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マリナの話  作者: 白州
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駅舎

大きな街で乗り換えるので、降りて街を散策した。珍しくニィと行動するそれ。リオンも食料を買い込むのに、同じに歩く。

「病み上がりっていうか、退院したばかりの人の体力が、なんか達者で怖い」

「……すまない」

「謝られてもね。あれだけど」

「リオンがない」

「というか、霊力納めるのに取られるから」

「足取り緩やか」

「正しく歩けてれば、良い筈だけど」

確かに、姿勢が悪い訳でもないし、良いのだけれど。

「それにしても、人が多いか」

「んー、前の街よりは」

「雪が少ないからか」

「前の街だって積もってもいなかったけど、まぁ、ここは季節問わず、こんなものかな」

「そうか」

綺麗に整備された街並みで。

「イオっ、イオだろ」

走って来た人がニィに声をかける。ニィは首を傾げる。

「認識阻害って知り合いだと掛かりにくいかなぁ」

リオンがぼやく様に言う。それ、二度目はあっさり見つかるという……。リオンは知り合いがいなかったなら仕方ないのか。そもそも名前と賞金だけの1人歩きな気がする。

「仕事が、……あって、手伝って貰えないか」

「…………申し訳ないが……」

「1人仕事しかしないって知ってっけど、ヤベェんだよ。なんか」

焦っている様な様子で、その男の人はニィの腕を掴む。

「ヤバイ計画があって、止めるのに、必要なんだ。人が」

「説明になってない」

「え。って連れがいるのか」

「僕はともかくマリナも知られてないんだ。大事にされてるんだねぇ」

「え」

「うん、で、なにがヤバイの?」

「え、あぁここじゃちょっと」

人通りのある歩行路である。

「断る選択肢があるなら、話だけ聞いても良いけど」

リオンの言葉に男はニィを伺い見て、反応のなんとも無さにか、息をつく。

「近くの店でも」

男は焦る様に探す。

「んー、向こうに丁度良さそうな店あったから行こっか」

「あ、あぁ」

なんであるのか、なぜだか連れ立って、少しばかりか戻って、店に入る。前に入った店より少しばかり、汚い、という程でもないが、前の店よりはそうだった。そこで、コーヒーと果実の炭酸割りとかを頼んで、飲みつつである。

「駅が爆破されるらしい」

「それは迷惑だね。なんでそんな事するの」

「知らん」

「ただの噂?」

「情報屋からの情報だ」

「……どうだろ」

「信用度の高い、情報屋だ」

「……へぇ」

「信じてないな。お前が信じてなかろうといいけど、イオ、手を貸してくれ」

「相手の心当たりは付いてるの?」

「ここ牛耳ってるギャング」

リオンを煩わしがるのに、返事をするのは律儀なのか、霊力の問題か。

「なんで?ここでの稼ぎ減るでしょ」

「なんでも何もない。やるもんはやるんだろ」

「……それは、大丈夫?」

「情報屋の仕事を信じて何が悪い」

「……なにがって……調べた方がいいのかな。駅壊されるのは迷惑だし」

それはそうだろう。

「調べるって探偵じゃあるまいに」

情報屋の方でないのか、しかし。

「探偵って?」

「んー、探索偵察?今言うのは機構にこんな事がありましたぁって事件報告あったのを裏打ちする人?機構は人手不足だし」

裏打ちしているのか。でも人手不足で、出来ていない?

