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マリナの話  作者: 白州
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迷いの森の霊獣

汽車に一般客が乗れる様になり、人が一応落ち着いた頃、駅にむかった。駅にはまだ片付けている人が居て、探してみたがアフチさんが居るかは分からなかった。上からでないと分からない。

「リオンは分かる?」

「えー、探そうとしてなかったんだけど」

「うん」

「居なくなってたら消されたのかなぁとか思っちゃうし、居たら居たで心配になりそうだし」

「守護結界付けなかった」

「……ゲートってよく分からないからね。そんなの通るのに、付けられないかなぁって、思っちゃうし」

「最善の妥協点は見つけられた?」

「……いや、……最善のね。……このまま蔑ろはどうなんだろって事だよね。当人逃げちゃったけど」

「……、タダより怖いものはないとか言うから?」

「なんか、そっか」

「それなら、もうよくなる?」

「……」

「アフチさんの方からいらないって」

なにもしないまま。最善も最悪もないまま、去った。

「……」

また、と言っていたけれど。汽車に石の敷かれた所から乗り込む。想定内のように付いている階段を上がって、行く。視線を感じた気がして振り返ったけれど、人は居ても誰がどうとも思えず、分からなかった。自意識過剰の勘違いだっただろうか。

乗り込んで、部屋に落ち着く。しばらくして汽笛が一頭高くないて、汽車が進み始めた。



「さて、歩く、のか……」

着いた駅から外に出て、リオンは落ち込む様子を見せた。

「歩かないと、迷えない?」

「あー、んー、しかし出入り見張られてるのか。どっか曲がって入れないかなぁ」

「……」

「曲がるのか?」

「道とか、近くの村?に行かずに?森だし、広がっている筈」

「……そうか」

「うん、脇道を探すか見張りを探して死角を通ろう」

これはリオンの癖であろうか。人目を避ける癖。うっかり森を迷わず入れて帰りが遅れた時の問題もあるかもしれないけれど。

そんなわけで、人を避けて森に向かった。林を抜けて、若干の木々の変化。森に入って行っていた。しかし、これ。

「迷子解放で、人のいる所に出たら目立つのでは」

「え……」

「今更じゃないか」

「え、イオは思ってたの?」

「……入れる目算があって、出る所も選べるつもりかと」

「僕そこまで自信過剰じゃないっていうか、馬鹿じゃん思いっきり」

「でも、もう森」

「そーだね」

「出て行く感もない」

「そーだね」

「あと視線を感じる」

「えー、わー」

「勘違いかも」

駅ではそうであった。と思う。そして、なにであろうか。

「なにか違う」

「ん?」

「人っぽくない」

それでも、獣とも違いそうであるけれど。

「猫と見合う視線とも違う」

「犬っぽいって事?」

「……」

「ごめん、違うね」

「そーだぞ、犬じゃねぇ」

ハスキーな聞き覚えのない声。見れば、白い毛が木漏れ日の光を受けて白銀に輝く一匹の狐。

「狐じゃねぇ」

片方だけ開いた紫の瞳が……。ん?

「馬鹿じゃないの、君」

「あ?」

「今、マリナの考え読んで突っ込んだでしょ」

「俺は、狼だ」

「そうじゃなくて、なんで自分の能力晒す様な事するの?馬鹿でしょ」

「お前のは見えないぞ?」

「だぁかぁらぁ、なんで自分の弱味晒す様な事を言うわけ?」

「だって、森を切りに来たんじゃないだろ?」

「……僕の考え見えないんだよねぇ」

「おぅ。二人が全然ちげぇ」

「馬鹿なの?そういう二人を選んで連れて来ておいて、木を切りに来たとか、君を狙って来たとか考えない訳?」

そう言うの言っている時点で、無害感が……。

「そう言うの言ってる時点で」

「それ君の考え?」

「……そっちの」

「僕の連れが僕の事信用してたって、おかしくないよね。馬鹿なの?」

連れ。

「嬉しそうだな、二人して。こんだけ好かれてんだ、やっぱ」

「他人を標準木にしない、自分で考えて自分で判断して」

他人に委ねる事を決め。

「他人に委ねんのを」

パク……。

「それ、君の考え?」

「……」

「考える気がないみたいだね」

リオンは狐さんを下に見る。

「狼だ」

位置的にでもあれど。

「分かってねぇなぁ。俺はすげぇんだ」

「片目人にあげちゃう馬鹿なのに?」

「おぉ、それは人助けだ」

大量に死んだらしいけど。

「あ?なんで、アイツは生まれてくる子を助けるのに必要だって言ってたぞ」

「それが嘘だとは思わない訳?」

「いや?アイツはわざわざ頭ん中見せてくれたしな。見るっつっても思い浮かべる事が見えるだけなんだが、まぁ割とはっきりと。子供助けたい一心だったしな」

「それが不幸の元だよ」

助けたい一心で、他の子供を実験台にして、死なせた訳ではあるけれど。

「マジか」

「君さ、本当。なんか、駄目感酷い」

「君じゃなくてグロリオ」

「馬鹿なのっ」

名乗りを遮ってそれは、リオンが怒っていた。今迄と明らかに違う。

「術師に名乗るなんて、どういう神経してるのさ。契約術師だったら名前で相手を縛れるのに」

「アホか。俺がそんなホイホイ捕まる訳ないだろ」

「……」

リオンがグロリ…に神経疑う様な目を向けて息を吐いて、こちらを見た。まぁ良いけれど。たっと地を蹴って一気に接近する。身構えるソレの胸骨を持って抱き上げる。ふわふわである。とても柔らかい。狼ってゴワゴワしてそうなのに。

