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第6話 帰らぬ修学旅行 1日目 ~17:53 旅館『庵治美亭』

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

「お兄さん、」

 マリちゃんがちょんと後ろから小突いたのは、ワインレッドのコートを着た男の人だった。

「どうして船着き場に戻りながら鳥居が見えたの?」


 ウソをついていたのはワインレッドのカップルだった。

「手漕ぎボートのオールを漕ごうと思ったら、進行方向に背中を向けることになるからね」

 私はいつものように説明をマリちゃんに求めたが、マリちゃんからの答えはそれだけだった。

 そっか。船着き場へと戻ろうとした場合、鳥居は漕ぎ手の背中にあるから、戻りながらは見えないね。

 マリちゃんのたった一つの質問を聞いて、あの時いたみんなが「あっ」と何かに気付いた顔をしていた。

 後は本人たちに任せることにして、私たちは駐車場に向かったのだ。また巻き込まれたらもう修学旅行どころじゃないし。

 でも……やっぱりなんでそんな危ないことしたんだろうねと気になっちゃうよね? だから結局マリちゃんに訊ねてみる。

「全然友人でも、知り合いでもなさそうだったし、ともすれば考えられるのは、突発的なトラブルだと思うよ。順番を抜かしただとか、ぶつかっただとか」

 そ、そうなんだ……。く、くだらないね……。

「一時的な感情で行動してしまうこともあるとは思うよ。人間だし。ただ、ボートをぶつけるなんてことまでしちゃうのはどうかと思うけどね」

 ……まぁ、マリちゃんも急に走り出すしね。

 とは、さすがの私も言う勇気はなかった。


 駐車場に戻ると、すでにバスはやってきていた。

 成山さんは次田先生に一頻りお礼を述べたところらしく、先生が珍しく愛想笑いをしていたのでそれがわかった。そして次にバスの運転手さんにも何か長々と話をしていたみたい。運転手さん苦笑がそれを物語っていた。だから私たちは助け舟を出すつもりで、貸しボートでの1件を伝えると、

「なるほど、県外のこととは言え、私も警官のはしくれ。放っておくわけにもいきません」

 そう言って湖の方へと駈け出していった。

「ありがとう、助かったよ」

 運転手さんは、その浅黒くて角ばったお顔をくしゃりと崩して微笑んでくれた。名札には小関と書かれていた。

「さ、みんな待ってるから乗りましょうね」

 新堂さんが私たちを急かした。「早くしないと神社の見学が間に合わなくなっちゃうわよ」

 あ、でも滝が見たいんですけど!


 なんとか滝は見学して(滞在時間1分もなかったけど)、その後、みんなと合流して無事修学旅行に復帰することが出来た。

「――なにしてたのよ、あんたたち……」

 とさっそく訊いてきたのは班行動のメンバーであるミキティこと真中美紀ちゃんだった。

「みんな心配してたのよ」

 あれ? 次田先生に訊いてないの?

「聞いたわよ。でも『あいつらはちょっと警察に用事ができたからしばらくいないぞ』ってだけよ!? そんなのでわかるわけないでしょ!」

 と、何故か私たちが怒られた。

 もう、先生ったら……そんな説明でわかるわけないじゃん!

「まぁまぁ」とミキティを宥めたのは元児童会長である富田聖奈ちゃんだ。私は未だに会長と呼んじゃうんだけどね。

「二人とも無事だったんだしよかったじゃない。それに先生も言ってたでしょ? 二人なら大丈夫だって」

「そ、そうだけど……」

 ミキティは少し納得がいかないとばかりに口を尖らせていた。

「まぁ二人のことが心配すぎて、ずっとそわそわしてたり、先生には質問攻めしたりだったから二人に会えて興奮するのもむり――」

「だーっ! 黙ってなさいよ!」

「もうほとんど聞こえたよ」

 とマリちゃんがぽつりと言った途端に、ミキティの顔は真っ赤になっていた。それは寒さだけが原因ではないはず。

「い、いいからさっさと行くわよ! みんなもう中に入ってるんだから!」

 ミキティは一人でずんずんと進んでしまうのだった。


 ようやく修学旅行らしいこともできたけど、なんだかもうくたびれちゃったね。

 見学したお寺や神社は綺麗だったし、おっきくて感動したけど、難しいことはさっぱりわかんないや。マリちゃんやミキティに会長はみんな成績優秀だから色んな話をしていたけど、私はついていけなかったので「へ~」って言ってばっかりだった。


 そして待ちに待った旅館にやってきた!

 6階建ての大きな建物の横に、少し新しい感じの3階建ての建物があった。

 周囲は自然がいっぱいで、旅館の裏手には林があり、その先には小高い山がある。林へと行く道には優しい流れの川があり、小さな橋がかかっている。旅館の中には綺麗なお庭もあって、散歩してもいいんだって。自然の景色を堪能できるらしいよ。

 やっぱりみんなでお泊りするのは楽しいよね!