「イオ、頼む。ギャングの事務所に乗り込む手伝いを」

「短絡的過ぎない?」

「あ?」

「やってない事で責める?」

疑問が湧いて口にしていた。睨まれる。

「やられた後じゃ手遅れだろうが」

「子供を睨む時点でクズだけど」

「はぁ?……ちっ」

リオンを睨み付けようとしたけど、不満気に黙る。

「爆破するなら、ある程度設置場所限られるかな」

「そうか?そこらに置き荷物しとけばいいだろ」

「置き引きされるよ?そこまでここ治安良かった?」

「……」

「適当に目星いとこないか当たり付けて見張って、来たの捕まえたら?」

「捕まえる時、爆破されたら困るだろ」

「じゃぁ解体出来る人誘って」

「知るかよ」

「情報屋に聞きなよ」

「……それならイオは手伝ってくれんのか」

「……リオンが良いのなら」

「……そうか」

名前普通に聞いた。リオンの名は珍しくもないか。

「じゃぁ、後で下見に行こうか」

「……情報屋に聞いては見るけどな。これから行くのか」

「宿に買い出しの荷物置いてから」

「子供は連れて来んなよ」

「下見だよ?」

「……ちっ」

何かとても不満気なその人と別れて、宿に向かう。

「良かったのか」

「んー、駅爆破されたら困るし」

「歩きで行く?」

「んー僕はきついかも」

「……」

「何か解決出来るだろうか」

「さぁ……駄目で元々じゃない?多分、そうだよ」

「そうか……」

少しずつ、記憶のある頃のニィに近付く感覚に虚しくなった。



「爆破して、なにが解決する事もないのでは、と、思うんだけどなぁ」

「……」

「列車強盗をして解決する事もないと思うが」

「ぶり返すんだ」

「……」

納得のいく所に落ち着いてもいないのだろう。

「まぁ、そういう事するから、弾圧されるんだって、穏健な所は反発して、部族間の交友が減って、機構の思う壺とかあるかもだけど」

「襲わないと襲われると」

「そういう所もあるかもだけど、襲わなかろうが、襲おうが、気が向いたら潰しにかかるんでしょ?思う壺って程思う所もないかもね」

「どういう事だ」

「気というか、都合?機構に対する反発の息抜きに使ったり、戦闘訓練に巻き込むとも思わないけど、いつでも弾圧出来る相手がいるのは、色々と都合が良いんだと思うけど」

「いつでも襲わないのに、襲っても良いというのがおかしいだろう」

「機構に上納金納めないのは、人で無しらしいし」

「……」

「旅人は?」

「買い物とか宿代に機構に行くお金が含まれているよ」

「犯罪者の人からも」

「そりゃ、お金はお金だし。調べられるものでもないのは良いけど、悪いお金と分かっていて受け取ったら一応罪だよ」

「……悪い、お金」

「まぁ、お金に良い悪いなんて付けても仕方ないし……。悪い目的で渡されたお金、もしくは悪い事をして稼いだお金と知っていて受け取る事。それらは一応罪、かな」

「……」

「悪い事は法律上のね」

「法律にない事は」

「それはまぁ、それぞれの問題かな」

「……そう」

そうか。

「でも、守らない、守らせないは、反感を招くかもね」

「……」

「あぁ、駅だ」

人通りの多くなって行く先に、目の前の開けた大きなお屋敷より大きな駅。

「あー、仕掛けてやばそうな場所多そう。やだなぁ」

「手伝わない?」

「……手伝うみたいに言っちゃったし、駅壊れると困るし」

「彼だけでは止められないか」

「まっ、情報受領するだけ受領して、自分で考えないタイプみたいだし。そういう子多いい世の中は機構も楽だろうねぇ」

「……すまない」

「イオが悪いんじゃないよぉ。そういう人が育ちやすい様に機構も頑張ってんでしょ。自分達に疑問を抱かない人間を作るのに。頑張って出来てる辺り凄いけど」

「そうか」

「さて」

駅に入れば開けたホール。天井が高い。ベンチが並び、汽車の音が遠くに聞こえる。

「一番効果的なのはって、天井……」

リオンは上を見上げて眉を寄せる。

「なんか」

「おぉー、来たか」

さっきの人がやってくる。人を連れて。

「コイツは紹介してもらった解体屋」

長身ののそっとした感じで、姿勢はよろしくない人。多分男の人。その後ろに小柄でフードを被った性別不明の人。

「解体屋と言われると、意味が微妙なんだが」

「さくっと解除出来るならなんでも良いけど、手遅れかも」

「で、こっちが情報屋のって、え?」

「ここに今居るって事は嘘を掴ませてはめたって事はないのかな」

「え?」

「は?」

リオンは相手の反応を気にした様子もなく、口から何か音を出す。滑らかなビロードの響きで話ている時の声と違うそれに、背筋に落ちるものがある。怖がる必要はない。それでも、恐怖に似た感覚に襲われる。なに、これ。

「おい」

「結界展開」

一言、聞き取れたそれ。地面が揺れる。音が響く。だけど、なにが起きたのか、なにも起きていない様な気がする。

「時間だったみたい」

「まさか」

驚きの様子で情報屋の人は上に釘付けで、少年ぽさがある。上を見れば割れた天井がなにかにせき止められて、形を保っている。まるで危機感を覚えない。なんとはなしに立って居られる。

「結界術?こんな大規模展開聞いた事が……化け物か」

情報屋が状況を読み取って恐れの目をリオンに向けるのに、ニィの手が情報屋の襟口にかかり、息の詰まる音が出る。

「イオ、自分の握力把握出来てないでしょ。やめたげて」

リオンが嗜める様に言うと、ニィは慌てた様に手を離す。

「すまない」

「ガッ、ごほっごほっ」

離された人は息を吸い吐きするのに、苦しげに咳き込む。

「あー、なんつーか」

「とりあえず、駅の中の人逃してよ。それぐらい人でも出来るでしょ。こんな結界始めてだし、さっさとやってくれるとありがたいんだけど」

「お、おぉ」

周りの人達はなにが起きたか分かっていない。

「駅員に知らせるか。混乱させたら元も子もない。駅員の方が避難誘導出来るだろ」

解体屋の人が言う。

「おー……確かに」

「俺達は、他に爆弾がないか調べる。崩壊が起きない事に疑問を持って探しに来るのがいるかもしれない、アンタはここで守っていてやれ」

「……分かった」

「おーじゃぁ、行くぞ」

三人が三人して離れて行く。リオンの服の裾を握る。

「余裕そうだけど」

「初めてでも案外余裕だよ」

「……すまない。怒ろうが、リオンに迷惑をかけるだけなのに」

「そうかな」

「リオンの不名誉になる」

「そこまで考えるかな」

「さっきのに怪我を殺していたら、リオンの所為になるんだろ」

「配慮というのか、行き過ぎてて怖い」

「……すまない」

「いいよ。僕は怒れないから。当たり前になり過ぎていて、師匠が殺された時もそんなものなんだろうって。ごめんね、口出しておいてなんだけど、イオのその感覚、嫌いじゃないよ」