「あっさり捕まり過ぎじゃない?」

「いや、コイツおかしい。いきなり考えが見えなくなって」

「……」

リオンの方を見る。

「僕なにもって事はないけど、今はなにも?」

「嫌々、意味わかんねぇよ」

もふもふである。可愛らしい。毛に顔を埋めるしかしなにか。

「花の香り」

「え?そんななの?」

「あと低体温」

「そりゃ、元々石の筈だし」

「ぴえっぴぇではない」

「柔らかい毛には、マリナの温もりが移るのかなぁ」

「……そう」

ぎゅっと抱える。

「それで、反省した?」

「なにをだよ」

「思いっきり捕まったのに」

「いやいや、これは違うだろ」

グロリ……は、腕の中で腕を振って悶える。う。脇で持ちたくないのに、体が下がるので、よっと上げる様にする。

「おい、揺らすな」

「犬は」

「犬じゃねぇ」

「鎖骨ある?」

「あ?」

「んー」

なんでだったか。

「肩の筋肉だけで体重を支えると、肩に負担がかかるって言うよね。鎖骨があると筋肉と違う所でも、骨と骨が繋がったりするとか?」

「骨?」

「霊獣には、ないかもね」

ない?確かにもふもふしていても、肉厚がない?んー。石と言ったか。

「じゃぁ、大丈夫か」

「まぁ、それはおいておいてさ、君、捕まって」

「契約の話だろ」

「容易く連れだせそうなんだけど」

「おうおう、無理だぜ、んなの」

どこから来るのだろう、この自信。

「じゃぁ、イオに抱えて貰って、外に向かおうか」

「……ん」

ニィに。

「なにと呼べば」

「グロリはねぇな」

「じゃぁ、イリスで」

リオンが言う。

「おー、良いけどな。お前等は?」

「僕はリオンで、その子がマリナ、そっちがイオ」

「ニィっつうのは愛称か?」

「そーだね。マリナだけの」

「そうか。俺はイオって呼べばいいのな」

「そうだね」

イリスをニィに渡す。ニィはイリスを腹から胸を支える様にして、脇に抱える。

「それで、どこに」

「戻るよ」

リオンは迷いなく歩き出す。森はどこを見ても森で。少しばかりふかふかした苔か落ち葉の土か、木々には緑が宿り、陽の光を視覚化する。どこもかしこもそんな感じ。これ、迷いの森でなくても迷わない理由があるのだろうか。

