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マリナの話  作者: 白州
6/9

とまって

「俺の所為か」

「……」

分からない。あれから夜宿に着いて、リオンは寝たきり、起きなかった。3日程たって、目を覚ました。

「おはよぉ、ってなんか……大丈夫?」

「……」

「起きないから何か起きたかと」

「え?あぁ、言ってなかったっけ?僕、普段あんまり寝なくて、どばって寝るの」

「……」

あまり眠くないとは言っていた気もするが。

「聞いてないな」

「そう?ごめんね。病院に担ぎ込まれて無くて良かったよ」

「医者に見せたら寝ているだけだと。栄養剤は点滴で入れるかなど聞かれたが、リオンに針を刺すのは躊躇われて断った」

「ん、どうもありがと」

リオンはなんでも無い様子で伸びをしている。

「……俺の所為かと思った」

「ん?なんで?」

「……生きなくてはと、強固に思わねばならないのを、奪ったかと」

「そこまで響いちゃいないけど」

「っ……すまない」

ニィは顔を赤くして口を抑える。

「そこまででもない」

「……?」

「どうしようもない、呪いの様なものだし。まぁ、でも、他に方法があったんじゃと思った事もなかったから、自分も馬鹿だなぁって、思ったけど」

「……」

「厄介な霊力抱えた僕が生まれて来たの否定せずに、親の行動だけ否定するし、ちょっと違う所で気は楽になったけど、起こった事は変わらないしね。どうしようもなく生きなくちゃ駄目みたいだよ僕は、死なされた人の分も、命を大事にしないと駄目らしい」

「……そうか」

ニィの複雑そうな表情と、リオンの憂鬱そうな表情。どうしようもなくて。この世は何で出来ていたのだろうかと思う。

「それで、いつ駅回復しそう?」

「あぁ、駅舎無しの野ざらしで、一週間後にはと」

「そう。まぁ爆破の規模に対してそこそこで済んだかな」

「瓦礫下の地面がえぐれていなかったからだいぶ早く済むそうだ」

「あぁ、うん。落ちない様にしたし」

「……全て他の場所に移動出来たのか?」

「出来るけど、移動させられた方が迷惑でしょ」

「まぁ……、そうか」

「空の彼方は?」

口出ししてみる。

「空、宇宙かなぁ……どうだろ、そのうち迷惑そうな」

「宇宙?」

「星のある所?あぁ、でも案外、近い所に境目ってあったっけ?」

「……」

聞かれても分からない。

「そんなこんなだよ」

「つまり?」

「場所の単位が緩いから無理」

「そう」

そんなものか。

「行った場所だったりすると移動させやすい」

ん?

「移動する先は行った事ある場所?」

「そうだねぇ。地図で座標があれば行けなくもないけど、映像が、画面って言うのかなぁ。想像出来る方が良い」

「リオンの旅する先は知っている所ばかり?」

「そうでもない筈だけど」

「そう」

そうか。なにであろうか。

「どうやって?」

「適当に。地図で?正確な地図の方が良いけど。国は避けるよ?」

「そう」

それぐらい出来るという様子であるが、どれがどれぐらい、なにがどうと分からない。

「よく寝ずに、よく寝るのは、霊力の話?」

「さぁ、どっちかと言えば常々術式考えている所為とも。だけど僕個人の経験則でしかないし、違うかも」

「……」

「他にそういう体質の人が居て、僕と同じ様な生活していて、霊力が多いいか、術式を考え続けているかしていたら、まぁ、なんかかも」

「……」

「リオンの生活習慣が悪いという事か?」

「うん。なんかどうでもよくないかな?」

「心配した」

「うん。僕はそんなだし、慣れて?」

「……そうか」

悲しそうであるニィの、寂しそうな様子で。

「大丈夫だよ」

「……あぁ」

「なんか、……イオの方が大丈夫?」

「……なぜ」

「なんとなく」

リオンの言う事は分からなくもない。リオンは起きて元気そうで、ニィは憂鬱そうというか、悲しげと言うのがリオンが起きてからも抜けない。

「死ぬかと思った」

「うん、死なないけど」

「……」

死ぬとまで思っただろうか。不安にはなったけれど。ニィはだいぶと思い詰められていたらしい。確かにお医者さんも、熱も出ていないし体調不良の兆候も見られないのにと不思議そうにはしていたが。