リオンの声の音に先程までのビロードの響きはなくて、少し寂しげに響いていた。



「綺麗に崩れるものだな」

「移動操作したから。汽車の運行再開が早くなる様にね」

リオンはさした事でもなさげに言ったが、情報屋の人は凄く表情を歪めた。

「どんだけ高濃度の霊石扱えばそうなるんだ」

「お金に糸目をつけなきゃそうなるよねぇ」

「イオ、少しは遠慮させたらどうだ」

「……」

リオンの霊力値?の問題としれるのはいただけないのだろう。

「それでイオの現場では被害出ないのか」

「そこまで付き合い長くないよ。イオはイオがちゃんとしてただけだよ」

「そうか」

ご同業とおぼしき人は後ろ頭をかく。この人が話しかけて来た訳だけど、親しげでもないので、記憶が無くても大丈夫そうである。

「にしても、誰が何の為にやったんだろ」

「爆発物のカケラ集めたら誰か分かるかも知れねぇけど。これじゃぁな」

「カケラで良いなら集めようか?」

解体屋さんに言われてリオンは首を傾げて口からふわっと、滑らかな音を出す。

「収拾」

がさっと、構えた手の下にちょっと機械的なカケラが落ちる。

「へぇー、便利なものだなぁ」

解体屋さんは興味深げにカケラを拾って眺めだすが、情報屋の方は息をひく音を出して、怖い怖い怖いと小さく呟いている。

「これはアイツか。神経質そうな。なんか」

「分かるんだ」

「しっかし、アイツはご同業だろ?」

「賞金稼ぎの?爆弾って」

「調整うまい奴だから、周りに被害ださねぇよ。なのに、なんで、こう」

「今回は賞金首狙いにしては大仰だね。まぁ、駅にいてもおかしくはないけど」

「……ンな馬鹿な事。おい情報屋、おかしいだろ。ギャングの当主だろ。なんで」

「話の出所がそうだったんだ。調べなおすから、ちょっと待ってろ」

よく分からないままに、解散となった。



「しばらく動けないかなぁ」

「歩きは?」

「勧めてくるね。それ。歩きたいの?」

「……常に、そうだった」

「そう、どうしよ」

「リオンが、嫌ならいい」

「……まぁ、嫌なんだけど」

「ん」

ならそうかと。

「今回の事は犠牲を厭わぬ賞金稼ぎがした事か?」

「結果待ちじゃない?誰かの依頼とか脅されてとか、自分の自由意思自由判断とは限らないし」

「目的が分からないと言っていたか」

「まぁ、分からないね」

「交通の要所なら困る人がいて、困らされる人がいるのでは?」

「かもね。ただ駅にいる1人を狙って、それを紛れさせる為に無尽蔵に狙ったかもしれないし」

「それは、怖い」

「余程の恨みだねぇ。要人が来てたかも調べてるかなぁ」

「狙われそうな人?」

「そーだねぇ、後は、なんだろう?破壊衝動の暴走?」

「それは理由?」

「説明し難い理由も理由のうちでしょ」

「……」

そんなものか。

「破壊衝動の発散の為に賞金稼ぎやっていたとか」

「……でも、神経質で調整するって」

「あぁ、そっか。何を成し得るかより、どう成し得るか、過程より結果と言うか、結果より過程と言うか。絶妙な感じに仕上げて悦に浸りたいなら、確かに今日のはおかしいけど。なら脅されたか、切羽詰まったか。まぁ、考えても仕方ないし、情報待ちじゃない?」

「……あの人の情報、信用出来る?」

「まぁ、現場にのこのこいたし、少なくとも主犯ではないんじゃない?周り巻き込んでの自殺がしたかったんじゃなければ」

死んで諸共……。

「そうなるとお気軽に手を貸すのかな。お金先払いで、自分の情報が漏洩する恐れのある主犯が死ぬんだし」

「それで協力するのはどうかと思う」

「まぁ、良いとは言わないけど。駅が壊れていたら、爆弾の部品から特定もしにくかったろうし。微妙じゃない?」

「バレねばするのか?」

ニィの疑問。

「しない人はしない」

リオンはあっさりとした調子で答える。

「それと精密さの重視から逸れた理由になるか」

「……んーならない、かな。別に情報屋主犯説をそこまで押すつもりもないし。脅しの情報でも掴めそうだけど」

「主犯説を推したいんじゃない。情報精査の判断力を疑う」

「……それが僕を化け物扱いした事から来ているなら、酷い勘違いだよ」

「……」

「情報屋は正しく術師を理解しているからこそ、僕を畏怖した。君の同業者と解体屋が僕を安直に受け入れたのは目の前の行動と君の連れだからってだけ。人助けに使おうと僕の結界術が異常という事に変わりはないのにね」

「……理解が畏怖に繋がるなら、理解したくない。……リオンの事を知っていって親しくなりたいのに。分かってはいけないのか」

「……人間誰も、他人は勿論、自分を理解してやしていないよ」

「……」

ニィの目は寂しげだった。リオンはよく分からない。ニィの目の雰囲気を分かっている様な気になっているのがおかしいのだろう。分からないのだろう。きっと。誰も。

「という訳で僕も術師の事なんて分かってやいないよ」

「……ん?」

「理解した所で怖いと思うとも限らないけど」

「あぁ」

「目の前で危害を加えられそうだったからといって、助けない事もある」

「助けただろ」

「君はどうして撃たれたんだろうね」

「……」

「僕なら、防げたよ。認知も出来るのは分かったでしょ。だけど、防がなかった。防いでいれば、君は入院する事も記憶を失くす事もなかった」

「…………運んで、くれただろう」

「入院と記憶の話でしょうが」

「記憶のある頃の俺が良かったとでも、言えるものでもないだろ」

「……そう、来るのかな。でも……、死んでいたのかもしれない」

「……」

「助けるか助けないか、選別出来るなら。脅威でしょ」

「それは……」

「非人道的だね」

それが、なにであるのか。命の選別?それが脅威?リオンの判断で全てが決まる事が。

「親切だから大丈夫」

「マリナ?」

「あの時リオンは目が合って驚いていた。撃った人を認知していてもニィは別。そうでなくても、見捨てられなかった。……人の中にいると選別しないといけないから、外れようとするなら、……それは優しいから」

見捨てたいのに、見捨てられないから。

「リオンの責任の所にない」

全てを助けられるとして、助ける理由もない。それで助けない事を嘆くなら、優しいからだろう。助ける理由もなく、それが苦しみになるのなら、優しいのだろう。親切で優しいそれだけ。