「ついて来てね。ちゃんと」

目を離せないらしい。リオンの後をついて行く。ニィもイリスを抱えてそうしている。

「方位磁針は、持たずに歩けるんだな」

「まぁ、そうだね」

「鳥か?」

イリスの疑問符。

「鳥ではないつもりだけど、渡り鳥が同じ所を目指したり、なんだり、周遊するのは頭に方位磁針機能があるからとは決定付けられていない筈だけど」

「そうなのか?それさえあればって考えてた奴いたぞ」

「それは知らないけど」

「そりゃな」

「鳥の頭の中見た所で、分かりやしないよ」

「そうじゃねぇ理由は?」

「さぁ、匂いだったり、季節風に乗ったり?ただ地形を覚えているだけかも」

「地形」

「まぁ、年々微妙に変わるけど。あぁ、匂いは魚だっけ」

「知らねぇよ」

「だろうね」

方位磁針か。鞄の中から石を取り出して、磁石と思えば出てくる。

「おぇ、なんで魔法使えてんの」

「リオンの作った術具」

魔法使いではない。

「いや、なんでって、リオン」

「使えるものは使えるでしょ。使えないと思えば使えないか知らないけど、使えると思えば使えるでしょ」

「いや、んな精神論的問題じゃなくてだな」

「そうかもね」

そんなものでもないのかとか思いつつ磁石を見れば、一点を指して止まる。これが間違えているか分からない。上を見てもお日様の位置は分からない。周りを。

「マリナ」

「ん」

リオンに呼ばれて見る。

「他ではともかく、ここでは僕を見て付いて来て」

「分かった」

目を逸らしたら置いて行かれる。それは怖い。とても。

「お前ら仲良くねぇのか?」

「その発想どこから来るの」

「いや、マリナがな、置いてかれたくねぇと」

「……大切だから置いて行く事もあるよ。自分の災いに巻き込みたくなくて、とか」

「やっぱ仲良くないよな。なにがあっても一緒に居てぇとか、本音も聞かずに言えずにだろ」

「その辺の錯誤を言い出したらそうだろうね。本音を言い合える相手なんて幻想じゃない?とも言いたくなるけど」

「なんでマリナはこんな奴好きなんだ」

「……さぁ」

好き、好きなのか。

「あんまり、人の感情勝手に決定付けない方がいいよ」

「おぁ?おー、おぉ、そういう所か」

「だからって言うか、そう最初に突っ込むべきだったのに、なんで忘れてって、霊獣だからだけど。折角そんななりなんだから話さなきゃ霊獣ってバレないよ」

「なんでだ」

「霊獣は狙われるんだよ」

「なんでだよ」

「高濃度の霊石を製造、創造?するから。そもそも肉体が超高級品」

「俺ぁ、そんなでもねぇぞ」

「そうなの?千年獣じゃなかった?」

「千年獣は継いだ」

「なにそれ。石の中にいる時間が長い方が良いんじゃなかったの?」

「千年獣は継いだ」

「分からないなら分からないで良いんだけど。石を継いだって事?」

「あー、んなかな」

よく分からない。いつもはどこにいるのだろうか。

「いつもは精霊なんかといるんだけどな。そこら中にいるっちゃいるけど、別世界でもあって、そうだな霊獣はあんまり会わんな」

精霊とは違うのか。

「なんか違うなぁって、属性がないからかも知れんが、そうだな、属性のない精霊かも知れん」

「他人に優しくない会話してるね」

「お?」

「予想はつくけど、マリナも口に出そうか。イリスは人の考えに話し掛けない」

「おー、おぉ」

「……」

なにも考えずに付いて歩いていれば良いか。

「それでいいのか?」

「イリス」

「へいへい。つか、なんで駄目なんだよ」

「人は口に出したい事と、出したくない事を選択して、話すんだよ。選択が下手くそで、間違えようとそれは当人の問題。君が口出しする所にないからね」

「そういうこっちゃねぇぞ」

「それが君の判断として、人は多少の謀りで人間関係上手くいく事を願っている所もある。つまり、……あれ?同じ事言おうとしてるかな」

「おう。ただ、その選択以前に何も考えまいとしてるぞ、マリナ」

「それも選択のうちだと思うけど」

選択のうち。ニィはなにを考えていただろうか。

「イオは何も考えちゃいねぇぞ」

「……」

「そこには突っ込まないんだ」

「突っ込めと」

「いいよ、放って置いて」

「そりゃ寂しそうな。ただ言葉を考えねぇだけで、ふわふわしてんだ。明瞭化してねぇ」

「へぇ」

「マリナはなんかから逃げるみたいに考えたり、考え捨ててどこかに集中しようとしてんな」

「イリスって、面倒くさいね」

「なにがだよ」

「なんとなく」

「あぁ?」

「うん」

逃げて、いるか。リオンを見て歩く。見られて困る事があるのか。ない気もする。ある気もする。さっき考えをなくそうとしたのは……。

「俺の為か?」

「……」

そうそ、親切でもない。

「卑屈だな。急に」

「イリスって、読むの好きなの?」

「おー、あー、話相手がいねぇ」

「普段から読んで話掛けるの?」

「大抵の奴びびって逃げるぞ」

「……あぁ、そう」

そうなるとこちらが無神経なのか。

「いや、違ぇだろ」

「イリス」

「いや、お前がそう注意するからな。マリナが遠慮してなにも考えとかんとこうと」

「それ、君の責任じゃない?」

「いや、だから逃げるんだって」

「ひょろひょろ出て来てたら捕まるでしょ」

「捕まってねぇよ」

「今、現在進行形でね」

「だからお前らが初めてだって」

「右目も取られたくせに」

「やったんだ」

その所為でと思えば確かに大切でも仲は良くなくて、錯誤以上とも取れる隔たりがある。

「ん?」

「ん、て。ん?マリナの考え見えるなら分かるんじゃないの」

リオンがよくないと思う事は考えたくない。

「ん?マジか?そう思えば思うほど考えたりしねぇ?」

「……」

考えてない事もない。

「その所為って右目の話だよな。実験で、俺が渡さなきゃって事か」

「他の案を提示すべき、だったらしい」

ニィの考えだけれど。生きているのは嬉しかろうと、生き辛くしたのは駄目だろう。

「なんの話だよ」

「君の言った錯誤ってやつかな。いくらその人がその子供の生を望もうと、それはただの独り善がりで、その子供は非道な実験を研究者にしいた不幸の象徴でしかない」