「顔色悪いね。寝たら?どくし」

リオンが座って、ぽんぽんと手でベッドを叩く。ニィはそれに誘われる様にぽすんと寝てしまう。そして、すーすーと寝息を立て始める。

「ずっと寝てなかった?」

「かも」

「マリナはちゃんと寝てた?」

「……」

ちゃんと。ちゃんと、であろうか。手を見てにぎにぎする。リオンの手を見る。

「一応温いから大丈夫かと」

「え?あぁ」

リオンが自分の手を見る。

「ずっと握ってたの?」

「……寝ている時は」

起きない事の不安であったかはよく分からないけれど。……どちらかといえば。

「居なくならないか」

分からなくて、不安で。ずっと。

「勝手でごめんなさい」

「……死にそうと全く思ってなかったみたいでなによりだけど」

リオンは首を傾げる。

「ずっと出掛けてなかったの?」

「……」

「歩くの好きでしょ?」

「……」

好き嫌いであろうか。

「イオだって、汽車に長時間乗るの嫌がるくらい、動きたがってたのに、ずっと部屋に居たって事?」

「……食事を買いに」

「マリナ一人で?」

「そう」

「危ないでしょ。なに考えてんの」

「……ずっと、そうで……大丈夫」

「…………実害は兎も角、一人は嫌とかは?」

「……ごめんなさい」

「謝る事じゃないんだけど……。えー、言い忘れてたのかもしれないけど。イオもそこまで……。なんでだろ」

「……」

「マリナは、……死に逝かれそうで嫌だったの?一人になるのが?」

「ごめんなさい」

「謝る事じゃないんだけど」

リオンは溜息を吐く。

「一人になるのが怖いのは、おかしな事じゃないよ」

「……嫌そう、でも?」

「マリナと居るのは嫌じゃないよ。イオがそう言ってたの?」

「……生きるのが、嫌そうだった」

「そう、……でも、マリナの事は嫌じゃないんじゃ、と」

「そう思ってると思ったら嫌だったかもしれない。……ずっと居て欲しいと思っていると知っていたら、嫌だったかも」

ずっと、ずっと、居てくれたらと勝手な事を思っていた。辛そうで辛そうで、死にたそうで、殺されたそうで、それでも、そう、ニィは自分が犠牲にしてきた分生きて、育てられた分返さないとで、そんな義務で。

「リオンは」

嫌ではないのか。死なせた分とか言われて。でも、リオンの死なせた分はリオンがし死なせた、殺した分ではなくて。だからリオンに聞くのはお門違い。リオンの所為でないのにリオンの所為と思っているみたいになってしまう。否定もその発想が肯定。