「だけど」

なにであるか。

「なにを思っていようと、それが守らなかった後悔でも、運んでくれた」

それがなければ、ニィは誰の所為で死んでいたのか。

「大した術を使っていない、人の出来る事をしてくれたから、ニィがいて」

今もニィと居られて。

「リオンが嫌ならしなくて良い。なにも」

そこに居てくれたら、それで。

「……嫌と言う程、嫌でもないんだけど」

なにか悩む様に首を傾げて。

「……まぁ、いいけど」

悩ましげなまま。どう言えば良いのか。

「リオンは悪くないけど、悪くても良い」

「あぁ、うん……、ほんと、なんで良い人になりたいんだろ。訳わかんないや」

「……お師匠さんの呪い?」

「……まぁ、確かにね」

ちょっと困った様に。どう言えば良かったのか。どう言えば、役に立てたのか分からなかった。



「で?」

「……やばい、かもしれん」

情報屋が俯き加減で言うので、顔は見えない。とりあえずと、待ち合わせていた広間のオープンカフェで、お茶系を頼んで飲んでいるが、そんなに美味しいものでもない。

「狙われたのは、駅の崩壊だ。……別区の……偉い目のが、空を交通の要所に、したくてだな」

「あぁ、空の国が飛行船流行らせたくてって事?」

「はっきり言うなよ」

「え?そうなんの?」

ご同業さんの疑問符。

「この辺だとそうかなぁって」

「え?」

「空の国が近く、飛行場の区が領区だろう。儲けるには汽車に打って変わらねばならない」

解体屋さんが言うのにリオンが首を傾げる。

「それぞれの良さがあると思うけど」

「海渡にゲートを通ると渡れる汽車が出来たのは知っているだろ」

「機構と械の国ゴリ押しの。あれだけ術頼りなのは、嫌われるかと思ってた」

「機構軍は部隊移動にゲートは以前から使っていた。ゲート使用の回数を重ねた事によって、安全性が確立されたとなったんだろ」

「そんなもん」

「術具は大体そうだろう」

「ゲートって、なに?」

「あぁ、門みたいなのぶっ建ててね、特定の箇所と箇所を行き来出来るようにするんだよ。まぁ、トンネルを抜けると別の大陸でした、みたいな」

「それは、……」

なんであろうか。

「航路や空路が必須だった海渡が、汽車で出来るって事」

「歩きも?」

「まぁ、今は許可制だけど、そのうち人単体でも容易くなるかも?」

「どうして許可制?」

「汽車ってお金払って乗るでしょ、まぁ、審査はないけど、ある程度信用性の問題?船や飛行船だともっと審査厳しい筈だけど」

「審査厳しくて、汽車より人気薄め?」

「どうだろ、今の所海賊も山賊も空には出ないし、金払える人は乗るんじゃない?」

「金銭的面で住み分けが出来ているなら、狙う?」

「……んー、どうなの?」

リオンは情報屋に話を振る。

「交通の要所は儲かる」

「駅の再建に時間がかかるからって事?」

「自分達の所の駅を整備して、陸路と空路を繋げて、こう、な」

「貨物の話?」

「……多分そっちの方が重きは……でも、綺麗に崩れただろう?」

「うん」

「流石に向こうさんも下準備はしていても、大規模駅はまだ作ってない訳だ」

「ここの再建の方が楽そう?」

「線路に影響がないから。野ざらしホームでも、良いっちゃ良いだろ貨物は余計に」

「下準備のうちに、機構の駅整備の為の土地買い上げの前に、周辺土地の買取で、値段高く売り付けようとしていたなら、損する人いるのかな?」

「……建設業者やなんやかんや」

「そんだけ根回ししていて、情報漏れてなかったんだ」

「あぁ、……それだけのバックが居るって事だ」

国じゃないのか。落ち込む情報屋に変わって解体屋さんが口を開く。

「因みに爆弾作った奴は自殺したよ」

「あぁ、僕の所為で失敗しちゃったから」

「成功してたらどれだけ死んだと思ってる」

「どれだけ死ぬより、その人が死んだ事が悲しい人だって居るかもだし」

「それ……、言い出したらキリないだろ」

「想像力豊かにしたら自殺しそうなの分かりそうなものだし、のほほんと構えてないで、助けないと的な?」

「死んだの拘置所だぞ。機構が守らねやならんかっただけだ」

「……そう」

「機構が殺したと思うか?」

「……さぁ、かもね」

「それで、なんだ。国にしろ何にしろ、実行犯は死んで、目的は愉快犯って事になりそうなんだろ」

「あぁ、うん。……まぁ、な」

「機構が爆弾犯殺したっぽいの?」

「…………それも言うなよ」

凄い嫌そうに情報屋は言う。

「まじか?」

「確証、というか、証拠もないしこねくり回したくない」

「はぁ?でも、人殺しがいんだろ」

「お前だって殺すだろ」

「俺は賞金首を」

「それを決めてるのはどいつだ」

「え」

「機構だろ。機構が殺すって決めて、殺すんだ。変わらない。下手に突っつきゃ、今度は自分らが殺しても良い者にされる。それだけだ」

「でも、ただの利権争いで、爆弾とか巻き込もうと」

「……俺は、これ以上調べない。後は好きにしろ」

情報屋はそう言って席を立って、立ち去る。ご同業はなんとも色々綯交ぜの表情で、それを見送る。しかし飲み物が半端に残っている勿体ない。

「それで、爆弾犯はなんで協力したのか分かったの?」

「あー、大事か、そこ」

聞かれた解体屋さんの疑問にリオンは首を傾げる。

「どうやって協力させるか知れたら、対策も打てるから」

「まぁ……あれだけの能力持ってたらそうか。しかし、死んだしな、接触も出来なかった。分かんなかった」

「愉快犯とは思ってないみたいだね」

「そういうタチではないと思ってる」

「結構親しかった?」

「……どんな理由にしろ協力するって決めて、犠牲者に糸目を付けなかったのはアイツだ。どうしようもねぇよ」

「思い入れと量は比例しないと思うけど、博愛主義なの?」

「はっ、そっちこそ。お前に思い入れはないだろ」

「そうなんだけど、なにが正しくて、なにがどう転ぶのか。今回の失敗で今回以上の惨事を狙う可能性は捨てられないしね」