「はぁ?そいつのした事と子供は関係ないだろ」

「君が目を渡したから、そこに希望を見出した」

「俺はっ、だってっ、生まれてくるのに必要だって」

「そんな物が必要な子供、世の中は受け入れがたいんだよ」

「はぁ?なんで」

「霊獣の瞳は高濃度の超級の霊石。それをもってしか抑えられない霊力を生まれてくる時点で持ってるとかどんな化け物だよって話」

「あぁ?」

「……」

なにであるのか。

「霊力がそんなもんだろうが、知るか。俺は。ただ生きて欲しいって、その望みのなにが悪りぃってんだよ」

「やり方」

「……」

「まぁ、君から受け取る前から、実験は初めていたかもしれないけど。最終段階まで受け取っていなかったとしたら霊獣がそういうの、がばゆるだって知ってるって事なのかな」

「なんか酷ぇな」

「うん」

「うんじゃねぇ」

「だって、他に文句言える相手いないんだもん」

「お、おう」

「いいんだ」

「お、え?」

なにであるのか。リオンは死んだ相手を恨んできていて、今目の前にやっと文句の言える相手が居て、となるとイリスにイラつかない様に、考えない様にするのも違うか。

「俺の為じゃなくて、そいつの為かよ」

「……」

「そう、人の考え見るの好きなんだね」

リオンがイリスに釘を刺すように言う。

「つか、なんで俺が恨まれるんだ」

「すまない」

「ん?」

ニィが謝って、イリスが疑問符を飛ばす。

「うん。イリスが馬鹿なだけだし」

「お前、酷いな」

「察してよ」

「お?」

「僕の右目に君の右目がある」

「おー、ちゃんと生きてんだな」

朗らかなイリスである。

「君って人の思いが見えるだけで、それを慮ったりしないんだね」

「知ってっか?慮って何も言わねぇと、余計ややこしくなるんだぜ」

「……」

「判断とか以前に言いたい事は言って、言いまくって、言いまくりあえりゃぁ平和だぞ」

「……」

「言っちまった事が本音に聴こえて、自分にとって違って、だけどそんな誤解も言葉重ねてきゃ、どうにでもなんだろ」

「なんか楽観論というか」

「お前は卑屈つうか、こまっしゃくれて、良い子ぶりてぇの?」

「……」

良い子であれと、まともか、まともであれと呪いを掛けられていたのではと。

「あの親父さんがか」

お師匠さん。

「お師匠さんって、あいつの師匠か、……。なんか……あれだよな」

イリスは思い返す様にして言葉を止める。

「どうなん?」

「君の印象を僕に聞かれてもね」

「お前にとってどうだった?」

「それ聞いてどうするの」

「どうするのって事もねぇけど、お前がそんななのソイツの所為じゃねぇの」

「僕は……。僕だけど」

呪いという印象は悪いか。そう、考えた所為?リオンがそう言っていたけれど、嫌いな人ならあぁも、物悲しげになるものなのか。特別な人で、大切にされていて、思い入れ深い相手。イリス風に言えば、仲は良くなかったのかもしれない。

「お前な」

「ん?」

「や」

そういえば、思うのは勝手と、言葉に出すのも。

「違うのか」

「ん?」

「お前の言葉を奪ってんのは、リオンじゃねぇのか」

「……」

「や、よぉ」

「イリス?」

「や、そこはいい。お前は、その師匠の所為で息苦しいんじゃねぇのか」

「生き苦しい」

「お?ん?」

「それが人にとって当たり前過ぎる。なりたいモノにも成れず、なりたくないモノに成る為にも努力が必要とか。馬鹿っぽい。君にはそういうのはないだろうね、だって、居場所がここにあるんだから。誰にも、ないのに。居場所も仲の良い相手もない」

「……いや、な。……あんま良い印象がなかった気がしたっつうか。固定概念に囚われ過ぎて、諦めろ感が、ってっか……。そう生きにきぃのは、その師匠の所為じゃねぇの?」

「……お師匠様が目の前で殺された所為と言えばそう」

「いや」

「助けなかった。そう言い含められていたから」

「いや、な」

「助けられるのに、助けなかった」

「いや」

「人に優しくしろって、真っ当に生きろとか言いながら、自分の事はそう言い含められた。術師は悪鬼羅漢扱いされやすいって、そう、殺されても仕方ない、と。僕は特に生まれる前に人を殺してるから、生きるのはちゃんと後ろ指刺されない様に、真っ当にって」

「いやいや、生まれる前の事はお前の責任じゃあるまいし、好きにすりゃいいじゃねぇか」

「……言ったでしょ、霊獣の霊石でしか抑えられない、霊力値は人間として扱うには異常なんだよ。そんな力好き勝手に使っちゃ駄目だから」

「なんで?好きにしろよ」

「人間が社会を構築しだした時点で、社会性をもと求められるんだよ」

「あ?」

「それでもはみ出していて生きにくいわ、生まれつきの真っ当さじゃないから、楽したくてそうなのに、それが楽でもないから、生き苦しい」

「意味わからんぞ」

「そうだね。僕も、もう分からないよ」

「俺はアイツが命を助けるには、その方法しかないって、苦しそうだったし。つか、お前が生きにくいのはアイツの所為じゃなくて、世の中の所為だろ。なんで俺が文句言われにゃならんのか。甚だ疑問なんだが」

「そう、開き直れるあたり、社会性のなさって言うか」

「なにが悪いんだよ」

「人類的脅威である点?」

「お前は違うだろ」

「人性と言うのか、平均値を求めがちと言うのか」

「は?競争意識だってあるだろ。人見下したいこう、なんつうんだ」

「向上心?」

「いや、よく言い過ぎ……。なんだ。こう、人を見下したいタイプ?」

「……さっきと言ってる事同じ。なんだろ、平等性の追求?格差反対、みたいな?」

「いや、格差は知らんけど」

「人殺しの、子供。その遺伝。脅威的力。まぁ、僕が世界に不協和音をもたらすと、世界的な組織は考えた訳。組織は人間組織って全体を表す訳でもなく、画一的な組織ね」

「いや、分かんねぇ」

「君はこの土地の主人然としていてそれで良いのかもしれないけど。人って不便で、人がいないと生きていかれないみたいで。人は人として生きて行くのに人が必要なんだよ。だから君が言ったみたいに好きにってのは無理」