 バスを降りて、みんな大きな旅行バッグをよいしょと担ぎ、よたよたと旅館に吸い込まれていく。

 最初は部屋に入らずに、大きなお部屋に通された。普段は宴会場らしいよ。今は机とか椅子とかも何もないけど。

 全クラスの生徒が集まって、校長先生のお話が始まるまで実に30分は待たされた!……仕方ないけど、別に待ってお話する必要なんてあるのかな?

「えー、みなさん。今日はいろいろとお勉強できましたでしょうか……」

 と始まった校長先生の話もまた10分。

 ……。

 あ、あくびしちゃった。


 そしてまた旅館内での行動について諸注意が始まった。もうわかってるよ……。早くお部屋に入って、寝転んでうわーって言いたい。

「――で、今年はC・D組だけが別館だから、間違えないように」

 え? どういうこと?

 私は、目の前できちんと立って話を聞いていたミキティを後ろから小突いた。

「なに?――もう、なんで聞いてないのよ……。男女の人数差で、部屋数の調整したら、その組み合わせが一番いいからってことらしいわよ。まぁ別館の方が気楽でいいじゃない」

 確かにそうかもね。

「何かありましたら私たち従業員にお声おかけくださいねー」

 と元気な声を出したのは、旅館の法被をきた男性だった。若大将ってやつなのかな?

 ころっとした体形でメガネをかけている男性だった。

「私、この旅館『庵治美亭あじみてい』の副館主を務めております、松之木と申します! みなさんの修学旅行が、何年経とうとも素晴らしい思い出になるように精一杯努めますのでよろしくお願いします!」

 松之木さんをはじめ、この場にいた旅館の方がみんな一斉に小学生相手とは思えないほど丁寧にお辞儀をしたので、みんなパチパチと割れんばかりの拍手をお返しした。

「うぅ……あんな立派な方たちへお礼なんて……。上手に言えるかしら……」

 会長が苦笑していた。明日旅館を立つ時に、またこのような集会を開いて、会長が児童代表としてお礼の挨拶をすることになってるんだよね。

 1年も務めたのに、いまだに挨拶は慣れないんだね。

「えぇ。だって学校の人たちなら私も慣れてきたけど、旅館の人は初めて会うんだもの」

 ありゃりゃ……そんなことで来月の卒業式の答辞は大丈夫なの?

「やめて……考えるだけで胃が痛いんだから……」


 ということで、私たちは別館とやらに移動することになった。

 でも別館はありがたいことに綺麗な建物だった。まだできて10年くらいの建物なんだって。

 別館は3階建ての建物で、1階を男子が、2階を女子が使用することになってるとか。

「3階には他のお客様もいらっしゃいます」

 と先頭で私たち女子を案内してくれるのは旅館の仲居さんで沢田さんという女性だった。年は30歳くらいかな?

「3階は先生たちの部屋とかじゃないんですか?」

 と尋ねたのは会長だった。なるほど、確かにそんなイメージだよね。

「えぇ、みなさんのクラスの担任の先生と、大宜見観光社の方――運転手さんとかガイドさんのお部屋もこちらです。でも他の先生方のお部屋は本館になってるとお聞きしてますよ」

 そうなんだ……。結構やりたい放題?

「ふふ……そうですね、」

 仲居さんは上品に笑う。私も今度真似してみようかな?

「できるわけないでしょあんたに」とミキティが言って来たけどそれは聞かなかったことにしよう。

「ですが、あまり悪戯をなさっていると……出るかもしれませんよ?」

 へ? 出るって何が?

「そりゃぁ……おばけ、ですよ」

 ぷっ! ちょっと仲居さ~ん。私たちもう6年生だよ? そんな子供だまし……通用しないよ~。

「そ、そそ、そうですよ。どどどど、どうせ、あれでしょ? 子供がはしゃがないようにそんなこと言って脅かしてるんでしょ!?」

 とミキティが言った。

「いえ、脅かしてなんかいませんよ」

 仲居さんの静かな否定にはたっぷりの自信が見えた。


 ――あれはそう、この別館が出来て間もない頃でした。みなさんと同じように修学旅行に来たとある学校の一人の男子生徒のお話です。

 修学旅行に来たことで興奮してしまったのか、その生徒は就寝時間の前に抜け出して、旅館の警報装置を鳴らしたり、勝手にお風呂に入ったり、一般のお客様の物を隠したりとひどい悪戯を繰り返したのです。

 もちろん、すぐにその悪事は見つかってしまい、怒った担任の先生は生徒を旅館の裏にある山の木に縛って反省させようとしたのです。

 もちろん先生は、しばらく経てば縄を解いてやるつもりでした。ですが、生徒の一人が腹痛に苦しみだして急遽病院に搬送されることになったのです。成り行き上仕方なかったとはいえ、その担任の先生は一緒に病院へ……。