「失敗した奴を糾弾しないとか」

「まぁ、それで止まるなら良い方?」

「……知っても良い事なんてないな」

「自分達がそういうお金儲けしている所から貰っていると憂鬱?」

「……」

「何事も繋がってるものだねぇ」

リオンの言いように、解体屋さんは憂鬱そうで、ご同業は腹立たしげ。

「最悪だ。なんで、くそっ」

「……」

なにをどう言えば良いのか。解決しようもない。そんなものだった。のか。

「どうして良くありたいのか」

「は?」

「どうして悪い事なのか」

「あ?」

「どうして可愛いと言われて嬉しくて」

「……」

「どうしてカッコいいに憧れるのか」

なにが。

「素敵はなぜ素敵」

「……そりゃ、あれか、金の為に人の命を犠牲にするのがなんで駄目なのかって話か」

「駄目でなくはない?」

「あ?」

「賞金稼ぎなら人殺して稼いで」

これ、ニィのいる所で言う事でない事か。

「賞金首になる様な事した奴だぞ、駅で死ぬのは何の罪もない人達だ」

「何かはあるかも」

「あぁ?」

「でも、死んで欲しくない人はいて、いる」

ニィもリオンも。

「最悪な事に面して、世界に嫌気がさすのに、生きて欲しいと思うのは残酷なのに思うのは、大切じゃないから?」

「んな事はねぇっ」

なにを口にしていただろう。

「大事な奴に生きて欲しいと思うのは普通の事だっ。どんだけ辛かろうと、普通の事だ、間違っちゃいねぇっ」

「……」

「お前らがなんとか言えや」

言われたニィとリオンはちょっと驚くというか、リオンの方が口を開く。

「どうしてかなぁって」

「似た者同士かよ」

というか、リオンが言ってなかったろうか。お師匠さんはなにを思ってこの世界を生きて欲しいと思ったのかと。真っ当であれと。真っ当の通じない世界で。違ったか?あれ?

「世界が真っ当であれば生きやすい?」

「誰基準で真っ当にするかの問題があるんじゃない?」

「……人様に迷惑をかけない?」

「人は人に迷惑をかけないと生きていけないとも言える」

「……」

「ガキ相手にやめたれ」

「ほら、人によって止める事は違う」

「……」

「ワザとかよ」

「そうでもない。僕自体、子供相手にどう言えば良いのか分からない。分からないよ」

「……そりゃな。そんなもんだわな……。けど、やっぱり違うと思わないか。駅を爆破して人がどれだけ死のうが考えずに、自分達の利権だか利益考えんのは、それを裁けないのは、違うんじゃないのか。……俺が人を賞金目的でってのと、そんなに変わらない事か?」

「……そういや解体屋さんはなんで爆破技術持ってるの?」

「あ?あぁ、ビル爆破、解体屋だよ」

「あぁ、そっち」

「爆弾殺人なんてポピュラーな手法じゃないしな」

「鉱山とか、トンネル掘りは?」

「そこはあんまり、ガス田火災の爆破が出来るぞ」

「鉱山とかやっていたら、自然破壊とか土地殺しとか言えたのに。というか機構から貰って無くない?どうにでも犯罪性の伴わせる技術で真っ当だねぇ」

「企業はどことつるんでるか分からんけどな。土地殺しってなぁ」

「植物の育つ土地は貴重みたいだよ」

「その土地に合う植物ならなんでも育つんじゃねぇのか」

「んー、専門じゃない」

「環境課か。赤服とは関わりたくねぇな」

「だからビルとかガス田?土木課には知り合いがいるの?」

「あぁ、結構赤とのやり取りの面倒な部署な」

「人権課ではない辺りね」

「そりゃ職業需要の出る辺りだしな。日雇いとか多くなんのはどうかと思うし、専門職技術の難しい辺りか知らんが、手に職つけさせつつ、働かせられるだろ」

「んー、汽車とか道作ったり、鉱山なんかの時の、少数部族とのあれやこれや」

「区外者か」

「山賊だろ」

「賊ってない人もいるけど」

「……」

「まぁ、いいや。って、駅の話もどうせどうしようもないけど」

「……どうにもか」

「区間の争いだとして、犯人ってこの区で捕まってこの区の署で殺されたなら、協力者が居るんだろうけど、なんだっけ、それを……、この区が知ったらその人殺してやり返すかなぁ」

「やり返す?」

「飛行船の爆破?」

「穏やかじゃねぇな」

「僕の発想の悪さかもね」

「しかし、駅が思うように壊れなかったってので、今一度の危機もあるだろ」

「双方が話合いかなんかで落とし所付けて欲しいものだけど」

リオンは首を竦めて飲み物を飲む。

「人死にが出て……るけど」

「使い捨ての外部要員な分、今なら落とせるか」

「使い捨てって」

「そうだろ。成功してても口封じされなかったと思うか?」

「……」

「機構にしろ空の国にしろ、碌なものじゃないとして」

「空の国って空?」

「……」

「基礎学習ぐらい付けたらどうだ」

「……すまない」

ニィの声久々?リオンは鞄から紙、地図を広げる。

「ここね」

「前見た」

「だねぇ。でこの山の頂上辺りが王都」

「不便?」

「飛行船とか気球があるから大丈夫。そういうのに使う布が名産の花の国とは割と仲良い筈」

「じゃぁ、儲かるの花の国?」

「まぁ、そこも関わってておかしくもないかな。今の王様は特に暴君だって言うし」

「と、仲良し」

「そーだねぇ。新たな儲けがその為に必要なら落とし所見つけるのは難しいかも」

「あ?どう言う事だ」

「花の国との付き合いは重要。でも空の国に差出せる物は限られる。船作りの技術は空の国にあって優秀。それがより確実に儲かる存在となれば花の国は容易く蔑ろに出来ない」

「んー?」

「布産業は他でも儲かるから、空の国を優先する必要はないし」

「必要とされたくて?」

「共犯なら共犯で、そういうの共にした仲でしょ的な?」

「どちらにしろ、迷惑は区が被る訳か」

「まぁ、だねぇ。あとは械の国の覇権争い?」

「は?」

「械の国って王族発言権はどれだけ国家利益をもたらすモノに投資選択したかで決まる筈だから。飛行船の術技術への投資者と汽車への術技術投資者は違うんじゃない?汽車より今回は移送ゲートかもしれないけど」