「いや、好きに出来ねぇのに、生きててなにが良いんだ?」

「……」

リオンは返す言葉を失くしたらしかった。それの何が良いのか分からない。それでも、生きていて、生きてて欲しいと思う。なんか間違っている気もした。

「いや、生きてて欲しいのは良いけどよ」

「じゃぁ、人殺しが好きなら殺し続けても良いの?」

「いんじゃね、ソイツが嫌なら嫌な奴が好きにすりゃいいだろ」

子供が実験台にされた事にショックを受けていたイリスはどこに行ったのだろうか。名前が違うからか。

「いや、そういう事したかった訳じゃなくてだな。ショックつうか、すげぇ以外だった」

あぁ、本当にただただリオンを助けたい一心であって、他を顧みなかった結果であると。

「まぁ、ともかく、殺したのは殺した奴がそうしたからで、俺の所為でもねぇし、お前が悩む必要もねぇ。好きに生きろ。な」

「……」

霊獣っていうのはこういうものなのか。イリスの耳がぴくぴくと揺れる。

「音?」

遠くからけたたましい音がする。遠いから、あれだけれど。機械音。

「騒がしいな」

「呪い避けでもしてるんじゃない?」

「この匂いがそうなんか」

「匂い」

流れてくるのは機械油の匂い。

「チェーンソーかな」

「森の木は切れないのでは」

「呪い避けしてれば大丈夫じゃない?」

随分と簡単な。言っていたけど。

「んな容易く切られてたまるか」

イリスがイオの腕でもだもだする。

「気になるなら行っても良いけど、黙っててよ」

「はぁ?」

「好きに切ってるだけでは」

林かもしれない。

「好きに切られりゃ、俺も好きにすんだ」

「……うん。ややこしくなるから無視して行こうか」

「口塞いでいれば良いのか」

ニィが腕をずらして、イリスの顎の下から手を出して上顎に指をかけて口を開かなくしてしまう。なんと言うのだろうか。イリスはすんと大人しくまとまる。

「弱い」

「霊力馬鹿高い筈なんだけどね」

「……爆発」

「しないんじゃない?森巻き込みたくないだろうし。あぁでも、イリスの霊力なら森は巻き込まれないのかな。分からないけど」

「……うん」

自分の棲む所を自分で破壊していたら、わけないなと。

「様子見に行こうか。どうせそっちが森の外側だし」

あぁ、確かにイリスと話為ではなく、イリスを連れ出せるか物の試しにイリスを連れて森の外を目指していた。そういえば。

「リオン歩くの楽そう」

「んー、なんでだろ」

「地面ふかふか?」

「んー、振動の返りは少ないのかなぁ」

それだけで、で、あろうか。辺りが機械音、モーター音ともいうのか騒がしくなってくる。

「まぁ、けど、そうだね。僕の父親は僕を想ってやったんじゃなくて、自分が自分の思うように好きにしたのだと思えば、確かに。……所為じゃ、ないのかな」

責任の所在不明化。いや、リオンの父親のやった事は父親のやった事。そう。元から分かっていた。分かっていたのに、言うと嘘っぽくなりそうで、言えば言うほど、まるでそうでないかある様になりそうで言えなかった事。

「こんにちは」

煩い機械音が止まる。

「お前ら、なんだぁ?」

「迷いの森って迷うのかなぁって、木は切って大丈夫になったんですか」

「えらい観光だなぁ。あぁ、この呪い除けの防護服着てりゃぁ、大丈夫だ」

「あぁ、そうなんですか」

「なんか、弱ってるらしいなぁ。目ん玉抜かれたって話だし、その加減だろ。人間の域に堕ちてきたって事だ」

「……あぁ……へぇ」

あぁ、これは。

「迷わないんですか?」

そう尋ねたリオンの声が違う。

「ん?そりゃ……外で」

「迷いません?」

緩やかに空気が揺れた。ふわっと風が吹いて、さっきまで居た他の人達が居なかった。

「さて、もう森の外だし、僕をそこまで見なくて大丈夫だよ」

「そう」

そんなものかと。

「イオも」

ニィは言われて、イリスの口に掛けていた手を外す。

「テメェ、何を」

「森の出入り口?迷わせてよく出す所に送っただけだよ。記憶も曖昧だろうから、迷ったと思う筈だから大丈夫」

「だから、なんで」

「なんでと言われても」

ニィはイリスを降ろす。

「煩わしかったから?何、呪いでも掛けて苦しめたかった?」

「森に手を出すなと、分からせねぇとならねぇ」

「人の不幸は喜びでもある。苦しみが訪れれば、解放されようと足掻く。何事もない事が一番って事もある」

「森を傷付けられたんだぞ」

倒れた木がある。倒されようと、えぐれた木がある。

「また生える範囲だよ」

「テメェが、裁量を決めてんなっ。ここは俺の領分だっ」

「で、君は目をあげちゃうんだ」

「あぁ?それが」

「それで、弱って領域を侵されて、気付いてなかった」

「それはお前らに気を」

「そうだね。僕の所為でもある。だから払った。僕の好きに、僕の方法で」

「……」

イリスの言葉がイリスに返った。気をとられてたのもイリスの好きにした結果で、リオンが好きにしたのはイリスが好きにすれば良いと言ったから。

「好きにしたらつってもな、文句は言うぞ。言い合ってなんぼだ」

「まぁ……、いいけど。目がない所為なら、僕の所為じゃないの?」

「俺のした事は俺の領分だっ」

「の割に……。というか、全体的に考えなしに、アホっぽいね」

「うっせっ」

「捕まって連れ出されてるし」

「いや、つかお前なんで普通に術使えてんだ」

「さぁ、目の影響とか。返そうか?」

「あ?大丈夫なのか?」

「さぁ、知らない」

「そうか、ならいらん」

目ってそんなお手軽なものだったのか。

「君の大切な森が傷付けられたのに、どうにかしたいと、思わないの?」

「思わねぇよ。いや、傷付けられねぇ様にはしてぇが、目が戻った所でどうにかなるとも限らんだろうが」

「馬鹿だもんね」

「あ?んな話じゃねぇ」

「そう……。でも傷付けられてから怒った所で手遅れだよ」

「あ?」

「何事もないのが一番だしね」

「何がだよ」

「霊獣の絶大性なんて、今になっては幻想になりつつある。敬われる事が忘れられて久しい今になって、そこから害が訪れれば力でねじ伏せようと躍起になるだろうと思うし。僕がこうも簡単に入れて出て行けるって事は、迷いの森も言葉の幻想で。木も切れると思えば切れた」

