。

「はぁ?嬢ちゃんがワガママ言うせいだろ?」

息を吸って吐く。

「アナタの所為」

足を地に、息を。相手の腕の方向。足の力のかかり具合、見計らって、がんと足へ蹴りと腕への腕押しでバランスを崩させ受付さんを落とさせる。

「こういう事する人に大事な人紹介する気になると思う?」

「……」

「そういう行動とる意味が分からない」

「黙れクソガキ、人が下手に出てりゃ、調子こきやがって」

「アナタが悪い」

もう、機嫌を伺う気もしない。

「最低」

「ガキがっ」

銃を構えるその人の、銃口と指を見つめて。

「死ねや」

そこに庇う様に受付さんが。銃は暴発した。

「馬鹿なの?」

「あぁ?」

「結界術士の身内って分かっててそれする?」

銃の爆発の衝撃だけ伝わったみたいで、手首を抑えるその人はリオンの声に振り返る。

「怪我、させても良かったんだけど、そうすると僕の責任にされそうだし。世界最高峰の結界術士だっけ?大仰に言ってくれてどうも。にしてもちょっと怒られたからって子供に銃向ける?」

「お前が、お前みたいなガキが?」

「見た目を信用するのもどうかと思うけど。そうだね。結界術は得意な方だよ。どうする?またやる?君もあの人達みたいに閉じ込められたいの?」

「……それ、お前はいっぺんに出来るのか?」

「そりゃ出来るけど」

リオンが言うのに、リオンに向かって走り出そうとしたその人は、目の前の見えない壁にぶちあたって、跳ね返る。

「なっ。んで」

「使えるって言ったじゃん。馬鹿なの?」

「こんな高精度っパカパカ使えてたまるかっ」

「……そう?」

リオンはちょっと意外と思ったのか首を傾げる。

「えーっと、まぁ、いいや。君と組むなんてごめん被るし、まっ、誰かと組みたいなら自分の人間性に問いかけるべきだろうね。で、受付さんは大丈夫?」

「え?あぁ。……君が助手……」

「うん。……まっ察してよ」

「……どうも、ありがとうございます」

「助けたのマリナだけど」

「あ、あぁ、ありがとう。すまない」

首を横に振る。

「なにを万事上手くいったみたいに」

立ち上がったヒーマリをリオンは動じることなく見返す。

「君とこれ以上話事ある?」

「お前っ、探偵なんぞその能力のいかしようもないじゃねぇか」

「……僕の所為で君が死ぬって?」

「あ?」

「それって能力もないのにその職業選択した自業自得じゃないの?」

振り上げた拳が、リオンに当たらない所で止まる。

「この結界、相手にとって痛くも出来るよ」

「人を守って良い気になってんのか。傷付け傷付いてでも、裁く勇気もねぇ、愚鈍な奴が正しいと。人は犠牲の上に成り立ってんだ。良いやつの生活も誰かの犠牲の上だ」

「……僕は興味ないよ」

「探偵だってな」

「裏付けが必要でしょ?疑われてるのは、機構で、君ら。善ではないと認めているのかもしれないけど、悪行であると思う人がいて破綻仕掛けている。だから、裏付けが必要、でしょ?悪い事したならした人の。果ては君らの為でもあるのに」