「発言権って、そんななのか」

「先を見る目って言うのかなぁ、20年以上同じ所に一択でいって発言権を大幅に持った人も居るみたいだし、結構なんだろ……」

「ギャンブルみたいだな」

「まぁ、うん」

「開発者もすげぇプレッシャーだろ、それ」

「まぁ、うん。でも、そうだね、今回でいくと、ゲート技術の方かなぁ。そこって機構の内部移動手段?で、そこも飛行船と被ってるっちゃ被ってるし」

「集団移送と集団移動か」

「飛行船の場合それ自体に攻撃力のっけられるけどね」

「それだけの火力戦ってあるのか?」

「さぁ、新聞や機構の活動報告書を見るにないけど?」

「……まぁ、……しかし、それって国の内部だか。外部向けだかのいざこざで区が巻き込まれて、その発想のままいけば、あれか、戦争になるのか」

「国同士でないとその言い方付けないけどね。なんの印象操作か知らないけど、抗争か紛争?定義がよく分からないのに、こう規模とか対立構造に微妙なものを受ける」

「……なにが悪くて良いか。機構が常習教育をしているなら、そこらの操作は可能か」

「怖いよねぇ」

「教育である程度悪そうな事もありつつなんとなく回っているんだから良いか、と、世の中が思えるようしていった?」

「理想郷だと疑問符も明確化出来ても、微妙なニュアンス操作だと、なあなあになりがちかな」

「……やばいか。なんか」

「僕はなんとも。僕はお師匠様しか知らないし、マリナはイオに、イオに教えたのは機構だけど、イオにとって賞金首であろうと人殺しはストレスだったみたいだし、それを思うと、うがった見方しがちなのかもね」

「……だったって?」

「……しばらく、する気はない」

解体屋さんに聞かれて、ニィは静かな調子で答えた。

「まっ、それで僕は黒服に雇われた様なものだし」

「様なって」

「金銭取引でなく条件取引だから」

「……まぁ、そこは良いか。重要視してんだな、イオを」

「つか、俺は休める程稼げねぇわ」

「それって退廃的?」

「あ?」

「ある程度、貯めないと辞められないじゃん。歳とっても続けてくの?」

「……じぃさんでもやってる人はやってけど」

「まぁ、でも今回の仕事おじゃんになった訳だし、次行かないとなんだね」

「……そりゃ、な。……なんも、解決してねぇのに」

「殺したら解決なら分かりやすくて良いよね」

「……嫌味か」

「自分がやってきた事否定されるのはしんどいだろうね」

「……お前な」

「僕もされたくないし、アレだけど、正しいのか悩み続けてる身としては、腹立つね」

「人が悩んでねぇみたいに思うなよ。機構の教育受けてない自分は特別ってか、自己陶酔が過ぎるぞ」

テーブルを叩きつつ言ってご同業は立ち上がる。

「ここでうだうだ言ってる暇はねぇんだ。どうにもならねぇものにいつまでも振り回されたくねぇ。生きるのに余裕のある奴がやってろ、じゃあな」

言うだけ言ったのを見送る。

「さて、爆破現場がないと暇な俺ではあるが、次も爆弾なら見つけたら解体出来るが、そう来るとは限らんわな」

「余裕だねぇ。そんなに儲かるものなの?」

「まぁ、そこそこ。……たださっき言ったと思うが容易に犯罪に利用出来る能力だしな。人の為に使っとかんと、容易く道を踏み外せそうな気がして、こう、尽くせる時に尽くし時たいんだわ」

「……踏み外した時、帳消しになったりしないよ」

「だろうな。しかっし、まぁ土地殺しって発想ではなかったが……」

「ん?」

「トンネル工事の発破が親父の仕事だった。手に職持てって、連れて回されてなぁ。山賊かただの地元民だったのか、妨害に来た人間撃ち殺したり、危険な現場で過酷な労働させながら碌に食わせず、使い物にならなくなったら返したり……子供ながらにどうかと思ってた。だからそう言う現場には足を向けずにな。しかしそれって見捨ててるのと変わらんわなぁ」