「リオンは、……」

一緒に居たいと思って良いのだろうか。

「何を思うのも勝手で、何をどう願おうと勝手だけど、叶うものと叶わないものがある。……子供にそんな事言うものじゃないだろうけど」

「……」

「一緒に居るよ。君の気の休まるまで……。この言い方も難だね。約束しようか……、約束は更新して行けば良いよ。とりあえず、いつまで一緒にいる?」

「…………大人に、なるまで」

「……」

ちょっと驚いた様子を見せて、あぁと息を抜いた。

「分かった。マリナが大人になるまで一緒に居ようか」

「……ありがと」

緩やかな声だった。優しい声だった。



「おはよう」

「……はよ……」

寝ぼけた様子のニィがリオンに返事をする。朝でもないが、適当な時間に起きれたらしい。

「夕飯、食べに出ようか」

「……リオンは料理が上手いと聞いているが」

「明日の朝は作るよ。下準備はしたし」

「……そうか」

「うん、どこ行く?やっぱり市場?」

「それが良いならそこで」

「マリナはイオといる時はどこで食べてたの?」

「え……、焚き火で、鉄の底の浅い鍋で……焼く?」

「街では?」

「……宿屋で、出来合いの物?」

ニィはそこまで食べていなかった気もするけれど。

「歩くのが好きと言うより、野宿でイオと焚き火囲んで、ほこほこの物食べるのが良かったんじゃって、思えてくるね」

「……」

言われてみれば……。部屋で食べるよりもニィは穏やかであった気もする。

「そうかも」

「まぁ、良いか。とりあえず市場に」

「そうなるのか」

「今から準備しても美味しいの出来そうにないし、外で食べるのが良いんじゃない?」

「……そうではないのじゃないか」

「美味しくないのは、ないのではと、思うし。とりあえず出よ?」

「……あぁ」

「……ん」

そんな訳で、市場で適当に巡ってテーブルの席に着いて食事を始める。

「駅が壊れた割に人の変化が少ないな」

「まぁ、ショック受けていても仕方ないし」

「物流の滞りは?」

「線路が無事な時点でそこは大丈夫なんじゃない?ある程度の部分片付ければどうにでもなるでしょ。田舎だと今でも地べたから乗ったりするでしょ?」

「……」

「イオは分からないとして、マリナは」

「……知らない」

「そんな歩くんだ。田舎だと、区から区まで遠くない?」

「……そこそこ」

「んー」

「乗合馬車とかは使った」

「そんな田舎に賞金首いるの?」

「……さぁ、仕事している時は、一人で、別行動」

「あぁ、そうだっけ。なんだろ……息抜きしつつ移動してるのかなぁ」

「……ん」

移動時間が息抜きなら、時間を掛けて、ゆっくり、移動するのだろう。

「まぁ、今は関係ないけど」

「森は田舎か」

「森自体はね。でも、近隣区はそれなりかなぁ国がどうたらこうたら言ってたでしょ」

「……」

「自分達が利用出来ないにしても、みすみす捨て置くには勿体ないというか。いつまでも、放置も出来ず、利用も出来ず」

「目をくれる奇特な霊獣が居るのでは?」

「そーだね。な割には開発は進んでないし……、森は利用出来ないのかな」

「……」

「霊獣は出来て、霊獣に会えれば利用可能?これはどうかと思うけど」

「……ん」

奇特。リオンの憂鬱の原因で生きている礎。

「おー、お前らも夕飯?」

解体屋さんに声を掛けられて、瞬く。

「座るとこ無いの?」

「なんか、普通の様で酷い聞きようだな」

「座れば?」

「……どうも」

言われて言って、解体屋さんは空いている席に座る。

「まだ居たんだ」

「汽車が動き出さんと、主要都市には行けないからな」

「ここじゃ暫く、爆破解体なんてやりたがりそうに無いよね」

「だろうな。それでもあそこまで綺麗に潰せんし」

「疑われなくて良かったねぇ」

「……だな」

解体屋さんが少し寂しそうに笑む。それが気になった。

「疑われたかった?」

「俺が誰だか言って、アイツは死んだ」

「……」

なにであったか。

「バレたから死んだってものでもない気がするけど」

「……どうだかな」

「……」

自殺した筈と、なっていなかったか、この人の前では。

「失敗したからなら僕の所為だけど?」

「はっ、それはねぇな」

「ないんだ」

「人が死んでたら、死んでたろうよ」

「……そんなに仲良かったの?」

「爆弾犯を庇いすぎか?」

「……ちょっとね」

「なんだろうなぁ……。やっぱり、人を簡単に殺せる物を扱っているっていう、そういうの感じながら、そうしない様にずっと気を付け合って来たから、な」

「でも職種だいぶ違うよね。賞金稼ぎと解体屋って」

「賞金稼ぎしててそれで死人出してない辺り凄いと思わないか?」

「賞金首も?」

「怪我は酷くする事はあっても無いはず」

「そんなん出来る?というかそれって、脅しに使ってた?」

「爆破されたくなきゃ投降しろってな。うん。あったんじゃないか」

「わぁ、えー、うん……」

なにと言うのか。まぁ、手法は幅をきかせて自由度が高い方がいいのだろう。

「それで、どこか行き先あるの?」

「今は駅改修の下働き」

「発破は休業?」

「建物の残骸片付けるだけで大変だからな。今なら結構単純作業で雇われるぞ」

「……うん」

「お前だといっぺんに出来て、労働者泣かせか」

「まぁ」

「でも地元の奴には喜ばれるかもな」

「そうなの?」

「そら、まぁ、工事が続けば流れの労働者が区に寄って来て、駅での仕事が無くなっても、次の予定が無けりゃ此処に暫く滞在する事になる。無定職者が多くなると、区が疲弊する。だから、区の人員だけで済んでいるうちにさっさと工事が終わればって思うだろうと思うけどな」

