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第7話 帰らぬ修学旅行 1日目 ~19:58 旅館『庵治美亭』

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

「なんじゃぁ!? 知っとるのか!?」

 おじいさんは大きな声でマリちゃんに驚いていた。

「はい!」

 それは大きな声だった。マリちゃんと長く一緒にいる私ですら、今まで聞いたことのないマリちゃんの大きな声。

 マリちゃんは声量を元通りにして、フロントの仲居さんへ、

「補聴器の落とし物はありませんか?」

 と尋ねた。

「補聴器?」

 と仲居さんが小首を傾げながら、なにか帳簿のような物……恐らく落とし物リストみたいなものを取り出して、目を走らせていた。

 するとそこへ、この旅館の宿泊者用の浴衣を着た一人の青年がフロントにやってきて、

「あの、すみません」フロントに何かを置いた。「脱衣所のカゴのそばに置いてあったんですけど」

 それは、補聴器だった。


「簡単だよ、」

 いつものように、私がなんでマリちゃん分かったの? と尋ねると、マリちゃんが語り始める。「おじいさんは随分と慌てていたのもあったけど、大きなこえで尋ねる割に、仲居さんの問いかけにはどこかおかしな返答ばかり……。よく聴こえていないのかなって思って。それに『ないのがわかった』って言葉も気になったの」

 言われてみると不思議な言い回しだね。「なくなった!」とか「見当たらない」とかじゃなくて、無くなったことに気付いたってことだもんね。

「そして外から戻ってきたみたいだけど、この寒い中、浴衣一枚で散歩するなんてよほど寒いのが好きな人か、平気な人か……もしくはお風呂上りに涼んだ人かなって思ったの。つまり、お風呂に入る時は外して、お風呂から出て、補聴器をつけずに散歩に行ったけれど、途中で音が聞こえない、補聴器をつけていないことに気付いた……ってとこかな」

 まぁ、普通なら脱衣所に一番に行くべきだろうけど、よっぽど慌ててたんだろうね。補聴器は安くないし。

 とマリちゃんが付け加えた時、私たちは宴会場へたどり着いた。

 

 並べられたお膳が一人一つ。当然そうなんだろうけど、なんだか大人な感じ!

 山菜のおこわに、天ぷら、お吸い物には2本くらいだけそばが入ってて、さらには小さなお鍋と、お漬物がキュウリとか大根とか茄子とか、人によって違うみたいだけど少しずつ盛られてるのが粋だね!

 そして仲居さんと先生が協力して小さいお鍋の下にある、あの青いやつに火をつけてくれた。この臭いって独特なんだけど、これを嗅ぐと、あぁ、旅館に来たんだなぁって思っちゃうよね?


 ご飯が始まる! と思いきや……また少しお話……。いやもういいでしょ!? 早くしないとせっかくの料理が冷めちゃう!

 って言ってもほとんど冷めても美味しい物ばかりだけどさ……でもご飯とかカチカチになるよ!

 それでも5分くらいでお話が終わったのはまだマシってやつかな?

 ちなみに、食事の席はお部屋のメンバーで並ぶことになってるんだよね。だから私の隣はもちろんマリちゃん。

 みんなで今日のことを思い出しながら楽しく夕飯を食べられたことは、ホントに嬉しかった。

 だって……、

「アンタたち結局今日なにがあったの?」

「また事件に巻き込まれたの?」

 と、今日の思い出というか、みんなから質問攻めにあって……もちろん、私とマリちゃんに命の危険が及ぶようなことはなかったけど、改めて言われると、みんなとの思い出が少なかったなって思えて。