「まぁ……だろうね」

「はっ、はっきり言うなぁ」

「僕も助けられても助けない方だし」

「それは……。結界って大変だろ?」

「頑張って効率的にしてる」

「そうかい」

「そうだよ」

「違うくないか」

「なにが?」

「や、見捨ててるのと」

「どうだろう」

「死にそうな奴みんな助けてたら死ぬだろ」

「どうだろう」

「冗談な」

「どうだろう」

「マジで?」

「やってみないと分からないよ」

「……そういう、な」

「人が人を殺せなくなったら、少しはマシになるのかなぁ」

「……結界で銃殺は無くなっても、過剰労働と正当賃金未払いは無くならんだろ」

「そーだねぇ」

「んで、なんだ。……仕事してないで、どうすんだ?」

「……」

ニィは瞬きリオンを見る。

「観光がてら迷いの森に」

「……迷いに行くのかよ」

「だねぇ」

「ほんと、気軽だな」

「ねぇ」

「迷いの森ね」

「興味湧いたの?」

「や、霊石があるとか言ってチャレンジする奴は居るが取れないとか」

「そうだね」

「木も特殊なんだろ。霊木か霊樹か」

「霊木と霊樹じゃ違うよ」

「そうなん?」

「霊木はまぁ、術具に使いやすい木でね。それで、なんだっけ、霊樹は霊獣の育てる霊力の育む木だよ。木の形をしているかさえ不明」

「……ん?」

「うん」

「分からん」

「うん。そんなものかな」

「放っとくよな、分からん物を分からんままに」

「うん。ごめんね。というか、こう霊獣って話つくのかな。意思疎通が出来たとして体の仕組みみたいなものだろうし、それって当人に判別出来るか分からないんじゃない?」

「そうか」

「心臓動かすのにいちいち意識しないし」

「まぁ、な」

「うん、そういうのだと思う」

「そうか……で、だ」

解体屋さんはリオンを一瞥、それぞれ、こちらにも視線を寄越して溜息を吐く。

「どうにも、ならないか」

「国のいざこざをどうにか出来ると思わないけど」

「……爆弾なら解体出来る」

「一般人に対する、直接的被害だね。僕はそこまで思い入れ持って動けないんだけど」

「……お前の考え云々言う気はない。だから聞く相手を間違えているとは思うが、あの駅見るとな。どうにも出来ないのが歯痒い」

「……そう」

なにも出来そうにもない。落し所もない。

「じゃぁ、もう愉快犯って事にしとく?」

「……」

「今まで話した事なんて妄想だし。陰謀説なんてダサいでしょ」

「今更妄想か……しかし、ダサいのが、何故嫌なのか」

「うん、マリナからちょろまかすんだね」

「ダサかろうと、なんだろうと、人が、助けられるなら、嫌、助けるなんて、大袈裟で、それこそダサいか何かするだろうが……。どうしたらいい……、聞いてる時点で駄目駄目だな」

「駄目とも決めなくて良いとは思うけど」

リオンは少し困った様子で。

「僕の方が駄目駄目になりそうだし、それは困るなぁ」

困るのか。真っ当でないと、お師匠さんの言う通りでないから。

「街を離れたら?」

「……それって工事現場から逃げたのと一緒だよな……何も言わずに、親父に殴られるのが怖くて、自分の為に逃げ出した」

「出来る事があると、思ってるの?」

「ねぇか、ねぇなぁ、なんにも」

「……もう、今回の事で諦めるかもだし。誇大妄想だよ」

「確かに、あんな事出来る術師が居ると思ったら下手な動きはないかもな」

「それだけでそうなるなら、……大丈夫なら、良いんだけど」

「今回以上に酷い事を、か」

それはリオンの所為でない、そう言ったらリオンの所為になるのだろうか。

「汽車も飛行船も良い所があるならどうにかならないのか?」

ニィの疑問。

「まぁ、械の国の権力争いが関係ないとして、相互相乗?そういう手を取り合って感が出来るかって事?」

「そうなるか?」

「住み分けを崩したのが、ゲートだけど。船にそれは応用出来るとして、飛行船でねぇ。難しいかなぁ」

「荷物運ぶなら汽車だろ?船もだが……飛行船より海の船舶の方が大変じゃないのか」

「そう思うとそうだね。じゃぁ、港町支配が好きな島の国の方?」

「……分からない事を想像しても仕方ない感が強まったな……」

「気が楽になった?」

「……いや……」

そうも言えないらしい。

「お前は」

「んー、んー」

「悪い、仕方ないよな。どうにもならない事はならない……ただ、……いや」

「折角起こってないし、起こる前にどうにか出来れば?」

「……あぁ」

「まぁ、起こってるんだけど」

「……そうだな」

壊れた駅舎。

「汽車に乗れないと、動けないんだよなぁ」

「歩く?」

「そんな元気ないよぉ」

「そう」

そうか、そうだった。離れたいのに、その手段を潰された。それは、これは。

「誰かが誰かを足止めした?」

「成る程。分からなくもないけど。情報屋情報無視したね」

間違えていたのだし良いだろう。

「……次が無くなる」

「誰かは狙われてるけど、期限を伸ばしたいだけなら死人も怪我人もないかもね」

「何かは頓挫すると」

「頓挫?」

リオンの言葉に対する解体屋さんの言葉になにかと思う。

「交渉か調印ならそういう狙いだろ」

「それがそうなら、まだ気は楽かな」

「……ん」

「内容によらないか」

「そうだけど、結構神経質だね」

「……あんなぁ……」

「調べてみる?」

「……逃げてったろ」

「情報屋はね。まぁ調べるだけしてみようか。足止めの為の大量殺人ならなかなかの相手だろうしね」

「……」

「まぁ、だろうな」

そうか、そう、なるのか。その場に居たとしても強烈であろう。

「じゃぁ、また明日、ここで」

「明日?早くないか?」

「途中経過でも良いでしょ」

「あぁ、まぁ」

「んじゃ、僕は調べて来るから二人は二人で散策して宿にでも帰ってて」

「……」

返事も待たずにリオンは行ってしまう。

「そんな、二人して捨てられそうな子犬みたいな目で見送るなよ」

「……」

「……」

「あー、いらん事言ったな。じゃぁ、また明日」

「……また」

「また、明日」

解体屋さんを見送り、飲み物も無くなっていたので、席を立って街をぶらぶらした。ニィは手を繋いでくれていた。



「そんな訳で、新路線開通が頓挫したみたい」

「……目的果たしたなら、もう大丈夫か」

「そう思えばそうかもね」

「後は報復か」

「ざくっとね」

「……」

「愉快犯信じていたら大丈夫だろうけど」

「ここの署内でやったんだろ」

「署員が消えたみたいだね。珍しくもないけど」

「……」

「証拠は掴みあぐねて、報復するか分からないけれど」

「……そうか」

「まぁ、人が死ななくても良かったみたいだね」

「……人が居ない時に爆破しろよ」

「そんな事したら目的バレバレだからじゃない?」

「……ほんと、なんか、胸糞悪いな」

解体屋さんは疲れた様に息を吐く。

「まぁ、当事者にならなきゃ見逃している事だしね。そういう胸糞悪い扱いを自分が受けない限り、他人事だし」

「……」

「あぁ、君は自分以外を気にかけていたね。そもそも関わりも無く、解体に行く必要のない所に行く気があるし」

「……どう言ったものだろうな……。ただ、昨日賞金首を狩るのも人殺しに過ぎないって感じで言ってたが、賞金首になってるのは犯罪者だ。次の犯罪を、止める為、次の被害者を出さない為でもあるだろ」