思い込みの問題と。

「君らが大した事無いとなれば、僕も大した事無くなる。そっちの方が僕にとっては良いのかな。……でも、恐れを無くした人は恐ろしいと」

リオンは息を吐く。お師匠さんの言葉であろうか。

「お前な」

「好きにされて、大切なモノを傷付けられて、まだそう言えるなら、大した主義主張なんだろうけど、僕はそうは思えないから……。なんだろ。何も出来なくて虚しい」

「人は傷付け合って生きてんだろ」

「僕は傷付きたくないし、傷付けられたくもないよ」

「なんか、大丈夫か?」

「……術師は真っ当であり、真っ当であり続けなくてはいけない」

「いや、だからな」

「この世界において、力の頂点は霊獣である。霊獣の起こす事は避ける事も出来ない災難。不可避の自然現象。人がおいそれと触れて良いものではない」

「師匠がどう言おうと」

「けど、魔術士は霊獣と契約が出来うる。人の人生を振り回し壊しうる力を、人1人の力で手中にし得て、一人の気まぐれで、世界を左右しうる」

「だとしてもな」

「人は平均値を求める。上に人がいる事には嫌気がさす。顔色を伺い続けるのも嫌気がさす。下に人がいる事にも嫌気がさす。顔色を伺われ続けるのも嫌気がさす。その感覚が麻痺して増長すればそれは、人で無しに近付いていく。霊獣を所有してはならない、その法があるのは人が人らしくあって、一種の自由を守る為だと」

リオンが息を吐く。

「僕は、上にいるものを羨み妬み、下にいるものを蔑み見下し、下から追い落とされれば怒り憎しみ、上を追い落とせば喜び歓喜する。平均が欲しいと足掻きたい」

「全然そんな話に聞こえねぇぞ。あとそういうの達観してたりだな」

「達観してたら、馬鹿だと見下したりしだす」

「そうとは限らないだろ」

「そこまでの境地はいらない」

「あー、人的でねぇって事な」

「そういう人を見下そうとする人はいる」

「おー、うん」

「君の言葉で言えば、それで好きにしていて……。そこに絶対的な力がないから、上下関係は見方によって変わって、それぞれ好きに言い合える。けれど霊獣の力は絶対的に凄く近くて、それは好きにすれば好きになんて誰も言えなくなる。そんな虚しいものなんだよ。この世界に虚無を落として自由を失くせる。そういうものだ」

「人間てのは不屈の精神でどうにかするもんだろ」

「なんか凄い幻想……。まぁ、人相手じゃなきゃね。諦めて切り替えて、目の前の現実と向き合ってどうにかこうにかしていくのかもしれない。だけど人相手だとそうもいかないんだよ。どうにか出来ると思ってしまう。分かり合えるかも、処断出来るかも、見つけていないだけで答えはあるものだと、創意工夫して、いつかどうにか叶うのだと」

リオンは息を吐く。

「無理だろ」

イリスが言うのは普通の調子で。

「自然との付き合いの方が、どうにかこうにか工夫してりゃ、落とし所も見つかるかしらんが、人同士なんぞ分かり合えっこないだろ。分かり合えると思ってる方が幻想だろ?だから好きにしてりゃ良いんだって。それならお互い様だなって笑い合えるじゃねぇか。片方が我慢してたらそりゃムカつくだろ。ムカつかれてるのかと卑屈にもなんだろ。好きにしろよな面倒くせぇ」

「……はっ、君とは本当分かり合えそうにないね」

「おう。みんな別の魂持って生きてんだ。仕方ないだろ」

「……ほんと、君相手なら諦められるのに……。なんで人相手だと諦められないんだろ……。嫌になるよ」

「それは知らん」

「だろうね」

リオンはふわふわと笑んでいた。あぁ……、初めて見たのかもしれない。どうしよう。嬉しい。

「……」

ニィに頭を撫でられる。緩やかな笑み。

「お前同じ事思われてるぞ」

「……ん?」

「いや、正確には違ぇのか。マリナがリオンに思って、イオがマリナに、リオンにもだけど思ってだな」

「なんの話」

「お、自覚なしか」

「イリスは凄いな、リオンを笑わせて、マリナを笑顔に出来るのだから」

「おっ、俺ってすげぇの?」

イリスは嬉しそうに尻尾を振り目を輝かせる。

「イリス喜ばせたから、ニィも凄いのでは」

「そうか」

ニィは記憶をなくしてからの方が、よく笑む。

「記憶ねぇの?」

「あぁ、少し前に無くした」

「そんなか」

「?」

首を傾げるニィにイリスも首を傾げる。しかし、なにであろう。

「名前分かるだけで、契約出来て、すったもんだ?」

「それだけでもないけど」

「……」

「そうだねぇ……。イリス、一つ提案なんだけど、森に物理的に入りにくくする術を掛けられるけど、それでさっきの人達に呪いか何か危害加えるのやめてほしいんだけど」

「物理的に?」

「そうだね。踏み込み難くする、結界術をぐるりと掛けるの。勿論、内部に影響が出る事はないけど、森の霊力を循環するだけで、人避けの結界は果たせる」

「壊れねぇのか」

「そうだね。攻撃を受ければ霊力消費は上がるけど、この地の霊力を上回る霊力の攻撃でなければ大丈夫だよ。そんな攻撃を受ければ森は消滅するわけだし、一回は防げるし、それで森が枯れる事はないでしょ、霊樹さえ生き残れば」