「無宿者は取り締まり対象になるのにねぇ」

「なる奴はなるよ。計画性が薄いといえば、そうだが、賃金単位がおかしいっちゃおかしい事もあるからな」

「手に職無くても出来る事があるのは良いけど低賃金って事ね」

「……そんな所に自らと言うと仕方ない事の様に聞こえるな」

「どうだろ。安くても寄って来るからって出来ないのでも出来ると思って雇ってると後々波及効果?が出るかもね」

「ん?」

「素人仕事は恐ろしいって事かな」

「瓦礫を退けるのもか」

「下手に崩れたら怖いよ」

「それはな」

「解体屋さんは注油場火災爆破発破してるんだし感覚的に分かってるからいいんだろうけど」

「そんな能力求められている気はなかったけどな」

「だろうね」

「つか、ショベルカーでざくざくやってる所もあるしな」

「それはそれで埋まり難いし良いんじゃない?」

「ほんで、リオンだったか手伝わないのか?早く済むぞ?」

「それ以上になんかね」

濁そうとするのは何か。ただ言って悪い事に思えず口に出す。

「寝てた」

「寝ていたな」

「……」

「汽車じゃ寝れないタチか」

「んー……そういう事にしとく」

そうなるのか。

「違うのかよ」

「そもそも深く寝れる人っているの?」

「あー、微妙か。えーっと」

見られて悩まれた。

「あまり乗らない」

「そうなんの。で、名前は」

「マリナ」

「よく乗るのは僕でね」

「そんな付き合い短いのか」

「だねぇ。で、そっちの名前は?」

「あぁ、そういやそうか。アフチだ、改めて宜しく」

緩りと笑まれて頷く。

「んで、リオンは何で稼いでんだ」

「それが人を表すかの様なあれだよね」

「ん?」

「農業始めた頃からなのか、農家とか狩人とか、役割的人間区分?面倒くさいなとか思う事はない?」

「さっき、解体屋って呼んだろ」

「じゃぁ、結界師?」

「それでいくと、こないだの料金請求するだろ」

「タダより怖いものは無いよ」

「……だろうが」

ちょっと呆れの滲むというか。

「誰にも認識されてなかったら恩の着せようも無いだろう」

「それだよね」

「それ?」

「僕がやったって証明出来ないって事。それで自分がやりましたぁって馬鹿っぽいじゃん」

「そんな理由か?」

「一部は。なんかやる気出ない」

「……そうか」

「それも一部ね」

「……そんなに術師って、分かられたくないのか」

「それも一部であるけど。利用するだけして、蔑ろにするのもザラだし」

「……あぁ」

「あぁ、そっか、別に特別な事じゃないんだね。術師だからって卑屈過ぎだね」

「やっ、その事情もよく分からんし」

「分からないから怖いのかもね。でも知れば分かる恐ろしさもある」

「そうか。ままならんな」

「そうだね」

「……」

アフチさんは溜息を吐く。

「疲れてるなら旅行でもすれば?」

「……迷いの森とかか」

「そこはお勧めしないけど。普段自分が行きそうにない所?」

「あぁ……まぁ、な」

「旅しまっくてると、そんな気も起きないか」

そもそも旅行とは。

「ビル爆破しないって事は、田舎?」

「田舎でも煙突とかな」

「そんな立派な煙突、そこまで田舎?」

「そこまでの田舎、宿泊先あるか?」

「……難しい?」

「旅行ってなんだ」

「金持ちはバカンスに、避暑地行くみたいだけど」

「避暑地って」

「暑い所に住んでいるなら、そこより涼しい所に。寒い所からなら暖かな所へ」

「それ、そこに住むものでは」

「季節毎の気候もあるし、仕事の都合もあるだろうし」

「……そうか」

「やっぱ縁無いよね」

「しかしイオは休業中で旅してるって事は、旅行中なのか」

「……」

「迷いの森が避暑地とかになるか知らんが」

「森林浴?」

「森林浴なぁ。森の中に居たって癒されるとは思えんが」

「職場として居たらねぇ、微妙かも。でも木の種類っていうのかなぁ、違ったら和まない?」

「……和むなぁ。どっちにしろ迷子になって追い出されるんだよな」

「迷いの森はね」