 旅館に戻ってきたのは午前2時を周った頃でした。

 そこで担任の先生ははっと、4時間前に裏山へ縛り付けた生徒のことを思い出しました。すぐにライトを片手にその木へと向かったのです。

 山に入ってすぐの所に縛ったはずなのに、その生徒の姿は消えてなくなっていたのです。

 必死に探し回りましたが、見つからず、当然誰の部屋にも戻ってきておりませんでした。

 その男子生徒が見つかったのは、翌朝、近くの川でした。川岸に縄が引っかかっていたのを近所の方が不思議に思い引っ張ると、その男子生徒が……。


「ぎゃあああああああああ!」

 ミキティが叫んだ。それでも仲居さんはお話を止めない。


 ――そしてそれからと言うもの、修学旅行生が泊まる時には、物がなくなったり、誰かが熱を出したり、不思議な何かが起こる……なんてお話があるんですよ。


「うギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 ミキティが一人廊下を駈け出したのだった。

「あら、ちょっと冗談が過ぎたかしら?」と仲居さんがぺろりと舌を出した。

 も、もう……なんだ、冗談かぁ。ミキティったら驚き過ぎだよねぇ!?

 と廊下の向こうからミキティと、沢田さんと同じ格好をした女性がやってきた。

 あ、違った。帯紐の色が沢田さんは紅いけど、この人は紫だ。

「沢田さん、あなたはまた、お客様に何か余計なことを言ったのではないですか?」

 その女性はこちらに来るなり、そう静かに言った。口調こそ大人しいけど沢田さんを睨んだその眼光は鋭く怖い。

「いえ別に」

 沢田さんは慣れているのか、まるで子どもの様にそっぽを向いていた。

「みなさん今晩は。私は当旅館の若女将で、飯田と申します。今日はよろしくお願いいたします」

 こちらの方もまた、こっちが困惑する程丁寧に頭を下げた。私たちも釣られて頭を下げる。

「……」

 頭を戻すとマリちゃんはすでにお辞儀を終えていたのか、どこかを見ていた。

 何を見てるの? そう尋ねようと思ったのだけど、後ろの方から

「さ、ではみんな、さっき渡した鍵は持ってる?」

 とD組担任の先生が遮った。私たちの部屋は会長が室長なので安心だね。会長もさっと鍵を取り出した。

 この旅館の鍵はカードキーなのだ。ドアノブの所に備わっている差込口にカードを刺すだけで鍵が開いちゃうという便利なものだね。

「では荷物を置いたら、夕食の時間までは自由時間ね。18時からだから遅れないこと。室長と副室長はすぐに本館の宴会場に来ること。その間鍵は部屋の誰かに預けておいて。貴重品は無暗に持ち出したりいないこと。夕飯の際に……」また説明が続く……。

「――わかったわね?」はーい「はいじゃあ解散!」

 そこでようやく……到着して1時間以上経過して……私たちは散り散りになってそれぞれの部屋に入っていったのだった。


 夕食の時間までは自由時間だ。ちなみに、私たちの部屋は、私たちの班と、浅野さん率いる同じクラスの女の子4人班の合計8人の部屋だよ。

 室長と副室長の会長とミキティは夕食の準備のお手伝いをするために宴会場に行っていて、浅野さんたちはお庭へ散歩に行ったみたい。私とマリちゃんは二人きりとなっていた。ていうか今日ほとんど一緒にいるね。

 どうするマリちゃん、私たちはなにしてよっか?

「本館の見学にでも行く? どうせ夕飯もあっちだし。どこになにがあるのか知っておきたいかな」

 なるほど! 確かにそうだね。なんというかマリちゃんらしい発想。

 ――ということで私たちは本館へとやってきた。

 こちらは旅館というよりホテルのような雰囲気がどことなく混じったような雰囲気だった。宴会場を覗いてみると各クラスの室長・副室長たちがせわしなくテーブルや椅子の準備を行っていた。後でちゃんとお礼を言っておかないとね。

 それからお風呂の場所を確認したり、非常階段とか、他のクラスの部屋の階とか……結構勝手に歩いてるけど良いのかな?

 おみやげコーナーがあったので二人で色々眺めていた。ここでは買ってはダメと言われていたけど、眺めるだけならいいでしょ?

 お父さんとお母さんに何買おうかな……。マリちゃんはお姉ちゃんには絶対何か買った方がいいよ。

「うん、まぁ、そうだろね……」

 お土産コーナーもそうだけど、フロントにもあまり人の往来はなかった。まぁ2月の平日に旅行に来る人なんてあまりいないかもね。

 と思っていたら、一人のおじいさんが外から慌ててフロントへと駆けてきた。

「あ、あのあのあの! 知らんか!?」

 随分と慌てている。スリッパの片方が脱げていることにも気付いていないのかな?

「お、お客様? 落ち着いてください!」

 フロントの仲居さんが宥めて話を聞こうとするが、

「だからあれがないのがわかったんじゃ! 届いておらぬのか!?」

「な、なんです? 落とし物ですか?」

「いや違う! あれじゃと言うとるに!」

 浴衣を乱れさせて、胸元を露出してしまいながらも両手を使ってバタバタとジェスチャーをしているんだけど、なんにもわかんない。ただただ握ってる杖が暴れてるだけ。

「あれですよね?」

 とおじいさんに尋ねたのはマリちゃんだった。



 マリちゃんはどんな風におじいさんに言ったのかな?

隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

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