「……霊樹の力使えば森が消費しなくても、結界張れるか?」

「霊樹の具合によるだろうけど、まぁ、そうかな」

リオンの返事にイリスは尾をふるりと一度振る。

「んじゃ、頼むわ」

「て、こんな感じで契約が成立したりする」

「……ぁあ、ん」

「嘘かっ」

「出来るけど、君術士に霊樹を見せる気?」

「綺麗だぞ」

嬉しそうにイリスは言う。

「あのね。霊樹は力の源でしょ。それの力を消費する術式作らせて、他に流用されるとか思わないの?」

「すんのか?」

「しないけど」

「俺は知ってっぞ、術士は嘘を付けねぇんだ。着いた途端、術式が崩壊を始める。特に自分には嘘を付けねぇ。だから大丈夫だ」

「さっき嘘かって言った者の言とは思えないね」

「そことは違ぇよ。契約前の話だしな」

「……まぁ、いいけど」

リオンは契約関係無く、嘘がないか、少なく感じる。それは、人の中で生きるには、生き難く、堅苦しく、どこか億劫な気がする。

「おー、嘘を付けねぇ事で、雁字搦めなら、その分自由に生きろよ」

「……なんか知らないけど、まぁいいや。さっきの話を実行するなら案内して」

「おぉ、付いて来い」

イリスは尾を一振り、森に向かって歩き出すので、また目を離してしまってはいけないのだろう。きらきらと光を受けてふわふわさの強調されるそのイリスの姿を追いかけた。



そこは、切り立った崖というのだろうか。緑の地面からそこは穴の様に落ちて、その底は見えずに、透明感のある白く細く切りつける様な岩が何本も、無数に生えて、緑がまた茂。