「はぁ?危ねぇのが怖いだけだろっ。結界術得意なのもそれが理由っ、怖くて怖くて仕方ねぇから、逃げる為の行動しかしねぇ。そんな奴が戦う奴の非難をするんじゃねぇっ」

「戦ってるからって、巻き込んで良い理由にはならないけどね」

「だったら手伝えやっなんの為の結界術だっ」

「さぁ生きる為?君に追い縋られてもね。君が巻き込んで怪我させようと、死に至らしめようと、僕の所為ではないよね」

「あぁ?」

「うん、まるで違う。君が殺し方下手なだけじゃない?その死に伴う代価があるだけで、失う対価がないと思って」

「は?」

「その言い分でいくと、ここで署を守る術をと言って君が蹴って、ここでなにが起ころうと君の知ったこっちゃないのかな」

静かな人の声。ちょっと偉めの機構の灰色の軍服。

「署長……」

受付さんがなんとも言えない声を出す。

「金庫の近くに爆発した形跡のある爆弾があった、なにも起こった覚えはない訳だが、君の仕業かな?」

「爆弾を仕掛けた覚えはないよ。犯人分かりそう?」

「どうだろうね。処理班に調査員はいるよ。彼らが取引相手を言ってくれた方が楽だが」

透明な箱から出られないようで、拘束された人は移動可能らしい。

「証言あてにし過ぎるのもね」

「まぁ……。それで君は機構が嫌いで非協力的であるのかな」

「え?してない?十分」

「まぁ……、そうとも言えるが」

「あと情報欲しければ依頼してくれればいい、探偵のマリナに。僕助手だし」

「探偵、ね」

「協力的でしょ?」

署長は目を細めて、小柄なリオンを見下ろす。

「人を助けるが嫌いでないのだろう。どうしてそう非協力的だ」

「機構にとって微妙なだけでしょ」

「……やはり機構が嫌いか」

「……確証もなしに動くは、分かっていたのに放置するわ。好き放題するからでしょ」

「……まぁいい、今日の事は感謝するよ。依頼したら、この者達の全容暴いてくれるのかな」

「今急ぎの用もないけど。マリナどうする?」

「……」

クリセラとの繋がりの仕事ではあるけれど、それだけの為と言う事もない。

「……出来るだけであれば」

「だってさ」

「じゃぁ、頼んだよ。探偵さん方」

署長は少し笑んで、その場を去っていく。

「爆発物見せて貰う?」

「そっちは外注だと思うから本筋じゃないよ。……マリナ、アフチに会いたいの?」

「……微妙?」

「ん」

ともかくとして、宿に戻る間にリオンはいつの間にか調べ上げていた。

「まぁ、なんだろ。ただの強盗だね」

「場当たり的な?」

「そうでもないけど。そうだね。資金源はどこって感じだけど。そこはまぁ、その筋の人だよ」

「その筋」

「裏稼業の裏方?」

「……」

よく分からないそれ。

「どういう」

「うーん、武器の手配とか、建物の情報とか、今回のでいけば現金が金庫に幾らあるとか。そういうのの代価にお金が払えない場合、担保を預けて、成功した時の代金で支払うみたいだね。今回無理したのはその所為かな?」

「担保」

「今回は子供だったみたい」

「……」

「売ればそこそこかな。まっ、報告書送ったし、売られる前に、機構に押収……じゃないや。保護されるんじゃない?」

「……」

「明日には大々的に報じられるかな。さくっと夜のうちにやるでしょ」

「そう」

「……証拠薄い?」

「……そういうものでもないけど」

リオンの言うならそうであろうと思うけれど。

「どうやって?」

「結界術の1つかな。領域を区全体に広げて、そこの内部動作言動から不必要な物をはしょって、……えーっと、で、怪しい所のどこが今回の事に関わったか。失敗を受けての動きがあったから分かりやすかったよ」

「……」

全把握?なんか。……そもそも爆弾を見つかられたわけで。

「区の中の悪行把握は全て可能?」

「悪業がなにを示すかによるけど、まぁ、ざっくり探知は出来るかな。あぁ、でもそうだね。悪い事している気っていうのが、その人にあれば、分かりやすいかも」

「……ん?」

「イリスの目の影響かもしれないけど、その辺り、思いっていうの?結構分かってさ。罪悪感を伴うと分かりやすいし、騙してやる気とか破壊してやる気、とかは、そうかな。罪悪感が無くても見つけやすいよ」

「……そう」

「イオやクリセラの場合、賞金稼ぎのくせして罪悪感凄い抱えていたみたいだから、そういう探知には引っかかるし。ロウなんかは意識?思いっていうのか低いし、見つけにくいかな」

「……イリスの苦手な所」

「まっ、だろうね」

ロウの意識が薄い、か。そうも見えなかったけれど。

「……」

しかしなにであるか。

「……リオンは、区の中の悪い事全把握が、出来る?」

「まぁ、……それは気にしなくて良いよ」

「……」

なにであろうか、その曖昧な笑みは。その笑みは。

「悲しい事?」

「……さぁ、僕には判断しあぐねるから……なんだろう。……人を……、そうだね。罪とされる事をしてる人、しようとしている人が居て、それを見過ごして、流してる。いちいち感知してられないって言うか、なんて言うんだろう。……判断がつかないんだ。全て、見えているもの分かってしまうもの全て、何もない様にする事が正しい事なのか、良い事なのか」

「……」

こちらを、なんとも言えない笑みで見る。

「僕は、見捨ててる。どうにか出来る事をしようとしない。……僕は本当に咎人じゃないのかなぁ。僕って本当に真っ当に生きられてる?」

「……」

言おうとして、口をつぐむ。さっきリオンが返しあぐねたのは、自分を共犯にしない為ではないかと。それで?リオンは寂しげに笑んで頭を撫でてくれた。あぁ、気にしたら気にする。どう言えば良いのか。リオンの好きにしたら良い、良いのだけど。

「機構に……報告書上げる?」

「……すっごい一杯だよ?」

「……署長さん、よく分からない感じだったから」

「ふふ、嫌がらせ?」

「……機構の仕事だし。……調べるのが探偵の領分で、捕まえるのは機構の領分」

そのはずである。

「そうかな。そうかもね。じゃぁ、そうしておこうか」

楽しそうにリオンは言って、ぱんっと手を合わせて鳴らした。それ1つで、全てが片付くのかと、世界観がちょっとおかしいのかもしれない。でも、リオンが楽しそうだし、いいか。

ふるる、と、ブレスレットが光って真鍮の筒が落ちるのを手に取る。

「あぁ、仕事だね」

「……ん」

くるくると蓋を開けて、包まった紙を広げる。書かれたランクと名前。

「んじゃ、お仕事頑張ろっか」

「ん」

穏やかな日差しだった。何事もなかったみたいに、道を歩いた。


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