「まぁ」

「賞金首が悪い人とは限らない」

リオンが認めようとした所で、口を出していた。

「なにを悪いと定めるか、か」

善悪以上に、リオンは悪くない。悪くないと言うから駄目なのか。

「人殺してる奴は止めないと、とはならんか」

「報復も殺人者を殺す殺しも善とはならないなら、なんで賞金稼ぎはってなるんじゃない?」

「……生死不問がやっぱり問題か。しかし捕まえるのが難儀なのもいるだろう。それを実力不足と言うと、少し難だな」

「まぁ、ねぇ。ただそれが……これ言ってもあれだし。そもそも弁解させてくれないなら捕まえても皆んな殺されそうだけど」

「地獄送りがあるだろ」

「あぁ、どんな所か知ってる?」

「知らんが。行ったら帰って来れんだろう」

「だよねぇ。やっぱりそれだけが確か。……それで、どうするの?」

「……なんもないなら、良いわ。いや、報復は、微妙か」

「多分、ないよ」

「そうか。だと、良いな」

なんとも言えない笑みでそう言った。

「じゃぁ、俺は、仕事探しに行くわ」

「んー」

「じゃぁ」

「また」

「……あぁ、また」

解体屋さんはやっぱりなんとも言えない笑みで、手をあげ別れを示して去って行った。ニィはいつも大体、誰か、世話になった様な旅慣れした人と別れる時、またと言う。ヒッチハイクで乗ったトラックの運転手とか、電車で乗り合わせて話した人とか。

ニィがふと真剣な面持ちでリオンを見る。

「彼を気楽にさせる嘘か?」

「そう言うんじゃないけど。嘘は付いていないと思う」

「そうか」

「復讐みたい、爆破した人の。そうする様に動かしたのは新開発止めたい人で、なんか内緒で付き合っていたのかな。開発事業の不正に気付いた彼女を開発止めたい人が密告して開発推進派に殺させて、彼女を殺した理由は開発だって、吹き込んで、当人はバレても構わないから人のいない時狙う気だったみたいだけど、止めたい方が設置された爆発物いじったみたい。それで、自分の爆弾が人殺しかけたってんで自殺、したのかな」

「それ、言わない方が良いのか」

「んー、復讐企てたくなるかもだし。良いかなぁって」

「そんなものか……。それで、そこまでして開発推進派が報復に出ないと思うのは?」

「誰が犯人か確証がないから、かな」

「そういうものか」

「だって、まぁ、無駄死にさせたい訳でもないだろうし。飛行船落として報復になるか微妙。開発にそこまで影響もなかったし、……んー、なら今一度ってするには方向性変えるんじゃない?労力に結果が伴わなかったんだから」

「不正を見つけていたと」

「中止に成る程の話でもなさそう」

「そうか」

「どっちもどっちだからね。不正ぐらい暴かれたく無くて殺したり。中止にさせたくて殺させたり。碌でもないよ。皆んな」

「……」

「どうしてだろうね。自分がそこまで出来た人間とも思わないけど、……まぁ、分かんないものは分かんないかな」

「……人を殺す理由もないか」

「僕は生きるのに必死で、生きるのに困った事がないからね」

「……意味が」

「イオには言ってなかった?僕は霊力量が多すぎていつでも内側から壊れられるの。封印術と結界で抑えてないと、溢れかえって、……霊力はそのままエネルギーになって実害が出たりするから。碌でもない結果を生む。

「もう少し若いうちに死んでたら違ったかもしれないけど。それをさせない為にっていうか、僕が意識するより先に、術式で封じられちゃってたし。今は自分で作ったのも上掛けしてる」

「……消費しないでは余計貯まらないか?」

「だから結界を幾らでも形成するの。結界って消費量相当多いみたいだし。霊石や空気中や土に 中、その辺の霊力使うって、自分だけで補うのは珍しいみたいだよ」

「……」

「その意識下にない霊力封じの為に研究しまくって人も実験台にして、霊獣の目も手に入れた。この石が無ければ、研究諦めていたかもしれないのに。そういう意味じゃ、文句言いたいかも、君の所為でって」

「けれど、そうしていないと……」

「そう、僕は生まれついていなかったろうね。僕は生まれる為に人死を必要とされたんだよ」

「……それは、リオンの望む所になかっただろう」

「でも、起こった」

リオンはただ静かに言った。

「呪われた子で、賞金が掛けられても仕方ない様な」

「リオンは、悪くない」

言葉が出て。次の声が出て来ない。

「リオンは悪くないだろうな」

「……」

ニィが言って。

「他に方法があったかもしれない。そういう手を取らなくても。……リオンと出会って、リオンが生きているのは嬉しい。だから……、でも、リオンを悲しませる手段は悲しい」

「……そうだね。考え足らずで、馬鹿だったんだ。腹の中に留める手法、術式は確立していたみたいだし、母親の負担は知らないけど、悠長にやって良かったのかもね」

「あぁ……」

「ん」

生まれついてこの方、親の罪を背をわされて、それの責を取る為に、お師匠さんに人が死んだ分真っ当に生きろと言われたリオンに、その強い意志がないと生きてられない様に、その為に生きているみたいに言っていたリオンに言って良かったのか、よく分からなかった。ただそれはリオンの言葉から想像しただけのリオンであるから。

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