「しかし大丈夫か?うっかり通り抜けたら騒ぎになるぞ」

「うっかりって、そうなるの?」

「入って行く奴見張られてるって話あるだろ。で、入って行って出て来ない奴が分かる。あそこでそれは特別過ぎて、なんだ。開発したいんだったか」

「木でも高値だろうしね」

「霊木か」

「それは入らなくとも外回り切れるのでは」

疑問が湧いて口にする。

「呪われるらしいよ」

「……」

なのに、目を持って行っても呪われなかったのか。

「呪いって曖昧だよな」

「それでも儲かる木々を切り刻まないぐらいには、人の心に刻まれている」

「ガチであったって事か」

「微妙な所だね。森に入って何もしてないとも限らない」

「……ん?」

「変な植物口にしていたり、森の動物、生き物との接触によって、慣れぬ病気に感染して体調不良となったのを、呪いと呼んだのかもしれない」

「外周でそれじゃ、もっとぽろっと出てきそうなもんだけどな」

「大量化?んー、かもね。難しいね。でも、なんだろ。ぱっと判明させていったらつまらないし、よく分からないって事にしているのかもね」

「つまらないって理由か」

「人間娯楽に飢えているし」

「……人死にも娯楽か」

「人の死に慄く心がある。何もないより刺激になるんじゃない?」

「恐怖がか」

「そういう意味では、迷いの森はつまらないよね。木を切ったりしなければ呪われず、入ろうと思ったら、いつの間にか元の所に戻るだけ。被害者らしい被害者の出ないから恨まれもしない」

「人避け効果としては絶大って事か」

「そこまでは言わないけどね」

「……人死にでいけば、駅舎の事これ以上ないってのは、それが殆どなかったからか」

「それでいて、君がずっと気になってしまうのは、死んだ人間を知っていて、生き方に思い入れがあるからとも言えて、納得出来てないから、かな」

「……いつまでも、うだうだ言っても仕方ないんだろうけどな」

「……」

リオンは目を細めて、息を吐く。

「解決してないからね。うだうだするよ」

「……なぁ。出来る事ってないもんか」

「……その調子じゃ、どこに行っても気は晴れそうにないね」

「……」

「でも、そう思いたいだけ……にはならないか」

「だけ……。まぁ、普通に食っちゃ寝してるしな。表面上気にしてるだけで、本当はどうでもいいのかもな」

「そう……」

アフチさんは寂しげで、リオンは言葉を探す様に、口を開いて。

「そう思えて、どうでも良くなるなら良いけど」

「……どうでも、な」

リオンは……。寂しそうな。

「表面取り繕おうとしちまうのは、そう育てられたもんなのか」

「……ある程度の社会性として、共鳴力共感性は求められているとは思うけど」

「そう育てるくせして、見捨てろって感で来るんだな」

「……」

「アフチさんの質は?」

「ん?」

口を出せば首を傾げられた。リオンが困ってそうでもあった。自分で言った事で。

「アフチさんは、アフチさんを育てたアフチさんの父親の行動に疑問を持ってた。今、疑問が止まらず、思いが募るのは、アフチさんの質でしかないのでは?」

「……反面教師って奴で、親への反発心だけかもな」

「それで優しくなるなら得してる」

「得か?」

「生き辛かろうとと、良い人っぽい。生きるのに辛いのに止めないなら、それはただの良い人かもしれない。ただ、苦しみながら生きるより、世の中に合わせて上手く生きられた方が良い」

だから、なんだ。何であろうか。

「……話間違った」

「え、あー、あぁ」

「優しさはお金では買えないから、ただで貰えてお得」

「あぁ、成る程、成る程な」

アフチさんは、面白そうに含んで笑った。

「そうだと、いいな」

優しさがそれほど価値のあるものなのか。どうして焦がれてしまうのか。ただ、ニィもリオンも優しくて、優しく無くて良いと言える程、優しく無い人を知らない。ただ、リオンを親切で優しいと思うぐらいには、死にそうな人を見捨てる事もザラで、それが優しく無いとも思え、世間とおおくくりにすると優しくも無い人は大量発生をして。それが個人に至るのか分からない。