「……うん、まぁ、色々とね……」

 マリちゃんはすっかり困惑していたけどね。

 いつもあれだけ堂々と私たちはもちろんのこと、犯人や警察の人なんかに向かって推理を披露してくれるのに、こういう時は照れるみたい。

 私が代わりに! って前までは思ってたけど、これはこれでいいのかなって最近は思うの。

 単純に照れてるマリちゃんが可愛いってのもあるんだけど、こんな風にマリちゃんをみんなが囲んでくれてるのは、なんだか嬉しいんだよね。


 ふぅ……。

 え? あ、あはは。お腹一杯ってのもそうだけど、ちょっとトイレに……。はしたないことはわかってるけど、仕方ないじゃん。

 でもねぇ、もう少しでご飯も終わるんだから、我慢できないかなぁ……。

「なに一人でブツブツ言ってんのよ!?」

 と個室から声を張り上げたのはミキティだ。

 私はトイレに用事はないよ? いくら女子とは言え、食事中に一緒にはいかないんだけどミキティがどうしてもって言うから……。

「ちょっと、ちゃんと待っててよ」

 どうもミキティは仲居さんのお話が怖かったようで、一人でトイレに行けないみたい。本人は負けず嫌いだから口が裂けてもそうとは言わないだろうけど。

 ということで――、面白そうなのでこっそりトイレから離れてみた。Youtuberみたいになっちゃった。

「――あら?」

 トイレから出た先にはバスガイドの新堂さんがいた。まだ制服を着ているあたり、大変なんだね。

「みなさんがお休みになるまではお仕事ですからね。そこから先は先生方にお任せしますけど、ふふふ」

 なるほど。大人って大変なんだなぁって改めて思う。

「もうそろそろ先生たちの余興が始まるわよ? 早く戻ったら?」

 う、うん……私はいいんだけどね。


 トイレに宴会場から向かうには、先程のフロントの前を通らないとダメなんだけど、私がそのフロントのそばにやってきた時、またしても一人の男性が仲居さんへと詰め寄っていた。

「すみません、どうもメガネをどこかに置き忘れたみたいで……」

 今度はメガネである。確かに私のお父さんも、普段はかけてないけど、お仕事とか、車を運転する時には掛けてるんだ。そのせいというか、普段かけてないせいか、たまにかけると外した時どこに置いたか忘れてしまって、よくお母さんと言い合いになってる。

「かしこまりました。あいにく、今現在フロントではメガネのお届けはございませんので、見つかり次第ご連絡さしあげますから、お客様のお名前と、お部屋番号を……」

 仲居さんは先程とは違って、落ち着いた対応をとっている。人も、さっきの若そうな仲居さんから、ベテランな感じの人に代わっていることも大きいのかも。

 まぁメガネの忘れ物なんて、きっとよくある話過ぎるんだろうね。

 私は時間を持て余したので、少しぶらぶらしながら、またお土産コーナーを見ていた。

 するとフロントに今度は、二人のお客さんがやってきた。

 慌ただしいというか、随分必死な雰囲気。怒鳴ったりはしていないんだけど、フロントに乗り上げんばかりに二人とも前のめりで仲居さんに何か尋ねてるみたい。

 一人はニット帽をかぶり、大きなゴーグル……あれはスキーとかスノボとかでつけるヤツだね――をつけた、背の高い男性。服装もダボっとしたフード付きのウェア……スノボ帰りに泊まりに来たって感じだね。実際、ゴーグルの上とかにちらっと雪が残ってる。

 もう一人は女性かな。こっちも同じようなウェアを着ている。こっちの人は茶色のレンズのサングラスだね。ただ二人とも全身の服装は暗い。ちょっと不気味だ。

 あの時のおじいさんじゃないから、私の位置からは何を言ってるのかは聞こえないけど、どうも泊まるみたいだね。男の人の方が机に向かって何かを書き始めた。袖をまくって、腕をフロントデスクにのせる。

 女性の方が何か耳元でささやく。男性が不定期に何度か肯き、そしてポケットからなにか鍵みたいなものを取り出して渡すと、女性は外へと――。

「ちょっと!」

 わっ!「何してるのよこんなところで! 心配したじゃない! 探したんだから」

 と叫んだのはミキティだった。目が涙目になっている。

 ちょっと~、大げさだよ~。

「何言ってるのよ! 油断してるとやられちゃうんだから」

 誰に!?

 ……え、まさかあの幽霊に?

「そ、そんなわけないでしょ!」

 ミキティは咄嗟に顔を赤くして、「そ、そうじゃなくて、ほら、その……か、怪人とかに……」

 ……。

 ぷっ……アッハッハッハ!

「な、なによ! 笑い事じゃないんだから!」

 笑わずにいられないって。もう……、素直に言えばいいのに。幽霊が怖いって。

「……だ、だって、私さっきトイレで聞いたのよ!?」

 聞いた? 何を?

「ゆ……ゆ、幽霊の、声よ……」

 へ?

「ほ、ホントなの! さっき――っていうのもアンタがいなくなった後だと思うけど、『あれ? おかしいな……変だなぁ……』って、か細い声で、何かを探しているような……恨めしいような声を聞いたの!」

 ……それ、稲●淳二さんじゃない?