「なんていうのか……霊気に当てられそう」

「術組無理か」

「出来るけど。森の霊力って、これの数千分の1で賄われているっていうか」

「おー。じゃぁ、森を守るには安心だな」

「これを扱える筈のイリスの霊力があの防呪に劣るとも思えないし、なんで呪いが発生しなかったんだろう……。やっぱり気の持ち様なのかなぁ」

「ん?」

「まぁ、いいや。森の外周付近歩いて回りたいんだけど、君の足だと早くて楽だよね。付いて行かせて」

「おぉ、いいぞ」

イリスの足、ここまで来るのに距離を感じず、楽だった。

「マリナとイオはここで待ってて」

「え」

「マリナ、帰って来なかったりしないから」

「信用されてねぇな」

「はいはい。じゃ、イオも。すぐ戻れるよ」

イリスがさくさく歩き出すのにリオンが付いて行って、すぐに姿は見えなくなった。ここで一番高いのはどこの木であろうか。

「マリナ」

手を差し出されて、その手を握る。とても綺麗と言える、霊樹と呼ばれた穴の中の様子を崖淵からニィと一緒になって足を投げ出しながら、少しばかりの不安をもって眺めた。



「術の作り方教えてくれね?」

「……」

帰って来た所でイリスがリオンに願い出ていた。言うだけタダ、断るのも自由とはリオンも言っていた。

「おっなんだ同意見じゃねぇか」

「……マリナがなかなか自分の意見を口にしないからね」

「おう。俺が代わりに言うか?」

思うだけタダとの言っていたか。押し付け合いで、どちらが折れるかだと。

「マリナはマリナで、自分で判断したものを口にするべきなんだよ。イリスがマリナの好きにし様を奪ったら駄目でしょ」

「おう」

元気よく返事をしてイリスははたはたと尾を振っている。可愛いな、これ。

「リオンはイリス嫌?」

「……嫌な訳ではないけど、人に教えた事ないしね。そもそも霊獣だし」

「おう、匂いが分かるからな、それで感覚で覚えんでもねぇぞ」

「……匂いって」

「術のだな」

「そういう自分の実力いかんに関わる事柄は黙っておくべきだと思うんだけど」

「おう」

「返事だけ良くなったね。あとマリナ、イリスをこの状態で連れ回すのはどうかと思うからね」

「ん?」

「狐が」

「狼な」

「狼が話したらおかしんだよ」

「だから笑える?」

「そうじゃなくてね。基本獣は話さない。幻獣とか聖獣になったら別だけど。それも契約してない状態で連れ回すものでもないし、話せない犬には首輪をするのが常識的で」

「イリスには合わない」

「だろうね。だから化けてもらわないと困る。そんな訳でもふもふを連れ回せる訳じゃないからね」

「……」

「化け方なんて知らねぇぞ」

「知ってる。えーっと、うん。本当に人に化けてまで付いて来る気なの?」

「そんなとこだな」

「……まぁ、良いけど。折見て森に帰って来なよ」

「おう」

なぜイリスは嬉々としているのか。リオンは座り込んで、鞄からリボンを取り出す。あと綺麗な小箱のソーイングセットを取り出して針に糸を通して、リボンに何か縫っていく。

「なにしてんだ」

「術縫ってる」

「化けられんのか?」

「さぁ、したことないし。そもそも霊獣って霊体なんだから、自分で出来そうなものだけど」

「出来ねぇのが悪りぃと」

「それなりにはなれそう」

「おう」

「……」

リオンは、さくさく縫って、それは模様か、なにか草の様で文字の様で。

「そういやお前の術の匂いって複雑だよな」

「臭い?」

「絶妙に良い香りだと思うぞ」

「よく分からない感覚だけど、隠匿に重きを置く、結界や封印を使う身としては、匂いで分かられてるっていうのはなんとも嫌な話だね」

「それはあれか。お前の術よか、俺の鼻の方が優秀という」

「だろうね。霊獣の特技を上回りたくもないから良いけど」

「おー、おう」

リオンは息を落として糸を針に巻き付けて抜き、留を作って糸を切る。

「はい、これ」

「なにすんだ」

「人の姿を願って、身に付けて……。うん」

「おー」

リオンに差し出された刺繍のされたリボンをイリスは見つめる。

「手があれだね。人になる前だもんね。マリナ、適当に結ってあげて」

「……」

それは人型の願いを込めてであろうか。どんな?それも?なにであろうか。リボンは割と長さがあって、首に巻けそうであるけれど、これ。首輪に反対しておいて良いのであろうか。そもそもどうして……、意思の疎通が出来るから?それでいくと分かり合えると誤解しえないであろうか。

「どこでも良いからさくっと巻け、さくっと、気になるならリオンに聞け」

「……」

「なにも考えなくなるなよな」

「突っ込むからでしょ」

「……おぉ」

「……」

まぁ、いいのか。するりともふもふの首に腕を回して、リボンで蝶を作って結んだ。どろん、というのとは違う、さくっと?すっと、人になっていた。左の紫の目が印象深くて、いつか見たリオンを彷彿とさせる。綺麗な白い毛の白さ長くなった所為か他の因果か、光を受けて白銀に輝く、睫毛もそんな調子であって、透けそうで透けないそれが影を作る。白い肌もどこかリオンを彷彿とさせながら、目尻の少し上がった様が、リオンとの印象を隔てる。

「目が無いのってやっぱり目が行くね。眼帯いるかな」

リオンが鞄を探す。髪もどうかと思うが。

「あー、はい。これ付けて。あと、髪も結って帽子でもかぶろうか」

「いや、なんでんな変装じみた話を」

「あと、服」

「そっち先じゃね」

イリスの方がきちんとした感覚を持ち合わせているのか。一見して男女感覚がない。石だし霊体だしであるか。白いブラウスを渡されて袖を通しても、ボタンに困るイリスをニィが手伝う。適当にゆるい七分丈ぐらいの黒のズボンを履いても、さして印象は変わらず、リオンは一枚布に紐の輪と二本。それの輪を首に通させて、二本で腰を結ぶ。

「少しは人っぽくなったかな」

「なんかしたか?」

「霊力抑える術を上掛けしていってる」

「ほー」

「目立つの嫌だしね」

「そんなか」

「そうなんだよ」

リオンはイリスの綺麗な髪を分けて結っていく。綺麗に編み込み2つ、後ろでお団子を作って帽子をかぶせる。

「すっげぇ鬱陶しんだけど」

「あぁ、あと靴」

「これ以上なんか身に付けろと」

「裸足で歩いていたら目立つし」

「お前、そんな目立つの嫌いか」

「そりゃ、賞金首だしねぇ」

リオンは取り出した靴をイリスに差し出す。

「履いて、結んだげる」

「またか」

「覚える気あるなら自分でやってくれたら良いけど」

「俺が覚えてぇのは術なんだが」

「だろうね」

イリスが靴を履けば、リオンは紐を引っ張り具合を調整して結ぶ。

「靴下はなくて大丈夫なのか」

「石だし」

「……」

「お前霊獣に対して、それしかねぇのか」

「霊体だし?」

「なんか違ぇ」

「そう」

「興味ねぇな」

「まぁ」

リオンはその辺り、思いを寄せていないらしい。というか。態度はごろ甘なのに、つれない。

「お前、俺の事そんな恨んでんの」

「恨まれる覚えでもあるの?」

「所為とかなんとか言ってたろ」

「……んー、君に見えたら考えるよ」

「なんだそりゃ」

「なんだろうねぇ。ただ、マリナの思考で僕の考え知ろうとしている間は無理でしょ」

「何言ってんだ」

「そういう話だよ」

「意味分かんねぇ。好きにするんだろ」

「僕がいつそんな事言ったっけ」

「……知らねぇ。笑ってたし、納得したんかと」

「納得ね。してないけど、まぁ、いいや。……術をちゃんと覚えてくれたら良いよ。教え方分からないし、匂いで覚えて扱えたら良いね」

「おぅ」

そんな訳で、イリスとも旅に。

「そういや、マリナとイオは良いの?これ交えると面倒な事になるかもしれないよ」

「……」

「リオンが居れば大抵の事は大丈夫じゃないか?」

「……まぁ、過分な評価ありがとう。所有はする訳じゃないしね。まぁ……いいや。今更だし」

リオンは人に化けたイリスを見て溜息を吐いた。



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