「一緒に迷子になりに行くか?」

ニィの疑問符。アフチさんはそれにふっと笑う。

「いいや、そこまでしてたら流石に食いっぱぐれそうだしな。緊急時連絡つくようにしとかんと、困らせる」

「……あぁ、そうか」

「移動手段狭められた所にいて大丈夫なの?」

「緊急時には、機構の署にある、どこの署にでも繋がるドアを使える」

「あぁ、ゲート」

「そういや、アレがゲートか」

「なんだと思ってたの」

「便利なドア」

「……まぁ、便利だろうけど」

「特定の所にしか行けないだろ?」

「設定された所ね。追加も削除も出来るけど。それがゲートでしょ。どこにでも行けたら、ゲートの範疇じゃないよ」

「でも署以外にも出てなかったか」

「それは持ち運びのゲートを設置して、行ける様にしてるんじゃない?」

「そうか……。もっと日常的に使えないものか?便利だろ?」

「船とか汽車の団体から圧倒的に潰しに掛かられそうだけど」

「署を爆破出来るのか」

「署にある設定なんだ」

「他、どこだ?」

「まぁ、良いけど。そこまで術具信用している人も珍しくない?」

「術具なら誰でも使ってるだろ?道具って感じでもないが、汽車も船も術を使ってるだろ」

「そうだけど、足元浮かないよね」

「ドアも浮かないぞ」

「うん、例え悪かったけど、なんて言おう……。うーん。科学的に船は浮くし、汽車も走るけど、術はそう証明されたものでないし」

「船も沈みゃ、汽車が事故する事もあるだろ?回数重ねりゃ起きて、回数重ねて減らして。大差ないだろう?」

「……実証実験による検証。確かにそれで汽車にゲート導入したんだろうし、大丈夫とは思うけど……。機構の事それだけ信用出来るの?」

「……そこか」

「ごめん、いらない事言った。僕……どうしよ」

「ん?」

リオンの声に不安が強く滲む。

「どうかした?」

「そういうのって、そういう疑いや不信感を探知出来るように作れたりするんだよ」

「……んな機能付けてんのか?」

「確信はないけど、出来るし、やる可能性を否定出来なくて」

「と、言われてもな。俺も元々そこまで信仰深く機構を思ってた訳じゃなく出入り出来てたしな。心象の悪さでいけば駅の件で既に落ちてるから、今更術具や機構に対する疑義を聞かれてもだ。良い側面悪い側面は物事にありがちだ。なら……どこででも良い事に近付けるように働きたいと、……。なんか違うか」

「……」

「リオン?」

顔色が良くない。

「そういう考えで機構を選ぶ人間を機構はある程度喜ばしく思えそうでもあるけど……」

まるっきり信奉している訳でもない。それでいて機構の仕事をするのも選択している。

「丁度いい加減に育てられてそうか?」

「……そういう訳でも」

リオンはアフチさんを伺い見る。

「どうした?」

「御守りでも渡せたら良いけど、それこそ反抗の兆しに捉えられ無くも無くて」

「そこまで気にせんでも」

「大丈夫って、言い切れない」

「世の中そんなもんだろ」

「……」

「予防しよう予防しようたって、どこかで綻ぶ。妥協は必要だろ」

「……それを術師がしたら駄目で」

「術師がって」

「邁進し続けないと、術が崩壊する」

「……」

「どこまでも、どこまでも、ちゃんとしないと、ちゃんとしないとって思わないと」

それは切なげで苦しげ。どこか諦めているっぽいのに、そんな事をどうして言うのか。

「ちゃんとがどこにあるのか分からない」

「あー、最善ってのは、落とし所としてないのか」

「……最善ってなんだろ」

「今気になってんのは?」

「…………」

「ゲート通るのが心配と言ってたな。通るの受けなきゃ良いか?」

「……食いっぱぐれるんでしょ」

「そうな」

「……駄目じゃん」

少々の悲しげな雰囲気をリオンが出すので、アフチさんはこちらを見る。

「俺が悪いの?」

「悪くない。ただ疑われる機構に責任がある。あるけど、微妙」

「そうな。良い面悪い面のそれでも今の社会が成り立っているのは、機構のお陰か知らんし」

「……面倒くさい」

「ん、うん」

「気持ちの誤魔化しようもなく、気持ちはコントロール出来ずに、無くして欲しい訳でもない」

「んー?」

「大丈夫って思っていれば大丈夫?」

リオンに聞いてみた。

「いや、まぁ、うん」

「そんな話なのか」

「御守りで、誤魔化すのもそんなもんっちゃそうなんだけど」

「……ん?」

「大丈夫って信じてれば大丈夫、みたいな?……だからさっきの調子よく育てられてて良いねって言うので信じてられたらそれで良かったんだけど」

「ならなんで疑問を呈したんだ」

「……えー、なんでだろ。ごめん」

「……うん。そうか、そうさな」

「言葉って取り返しがつかなくて本当、嫌い」

「うん。なんか、そこまでか」

「……ごめん」

落ち込んでいくリオンに戸惑って、アフチさんはこちらを見て、ニィも見る。

「こうも構われる事もないと言うか。気に掛けられる事も無かったんだが」

「あぁ、まぁ……うん」

まぁ、気分は分からなくもない。……のか?ニィがずっと居て、ずっと居たのに?