 私のお母さんが好きでよくDVD観てるもん。

「違うわよ! あんなしわがれた声じゃなくて、もっと若くて……病弱でわあぁぁ!」

 え!?

 ミキティの視線の先を追って振り返ったけど、なーんにも起きてない。平和な風景。

「……思い出しただけでも恐ろしい……」

 紛らわしいよ!

「それに、あの若女将さんと、副館主さんがさっきあっちで難しい顔をしてなにか話をしていたもの! きっと幽霊が出たんだわ! 幽霊を捕まえる方法を話し合っていたのよ!」

 ……多分大人ってもう少し忙しいと思うよ。


 それから私とミキティは宴会場に戻った。先生たちの余興とやらが始まるところだったのでちょうど良かった。

 先生たちは流行りの芸人さんのネタを真似したり、歌を歌ったりして私たちを盛り上げてくれた。

 あの次田先生もひょっ●りはんのネタを頑張ってた!? 私たちのクラスは戸惑いながらも大いに笑った。あの先生がそんなことするなんて思ってもなかったんだもん。

「最悪、次田先生だけ何もしないかもね」なんて、先のクラスの先生たちが披露している時、会長が呟いてたくらいだから。

 ホントビックリだよね! 余計に面白いやw

 私はそこでふとマリちゃんが気になった。

 さすがのマリちゃんも、これには大声をあげて笑っているに違いない!

 先生から視線を外すのが惜しかったけど、最中にしか確認できないのだから仕方がない。

 私は思い切って後ろを振り返った。

 そこに居たのは、ミキティだった……?

 ミキティはマリちゃんのさらに一つ向こうだったよね?

 あれ? マリちゃんは……?

 薄暗い室内を、目を凝らして探していると、会場の後ろのほうで、マリちゃんらしき小さな女の子が、荷物を抱えた仲居さんに向かって何か話しかけているのが分かった。

 どうしたんだろ……何かあったのかな?

 とりあえず私は先生の芸に視線を戻して、笑った。あとで聞いてみようっと。


 先生たちの宴会が19時に終わると、今度はお風呂だ! 忙しいったらないね。

 男女ともに19時半から20時15分までが本館組、20時15分から21時までが別館組となっていた。ちなみに、大浴場は本館だけにしかないの。

 お風呂のない間には今日の感想文を書くって宿題が出てるんだよね。21時10分からの室長会議で各お部屋のメンバーの物を集めて提出するんだって。

 もう……感想なんて、帰ってからでいいのに。

 まぁ色々あったから書くことには困らないけどね。それにさっさと書けば、その後はまた自由時間だから、さっさと書いて、さっさと遊ぼう!

「そうね、そうしましょう!」

 私たちの部屋のみんなは急いで荷物から筆記用具を取り出し、修学旅行の女子とは思えない静けさでシャーペンを走らせた。

 部屋に戻ったのは19時20分頃だったかな? 全員が書き終えたのは35分くらいだった。

 もちろん、適当なことを書いているとやり直しになるみたいだから、室長の会長にチェックしてもらう。

「……うん」

 会長が感想文プリントの端を揃えるように机を軽くプリントで叩く。「驚くくらいびっしり書かれてるわ。まず問題ないと思う」

「聖奈のも、ね」とミキティが会長の分だけ点検していたようだが、それも問題なかったみたいだ。

「じゃぁ自由時間ね!」浅野さんが軽やかな声を上げた。

 みんなドタドタと好きなことを始める。スマホを取り出したり、明日の自由時間のことを話したり。

 そんな中、マリちゃんが「私ちょっと旅館を探検してくる」と言い出したので、もちろん私はついていくことにした。

 ――どうしたの急に?

「さっき途中辞めだったからね。まだあっちの建物のこと調べきってないし」

 そう言えばそうだったね。でもどこを調べるの?

「ちょっと中庭を見ておきたくて」


 それから私たちは再び本館へとやってきて、中庭を眺め終えると、再びフロントに戻ってきた。

 私はさっき、トイレに行っていた間に起きたことを、マリちゃんに伝えておいた。ていうと、なんだか大げさな気もするけど、要するに、ミキティの面白い様子をマリちゃんにも教えておきたかったのだ!

「……ふ~ん……」

 マリちゃんが腕を組んだ。「少し気になるね」




 マリちゃんは、一体何が気になったのかな?

 そして、さっきの宴会中には何を仲居さんに尋ねていたのかな?

隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

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