「気にすんなよ。明日は我が身で、誰に何が起ころうと分からないのは皆んな同じなんだし」

「……」

「……それは諦めの言葉?」

リオンは、次の言葉も無さげであれど。術師はなんと言っただろうか。

「諦めたら崩壊する、と」

言っていたし、リオンの術の崩壊は死に直結してはいなかっただろうか。

「諦めを覚えてしまっては駄目なのでは」

諦めの言葉をリオンは吐いていたけれど。それでも諦めてはいけないのではと。目の前の事を、実感のあるそれであるから。

「会った事のない人は兎も角、会っていれば知れる事なのでは」

リオンの諜報能力はよく分からないけれど。知れてしまいそうで怖い。

「名乗ったのが悪かったか」

「……そういう訳でも、ない様な」

会ってしまったのだ。

「爆発物を解除出来て、爆発で死んで欲しくないと思っていた。そういう問題かもしれない」

「…………、困るな」

「困る?」

アフチさんは息を吐く。

「いや、もういい、大丈夫だ」

「……」

「大丈夫だから気にするな」

言って吐いた言葉。それで立ち上がる。

「悪かった。邪魔したな。長々と」

「いや……、良いんだけど、え」

「じゃぁ、また」

「え」

テーブルの上を片付けて、アフチさんが立ち上がる。

「じゃぁ」

「え?」

「あぁ……、また」

戸惑っている様子のリオンを放って、ニィは軽く手を上げて、別れを認めて。アフチさんは離れて行った。

「どうしよ」

「……どうもしなくて良いらしいけど」

背中を見送る。

「死なないかな」

「……」

「人は事故でも死ぬ」

「あー、術具の事故とは思われたくないかな」

「……」

確かにゲートとか言うのが、反発心で引っ掛かるとして、それをつまびらかにして処断はしにくかろうとは思う。

「ゲートの能力では無理か」

「……後々、ゲート以外で事故に見せかけては?」

「……危険な所に行く仕事だしねぇ」

「もう、なにか。気にせず、把握せず、会った時は会った時で挨拶したら良いんじゃないのか」

元のニィの旅人の生き方くさい。

「そうだねって、……なんか。そうなんだけど」

「諦めたらお終いか?」

「今迄そうして来たけど……。なんか。どうなんだろ。……話過ぎた、かも」

「あれだけ話すのも珍しいとは……、思うか」

「向こう僕が賞金首だって知らないし」

「……」

ニィをイオをとしてしか認識してなくて、賞金首と思うのは無理もあるだろう。

「普通に話せるものだねぇ」

「……」

リオンが息を乗せて言葉を落とす。

「術師とは話もしたくないのが殆どとか思っていた、被害妄想甚だしくて、引く」

「……お師匠さんが、殺されて、何もならなかったなら仕方ない、……のかも。手近な人で判断するしかない事もあるだろうし」

「……そうかな。うん。多分」

「殺された?」

「イオの居る所で言って無かった?」

「覚えていないだけかもしれない」

「記憶無くしても容量小さいの?」

「さぁ、それで、何故何もならなかった」

「疫病流行らせたってんで近くの人に殺されたんだよ。集団心理だったし?」

「流行らせたのか」

「……僕の知る限りそういう人じゃないけど」

「なら、どうして」

「どうしてだろ。……術師だからって思ってた。お師匠様もそういう事言うし」

「……そうか」

ニィは寂しげで。

「でもアフチの常識にそういうのないみたいだし、よく分からないけど」

「あぁ」

「マリナの様子からしてイオにもないみたいだけど、イオは機構の施設育ちだし、どうなんだろ。まぁ、でも立派な賞金稼ぎにしようと思ったら、あんまり術師を拒絶する様じゃ駄目なのかな」

「……」

「どうやって捉えてたんだろ。術師は少なかろうと、術式武器とか素手で戦えるものなの?」

「知らない」

「だよねぇ」

「さっきの話で行けば、出来ると思えば出来るのでは?」

「あぁ、そっか。そうなるね」

「なるのか?」

「大丈夫と思えば大丈夫で、勝てると思えば勝てる。そんなじゃない」

「……」

「そう」

「無理がないか」

「うん。さて僕等もそろそろ宿に帰ろうか」

「……ん」

「……分かった」

どうしようもない話であるから尻切れトンボ、そんなものであったのだったろうだった。

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